写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ニコンZ fc を使ってみました (Ver.2.1 Final Report)

 ニコンから改心の作ともいえるミラーレス一眼「ニコン Z fc」が7月23日に発売となりました。基本性能としてはAPS-C判の2151万画素CMOS搭載機となるのですが、従来からのミラーレス機の主軸がフルサイズであったのに対し、ZfcはAPS-Cですが、ミラーレス機の基本である小型・軽量に対してきわめて忠実であり、しかもデザインは1970年代後半から1980年代前半のフィルムカメラ時代の一眼レフニコンFMやFEを踏襲したということで、クラシカルな雰囲気をもつことから発表と同時に話題を呼びました。

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ニコンZfcにZ DX16-50mmF3.5-6.3 VRを装着。16-50mmレンズはフルサイズだと24-75mmレンズの画角に相当。レンズは沈胴状態です≫

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レンズマウントニコンZマウント≫

 植設された電気信号ピンは数、位置とも当然のことですがフルサイズと変わりません。レンズ側マウント部は黒色のエンジニアプラスチックですが、強度的に不足するような感じや違和感はありません。DX16-50mmをニコンZ7に取り付けてみるとグリップ部分とほぼ変わらない長さであるためにパンケーキズームレンズといった感じになります。逆にZ 35mmF1.8SをZ fc に取り付けると大口径中望遠レンズといった感じになりますが、どちらも撮影上画角が変わること以外、AF動作などまったく問題はありません。上の写真でマウント基部内側にはMADE IN THAILANDと記せられています。手元にあるZ 35mmF1.8SはMADE IN CHINAとプリントされています。タイといえば、今となってはニコンのカメラ製造の本拠地であり、DX16-50mmにかけるニコンの意気込みを感じさせますが、冒頭でZ fc を“改心の作”と表現したのはこのあたりにもあります。

ニコンZfcとニコンDf

 Zfcと似たような開発思想を持った機種としては、2013年に発売されたデジタル一眼レフの「ニコンDf」に見ることができます。このときはダイヤル操作に加え非Aiのオールドニッコールレンズが使えるなどの配慮がなされましたが、フルサイズということも手伝って、手に持ったボディは厚く大きく感じられ、さらに各操作部にロック機構が多用されるなどがあり、発売当初は人気を集めましたが、必ずしもヒットした機種とはなりませんでした。そのような中にあって、Dfのミラーレス版とも考えられるZfcの登場となったのです。

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ニコンDfとニコンZfc≫ 左:ニコンDf(2013、サロン・ド・ラ・フォトにて)、右:ニコンZfc(2021、ニコンニュースリリース写真より)

 ニコン Z fcが発表されたのは2021年6月29日、それ以前に一部サイトに新製品として情報が流れていたこともありますが、私の周りを見渡すと、最も注目していたのはDfユーザーグループでした。次に、歓迎していたのは60歳前後の過去にフィルムカメラニコンFMやFEを知る世代でした。私個人としては、FMやFEが発表された時期から知っているのですが、いずれにしてもその時代のカメラ世代は、現在はすでにフィルムカメラから卒業されている方々がほとんどだという認識でした。さらにこの10年ほどの傾向としては、フィルムカメラに価値を見出す大学生の写真ファンにFMやFEのファンが多数存在したと記憶してます。これにはエピソードがあるのですが、いまから7~8年ほど前にかつてニコンFEの設計責任者であった小野茂夫さんがJCIIクラブ25で写真展をやっているところに大学生の集団が10人ほど来たのですが、そのうち8人ほどがニコンFMやFEのシリーズを肩からさげていたのです。小野さんが喜ばれたのは言うまでもありませんが、なぜこのようなカメラを使うのかとか話は弾みましたが、小野さん自身がデジタル一眼レフを使っての写真展を開かれていたので、横にいた私にとっては大変印象的な場面でした。

 私の理解では、ここ10年ほどの学生さんたちにとってはフィルムカメラを使うのはトレンドで、メカニカルなデザインをしているのが新鮮であって、マニュアルフォーカスで必要最低限の機能がついているニコンFMやFEがシンプルで使いやすということと、中古の価格が手ごろだということがあったのだろうと思っていたのです。その点において、最新のミラーレス機で若い層を開拓するのにはニコンFMやFE時代のデザインを現代に再現するというのは、十分に的を得ていると思うのです。

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≪Z fc のトップカバー上部から見てみました≫ トップカバーはチクソモールドによるマグネシウム合金のようですが、底部はエンジニアプラスチック製になっています。カメラを構えたるときに、必ずトップカバーに手が触れますが、わずかに冷っとした感触がメカニカルなデザインにマッチします。

 カメラを手に持った状態だとこのように見えるはずですが、フィルムカメラ時代のFMやFEに似ているといえば似ていますが、よく見るとフィルム巻き戻しノブがあるわけではなく別物であるかことがわかりますが、イメージとして似せているのは操作部のシャッター速度とISO感度にダイヤルを採用したことと、ペンタプリズム的な形状をファインダー部の上部と正面のロゴマークの配置などがうまく処理されています。特にミラーレス機としてはグリップをなくしたこともく大き関係しています。さらにレンズ光軸を左側にシフトしたことにより握りやすくなり、右目でファインダーをのぞいた時に左目を開いて見ることもできます。写真はレンズの沈胴を引き出して、外観的に最も短い35mmの焦点距離にセットしてあります。

 ここでひとつ気になるのがかつてFEやFMを新品で使ったことがある人たちは、年代としては60~80歳以上になっているはずなので、視力が老眼気味の方にはつらい大きさの文字サイズといえましょう。老眼鏡を必要としない若い世代にはまったく問題ないのですが、そのくらい微妙な文字サイズです。という私はもともと近眼でメガネをかけていますので、メガネを外せばよく見えるのです。 

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≪背面の液晶モニターは表裏可変式で裏返して表示できます≫ 左:カバー状態、右:液晶モニター表示状態。とっさの撮影などを考えると、常時背面液晶ディスプレーが見えてる側にセットしておいたほうが無難でしょう。

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≪液晶パネルは裏返してレンズ側から見ることができます≫ 撮影メニューの詳細表示のほか、タッチAF、タッチAF・シャッターも可能で、撮影時のファインダーモニターとして、 自撮りや動画のセルフ撮影には便利に使えそうです。

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≪Zfcに付属してくるストラップ。控えめに存在をアピールしているのが好感持てます≫ 幅は約29mmです。

 実は私は、ボディについてくる純正ストラップはほとんど使いません。それというのもブランド名が各社とも派手にプリントされていて、おしゃれな感じがしないのです。ところが今回のニコンZfcのストラップは細身でわずかに光沢のある黒の変わり織でジグザグ模様となっていて、その中央に“NIKON Z”と刺繍されていてその存在が控えめなのが好感を持てるのです。カメラを首からさげて歩いているとわかるのですが、一番ほかの人の視線を感じるのはレンジファインダー式のライカですが、Zfcもそれに近いものがあるかもしれません。一度、写真を撮る多くの人が集まるお祭りにでも撮影に携行してみればわかることです。いずれにしてもカメラの存在をアピールするのにストラップの文字の大きさや派手さでなく、カメラデザインそのもので誘目されるのがベストであることは間違いなく、Zfcはストラップを含めてトータルにデザインしたのだろうということは十分に理解できます。

■いつもの英国大使館

 まずはいつもの英国大使館正面玄関を発売日翌日の7月24日の撮影です。撮影時には雲が多く天候に不安はありましたが、いつもと同じように、絞り優先AEでF5.6に設定し、屋根中央下エンブレムの部分にピントを合わせ、青空がでたところでシャッターを切りました。

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≪いつもの英国大使館正面玄関≫ Z DX16-50mmF3.5-6.3 VR焦点距離:24mm(フルサイズ35mm相当画角)、絞りF5.6・1/800秒、ISO-AUTO 100、AWB、手持ち撮影。焦点距離35mm相当画角、絞りF5.6は、撮影位置は他機種でもいつも同じにしていますが、このレンズでは絞り開放の描写を見ていることになります。

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≪エンブレム部分を中心に画素等倍にトリミング≫ 壁面のハイライト部分が飛ぶようなこともなく、2100万画素なりの十分な描写を示しているのがわかります。Zfcは撮像素子が小型なAPS-C判の2100万画素ですが、この撮影データをノートリミングでA3ノビに同じインクジェットプリンター(PRO-100)で拡大プリントしましたが、同じ場所で同一条件でフルサイズの高画素機ニコンZ7(4575万画素)やソニーα7RⅣ(6100万画素)の撮影結果と比較してみても、その差はわかりません。

■ランダムな場面での撮影

 Zfcを使うにあたって、最初に考えたことはこのカメラの名称“c”が示すようにカジュアルであって、なるべく気軽にシャッターを押そうということで、基本的にはすべて“AUTO”で撮ろうと決めました。一応Zfcの名誉のために言いますと、メニュー画面から入れば通常のミラーレス機同様にサイレントシャッターなどさまざまなモードで撮影はできます。掲載は、すべてノートリミングです。

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≪オムレツのプレートランチ≫ 焦点距離:16mm(フルサイズ24mm相当画角)、絞りF3.5・1/125秒、ISO-AUTO 2500、AWB、手持ち撮影。カジュアルなカメラならスマホに負けない料理の写真を撮ろうと、撮影に出向いた先のカフェのプレートランチです。テラスのテーブルで食事したために、背後が林で逆光撮影となりましたが、掲載にあたってわずかにトーンカーブをわずかに持ち上げわずかに明るくしました。拡大率によってはそのまま行ける露出結果でした。絞り開放で、背後のガーリックライスの米粒がわずかにぼけていますが、メインのオムレツや野菜は十分にシャープです。光学的には焦点距離16mmのレンズですから、F3.5と絞り開放でも必要十分な被写界深度を得られるのは、画面サイズの小さいAPS-C判ならではの特徴といえます。

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 ≪鰆と茄子の焼き物≫ 焦点距離:35mm(フルサイズ52mm相当画角)、絞りF5.3・1/100秒、ISO-AUTO 3200、AWB、手持ち撮影。懐石料理の1品だけを撮影しました。ランチの時は自然光でしたが、こちらはホテルの食堂ですから人工光源下となります。ダークなテーブルの上にダークなお皿に盛られていますが、押すだけでピント、カラーバランス、露出とも文句なしです。

 かつてフィルムカメラの時代、1989年に発売されたコニカビッグミニは正式名称コニカA4でしたが、文字通りA4サイズが写せることでヒットしました。従来のコンパクトカメラの最短撮影距離は60cmぐらいだったのを一気に35cmまで近づけてA4サイズが写せたのです。折からの海外旅行ブームの走りのころで、飛行機の機内食、さらにはテーブルに並んだお皿を席を立たずに撮れるということが高い評価を得たのですが、以後さまざまな技術変化もありましたが、現在ではスマホで料理写真を撮るのが、食事前のお作法(無作法)にもなりましたが、そのスマホ同様、もしくはそれ以上にきれいな写真が撮れるのは、若者向きのカジュアルなカメラとしては必須事項だと思うのです。その点においてはZfcはまずは合格といえるのでしょう。ここで改めて撮影データを見ると、フィルム時代にあり得なかったことは、撮影感度がISO2500とかISO3200が当たり前のように使われていることで、このあたりがフィルム時代とは決定的に異なる部分で、超高感度域が何のストレスもなく使えるようになったのも、デジタル時代の進歩だと思うのです。

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 ≪ベンチに座る人形≫ 焦点距離:19mm(フルサイズ28mm相当画角)、絞りF5・1/250秒、ISO-AUTO 200、AWB、手持ち撮影。ランチを食べたカフェの庭に小さなベンチがあったので、持参の人形を座らせて記念撮影。雨降り直後の木漏れ日の中にわざと庭を幅広く広角で写して入れることにより、小さなベンチであることがお分かりいただけるようにと考えました。この640ピクセルVGAではわかりませんが、A3ノビクラスまで拡大プリントすると、人形の髪の毛や顔の表情、さらには着物などの繊細な部分が描出されます。

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≪雨上がりの草と落ち葉≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF6.3・1/200秒、ISO-AUTO 400、AWB、手持ち撮影。カフェの庭に生えた草と紅葉した落ち葉に陽があたりました。こちらも大きくプリントすれば、葉の葉脈や美しい水の輝きが見えます。

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≪飛び立つ飛行機≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF9・1/640秒、ISO-AUTO 100、AWB、手持ち撮影。天候も良く、結果として素晴らしい写りです。

 最近、EOS R5、α1などを使っていて思ったことは、静止物を撮っているだけではそのカメラの実力はわからないというように考えるようになったのです。例えば、サッカーの試合などで選手の動きや、ボールのタイミングにどの程度AFが追随できるかなどを見てみると、静止物を撮影していた時とは違うもう1つのAF性能が見えてくるのです。そんなわけで、いまは飛行機の撮影に凝ってまして、神奈川県の厚木基地、東京都の横田基地、さらには埼玉県の入間基地など転戦してきましたが、なかなか思った写真が撮れませんでした。そのようななかで見つけたのが松本空港で、望遠側で50mm(75mm相当画角)までしかないのに、上に示したような十分な写真が撮れたのです。もともと地方の空港ですから、便数は1日にわずかしかなく、この写真も運よく出発便が撮れたのです。ただ、この時びっくりしたのは、AUTOのまま高速連続撮影の拡張モードH+(約11コマ/秒)にして高速連写しようと飛行機が離陸前にセットしておいたのですが、時間的に余裕があるので電池の消耗を防ぐため1度電源をOFFにしていたのですが、実際に動き出したときに電源をONにしてここだとばかりにシャッターを切ったら、何と1コマ撮りになっていたのです。とっさの判断で、ファインダーで飛行機の姿を追いながら1コマずつシャッターを切った内の納得の1枚が上の写真なのです。結果として数枚使えるのが撮れましたが、正直いって焦りました。後日、いろいろ試してみると、AUTO以外のP・S・A・Mモードでは電源をOFFにしても連写は保持されるのですが、AUTOポジションだけは電源OFFで1コマ撮りに復帰するのです。私は撮影者として意志をもって選んだ撮影モードであり、わざわざ自動復帰しなくても撮影すればわかることなので、自動復帰して欲しくはないのです。それに数カットしか撮れないよりはたくさんとれたほうがいいわけで、このあたりは設計者としては戻し忘れを防止させるための配慮なのでしょうが、私的には小さな親切大きなお世話ともいえるわけで、便利さと不便さは常に相対するわけですが、どのように判断されるかは難しいことです。

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≪オランウータンの子供≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF6.3・1/125秒、ISO-AUTO 100、AWB、手持ち撮影。動くものを探しに多摩動物公園に行ってみました。金網越しでない動物を写したいとやっと見つけたのがオランウータンの子供です。動物園の場合、動く動物を写すことは可能ですが、大きな、ゾウやキリンなどはこのレンズでも写せましたがもっともっと望遠が欲しかったです。

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≪水中から顔を出したサイ≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF6.3・1/80秒、ISO-AUTO 125、AWB、手持ち撮影。水中から顔を出して、水を吹き出したところ。撮影はAUTOで多少暗い場面だったようで、シャッターが低速となりサイの顔の部分はブレていますが、手前の水槽の縁はブレていないので被写体ブレといえるでしょう。

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≪置物の鳥≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF6.3・1/80秒、ISO-AUTO 160、AWB、手持ち撮影。このレンズで撮影していると、ボケ具合を見るのはなかなか難しいので、望遠側で極端に近寄って背後のボケを見てみました。F6.3と暗いレンズですが意図的に操作すればボケ具合を確認することができ、それほど癖のないボケが得られることがわかりました。

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≪旧中込小学校≫ 焦点距離:16mm(フルサイズ24mm相当画角)、絞りF7.1・1/200秒、ISO-AUTO 100、AWB、手持ち撮影。曇天でしたが垣根のわきから撮りました。ズームの最広角側ですが、屋根を見てわかるように直線の再現性はいいようです。

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≪ストリートピアニスト≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF6.3・1/80秒、ISO-AUTO 3200、AWB、手持ち撮影。ピクトリコのギャラリーに行った帰りに、JR両国駅構内ステーションギャラリーにご自由にお弾きくださいと置かれた1台のピアノを無心に弾く女性。その迫力にしばし聞き入ってしまい、終わると拍手しましたが、彼女はそのままホームに向かい、飲み物を自販機で買って、来た電車に乗っていきました。普通に写真を撮りましたが、本当は動画だとその場の雰囲気が臨場感あふれて伝わったことでしょう。

●走行する列車を撮ってみました

 もう1つ、AFの動体駆動予測特性を調べるためにいつものように西武新宿線の特急「小江戸号」を撮影してみました。

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オートフォーカスAF-A(S・C自動切り替え)、焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、シャッター速度優先AE、絞りF6.5・1/500秒、ISO-AUTO 160、AWB、手持ち撮影。この場所はうまくいくと特急がほぼ同時刻に上下線ですれ違う場所で、ここ数年は必ずチェックポイントとして撮影してきました。今回は、画角75mm相当ということである程度見えてから連写で撮影した中のぎりぎり手前側まできた時の1枚です。列車の先端を拡大して観察してみると十分に合焦してます。このような場所では、例えば先頭車両前部のスカートの部分の敷石のシャープさで簡単にどのあたりにピントがきているかでも知ることもできます。今回はこの車両が行き去った数秒後に下り線が通過しましたが、もし上下線のすれ違う場面を撮影するとカメラはどのようなAF駆動予測をするか面白いです。それを追いかけるにはもう少し焦点距離の長いほうがうまくいきます。

●打ち上げ花火を撮ってみました

 そのほとんどをプログラムのAUTOで撮影してきましたが、何か特殊な撮影設定が必要な被写体はないかと考えたのが打ち上げ花火なのです。打ち上げ花火は真っ暗な夜空に赤・青・黄・紫などの火炎が見えるのですが、AEで撮影する場合には通常その状態でシャッターを押すと、画面の中に占める黒い空の部分の面積にもよりますが、空に露出が合ってしまい花火の火炎が露出オーバーになることがあるので、通常は-1~2EV程度の露出補正が必要となるのです。ということで、露出補正した結果が以下の作例です。

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焦点距離:22mm(フルサイズ33mm相当画角)、絞りF4・1/30秒、ISO-AUTO 3200、-2.3EV補正、AWB、手持ち撮影、西武園。

 もともと花火の撮影は、三脚を使い、ある程度絞り込んで、長時間を使い光跡から開花までを撮影するのが一般的ですね。この場の撮影は手持ちのワンショットですから、光跡は写りませんが、花火の開いたところだけより手前の観覧車が写り込んだほうがおもしろかったので、この写真を掲載です。

●AFの認識特性

 AFエリアの選択はメニュー画面では上位機種と同じようにシングル、ダイナミック、ワイドエリア等などありますが、ZfcならではのモードとしてオートエリアAFに(人物)と(動物)というモードがあることですが、それぞれのモードに被写体の記憶認識が働くようで、単に人物のみならず花やカップなど形があるものにAFし、一度ピントを合わせシャッターを切るとAFが追随してくるのが使いようによってはすごく便利です。この作動は背面液晶パネルのタッチセンサーを「タッチシャッター/タッチAF」か「タッチAF」にセットして目的の被写体をタッチすると、その被写体を記憶してアングルやズーミングを変えてもAFがかなり敏感に追随するので大変便利です。記憶できるのは人物の顔だけでなく、テーブルの上のカップやグラス、さらには花などと、特に被写体に制約はないようなので、使い方によってはすこぶる便利な機能だと思いました。

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≪めしべをタッチシャッター/AF≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF9・1/100秒、ISO-AUTO 100、AWB、手持ち撮影。DX16-50mmレンズで最も近づいて背面液晶で「タッチシャッター/タッチAF」機能を使って撮影しました。

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≪タッチシャッター/AFでフレーミングを変えてもAFがついてきた≫ 焦点距離:50mm(フルサイズ75mm相当画角)、絞りF9・1/100秒、ISO-AUTO 100、AWB、手持ち撮影。「タッチシャッター/タッチAF」機能を使って撮影した後に、フレーミングを少し変えたらAFフレームがついてくるのです。これは面白いと上下左右と動かした後に、シャッターボタンを押しました。これはすこぶる便利な機能ですが、購入時の取扱説明書にはシャッターが切れるとは書いてありますが、AFの追随機能についてはまったく触れていないので、何か得した気分にはなりましたが、はたしてこれでいいのかなとも思ってしまいました。作例では花のめしべにピントを合わせましたが、もっと遠くから狙うのもいいと思います。

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≪顔認識AF・AE≫ 焦点距離:26.5mm(フルサイズ40mm相当画角)、絞りF5.6・1/250秒、ISO-AUTO 100、AWB、手持ち撮影。巻頭の作例英国大使館正面玄関を撮影に行った帰り、オリンピック直前で正門脇の塀に掛けられたランナーのパネル写真を狙って撮りました。当初はパネル中央辺りにピントと露出が合っていたのですが、上部のランナーの顔を認識すると顔にピントが合い、露出も顔が見えるようなほど良い結果となったのです。顔認識AFの追随特性はかなり感度良く、PCパソコン画面で静止画人物の顔はいうまでもなく、動画でも細かく俊敏に追いかけます。 

●電子シャッターのローリングシャッター現象の発生ぐあいを見ました

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≪サイレントシャッター(H+)、焦点距離:24mm(フルサイズ35mm相当画角)、絞りF4.2・1/1000秒、ISO-AUTO 1100、AWB、手持ち撮影≫ ニコンDX(APS-C)判の画面サイズは23.5×15.7mmであり、フルサイズの画面サイズは36×24mmですので、フルサイズは縦方向に1.52倍長く、APS-C判は0.65倍短いということになります。つまり同じクラスのCMOSだとすると、シャッターアパーチュアの縦・横方向が短い分だけ有利で、秒間の撮影コマ数もかせげるということになります。そこで、Zfcをサイレント(電子シャッター)モードにして走行する車を狙ってみました。焦点距離、撮影距離は同じでシャッター速度優先で撮影したのがこの写真です。いつもはボックスタイプの軽トラックを撮影してみていますが、今回は中型トラックで一部分しか入りませんが、直線がきれいに斜めに出ているのでこのカットを選びました。ローリングシャッター現象の発生は明らかに認められます。サイレントシャッターは、音楽会、舞台などシャッター音を嫌うところで使うのがベストですが、スポーツで高速に移動する野球のバットやゴルフのシャフトさらには球などでは、像に歪みの出ることが撮影距離やタイミングによってはありますが、サイレントシャッターモードを外せばこのようなことはなくなります。なお、撮影はAF-A(シングル・連続自動切換え)、H+(11コマ/秒)で行いましたが、撮影画面から見るとAFのくいつき(追随)特性はすごく良いということがわかります。

サイレントシャッター時のLED光源明滅ムラの発生ぐあいを見ました

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≪ 左:通常モード、右:サイレントシャッター≫ 絞りF4・1/1000秒、ISO-AUTO 12800、AWB、手持ち撮影。サイレントシャッターとLED光源の問題点を抽出するために、写真用LEDランプをセットして問題点を写しだそうとしたときにみごと失敗し、パソコン室のLED電球の下で中で何気なくカレンダーを写したときにそのものずばりの写真が撮れることをα1のレポートの時に確認しましたが、Zfcでも同じ設定で撮影したらやはり再現できました。この写真でわかることは、最近は舞台や室内の照明光がLEDに変わっていることがありますが、このようなときには「レリーズモード」のサイレントシャッター(電子シャッター)をOFFにすればよいのです。電子シャッターでこのような現象が発生するのは何もZfcだけではなく、他社を含めて現状ではいかんともしがたいのです。

 ■バッテリーの充電機能について

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 各社の一眼がミラーレス機になって一番不思議だったのは、ニコンキヤノンのフルサイズ機でした。それ以前のミラーレス機であるソニーに加え、パナソニック、シグマなどのフルサイズ機のボディ本体での直結充電は一般的なタイプAのUSB端子からカメラ側のUSBのマイクロUSBかUSBタイプCで接続できるのに、ニコンキヤノンだけは専用のACアダプターか特殊なPD(パワーデリバリー)付のバッテリーでしか充電できなかったのです。ところが今回のZfcでは、上の写真を見てお分かりのようにごく普通のUSBタイプA端子の、市販の携帯用充電器、携帯用バッテリー、変換コードなどで充電可能となったのです。最近は車や新幹線、果てはホテルのベッドサイドにもUSBタイプAの電源コンセントができるようになったのです。今回もZfcの撮影で出向いた先のホテルのベッドサイドにはAC100Vが1口、USBタイプAの端子が2口あるのです。夕食を含め一日の行動を終えたときにスマートフォンとZfcを充電して休みましたが、朝にはフル充電されているわけです。これは素晴らしいことです。出かけるときのカメラ機材はなるべく軽くしたいのは当然で、Zfcの小型・軽量、カジュアルボディに通じる部分なのです。

 まさにこの部分がユーザー本位の物作りに戻した部分で、冒頭に記した改心の部分だと思うのです。USB充電が可能になったのはどうやらZ50からのようですが、コネクターは「USBタイプA→マイクロUSB端子」でした。さらに驚いたのはZfcではUSB給電もできるようになったのです。USB給電とはボディ本体外からの電源供給が可能で、カメラ内バッテリーの消耗を減らすことができる機能であり、タイムラプラス撮影や動画撮影の時に効果を発揮できるようです。今回のZfcでは新たに電圧・電流を制御できる回路をボディ内に持たせたのでしょうか、急速充電だけでなく、供給電源に見合ってじっくり時間をかけるのでもいいわけで、ここは大きく評価されてよい部分だと思います。なおボディとUSB電源をつなぐと、カメラ側USB端子口右わきにオレンジ色のLEDが点灯するので充電開始を知ることができ、その状態でカメラ電源をONにすると充電は中止され、給電状態となり背面液晶パネル左下電池マークの右わきにACコンセントのアイコンが表示されるのです。

■マウントアダプターと外付けストロボ

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左:ミラーレスといえばマウントアダプターを使うことによりオールドレンズが使えるわけです。さて何のレンズを付けるかですが、ボディが小型であることとAPS-C判ということで実際の画角は装着したレンズの1.5倍相当になるわけで、手元にある小型のレンズだとライカスクリューマウントのコシナフォクトレンダーのスパーワイドヘリアー15mmF4.5(22mm相当、1999)、キヤノン25mmF3.5(37.5mm相当、1956)があり、いずれもフルサイズだと周辺光量の落ち込みが大きいのですが、APS-C判なら周辺がカットされるのでそのような心配はなくなります。とはいっても重さで見ると、Z DX16-50mmF3.5-6.3 VRが131g、マウントアダプターを付けたスパーワイドヘリアー15mmF4.5が165g、同じくキヤノン25mmF3.5で210gとなります。したがって16-50mmよりZfcに取り付ける状態ですでに重いのです。ここはやはり最新の専用のZ DX16-50mmF3.5-6.3 VRを駆使して撮影する方がZfcには似合うと思うのです。ただし望遠系のレンズを付ければ1.5倍望遠的になるのでAPS-C判なら効果的なのです。もしクラシック系のレンズの描写そのものを楽しみたいのなら、やはり有効画面全体で描写を楽しんだほうが良いわけで、この場合にはZシリーズのフルサイズ機を求めることをお勧めします。したがって、ここではマウントアダプターを付けてライカスクリューマウントの“ニッコールS-C 5cm F1.4”を装着して姿写真としました。

右:スピードライトSB400。ニコンZ50のユーザーにZfcのことを尋ねたらストロボを内蔵していないからだめだという人がいました。それならばということで2006年にD200用に購入した外付けストロボの「ニコンSB400」を装着してみました。バウンス状態にして室内で撮影してみましたが、無影できれいに撮れました。それにしても高感度がむりなく使えるようになったデジタルカメラでは、ストロボの存在も忘れていましたが、室内の人物や料理の撮影ではバウンス機能を働かせれば大変有効で、便利なシステムアクセサリーです。なお最新モデルとしては、より小型化されたSB300があります。

■終わりに

 今回のZfcでの撮影は、基本的にAUTOつまりプログラムAEで行いました。実は、私はカメラの性格を知りたいときはいつもプログラムAEで撮影しています。もちろん特定の意思をもって撮影するときは、その限りではないのですが、カメラに対して開発陣がどのような考えを持っているかがわかるのです。カメラのプログラムラインはさまざまな要素が加味されるのですが、明るさ、撮影レンズの焦点距離、被写体までの距離、静止物か動体か、被写体の輝度分布や色傾向など、各カメラメーカーのノウハウを集約させた部分として『絞り値とシャッター速度』が決まるのですが、最新のデジタルカメラではさらに『感度の自動可変』の要素が加わり露出が決まるので『絞り値とシャッター速度と感度』が自動的に変わるのです。そのプログラムでの結果では、自分のイメージする写真が撮れないときに、目的にかなった組み合わせを行うわけです。実際はさらにAF「ピント位置」などの要素も加わるのです。
 そこで注目したのが、レンズの明るさがズームで絞り開放でF3.5~F6.3と暗いわけで、どのようなプログラムになっているかということでしたが、ほとんどのカットが絞り開放近くで撮影されているのが興味ある点です。唯一「飛行機」写真はF9・1/640秒と絞られていますが、高輝度な場面だからでしょうが、ズームレンズの絞り開放あたりを常用とするあたりはレンズ性能の向上を改めて知らされました。また、友人のカメラマンのHさんから指摘されましたが動物園のサイの写真では被写体がぶれたというが、明らかに屋外の明るいところなのに「1/80秒・ISO100」というのはおかしい。もっと感度とシャッター速度が上がっていても良かったのではというのです。まったくその通りなのですが、その辺りはブラックボックスなので、どのようにしてこのようになったかはわかりません。

 発表と同時に品薄が伝えられたZfcですが、幸いZ DX16-50mmF3.5-6.3 VR付のズームキットを注文していたために、発売日当日に無事に入手できました。今回は入手翌日にいつもの英国大使館正面玄関を撮影したのちに、ランダムな被写体撮影ではかなり幅広く動きました。同時に身近にいる人々にカメラを見せてどうだろうかと聞いてみると、多くの人が購入の意欲を示したのでした。やはり、小型・軽量、かつてのフィルムカメラをイメージするノスタルジックなデザインは、俗に“ニコ爺”と呼ばれる高年齢層にまずは受けたようです。写真を志す若い女性たちに見せると第一印象で“わーっカワイイ”という言葉が返ってくるのですが、さらに写真に興味ある女子大学生に聞くと十分に欲しそうな視線を感じるのですが、ぐっと我慢して触らないで細かく見ないのです。なんでだろうと聞くとやはり価格が高いというのです。中古がでてくるのを静かに待つという人まで現れる次第で、今後どのようにしてニコンが狙う若い女性層に受けるかが焦点となるわけです。いずれにしても、いままでの新型カメラではあり得なかった反応なのです。とある販売店の話では、Zfcの予約時の女性比率は5%だったそうです。今や写真の専門大学に占める女性の割合は50%を超えているとされていますが、そのあたりにまだまだギャップがあるわけで、今後の伸びしろは十分にあるとみなすことができます。

 最後にもしZfcが小型・計量(ボディ+DX16-50mm+バッテリー+SDカード+ストラップ=600g)ということで長期にわたり好評を持って受け入れられるなら、APS-C判がフォーマットとして認知されることであり、作品主義の人々には単焦点のレンズが受け入れられるでしょうが、私的にはD300(2007)が発売されたころにでたDX18-200mmF3.5-5.6(2009)の高倍率ズームの万能なところが好きでしでたが、高感度に強いミラーレス用にさらなる小型化されての登場を待つわけです。

■おまけ

 Zfcを眺めていた時にどうもしっくりと手になじむなと思っていたのですが、ひょっとしてとわが家のカメラ収蔵庫から引き出してきたのが戦前の「ライカⅢa」なのですが、両機種を突起物を除いた横幅の寸法が何と、Zfcが134mm、Ⅲaが133mmなのでほとんど同寸法なのです。偶然なのか、それとも意図したことなのでしょうか。

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 かつて小型・軽量の一眼レフオリンパスOM-1(1972)を設計したオリンパス米谷美久さんは、持ちやすくするためにその横幅をライカのⅢ型と同じにしたと公言していました。そこで当時のOM-1の公称寸法を見てみると横幅136mmなのです。もしバルナック型のライカが理想のカメラ横幅寸法だとすると、ニコンZfcの横幅が134mmなので、よりバルナック型ライカの横幅に近いのです。Zfcの寸法は偶然なのか、意図したことかはニコンの設計者に聞かなくてはわかりませんが、すばらしいことです。ちなみにZfcのデザインの規範になったとされるニコンFEの登場は1978年でキャッチフレーズは“シンプルニコン”で横幅は公称142mmでした。もうひとつ加えるならアサヒペンタックスME(1976)の横幅は132mmであり、当時の技術者であったオリンパスの米谷さん、旭光学工業の野村勝彦さんの技術者としての意地を感じさせます。  (^_-)-☆

 

※ Ver.1 2021.08.06     Ver.2 2021.08.10     Ver.2.1 2021.08.12 

ソニーα1を使ってみました(Final ver. 4)

 ソニーのいわゆるフラッグシップ機「ソニーα1」が去る1月27日に発表され、3月19日に発売が開始されました。発表後に関係者から話を聞くと、高価であるためにどれだけの反響があるかと心配していたところ、2月2日に予約が開始されると、考えていた以上にオファーがあったというのです。この発表のタイミングは2月25日(木)~ 2月28日(日)に開催されたCP+2021に合わせてのことでした。

 さっそく発売日にいつもの販売店より入手ましたが、まず開梱にあたり化粧箱を見て非常に簡素なことに驚くのですが、このあたりはライカや昨今の高スペックの中国製レンズなどとは全く思想が異なるのです。プロ用というものは箱ではなく、カメラ本体そのもので勝負をかけていくのだと理解しました。

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 ≪ゾナーFE35mmF2.8ZAをつけたソニーα1≫ そこで、姿写真を撮るのに発売初期の標準レンズを装着してみました。これを見てわかることは、銘板のαと1が金色なのです。やはりデザインとしては金色は豪華なのです。このあたり金の色付けは中国あたりで好まれるのではと思うのです。この他に、今までのαシリーズと何が違うかわかったらあなたは立派なソニーユーザーです。

 その違いとは、カメラ前面に新たに「可視光+IRセンサー」が搭載されたことです。従来機だとレンズマウント左上のセンサー窓は透明の1つでしたが、新たに乳白色の測光窓の右側に設けられたのです。ソニーによると各種光源下でも、より正確なホワイトバランスが得られるように進化したというのですが、赤外反射光は被写体色に依存しないので、黄色など反射率の高い被写体が多くの面積を占めていても露出に影響されることが少なくなるというメリットもあるはずです。

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≪α1の化粧箱と取扱説明書≫ 取扱説明書を見てもう一度びっくりしました。α7RⅣの時には259ページ(10.4mm)あったのが、α1では146ページ(5.8mm)しかないのです。なぜ少なくなったのかは箱を開けたばかりではわかりませんが、基本的にはコストダウンなのでしょう。フラッグシップ機で80万円以上と高価で機能が多いだろうと思うのに不思議です。ちなみにα7RⅣの取説では背にα7RⅣと入っているのに、α1は背文字なしなのです。印刷を少しでもかじっているとわかるのですが、5.8mmというのは十分に背文字は入りますし、コストには響くようなことではありません。カメラ全体として、外観や握った感じは従来機と大きく変わった所はありませんが、フラッグシップ機としてαシリーズナンバー1の実力は、設定によって各種機能をフルに引き出すことにより実感できるのだろうと思うのです。これから先は、まずはじっくりと取説を読みながら、さまざまな機能を試してみることにします。

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用意したソニー純正レンズ4本≫ 左から、FE70~200mmF2.8 GM OSS、FE70~200mmF4 G OSS、ボディについたゾナーT*FE35mmF2.8ZA、バリオテッサーT*FE16~35mmF4 ZA OSS

 実は最初はFE70~200mmF2.8GM OSSを除いた純正の3本だけでテストをやろうと思っていましたが、30コマ/秒までに連動するレンズは23本と限定されているのです。その関係を調べてみますと、20コマ/秒にまでに連動するレンズも4本あり、その他のEマウントレンズは15コマ/秒にしか連動しないというのです。今回使用するにあたって、それぞれのレンズは最新ファームアップを済ませコマ数アップなどを図りましたが、みごと3本とも15コマ/秒にしか連動しないというのです。もともと私の撮影には30コマ/秒は必要ないのですが、とはいってもカメラの機能を十分に引き出せないのはショックでした。つまり最初からα1の機能はフルに引き出せないことがわかってしまったのです。ところがありがたいことに、写真仲間が30コマ/秒に機能するFE70~200mmF2.8GM OSSの長期貸し出しを申し出てくれたのです。もともとカメラとレンズはわがスポンサー氏の提供でしたが、さらに仲間がレンズを貸してくれて純正で30コマ/秒をテストして欲しいというのです。そこでいろいろと考え、α1の実力を私なりに引き出してみようと考えたのです。

■撮影する前に

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トップカバーを背面上部から見ると≫ 操作にあたっては、ざっと取扱説明書は読みましたが、普通の使い方しか書いてありませんでした。とはいっても、カメラトップカバーを構える状態で見ると、かなりのモードが電源を入れなくてもそのままの状態で設定を見ることができるのです。もちろん背面の液晶ディスプレーで設定や確認をする部分は当然あるのですが、基本的なカメラの使い方がわかっていれば、特に問題なく初期設定のままで撮影できるのです。撮影モード切替え、AFモード、MF等押しながら操作するロック機構がついていて不用意に動かないようにとの配慮からであることはわかりますが、露出補正のダイヤルのロック機構だけは1回押してクリック付きのフリーになり、もう一度押すとロックされるというような、慣れると心憎い気配りだと感心しました。この露出補正ダイヤルのロック機構は手元にある7RⅣと同じですが、左肩部のモード切替は2重になっているなど、スペックには表れないが、操作系部材としてはお金がかけられているだろうことはよくわかります。

■まずは撮影してみました

 使わないでカメラをああだこうだというのも変なので、まずはお決まりの晴天下の英国大使館正面玄関を撮影してみました。いままでソニーαシリーズカメラを使ったことがあるためにここまでの、最初の日付けセット、撮影モード設定(絞り優先AE)、AF設定(スポット測距)などは、取扱説明書を読まなくても可能でした(当たり前か)。

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英国大使館正面玄関≫ ゾナーFE35mmF2.8ZA、絞り優先AE、F5.6・1/640秒、ISO-AUTO100、AWB、ピントは屋根中央下エンブレムに合わせた、手持ち撮影、AM10:30≫ この場所は昔から同じようにして撮影してます。レンズは同じですが、最初のα7Rだと発色傾向がまったく違いますが、α7RⅡから現在に続くこのような色再現の感じになりました。解像的にはα1の5050万画素の描写でありそれ以外の何物でもないため画素等倍画像は省略します。(2021.03.23)

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モクレンの花≫ ゾナーFE35mmF2.8ZA、プログラムAE、F8・1/320秒、ISO-AUTO100、AWB。英国大使館の側道に咲いていたモクレンです。中央の花にピントを合わせて押すだけの写真ですが、拡大が左右640ピクセルではわかりませんが花びらの質感も細かくでています。(2021.03.23)

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千鳥ヶ淵≫ ゾナーFE35mmF2.8ZA、プログラムAE、F5.6・1/200秒、ISO-AUTO100、AWB。サクラが満開の時のカットです。夕暮れで光線状態にムラがありますが、特別に露出補正がなくても破綻なく撮影できました。撮影は17:20頃ですが、この日は強風で営業終了になっても戻れないボートがハウスまで曳航されていましたが、なぜか楽しそうでした。(2021.03.26)

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写真展会場にて≫ ゾナーFE35mmF2.8ZA、プログラムAE、F2.8・1/40秒、ISO-AUTO200、AWB。写真展会場でしたが、ホールそのものが古いせいかライティングは柔らかくて、露出補正がなくてもカラーバランス、露出もうまい具合に自然な感じで撮影できました。(2021.03.28)

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横浜・山手十番館≫ バリオテッサーFE16~35mmF4 ZA OSS焦点距離18mm、プログラムAE、F6.3・1/640秒、ISO-AUTO100、AWB。道路対岸からの撮影ですが、超広角特有のうわすぼまりの写真となりましたが、オートバイが入り込みアイポイントはうまく分散しました。お店は定休日でしたが、高画素であるために入り口ガラスドアの中の札から店名をしっかりと読むことができました。(2021.03.29)

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横浜・エリスマン邸にて≫ バリオテッサーFE16~35mmF4 ZA OSS焦点距離16mm、プログラムAE、F4・1/500秒、ISO-AUTO12800、+0.3EV補正、AWB。知人の写真展に行った時の地下にあるギャラリーですが人口光がどのように作用するか見てみました。こちらの床は絨毯であるためにうまく光を吸収しているようで、カラーバランスも良く再現されています。(2021.03.29)

 ソニーα1ならではの機能をチェックしてみました

●記録メディアが2種類2か所に挿せる

 α1は、記録メディアがSDカード(SDカード寸法のということで、アダプターを介したマイクロSDカードも含みます)とCFexpressタイプAが使え、それぞれがダブルスロットとなっているのが特徴です。これはSDカードよりもわずかに寸法の小さいCFexpressタイプAとの関係を巧みに利用したもので、ちょっとしたアイディア物です。

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≪記録メディアスロット部分≫ 左:蓋を開けると「CFexpressA/SD」とプリントされたSLOT 1と2が見える。SDカード2枚は軽く挿してあります。右:カード挿入口を上から見てみました。スロット1には、SDカードをしっかりと挿し込んであります。極めてわずかな隙間の間にSDカードかCFexpressタイプAを差し込めるという細かい仕組みです。これはカメラが電気的な処理能力部分だけではなく、微妙な機械細工もまだまだ大切だということを示す好例なのか、それとも記録メディアを企画・製造しカメラを作るメーカーとしてのうまみなのかは私にはわかりません。

 写真で見るとおわかりのようにSDカードスロットの脇にCFexpressタイプAのスロットがあるのです。つまり、SDカードの2枚かCFexpressタイプAの2枚をそれぞれ挿しこむことができるわけです。片方がSDカード、片方がCFexpressタイプAというような使い方もできるようですがバックアップのための同時記録を考えると、同じカードで同クラスの物を使うのが良いのでしょう。なおCFexpressには、タイプAのほかに、ニコンキヤノンパナソニックが使うタイプBがありますが、こちらは物理的に同サイズで別物のXQDカードもありますが、寸法としてはSDカードより大きくなります。さらに寸法の大きいCFexpressタイプCというのもあるようですが、カメラ用にはCFexpressタイプA、CFexpressタイプBが使われるわけですが、いずれもSDカードよりはCFexpressの方が書き込み速度が速いようですが、私としては特殊な撮影をするわけでないので市中価格のこなれている、SDカードで十分と考えています。

●30コマ/秒の連写機能の検証(1)

 まず最初に試したのが30コマ/秒の連続撮影が可能な仕様です。ソニーの説明によると『AF-Cモード時の最高連写速度は、装着するレンズによって異なります。対応レンズは下表のとおりです。AF-S/DMF/MFモード時は装着するレンズに関わらず、最高30コマ/秒の連写速度に対応しています。』となっています。その点を加味して撮影しましたが、この撮影設定は特に難しいことはなく、ボディ左肩のドライブモードダイヤルを「連続のH+」、「AF-C」にして、シャッター速度優先AEにモードダイヤルをセットして、シャッター速度1/500秒に設定しました。ISO感度はAUTO。ドライブモード「連続のH+」は電子シャッターモードなので、これで30コマ/秒でるか試そうというわけです。交換レンズは30コマ/秒までに連動するレンズは純正のうち23本と限定されているのです。その関係を調べてみますと、20コマ/秒にまでに連動するレンズも4本あり、その他のEマウントレンズは15コマ/秒にしか連動しないというのです。

 そこで写真仲間から借りて、まずは30コマ/秒が保証されているFE70~200mmF2.8GM OSS(最新のファームウエアにアップしてあります)の連写性能をチェックしてみました。

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≪30コマ/秒検証の撮影セット≫ 記録モード: Jpeg Fine(50M)、シャッター速度優先AE、1/500秒・F2.8、ISO-AUTO1600、FE70~200mmF2.8、AWB。このテストは特に難しいことではなく、1秒ごとに表示が切替わるデジタル表示のタイマー(ここではスマートフォンのストップウォッチ)を連写すれば図れるわけですが、上記設定で簡単に30コマ/秒が測定できてしまいました。テスト撮影は、AFを連続とシングルと変えてやってみましたが、上記シーンでは結果は同じ30コマ/秒の撮影が可能でした。

f:id:ilovephoto:20210425152408j:plainFE70~200mmF2.8GM OSSレンズの30コマ/秒の各コマ≫ ここに写ったスマートフォンの画面を見ればお分かりのように、確実に1秒間の間に30コマ撮影できているのがわかります。各画面は、シャッターボタンを押してから放すまでまでの100コマぐらいの画像の中から、スタートがわかりやすいところを選びましたが、この場面ではスタートの10:01から一気に10:07に飛んでいるように見えますが、写真右下に示したように10:07の下に04がうっすらと見えているのです。つまり液晶表示と実写コマがうまく同期しなかったわけで、10:11の下には10:07が隠れているのが拡大すると確認できます。その後は撮影と、液晶時計表示がうまく同期し、1カットが0.03秒間隔で撮影できていることがわかります。ちなみに0.03×30で0.9秒となりますから、1秒に30コマ確実に撮れているのでした。なおスマホ画面の横じまの発生は、電子シャッターとの同期の問題であり、シャッター速度を遅くしたり、メカシャッターを使用することで消えるのかも知れないのですが、ここでは深追いしないことにしました。

●手元のAF・AE交換レンズも30コマ/秒に連動

 そこで念のためツァイス・ゾナーFE35mmF2.8ZAツァイス・バリオテッサーFE16~35mmF4 ZA OSSをで同じように試すと、この2本は公称15コマ/秒にしか連動しないというわけでしたが、2本とも30コマ/秒がでてしまいました。さらに手元にあったサムヤンAF35mmF2.8FEも同じように30コマ/秒が出たのです。

 なんでだろうと冷静に考えてみると、AFは「AF-C」であってもスマホは動かないので固定されている「AF-S」に等しく、さらに照明条件からするといずれも絞り値は開放状態でと考えたのですが、「連続のH+」は電子シャッターモードなので、これで30コマ/秒でるとも考えたのですが、実場面でも絞り込まれても実絞りAEとして連写されるのだから、AFを別とすれば30コマ/秒はでるのだろうと考えました。

 ここで思ったことは、ソニーはまじめに最悪の条件で最高コマ数を決めたのだろうか、それとも連写性能が落ちる在来レンズは、新しいGマスターレンズに買い替えなさいと単純にいいいたかったのかと考え込んでしまいました。CP+2021直前のソニーα1プロモーションYouTubeでは、ソニーの若い技術者と写真家2人が、α1の秒30コマ機能を生かすのは純正レンズだと口をそろえて最後まで連呼していましたが、あのシーンが妙に頭にこびりついていますが、あれは何だったのだろうかと思うのです。15コマ/秒、20コマ/秒連動レンズも純正であるわけですから、不思議な連呼でした。とはいっても私の写真撮影にはまったく別世界の秒30コマの連写機能でした。

 なお、今回使ったメモリーカードは米国の通販サイトから買ったレキサー名の中国製128GのSDカードですが、もともとわずか300円強と安価なので面白半分に購入してみたものですが、連写の30コマ/秒はカメラ本体のバッファーメモリーに依存するので問題なく使うことができました。

●30コマ/秒の連写機能の検証(2)

カワセミの飛翔を30コマで狙う

 ストップウォッチでのテスト撮影がうまくいきましたので、次は実際のフィールドでの撮影をと考え、自宅からは2時間以上離れた東京葛飾区にある水元公園カワセミを撮ろうと向かいました。当日は撮影ポイントと時間に不案内であったために、写真愛好のHさんに同行願いました。初めて降り立ったJR金町駅からバスに乗り、下車後10分強歩いて目指す撮影ポイントへ9時過ぎに到着すると、ちょうどカワセミがおでましでした。

 当日私はなるべく軽装備でということで、α1ボディにFE70~200mmF4 G OSSレンズを持参したのですが、ところがカワセミをアップで狙うには望遠側200mmでは足らないので、Hさんの FE100~400mm F4.5-5.6 GM OSSとさらに1.4×と2.0×のテレコンバータまで拝借ました。なぜレンズまで借用かというとFE70~200mmF4 Gにはテレコンバータは装着できないのです。せっかく拝借していたFE70~200mmF2.8 GM OSSレンズを軽量化のために置いてきたのが悔やまれます。結局撮影は、Hさんのご厚意に甘えて以下の成果を得ました。

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≪α1にFE100~400mm F4.5-5.6 GM OSSテレコンバーター装着状態≫

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水元公園カワセミ・1a≫ FE100~400mm F4.5-5.6 GM OSS + 1.4X Teleconverter、合成焦点距離560mm、トラッキングAF、H+電子シャッターモード(30コマ/秒)、シャッター速度優先AE、F8・1/800秒、ISO-AUTO2500、手持ち撮影。ノートリミングの撮ったままの画像です。マスターレンズの400mmでは足りないので1.4倍テレコンバーターを付加して焦点距離は560mmです。シャッター速度1/800秒固定、開放絞りF8ということなので、事実上ISO感度可変のAEということになります。(2021.05.04)

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水元公園カワセミ・1b≫ ノートリミングでは、いまひとつ描写がわからないのでカワセミを主にぎりぎりまでトリミングしてみました。トラッキングAFでしたがカワセミの目にピントがきているし、くちばし、頭の羽、さらには止まっている枝の質感も十分に良くでています。1.4テレコンバーターを使用しているために絞り値F8は開放絞りですが、描写は十分です。

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水元公園カワセミ・2a≫ FE100~400mm F4.5-5.6 GM OSS + 1.4X Teleconverter、合成焦点距離560mm、トラッキングAF、H+電子シャッターモード(30コマ/秒)、シャッター速度優先AE、F8・1/800秒、ISO-AUTO1600、手持ち撮影。ノートリミングの撮ったままの画像です。カワセミの後ろ羽のブルーが美しいです。(2021.05.04)

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水元公園カワセミ・2b≫ 1のカワセミより撮影距離が遠いため、拡大率が高くなっていますが描写としては必要十分です。実はこの時、ソニーの専用テレコンバーター1.4×と2.0×もあったのですが、画質的には1.4×のほうがむりがないので1.4×を使いました。またAPS-C判のクロップ撮影という方法もありますが、こちらはトリミング画像と同じになるということで、フルサイズで撮影しています。

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カワセミの飛翔≫ 静止しているカワセミが何とか撮影できると、次は飛翔している姿を撮影してみたくなりました。というか静止のカワセミのベストを狙っていると、すぐに飛び立ってしまうのです。そこを追いかけようとシャッターを押し続けたのが上の2コマ目から8コマ目です。1コマ目は水元公園カワセミ・2a」の場面です。2枚目は少しフレーミングを変えて狙っていたら、飛び立とうとしたのでとっさにシャッターを切ったのですが、すでにカワセミは降下しています。このタイミングは私のレリーズへの反応と機械的なタイムラグが加味された結果でもありす。さらに下でホバリングして7枚目で左端に少し写り、8枚目で止まっていた止まり木しかないのです。AFは動体を追い続けるというトラッキングAFモードですが、ソニー独特の鳥の瞳認識に設定すればよかったのか不明ですが、木の枝にピントが合い続け、カワセミのピントはみごと外れたのです。その結果、飛翔のコマは私とソニーの名誉のためになるべく小さく載せた次第です(笑)。ただ露出結果とAF状態からすると30コマ/秒で切れていると考えられるので、2コマ目から8コマ目まで、1コマ間が約0.03秒ですから、7×0.03=0.21秒となり、約1/4秒間の出来事というわけです。この間のAF追随は、レンズの焦点距離、撮影距離、被写体となるカワセミの大きさなどで相対的に難しくなってくるわけで、もしこのような状態で最初から思ったように撮れるなら経験もプロ写真家もいらなくなるわけで、そこが写真の奥深いところで、楽しみだとつくづく思った次第です。

北山公園のカワセミを狙う

  水元公園カワセミ撮影に満足して、休日の日曜日に地元東村山市の北山公園にFE70~200mmF4 Gを持ってカワセミの撮影に再チャレンジしました。200mmでは少し足りないのでAPS-Cモードにして300mm相当画角で狙ってみました。

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≪北山公園のカワセミ FE70~200mmF4 G、焦点距離200mm、APS-Cモード:300mm相当画角、トラッキングAF、H+電子シャッターモード設定(30コマ/秒)、シャッター速度優先AE、5.6・1/640秒、ISO-AUTO100、手持ち撮影。この場で愕然としたことが発生しました。写真に見るように背景のヨシにピントが行ってしまうのです、さまざまAFモードで試しましたが結果は同じでした。水元公園は背景の樹木まで距離があるからよかったのでしょうが、北山公園ではわずか1mぐらい背後にヨシが生えているので、どうしても背景にピントが合ってしまうのです。これは背景のほうがコントラストが高いためそちらにAFが合焦してしまうようですが、これは一般的にはコントラスト検出AFなら納得できますが、位相差検出AFは前後のピントも検出でき、手前の被写体に優先してピントが合うようにプログラムされているはずなのです。さらにカワセミをトラッキングAFで捕まえて画面を上下左右に動かすとカワセミの場所にフォーカスポイントが固定されたまま動くから、AFはカワセミをとらえているはずですが、背後にピントが来るという不思議もあります。そういえばサッカーの試合でもAFがつらかったというのと符合します。そこで、たくさんシャッター切れば少しぐらいはカワセミにピントが来るだろうと思ったのですが、約1,000カット切ってみごとすべてが背景にきてました。もっとカワセミと背景の分離が高まるように焦点距離を上げればいいのかもしれませんが不思議でした。(20210509)
30コマ/秒設定でサッカーを撮る

 プロ用というとスポーツ写真でどうかとなります。この場面を押さえるのは私のレベルでは不可能だと思っていて、知人のテニスのサービスの場面をと考えていましたが、運よく知り合いのスポーツカメラマンから、サッカーの場面でボールが最新ミラーレス機の電子シャッターモードで撮影するとおかしく歪むから見て欲しいと連絡がありました。

 さっそくボールが歪んだ写真を見せてもらいましたが、これは渡りに船だとばかりに、もしこれをソニーα1の積層型CMOSで撮影したらどうだろうかと考え、実際の試合場面で使ってもらいました。以下、その結果をご覧ください。

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≪サッカー、横浜FC×湘南ベルマーレ戦・1≫ 焦点距離200mm、トラッキングAF、H+電子シャッターモード(30コマ/秒設定)、シャッター速度優先AE、F4・1/640秒、ISO-AUTO320、手持ち撮影、横浜の三ツ沢球技場で行われたサッカーの試合ですが、ヘディング直前の瞬間でボールはほとんど歪んでいません。ここには示しませんが積層型CMOSならではのことで、従来型の撮像素子では電子シャッター使用時には、ローリングシャッター現象によりボールが変形して写ります。撮影:ヤナガワゴーッ!(20210505)

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≪サッカー、横浜FC×湘南ベルマーレ戦・2≫ 焦点距離200mm、トラッキングAF、H+電子シャッターモード(30コマ/秒設定)、シャッター速度優先AE、F4・1/5000秒、ISO-AUTO2500、手持ち撮影、横浜の三ツ沢球技場で行われたサッカーの試合ですが、ボールはほとんど歪んでいませんが、ヘディングの瞬間はコマ間に入ってしまいました。これが他機種だと?というのはこの場では避けますが、次項の走行する車の形状をご覧いただければと思います。撮影:ヤナガワゴーッ!(20210505)

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≪サッカー、横浜FC×湘南ベルマーレ戦・2のヘディングの連写コマ≫ 左から、ボールが見えないところが①、右上にわずかにボールが顔だしたのが②、ヘディング直前が③、頭ではじき出したのが④、ボールが上に跳ねたのが⑤、ボールが見えなくなったのが⑥というわけですが、この間はどのくらいの時間だったのでしょうか? 人間の動きはほとんど同じ位置で、ボールだけ動いてますが、露出・AFは固定状態だとすると、30コマ/秒設定だと、最速約0.2秒ぐらいの間のできごとになるのでしょうか?。この一連の場面でもズバリ額にあたった瞬間は撮れていないわけですから、60コマ/秒ぐらいの連写可能なボディが欲しくなるのでしょう。なお、撮影したヤナガワさんによると設定したモードが悪いのかAFの合焦率が低いので苦労したというのです。

●サイレントシャッター時のローリングシャッター現象

 ソニーα1の最大の特長は、裏面照射構造でメモリー内蔵積層型CMOSイメージセンサーを採用したことで、センサーからの高速読み出し、大容量バッファメモリーと画像処理エンジンの高速処理などにより、約5,000万と高画素ながら、電子シャッターでも動体歪みを抑えた静止画撮影が可能になったり、30コマ/秒の撮影ができ、1/400秒のストロボシンクロ、電子シャッターでのストロボ同調が可能になったなどの特長があるのですが、ここでは「アンチディストーションシャッター」と呼ばれるサイレントシャッター時の歪み(ローリングシャッター現象)を見てみました。撮影は従来と同じで、公道を走行する車をねらい、脇から撮影するわけですが、今回は30コマ/秒の連写機能を使ったために簡単に撮影することができました。

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≪ローリングシャッター現象≫ 左:α1、焦点距離35mm、F5.6・1/500秒、ISO-AUTO100、右:他機種、焦点距離35mm、F4・1/160秒、ISO-AUTO100。裏面照射構造でメモリー内蔵積層型CMOSイメージセンサーのα1の優位さがわかる写真ですが、このような場面でサイレントな電子シャッターを切るか、という疑問もありますが、ソニのサイレントの作例はプロゴルファーのスイング場面でしたので納得できる設定でした。ただし人工照明下の舞台や室内競技の場面ではどうかなどが考えらえます。どちらの機種もC-AFで、左は連写、右はシングル撮影ですが、右のほうがAF追随は良いようです。

フリッカーレス撮影と高分解シャッター

 実は最近、最も気になっているのが電子シャッターとフリッカーとの関係です。この問題は昨年末に舞台写真家協会の方々からテーマをもらい、自分なりに考えていたことと照らし合わせたのですが、意外と奥が深く、現場の多くのカメラマン氏はかなり困惑しているというわけです。

 これは、照明光源との適合性の問題であり、明滅(点滅)する蛍光灯やLED照明に関係することで、従来からの電球などの連続光では問題にならなかった部分ですが、いずれもカメラメーカーとしては何らかの手を打たなくてはならなかったわけです。

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≪蛍光灯照明のとあるギャラリーにて≫ 20013年にライカM(Typ240)をぶら下げて、知人の写真展に行ったときに横縞の入った写真が撮れました。この時ライカカメラ社の開発担当者に撮影結果を見せて聞くと、シャッター速度をもっと下げて撮影してください、動画も試してくださいということでした。ここのギャラリーは白壁でかなり明るいのですが、もう一度再現してみようと2000年の11月に「α7RⅡ」を持参して再現できるかと撮影したのが上の写真で、いわゆるこれが蛍光灯照明のフリッカー現象というわけです。この時は、このような現象がでることを期待して行ったので、これ以上の撮影はしませんでしたが、撮影メニューの中にフリッカーレス撮影というモードがあり、そこに設定すればこのような光源ムラはでません。今回の撮影ではフリッカーレス撮影はα7RⅡ、α7RⅣでも試しましたが、いずれも大きなムラは消えました。ここではα1の場合を紹介します。

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フリッカーレス撮影設定≫ メニュー画面の中から「シャッター/サイレント」を選び→「フリッカーレス撮影」を入にします。以下に、「入」にしない場合と、した場合を蛍光灯照明下で比較撮影しました。フリッカーレス撮影モードになっていて、フリッカーの発生している条件下でフリッカーレス機構が機能するとファインダー内に「Flicker」と表示がなされます。

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≪α1における直管蛍光灯下におけるフリッカーレス撮影、左:切、右:入、ゾナー35mm、F2.8・1/500秒、ISO-AUTO2000、AWB≫ 背景は白の模造紙ですが、露出補正をしていないので18%グレーのようになるのはかなり正しい露出結果といえます。フリッカーレス撮影切はさまざまなモードで行いましたが、シャッター速度が遅いと発生しにくく、高速ほど出るような印象があります。ここに掲載したのはわりとおとなしいものです。

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≪参考までに:α7RⅣにおける直管蛍光灯下における撮影、左:通常モード、右:サイレントモード、ゾナー35mm、F2.8・1/500秒、ISO-AUTO2000、AWB≫ 背景は白の模造紙で、サイレントモードの時のムラの出方が特徴的です。もちろん、この状態で「フリッカーレス撮影・入」にすれば、α1の右側作例と同様にきれいに撮影できることは、いうまでもありませんが、電子シャッター時にムラがでないのはα1ならではの機能です。

●高分解シャッター機能

 α1で新たに設けられた機能が「高分解シャッター」です。これはLED光源の明滅現象による画面ムラ発生に対する解決のための機能だというのです。下の写真をご覧ください、舞台での撮影でサイレントシャッターで撮影したら黒い幕やシャドーの部分にR.G.B.のストライプ模様が入ってしまったのです。この解決法としては、サイレントでなく、メカシャッターモードで撮影すればよいのですが、サイレントつまりシャッター音を出せない舞台などでは困りもので、撮影は本番前の最終稽古でやっておき、本当の舞台ではサイレントモードで間に合わせで撮っておくという話を左下の作例をお借りした人から聞いてますが、デジタルカメラの残された課題だったのかもしれません。

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≪LED光源とサイレントシャッター≫ 左はLED光源の明滅により発生したムラですが、ソニーの他機種を使っての発生です。よく見るとG.R.B.の順でGのみが幅広く、撮像素子のカラーフィルターのベイヤー配列そのもので上からG.G.R.B.であるように見ることができます。そこで今回の撮影では、その現象を再現させようと写真右のようにLEDランプの直線状のものと面状の物を準備していましたが、結果は蛍光灯照明のようにはうまくいかなく、このようなLED明滅によるムラを再現することはできませんでした。

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≪高分解シャッターとは≫ 高分解シャッターとは、LEDランプのように明滅の速度が速い発光体を使っていると発生するムラに対する解決策として発光の明滅サイクルとシャッター速度を同期させて、ムラを発生させないような仕掛けで、具体的には従来からのシャッター速度優先より細かな速度設定ができるようになっているのです。この効果を確かめようとしてLEDランプをわざわざ2種類用意したのですが、写真用では色温度を変えられるために複数の色LEDの組み合わせででき上っているために、色温度を変えてもそのようなムラは確認できませんでした。ウインドー照明、舞台照明などもっと現場で試すと良いのかもしれません。白バックのほか、黒バックでもやりましたが、実験は失敗、残念でした。この高分解シャッターの機能は、α1に加えα9Ⅱにもファームウェアアップで可能になったとされていますので、ソニーの積層型CMOSイメージャーだけに通じる技術かもしれません。

LED電球下での撮影では

 いよいよカメラをスポンサー氏のもとに渡す段になり、LED光源下での明滅ムラは確認できないなと考えていて、自分の部屋の照明光下でなんか変だなと思い種々撮影した結果が以下になります。最初はランダムに1カットずつ撮影していたのですが、時々暗いカットがでてくるのです。それでは、どのくらいのサイクルかと30コマ/秒で連写したのが以下です。大体、この条件下では、3コマで1サイクルを繰り返しています。

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≪LED電球下の露出≫ いずれのコマもゾナー35mm、F2.8・1/800秒、ISO-AUTO5000、AWB、で露出は同じですが、アンダーから始まり少し明るくなり、さらに明るくなり、暗くなるということを繰り返しているのです。ストップウオッチによると1コマ0.03秒でコマ間ですから、約0.09秒でさらに大まかに見ると0.1秒で明滅を繰り返していることになります。舞台写真を撮っている人はもしこのような照明条件だと大変だと思うわけです。ただこの露出のムラというかバラツキは背面液晶で見ていると明るく大変きれいに見えるのです。前回、Ver.2までに蛍光灯やLEDの明滅ムラことを書いたら、だからフィルムがいいのだという声がさっそく聞こえてきましたが、でもこのようなことをあえて露呈させていくことが次のカメラ開発につながると思いますし、少しでも第一線撮影現場のユーザーたちの声が届けばと思うし、私はその代弁者でありたいと思うわけです。

●レンズ交換時にシャッター幕が閉じてる機能

 実は今回私的に一番注目したのは、電源OFF時にシャッター幕が閉じる機能です。これは、レンズ交換時にホコリや雨や唾の水滴がつかないために大変安心感があるのですが、なぜかキヤノンの一部機種にしかついていないのが不思議でした。あるメーカーは「雨にシャッター幕面が濡れるより撮像素子前面が濡れたほうがいい」と解説したというのですが、使用者側としてはやはりシャッター幕が閉じていた方が絶対的に安心感があるのです。そんな話をあるカメラ技術者と話していたら、「我々はそんな柔なシャッター羽根は作ってこなかった」というし、さらに別の企業の技術者は、「それはまったくの詭弁であり、シャッター幕が閉じていた方がいいに決まっている」というのです(いずれもキヤノンの人ではありません)。

 α1の初期設定では、シャッター幕は電源OFFでも開いていて撮像素子が見えるのです。電源OFF時にシャッター幕が閉じる機能はオプションであり、この機能がメニュー画面のどこに入ってるかわからず設定するのに苦労しました。取扱説明書には書いてなく、ソニーのWebにもできるとは書いてあっても、設定はどのような名称で、メニューのどこにあるか書いてないのです。これには困りました、唯一YouTuberがα9Ⅱのこの部分を紹介しているのを見つけ、何とか設定しましたがこれは、せっかく搭載したのになるべく使わないようにというか、使わせないようにしているような不思議な機能なのです。

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≪電源OFF時のシャッター・閉の設定≫ 電源OFF時のシャッター・閉設定が、アンチダスト機能の中に入っているということは、シャッター閉じることでほこりなどを防ぐことを意味するわけですが、わかってしまえば理解できるのですが、階層も深い所にありわかりにくいのです

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≪左:初期設定は電源OFF時にシャッター幕が開いている。右:電源OFF時のシャッターを入にしてシャッターを閉じた状態≫

 やっとのことで探し当てた設定法は、メニュー画面の「セットアップオプション⑫」→「アンチダスト」→「センサークリーニング」→「電源OFF時のシャッター」でセットできますが、なぜ常時このような設定になっているのかわかりませんが、サイレントモードでは電源OFF時のシャッター幕閉の機能は使えないので、おそらくそのあたりが関係しているのではと考えました。さらに不思議なことは、この機能を働かせて、電源をOFFにしてからシャッター幕が閉じるまで5秒弱かかるのです。これから先はあくまでも個人的な推測でしかないのですが、いずれはファームウェアのアップデートでこれらの問題を含めて、α1の機能をさらに高めていくのではないかと思ったのです。だから紙の取扱説明書などには明記せず、Web取扱説明書への依存を高めているのではないかと考えました。この「電源OFF時のシャッター・閉」機能の使い方としては、一番最初に電源OFF時のシャッターを「入」にしておき、サイレントモードを設定すると自動的に「入」機能は解除され、通常の撮影モードに戻すと「入」に戻るので、この使い方がすこぶる便利です。ただ、どうしてこのような初期設定にしたかは不明で、「入」の状態を初期設定としていれば、サイレントシャッター時は「電源OFF時のシャッター・閉」機能は働かないとアナウンスすればいいのにと思った次第ですが、メニュー階層の深さ、OFF後シャッター幕が閉じるのに約5秒近くかかることなどを含めてこれからだなと思いました。

●240fpsのファインダーフレームレート

 α1のEVFファインダーは約944万ドットの有機LEDが使用され、「240fpsのファインダーフレームレート」の表示が可能とあります。フレームレートが高ければ動きのある被写体に対してスムーズなファインダー描写が望めるということになりますが、解像が低くなり消費電力も高くなるとされています。設定はセットアップメニューから選びます。

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≪ファインダーフレームレートの設定≫ 設定は、標準(60fps)・高速(120fps)、より高速(240fps)と変更可能で、デフォルトは高速(120fps)になっています。ここでより高速にすると撮影画角が狭くなるとされていますが、確認には至りませんでした。ちなみにα7RⅣの場合は標準(60fps)・高速(120fps)の2種で、デフォルトは標準の60fpsにセットされています。α1でもユーザーによっては撮影目的に応じて「標準・60fps」に設定するのが推奨されています。

 ■終わりに

 以上で、ソニーα1の使用レポートを終えることにします。ソニーのキャッチフレーズは『THE ONE 新次元へ』ですが、今回注目したことは、α1は何をもってミラーレスαシリーズの1番なのかということ、新次元というのは何をもってか、ということになりました。この点に関しては、すでにご覧になっておわかりのように裏面照射構造でメモリー内蔵積層型CMOSイメージセンサー採用の功績が大だと思うのです。なお、すでに同種のセンサーを搭載した機種としてα9Ⅱがありますが、α1ではさらに機能を高め、240fpsのファインダーフレームレート、電源OFF時のシャッター閉、高分解シャッター、1/400秒のストロボシンクロなどを搭載して№1としたようですが、どこまでこれだけの機能が実用的なのかと考えると、少なくとも私のようなレベルでは使いこなしはできないだろうと考えてしまいました。とはいっても、歪みのない30コマ/秒の画像は魅力だし、操作系では、基本的な設定はすべて電源のON・OFFに関係なく目視できるのは、プロ用、特に業務で撮影するカメラマンにとっては大切な仕様です。

 このほかせっかくだから私がソニーのミラーレス機で高く評価でる部分を紹介すると、バッテリーの充電がUSBタイプAの電源ソースからタイプCでできるのが大変好感をもってる部分です。USBタイプA経由なら、スマホ・携帯用の変圧アダプター、車、新幹線、飛行機、ホテルなどで充電できるのは便利この上なく、機種ごとに充電アダプターを持ち歩く必要もないのです。ちなみにフルサイズミラーレス機で同様にUSBタイプA経由で充電できるのはパナソニック、シグマであり、他社は対応しないというのは残念ですが、今回のソニーα1もニコンキヤノンと同様に専用充電器かUSB-PD対応機からしか充電できないようになったのです。これは大変残念なことです。

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 最後に、ソニーに加え、ニコンキヤノンのミラーレスのフラッグシップ機であろう最高級機の写真と概要を掲載しました。これを見てお分かりのように、いずれも積層型CMOSイメージセンサーを採用していることです。これから先のプロ用機は積層型CMOSイメージセンサーを搭載するのがまるで条件のように見えるのです。

 つまりこれがソニーα1のキャッチフレーズである“新次元へ”の意味なのでしょう。さらに付け加えるなら、ソニーのα1はニコンキヤノンとは異なり、小型のままプロ用機としたところが注目点です。追い上げるニコンキヤノンが最終的にどのような機能を付加させてくるかはわかりませんが、各社とも新時代を迎えるのは明らかなわけで、カメラ技術の進歩はまだまだ進歩をとげるわけです。 (^^)/

 

 

 

ライカMとソニーEマウントの「フォクトレンダーアポランター50mmF2」ver.2

 写真仲間のMさんからコシナVMマウント(ライカMマウント)の「フォクトレンダーAPO-LANTHAR 50mmF2 Aspherical」を買ったから使ってみて欲しいと連絡がありました。私は、2020年1月にソニーEマウントの「アポランター50mmF2」をレポートしましたが、Mさんは“コシナVMマウント”と“ソニーEマウント”のアポランター50mmF2に写りの違いはないか、比較して欲しいというのです。コシナVMマウント用の「アポランター50mmF2」の発売にあたってはいつものお店から予約はどうするの?と早々に連絡がありましたが、はい間に合ってますとか返事して終わらせていました。

 それ以前には、ソニーとライカでは撮像素子の前に配置された光学フィルターの厚みが異なるので、レンズそのものもそれぞれ適切化した設計がなされているとか関係筋から流れてきていましたが、そもそも「アポランター50mmF2」が登場したときに、ファインダーをのぞいて最初に発した言葉は、『何だこれは!』という分離の良いクリアな見えに対する驚きで、その写りも大変シャープな未体験な画像だったのが強烈な印象でした。

 そんなこともあり、コシナVMマウントとソニーEマウント仕様の「アポランター50mmF2」はどちらもよく写るだろうぐらいしか思っていなかったのですが、写真仲間のMさんから頼まれれば、嫌いじゃないし興味は大なのでこの2本のレンズの違いはどれだけあるだろうかということで、早速、実写から比較してみようと考えました。まずはそれぞれのマウントに合うボディでの撮影ということで、α7R2とM9を用意しました。

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≪左:ソニーα7R2に装着したソニーEマウントのアポランター50mmF2、右:ライカM9に装着したコシナVMマウントのアポランター50mmF2≫ いずれも専用フード付き。距離は∞、絞りはF5.6にセット。アポランターのシンボルRGBマークは、Eマウント仕様は鏡胴先端に、VMマウント仕様では正面の銘板に記されています。フードはそれぞれ専用で、VMマウント用はあくまでもライカスタイルを踏襲ということです。

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≪それぞれレンズ単体見てみました。左:ソニーEマウントのアポランター50mmF2、右:コシナVMマウントのアポランター50mmF2≫  VMマウントはライカMマウントと同等です。

●まずはEタイプとVMタイプを実写で比較してみました

 快晴の日を待ってわが家の裏山トトロの森を遠景からねらってみました。ピントは画面中央の樹木の太い幹に合わせて、VMマウントとEマウントのアポランター50mmF2をそれぞれ絞りF2開放と、絞りF5.6で3カットずつ撮影しました。また、それぞれのレンズそのものを比較するためにはマウントの関係で、ソニーα7R2にマウントアダプターを介してVMマウントレンズを取り付けて行えば同じボディでの比較ができるわけです。

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≪遠景の撮影は「ライカM9+VMマウント・アポランター50mmF2」、「ソニーα7R2+VM-Eクローズフォーカスアダプター+VMマウント・アポランター50mmF2」、「ソニーα7R2+Eマウント・アポランター50mmF2」と、3種の組み合わせで行いました≫ この写真でお分かりのようにVMマウントのレンズをソニーで使うためにはマウントアダプターを装着してフランジバックとマウントを同じにする必要があるのです。

 実は、今回のレンズ比較でひそかに思っていたことは、従来はライカMマウントレンズにマウントアダプターをはかせてミラーレス機で使うようにしていたわけです。ところがフランジバックの短いソニーEマウントボディ用に適切な光学・機械設計していたものを、ライカMボディ用にするためには物理的なレンズ長を簡単に言えば短くしなければならず、短くするためには単純にカットすれば良いわけはなく、光学的に何らかの変更が生じてくるだろうと考え、そこが個人的な興味の対象であったので、Mさんの依頼を引き受けたのもその部分があったからです。

■遠距離での描写比較

 画面中央の樹木の太い部分に結びつけられた赤いリボンにピントを合わせました。無限遠ポジションの少し手前で、ヘリコイドを微妙に前後できる所です。

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VMマウント・アポランター50mmF2、ライカM9、F2・1/3000秒、ISO160、+0.3EV、AWB≫ ピントは太い幹の部分で∞の少し手前で距離計合致部分を十分に認識できました。絞り開放F2、F5.6と2種撮影しましたが、基本的にCCDで1800万画素のM9、CMOSで4240万画素のα7R2ではまったく土俵が違うので、この先の比較はα7R2のボディ1台で、Eマウント・アポランターと、VMマウント・アポランターを、絞り開放F2、F5.6で比較するのが、最も不確定要素が少ない条件で2種のアポランター50mmF2を比較できると考えました。空の色が明るいのはライカの色づくりか、CCDだからなのでしょうか。F5.6に絞ると周辺光量不足はなくなります。なおVMマウントはライカMマウントですから、無限遠位置撮影はヘリコイドの∞ポジションへの突き当てでも可能なのは言うまでもありません。f:id:ilovephoto:20210211230427j:plain
VMマウント・アポランター50mmF2+VM-Eアダプター+α7R2、F2・1/2500秒、ISO100、AWB≫ ノートリミングの全画面です。F2開放で若干の周辺光量低下は致し方ないところですが、あくまでもこれはこのボディでの結果であって、ライカM9の開放画像と比べてもわかるように、撮像素子(カメラボディ)が異なると周辺光量不足も増減することはすでに知られたことです。F5.6に絞ると周辺光量不足はなくなります。

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Eマウント・アポランター50mmF2+α7R2、F2・1/3200秒、ISO100、AWB≫ ノートリミングの全画面です。同じボディですが、F2開放で周辺光量の低下はMマウント・アポランターより少ないように見えます。この原因として考えられるのは、Eマウント・アポランターには電子接点があり絞り開放時の信号がボディに伝わってビネッティング補正が働いているか、光学系が適切化されているために少ないのか、ユーザーレベルではわかりませんが、違いがあることだけはお分かりいただけるでしょう。なおF5.6に絞ると周辺光量不足はなくなります。

 なお、EマウントアポランターはAFボディのソニーαボディに使うため、ライカマウントレンズのように突き当てで無限遠を出すということはできませんので、ヘリコイドは∞の先までわずかに可動するようになっています。よくAFボディにアダプターを付けて、昔のMFレンズで無限遠がでないということをいうことを聞きますが、でないのが正しいのです。両アポランターの∞位置の部分は上の比較写真をご覧ください。

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フォクトレンダーVMマウントアポランター50mmF2≫ 上の絞りF2開放の状態を画素等倍までクロップして掲載。ピントは中央に見える樹木に付けられた赤いリボンです。私の目にはわずかですが、VMマウントアポランターのほうが良いように感じますが、実際こんな倍率に拡大することはなく非現実的で、あくまでも目安です。

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ソニーEマウントアポランター50mmF2≫ 上と同じに、絞りF2開放の状態を画素等倍までクロップして掲載。

 さて、このF2状態でも撮影してそれぞれの違いが少しわかりました。無限遠手前の太い幹と左側の小枝の描写を見ると、VMタイプのほうがわずかに良いのです。もちろん、開放絞りF2の描写はということもありますが、晴天の下、遠景を絞りF2開放で撮ること自体かつてはナンセンスなことでしたが、デジタルの時代になって1/1000秒以上のシャッター速度での撮影が可能となりましたので、露出的にはまったく問題はありません。むしろ輝度の高い所で口径の大きいF2開放で撮影できる時代になったのです。

 さらに言及すると、絞り込みで深度の拡大は望めますが、絞り開放から高い解像が得られるのは、まさに収差を抑え込んだAPO仕様だからだといえます。なお、同じ時間帯で同じカメラで、F2でシャッター速度が違うのはデジタルならではで、わずかな光束の透過率の差が表示としてそれぞれ1/2500秒と1/3200秒に転んだと考えられるのです。

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≪F5.6の時のピントを合わせたと部分の画素等倍にクロップした時の描写特性≫ 左:VMマウント用、F5.6・1/400秒、右:Eマウント用、F5.6・1/400秒≫ ここであれっと思ったことが起きてしまいました。上の絞りF2画素等倍の画像を見てお分かりいただけると思いますが、VMマウント用のほうがわずかにシャープに写るのですが、F5.6に絞り込むと今度はEマウント用のほうが極めて微妙に良いのです。絞り込み効果がEマウントタイプには期待できますが、これはプリントや印刷では通常はありえない拡大率なので、個体差ともいえ、使用上はこの2種のレンズの間に差はないということです。

 実はその時点で1つ困ったことが起きたのです。VMタイプレンズで、絞りF2開放とF5.6では、発色がガラッと変化したのです(上のF5.6に絞った2枚発色の関係と同じ変化です)。ところが同じボディでもEタイプレンズではそのようなことが、まったく起きないのです。これには悩みました。なぜかというと、この下の“ざるチャート”の場面でもVMタイプはまったく同じように色が変化(AWBの色温度変化)したのです。つまり場所を変えて、撮影距離を変えても絞り変化による色転びはVMレンズに起きたのです。さらにEタイプは撮影距離を変えてもそのような色転びは起きないのです。それではと、今度はありったけの他社ボディ4機種(キヤノン、シグマ、ニコンパナソニック)を引っ張り出して、同じ場面でマウントアダプターを介してVMレンズと組み合わせて撮影しても色転びはまったく起きないのです。ここまでくると、とてもその原因は理解も推測もできないことになり、単にこのような現象が起きましたということしか報告できません。何となくボディに原因がありそうですが、機会あれば違うα7R2ボディか、違うα7シリーズボディでVMタイプとEタイプレンズを絞り変化させて使ってみれば、その原因をもう少し特定することができるかもしれません。

■画面周辺の画質をチェック

 第一報をアップしましたら、早速熱心な方から要望がきました。画面中央ばかり載せないで、周辺もしっかり見せて欲しいというのです。そうですかということで、ありのままを載せます。遠距離風景写真の右端の画素等倍です。

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VMアポランター+ライカM9 左:F2開放、右:F5.6、画素数が1800万画素、ピント合わせがレンジファインダーですから微妙なピントのズレはありそうですが、画素数の多い最新のライカでライブビューで拡大して合わせれば、また結果も変わるでしょう。いずれのカット左側が濃度高いのは、F2開放時の周辺光量低下によるものです。

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VMマウント・アポランター50mmF2+VM-Eアダプター+α7R2≫ 左:F2開放、右:F5.6。VMマウントレンズをアダプターの下駄をはかせて撮影したらこの通り。やはり、マウントアダプターでのフランジバック合わせでは、画面周辺では画質的に難しいのですね。中央がシャープなだけに、この描写には驚きです。

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≪Eマウント・アポランター50mmF2+α7R2≫ 左:F2開放、右:F5.6。これはすごいという感じですが、やはりEマウントに適切に設計された光学系の成果でしょうか?ちなみにライカMマウントのマウント口径・フランジバックは「43.9mm・23.8mm」であるのに対して、ソニーEマウントは「46.1mm・18mm」とされています。この口径の寸法、フランジバックを前提に適切に光学設計するとそれぞれが十分な画質ですが、マウントアダプターを使うと画面周辺部は全く別物のような画質になるというのは当たりまえなのでしょうが、改めて知らされた驚きとなります。

■近距離での描写

 次に撮影距離約90cm、近距離の解像特性を調べました。この被写体は、“ざるチャート”と呼びますが、画面中央にマイクロ写真用の解像力チャートを置き、チャート中央の部分にピントを合わせ絞り開放F2と、F5.6に絞った状態でそれぞれピントを合わせてベストの状態を探して撮影してあります。なぜ90cmかというと、ライカMマウントの最短撮影距離が70cmなので、距離リングの前後を微動できる範囲として設定しました。撮影距離レンジは、VMマウント仕様は70cm~無限遠と、Eマウント仕様に比べると狭いのです。

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VMマウント・アポランター50mmF2+VM-Eアダプター+α7R2、F2・1/1600秒、ISO100、AWB ≫  このF2開放では周辺光量の落ち込みがEマウント仕様より大きいのです。やはり、マウントアダプターを付けての撮影では本来の性能はでないのでしょうか。またVM-Eアダプターの4mmのヘリコイド操作を行えば最短撮影距離は稼げるでしょうが、描写性能はどうなるかわかりませんね。

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≪Eマウント・アポランター50mmF2+α7R2、F2・1/2000秒、ISO100、AWB ≫  撮影距離約90cm、近距離の解像特性を調べました。この場面では、絞りF2開放にかかわらず周辺光量の落ち込みは少なくなっています。これはソニーαマウント用に専用設計された成果だと考えられます。ちなみにソニーEマウント仕様の最短撮影距離は45cmです。つまり45cm~無限遠と撮影距離レンジは広いのです。

 この被写体は私の近接用テストチャートであって、マイクロ写真用解像力チャート以外はざるを含めてすべて自然のものです。人工的な塗料は使っていないため色の偏光はありません、エノコログサの穂がどれくらいシャープに示されるか、色づいた枯葉の色再現、拡大したときの葉脈のシャープさ、赤く乾燥したトマトの光沢感などを見て、レンズの性能を知ることができるのです。また、背景の敷石や砂利のボケ具合からレンズの性格を判断することができるのです。撮影時の天候はチャートに反射が入らないようにと散光状態の薄曇りで行いました。

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VMマウント・アポランター50mmF2+VM-Eアダプター+α7R2のF2開放で、ざるの部分が良く見えるようにトリミングして掲載しました≫ 50mmF2、撮影距離90cmですから、設定絞りF2ですから、許容錯乱円を0.026mmとして計算すると、前後合成で被写界深度は31.9mmとなります。F5.6の場合は89.6mmとなります。同じカットをFEマウント・アポランターでも撮影しましたが、大きく変わる部分がないので、ざるのアップはVMマウントアポランターだけの掲載となりました。

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 ≪チャート部分を画素等倍にトリミング、VMアポランター、左:F2・1/1600秒、右F5.6・250秒、AWB

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チャート部分を画素等倍にトリミング:FEアポランター、左:F2・1/2000秒、右:F5.6・1/250秒、AWB

 さらに細かな部分を見るためにVMマウント・アポランターとEマウント・アポランターのチャート中心部の画素等倍にトリミングした状態が上の2つです。それぞれ左がF2、右がF5.6ですが、どちらを見ても大きく変わらないのです。結局、この状態ではα7RⅡの4240万画素の限界を調べただけのようです。つまり両アポランターの解像力が上をいってるということなのです。そこでVMマウント・アポランターを各社アダプターを使って調べると、4500万画素のキヤノンEOS R5、4730万画素のルミックスS1Rだともう少し先まで、2400万画素のシグマfpだともう少し手前まで撮影後に読めるのです。またα7RⅡと同じ画素数ニコンZ7を比べると、ピント合わせ時はニコンZ7のほうが細かく見えピントが合わせやすく感じるのですが、これはZ7のEVFが0.5型で369万ドット、α7RⅡが0.5型で236万ドットという値に依存するようですし、写った解像としては同じようなレベルなので、結局、レンズの解像力、撮像素子の解像度とチャートの解像度との関係が見えたのがこのチャートの拡大部分というわけです。

VMマウントかEマウントか、Mさんの逡巡

 その後ただちにMさんからメールが来ました。文面によるとMTF曲線が……というようなことでした。そこでコシナのHPでMTF曲線を見ると、確かにMマウント仕様とEマウント仕様では、Eマウント仕様のほうが高周波成分40本の所が直線的にわずかに100%に近く、Mマウント仕様では少し下に位置し直線的に右側に下がっていくのがわかります。一般的に高周波成分が100%に近いほど高解像力で低周波10本/mmのMTF特性が100%に近いほどヌケが良いレンズで80%以上あれば優秀で、60%以上あれば満足できる画質が得られると言われていますが、Mさんはこのあたりを気にしていたようです。

  そこで、VMマウント・アポランターとEマウント・アポランターのMTF曲線とレンズ構成図をコシナフォクトレンダーのHPから抜き出してみました。

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VMマウント仕様のアポランター50mmF2のMTF曲線とレンズ構成図、8群10枚、コシナHPより≫ 

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ソニーEマウント仕様のアポランター50mmF2のMTF曲線とレンズ構成図、8群10枚、コシナHPより≫

 確かにMさんの言うとおりにMTFのカーブは、Eマウント仕様のアポランターのほうが極めてわずかですが100%に近く、直線性が良いのです。さて、どうしたものでしょう。Mさんは購入にあたって、そのあたりを逡巡したようです。私はMTFでレンズ性能をということはあまり考えなく、実写でどうだろうかという主義なのです。その点においては、過去にEマウント仕様のアポランター50mmF2を、今回と同じソニーα7RⅡで建築中の高層マンションを写して縦方向で1mほどにプリントしてその精緻な描写にびっくりしたのですが、Mさんはそのプリントは目にしていましたが、すでにノクトン50mmF1.5を所有していて、結局あの高解像な画像に魅力を感じたのでしょう。

 そこで改めてレンズ構成を見ると、同じ枚数ですが硝材が異なるのです。細かく仕様を比較整理してみると以下のようになりました。

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 ライカMマウント仕様のVMレンズと ソニーEマウント仕様のレンズでは基本的にカメラ形式がレンジファインダーであることと、ミラーレスであることから仕様は異なるのはわかるのですが、この表から見るとやはり1年後の発売という時間差が、大きく影響しているのだなという印象が強いのです。特に感じるのが同じ8群10枚構成でも、使用している硝材が異なるのです。この点で見ると高価な異常部分分散ガラスを3枚少なく使っても、Eマウント・アポランターと同等、もしくは極めてわずかに遠景で勝る性能を持つのは、開発・発売の時間差からくるのだろうと思うし、絞りF5.6でも円形絞りにしたことなどから、うかがい知れます。

■カメラを持ってお散歩

 Mさんから預かったレンズですが、せっかくのライカマウントですので、これを機会に“M9ボディ”に付けて少し撮り歩いてみました。撮影順に掲載しましたから、これでどこを歩いたかわかる人は「散歩の達人」か「東京ウオーカー」ですね。

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≪田安門に向かう“IDOL”トリオ≫ F4・1/4000秒、ISO160、AWB。とっさにマニュアルフォーカスでの撮影ですが、久しぶりに勘を取り戻すのに苦労しました。今回の一連の行程で何度頭と体の行動が一致できなかったかは言えません(笑)

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江戸城石垣の刻印石≫ F4・1/3000秒、ISO160、AWB。田安門をくぐるとすぐ左に「丸に十の字」の薩摩藩が献上した刻印石を見つけられます。

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≪石像≫ F2.8・1/2000秒、ISO160、AWB。2頭ついになって置かれていたので狛犬かもしれませんが、左背景石垣のボケはムラなく均質性があります。

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近衛師団司令部庁舎跡≫ F5.6・1/3000秒、ISO160、AWB。2020年までは東京国立近代美術館工芸館でしたが、昨年に美術館は金沢に移転したのでこの先はどうなるのでしょう。明治期の1910年に建てられた近衛師団司令部庁舎です。

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スマホ散歩≫ F2.8・1/4000秒、ISO160、AWB。手前の草にピントを合わせましたが、背景には大きくボケていますが、スマホを手にして歩く人の感じがわかります。

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≪切り株≫  F5.6・1/2000秒、ISO160、AWB。少しだけ絞り込んで、切り株の重厚感を出してみました。

■いろいろ試してわかったこと

 ずいぶんいろいろと撮影を繰り返しましたが、結局分かったことは2本のレンズの間に画面中央は通常使用では画質的にはほとんど差が出ないということです。Mさんは、ふだんはライカM3に黒白フィルムかカラーネガフィルムを使っているそうで、デジタルではソニーα7SⅡで撮影しているそうで、今までに十分高精彩を感じているようです。

 しかしこのあたりを実感として十分に感じるのはデジタルならではの世界だと思います。従来、通常のライカMマウントレンズがあり、各社一眼レフレンズレンズがありましたが、それをミラーレスカメラに流用するにはレンズマウントアダプターを使えばよかったわけですが、Eマウント・アポランター50mmF2に続き、VMマウント・アポランターと、今までになかった順序でアポランター50mmF2が登場したのです。実は、このようなことを考えるには、ミラーレス機のフルサイズは当初ソニーだけだったわけですが、現在では各社がフルサイズ機を市場投入していて、それぞれに同じ交換レンズを使うのには、ミラーレス専用マウントよりもアダプターを用意すればユニバーサルマウント的なライカMマウントのほうがいいのかななどと考えていたのですが、今回のテスト結果からすると、画面周辺はかなりつらくなることがわかりました。

 このほか電子接点のついたEマウント・アポランターは、撮影時にはマニュアルフォーカスであってもヘリコイドをわずかに回転させるとファインダーのピント合わせ部分が拡大表示されカメラ側の拡大操作が省かれ快適です。さらに、ボディ側の5軸手振れ補正への連係がなされ、ファインダー右下には「人上半身-山マーク」に加え撮影距離に応じて「0.4m-0.5m-0.6m-0.7m-0.8m-0.9m-1m-∞」を目盛りが示されるなど便利です。さらに撮影後には、レンズ名、最大絞り、設定絞り値がexif情報としてファイルに記録されるのもうれしいことです。

 いずれにしても、それぞれのマウントには光学性能としてベストがでるように設計され、それぞれ使い勝手にも特徴があるわけで、そこを理解したうえで使う人の好みで撮影機材システムを構築すればよいわけです。Mさん、これで満足いただけましたか。 (^^)/

 更新履歴:2021.02.14 ver.1、2021.02.15 ver.2

 

 

 

TTArtisan 50mmF0.95レンズを使ってみました

 明るいレンズには夢があるとは誰が言ったか忘れましたが、大口径レンズは明るいがゆえに被写界深度が浅く、その独特な描写が人気を集めていますが、かつてフィルムカメラの時代には感度が低く暗いから明るい大口径レンズを使うという絶対的な命題があったのです。ところが最近はどうでしょうか、デジタルになり感度はISO1000や2000は当たりまえ、ときにはISO20000以上もというような超高感度も自在に使いこなせるのです。
 そのような時代にニコンからミラーレスのZマウントで『NIKKOR Z 58mmF0.95 S Noct』が2019年10月12日から発売されたのです。すでに私のブログではニッコールZ 58mmF0.95の実力のほどを紹介済みですが、抜群の光学性能と価格の高さ、さらにはその重さに驚いたのです。そのようなタイミングにまるで合わせたように中国のDJ-OPTICAL(銘匠光学)から『TTArtisan 50mmF0.95 ASPH』がライカMマウントで発売になったのです。価格はニッコールの約1/10、重さは約700gとなればどんな写りをするのか、大いに気になるところです。

■外観と操作感

 ライカMマウントで発売されているからライカM9に付けてみました。実際はどのように使うのかというと、F0.95という大口径を活かして使うなら、距離計連動ライカならフルサイズのM9から、さらにはライカを含むミラーレス機ならとばいうことで、ここでの外観写真はF0.95レンズをシステムにもつニコンZ7”に取り付けてみました。TTArtisanは、一連の製品をミラーレス用の交換レンズとして考えているようで、アダプターリングを使えばライカMマウントは各社ミラーレス機でユニバーサルマウント的に機能するために、自社ブランドのテーパー状デザインのマウントアダプターを販売しています。

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≪F0.95レンズをもっているカメラシステム、ライカM9ニコンZ7に装着≫ それぞれのボディに装着した状態で、ヘリコイドを操作すると∞から最短70cmまで繰り返し回転させてもムラはなく、適度な粘りがあり好ましい動きです。同様に絞りリングを回転させると半絞りクリック付きで違和感なくスムーズに操作できますが、よく見ると目盛りが等間隔でなく不等間隔に目盛られていることがわかります。このあたりは、以前レポートしたライカの8枚玉ズミクロン35mmを復刻した中国の「LIGHT LENS LAB V2LC 35mmF2」もそうでしたが、写りには影響ないという割り切りか、それとも今後の課題なのでしょうか。

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≪TTArtisan 50mmF0.95 ASPHのレンズ構成とMTF曲線≫ 日本での販売元である焦点工房の公開しているデータによると、レンズ構成は8群11枚、使われている硝材は特殊低分散、高屈折低分散、両面非球面とかなり贅沢な配分であり、構成としてはガウス変型といったところでしょうか、絞り羽根(14枚)が3枚目の後にくることから、絞り環を鏡胴前部に配置する距離計連動の手動絞りを意識した設計だと考えられます。またMTF曲線からわかることは、F5.6に絞り込むことにより高い画質が得られるようですが、この辺りは通常のレンズのもつ性格であり、実写で確認すればわかるでしょう。

■カメラボディの距離計をマッチングさせる

 距離計連動のライカボディを使う場合には、レンズを手にしてから最初に行う必要があるのが、カメラボディの距離計との調整を行うことです。もちろん出荷状態でそのまま使うことも可能でしょうが、F0.95と大口径な場合ピント位置はかなりシビアなものとなるので、絞り開放で使うときには調整をした方がよいでしょう。この時代に距離計連動のライカボディで使う人は少数派ですからほとんどこの調整は省いても問題ないのですが、私の場合にはライカMマウントであるものはまずは純正の使い方をしてみたいので、早速ライカM9に装着して調整を行いました。焦点調節の方法は以下のようになります。

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≪解像力チャートの配置とピント位置調整方法。前ピン、後ピンを読取り、徐々に合焦点にツメていく(図は取扱説明書から抜粋)≫

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実際の撮影結果、左右はノートリミングで、上下はカットしてあります。絞り開放F0.95でチャートの中心部分にピントを合わせ、撮影後に拡大して見ることによりピントの“前ピン・後ピン”がわかります≫

 調整の方法は特に難しいことではなく、同梱されてきた紙製の全長約45cmのチャートを写真上のように配置し、撮影してそのずれを読み取り、レンズ側の距離計のコロに接する部分を微妙に移動させるのです。私の場合はライカM9で行いましたが、画素等倍近くまで拡大してわずかに後ピンであることがわかりました。微細な6角ネジをわずかに緩め、連動カムの基板をずらすことにより調整できますが、いがいと作業は簡単に修正を終えることができ、実写での検討も良好でした。
 この調整ですが、ボディ側の調整を絶対的なものとしてレンズ側をいじるということになります。調整の方法はいろいろあると思いますが、交換レンズが複数あることを考えると、自分で使うレンズ側を調整するというのがベストだと思うのです。このあたりの方法は、Artisan系の大口径レンズでは前からやられていましたが、工場出荷時の調整の合理化なのか、それともボディ側の個体差を含めて最終的なピント調整はユーザーが調整することによりベストのピントをだすという、現実に即した進化形態と考えました。

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ライカM9での調整を終えたときの実写ピントテスト≫ F0.95・1/125秒、ISO160。M9は、1,850万画素CCDセンサーでありますが、ピントに関しては昨今のCMOSもCCDも変わるところはないでしょう。被写体は、ピント位置を明確にするために空中に浮いた感じに配置した陶器のミニカップとイノシシの人形です。この場面は室内の蛍光灯照明によるものですが、左壁面の上下端面は周辺光量が減光していますがF0.95という大口径からすると致し方ない部分です。撮影距離は約1mでした。

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≪上のカットのピントが合った部分を拡大≫ この写真を見ると「TTArtisan 50mmF0.95 ASPH」レンズの絞り開放F0.95の描写特性がよくわかります。このカットは、Photoshopで66.7%に拡大した状態ですが、この拡大でプリントすればほぼ原寸大という感じのサイズです。
 2012年にライカカメラ社がまだゾルムスにあるときに工場を訪れ、ライカM9ボディの距離計調整を奥行き15mぐらいある大きな三角の立体チャートで、至近、中間、遠距離など含めて多くの距離でピント調整していたのを見たことがあります。これはデジタルのライカが登場してから簡単にベストピントが簡単に分かるようになり、より高度なピント調節が工場出荷時に必要になったからだと聞きました。いずれにしても距離計連動機で「50mmF0.95レンズ」を絞り開放で人物ポートレートなど1m前後の近距離撮影で使うには難しさがあります。
 とはいっても、難しい難しいといってもこれはあくまでも距離計連動機の近距離撮影の場合で、マウントアダプターを介して最新のミラーレス機を使ってピント合わせをすればどの機種でも簡単に高い精度でピント合わせが可能となるのです。

■まずはニッコールZ58mmF0.95とTTArtisan 50mmF0.95と比較

 まずは気になるのがほぼ同時期に発売されたNIKKOR Z 58mmF0.95 S Noctとの禁断の画質比較に挑戦しました。撮影場所は井之頭公園の噴水で、Z 58mmF0.95を愛好する人が見つけ出したテストスペースなのです。その日は曇天の合間にところどころ日が差すというような条件ですが、この場所で天気が良いと噴水の水に虹のように色収差がでるというのです。ただしこれはRAWで撮影しカメラ側の補正を含まない場合ということで、私の場合の撮影はカメラ側の処理を含んだJpeg.撮影が原則なので、天候含みでしょうかそのような現象は出現しませんでした。

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≪TTArtisan 50mmF0.95 ASPH≫ ニコンZ7、絞り優先AE、F0.95・1/6400秒、ISO100、中央部重点測光。三脚をたてて同じボディでレンズ交換して同じ場所から噴水を狙って撮影しました。ピントはマニュアルですから、噴水の水しぶきの手前側に合わせてあります。

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NIKKOR Z 58mmF0.95 S Noct≫  ニコンZ7、絞り優先AE、F0.95・1/6400秒、ISO100、マルチパターン測光。50mmと58mmの画角差はいがいと大きいことがわかります。露出はexifで見るとどちらも同じですが、仕上がりの背景の見え方が異なるのは画角差に影響を受けていることも大ですが、中央部重点測光のTTArtisanは噴水の白さに引っ張られて周辺はアンダー気味に見え、ニッコールZはマルチパターン測光により周辺のシャドー部への露出が考慮されたと考えます。

さまざまなボディと場所で撮影してみました

 さてニッコールZ58mmF0.95とTTArtisan50mmF0.95とのリアル比較はここまでにします。
 本音を言いますと、2台のセットで5kgぐらいあるのを持ち歩き撮影するのは重量的にもむりがありますし、マウント口径がニコンZマウントの55mmφとライカMマウントの43.9mmφ、フランジバックニコンZマウントの16mmとライカMマウントの27.8mmと仕様的なハンディもあり、価格差約12倍であるわけですから、比較することはそもそも無茶かもしれません。このあたりでTTArtisan50mmF0.95の実力だけを紹介したほうが現実的です。f:id:ilovephoto:20201220161354j:plain≪TTArtisan50mmF0.95 ASPH≫ 左:ソニーα7RⅡにTECHARTLM-EA7アダプターを介して取付け、右:キヤノンEOS R5にKIPON ML-EOS Rアダプターを介して取付け。このうちTECHARTLM-EA7アダプターはライカのMFレンズがソニーαボディでAFが可能となり、被写界深度の浅い微妙な撮影にはシャッターボタンを押すだけでよくたいへん役に立ちました。最近はニコンZ用も発売されたので、ニコンZボディでライカマウントを始めさまざまなレンズでAF撮影が可能となったのはニコンZユーザーにとっては朗報です。

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彼岸花に落ち葉≫ ソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/1000秒、ISO100、AWB。午後の斜光が差し込むときでしたが全体的にホワッとして柔らかい描写です。ここは単に解像力が低いというように考えるより柔らかな描写特性を持つレンズなのです。むしろこの柔らかさを生かした被写体での活用を考えたほうが良いと思うのです。また、なぜいきなりソニーのボディで撮るのかと思われるかもしれませんが、「TechartのLM-EA7」はライカM用マウントレンズをソニーα7シリーズでAFで使えるのですごく便利なのです。(埼玉県・秩父_1)

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彼岸花畑を耕す人≫ ソニーα7RⅡ、AF、F2.8・1/160秒、ISO100、AWB。彼岸花が一面に咲き誇っている場面では少し前後のボケが大きくうるさい感じもありますが、ワンポイントとして背景にクワを振る人を入れて変化をもたせました。A3ノビ程度に拡大するとピントの合っている部分とぼけている前後部分が水平に分離して見え、感じが変わるだろうと期待した1枚です。(埼玉県・秩父_1)

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ソバ畑から見た武甲山ソニーα7RⅡ、AF、F2.8・1/1600秒、ISO100、AWB。少し花の盛りの過ぎたソバ畑です。ピントは2mぐらい先に合わせていますが、前ボケと共に後ボケも見えます。武甲山の山肌も柔らかくなってしまいました。(埼玉県・秩父_1)

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紅葉ニコンZ7、F0.95・1/5000秒、ISO100、AWB。右下にある紅葉の葉にピントを合わせましたがシャープです。近距離でF0.95では被写界深度が浅すぎる感じがしますが、背後のボケからするともっとボケても良いのでしょうが、F0.95のボケ具合は、だいたいこのようなイメージの独特な柔らかい描写といえます(埼玉県・秩父_2)

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≪落ち葉ニコンZ7、F2.8・1/8000秒、-0.3EV、ISO100、AWB。緑の雑草の葉の上に落ちた枯葉を狙ってみました。適度な周辺光量落ちが中央のメイン被写体部分を際立たせてくれました。画面上では縮小の関係から少し甘く見えますがシャープです。(埼玉県・秩父_2)

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植林された山肌ニコンZ7、F5.6・1/1000秒、ISO100、AWB。私はどのようなレンズでも、絞り込むときは開放から2段絞り込むようにしています。これは、exifの反映されないライカレンズを使う時によくやりますが、設定絞り値を忘れないようにということで、F0.95のこのレンズの場合には2段としてF2.8にして使うようにしました。この画面の写真はほとんど無限遠に近い距離にピント合わせしましたので、もう少し絞ってF5.6としました。左右640ピクセルでは解像感がなくなりますが、それぞれの樹木の枝や葉はしっかりと解像し、たいへんかなり立ち上がりの早いレンズでシャープです。(埼玉県・秩父_2)

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オートバイ≫ ニコンZ7、F2.8・1/6400秒、ISO100、AWB。自然の草花だけでなく少し人工的な光沢感がある被写体としてオートバイを狙ってみました。F2.8の絞りですが、金属の光沢感、タイヤの質感などいい感じです。(埼玉県・秩父_2)

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粋な黒壁≫ ソニーα7RⅡ、AF、F2.8・1/320秒、ISO100、AWB。“めし処 一貫”という小料理屋さんの壁です。2段絞ったF2.8の画像ですが、絞り込みによる立ち上がりが早く、このような微細な被写体でもシャープですが、必要以上に極端に画素等倍まで拡大して見るとつらさがでてくるのは仕方がないことです。最終的な拡大率にもよりますが、本来ならF5.6ぐらいまで絞り込むと良かったのでしょう。(埼玉県・川越)

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気になるお店≫ ソニーα7RⅡ、AF、F2.8・1/320秒、ISO100、AWB。2段絞ったF2.8の画像ですが、歩く人々をスナップ撮影してみました。AFならではですね。(埼玉県・川越)

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狐面≫ ソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/125秒、ISO125、AWB。立体的な紙のお面に白の無光沢な塗装がされていますが、このような場合には柔らかな描写に見えます。背景のアウトフォーカス部分の描写はかなりなめらかで柔らかですが、それでも左上に描かれた画像がわかるほど癖のない素直な描写です。(埼玉県・川越)

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大黒さま≫ ソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/1600秒、ISO100、AWB。皆がなぜてお参りするのでしょうか。大黒さまの全体がピカピカです。目の部分にピントを合わせていますが、光沢ある部分はシャープに感じます。また、露出オーバーで飛んでいるように見えますが、大黒さまの目の部分と同一平面にある胸の部分の1円玉には十分にピントがきて細かく解像しています。(埼玉県・川越)

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後ろ髪撮影中≫ ソニーα7RⅡ、AF、F2.8・1/640秒、ISO100、AWB。この日のために髪を結わいたところを友達が後ろから撮影しているところをスナップさせてもらいました。絞りF2.8で、手前女性の左肩にピントが合っていますが、下の砂利を見て深度の浅いこと、さらに癖のないボケであることがよくわかります。(埼玉県・川越)

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スマホソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/640秒、ISO100、AWB。トワイライトの薄明かり時に、パチンコ店の照明を受けてスマホを操作する女性を絞り開放でスナップ。絞りF0.95開放の描写はこういう時間帯がいいですね。(埼玉県・川越)

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クリスマスイルミメーションの前で≫ EOSR5、F0.95・1/80秒、-2EV、ISO100、AWB。COVID-19の影響を受けて、例年になく色彩に乏しいイルミネーションですが、アウトフォーカス部のボケを求めての撮影。左右640ピクセルではわかりませんが、拡大すると左右最周辺にはコマ収差ならではの描写ですが、ノクチルックスM50mmF0.95も似たようなものです。大口径レンズは、むしろこういうボケ具合を積極的に楽しんだほうがいいですね。(恵比寿)

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クリスマスツリー≫ EOSR5、F0.95・1/60秒、-0.7EV、ISO200、AWB。ピントは後ろ向きの女性に合わせていますが、右側の口径食が現れたボケは大きくなっていますが、左端はコマ収差としての形が弱くなりました。大きくしてみるとわかりますが、女性の髪の左上部の辺りは1本ずつ解像しています(恵比寿)

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アメリカ橋にて≫ EOSR5、F0.95・1/60秒、-1EV、ISO800、AWB。開店直前のバーの看板と背景のボケ具合を見てみました。ピントは左のドリンクのグラスに合わせてありますが、前ボケ、後ボケとも暴れていなく素直です。絞り開放F0.95は、やはりこういうダークな場面が似合うようです。(恵比寿)

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夜のスナップ≫ EOSR5、F0.95・1/100秒、-1EV、ISO100、AWB。恵比寿ガーデンプレイスからJR恵比寿駅までの帰り道、あえて動く歩道でなく一般道路を通った時の1枚。あらかじめ照明されたウインドウ内に露出とピントを合わせて待機していましたが、スマホしながら歩く女性と宅配便屋さんがカートを押してきたので、それぞれが画面内左右に入ってときに1枚、中央で交差したときに1枚、行き過ぎたときに1枚とシングル単写でシャッターを3回押し、雰囲気の良かった通り過ぎた所のカットを採用しました。念のためにいうと、宅配便屋さんこの写真では疲れているような感じですが、前2のカットは元気な感じで撮れています。(恵比寿)

人物ポートレイトがよい感じに

 今回一番苦労したのは、絞り開放F0.95を生かした撮影とはどのようなものかとさまざまな場面で、いろいろと撮りこみましたが、オールマイティーなレンズである反面、わりと低照度下の人物の撮影に向いているのではないかというのが、正直な印象です。以下、カメラをバックに入れ出先でちょこちょこと撮らせて(撮って)もらったカットです。いずれもAF撮影可能であったため大変便利でした。

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ポートレイト・HKさん≫ ソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/125秒、ISO800、AWB。営業写真関係の方なので、撮られ方が慣れているなという感じです。かつて大判写真のポートレイトにおいて片方の目だけにピントを合わせ、他の部分はソフトに描写されるレンズ、二コラペルシャイトのようなソフトフォーカスの描写をほうふつとさせます。

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ポートレイト・私です≫ ソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/125秒、ISO1000、AWB。こちらはお茶しながらのカットですが、レンズを見ていたYさんがシャッターを押してくれました。メガネの縁、額のハイライトが効いて画面に締まりを感じさせます(笑)。

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ポートレイト・MFさんソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/125秒、ISO1250、AWB。こちらも上と同じですがやはりメガネがピンポイントになっていますが、大きく伸ばすとひたいに垂れ下がった手前の髪の毛が1本ずつ解像しているのがわかります。

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ポートレイト・KRさん≫ ソニーα7RⅡ、AF、F0.95・1/125秒、ISO2000、-0.3EV、AWB。この場面では、メガネのようなシャープな部分がないために、カラーされた前側の髪がアクセントになり、全体的に柔らかくいい感じに撮影できました。背景の丸ボケもほどよいレモン形をしていますが、よい雰囲気にでました。

文化の違いを感じさせるレンズ

 最後に良いことばかりではなく、少し疑問に思った点を書きます。
 ひとつは、撮影時に小絞りまでなかなか設定しなかったのには理由があります。絞りクリックが等間隔でなく不等間隔であることは前にも述べて通りですが、写真を見てもらえればお分かりかと思いますが、絞り開放から絞りF4までの間が極端に幅広く、そこを乗り越えてF5.6にセットするのは感覚的に難しいのです。もちろん数値でしっかりと目盛られているわけですから問題ないといえばそれまでですが、カメラやレンズが写真を撮るための道具である以上、カメラをのぞいたまま絞りを変えるというようなこともあるわけですから、もう少し1.5段絞りたいというような、数字を見なくても移動量とクリック感で行えることも大切なわけです。ヘリコイドの摺動感、表面加工など十分に満足できる部分でありますが、機械部分の課題として、やはり絞りリングは等間隔目盛りとして欲しいです。

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≪左:絞りリングの目盛りの振られ方、右:ライカM7TTArtisan50mmF0.95を装着してフィルムアパーチャー側から見ると、金色に輝いているのは気になります≫

 もうひとつは、レンズ金物の後端部分が金メッキされピカピカしているのです、ここに採り上げたミラーレス機では問題を感じませんでしたが、ライカM9では撮影場面(光線状態)によっては内面反射を起こしてしまうような気がしてならないのです。ライカの暗箱部分は狭く、かつてフィルム時代には特定のレンズでベイリンググレアが発生してカブリが発生したようなこともありました。現在は距離計連動ライカで撮影する人はほとんどいないと思いますが、この部分はなるべく無反射状態にするべく塗装を施した方が良いと思うのです。今回の撮影にあたっては、私は目立つ金メッキ部分にマジックインクを塗って黒くしました。ただマウント部の金メッキ部分は銘匠光学側からするとセールスポイントなのです。この金色を大切にするのは、やはり製造国中国と日本の文化の違いともいえるのです。交換レンズを趣向品的にとらえるか、性能優先の工業製品としてとらえるかですね。かつて1970年代にヤシカが一眼レフのコンタックスを作り、ドイツのカールツァイスからレンズを仕入れたらレンズキャップはすべて無地の黒いポリエチレン製のキャップだったのです。ヤシカ側はこれでは日本では売れないとCONTAXとブランド名を入れた立派なキャップに切り替えて発売したのです。機能を満たせば飾りはいらないというきわめてドイツ的な発想だったのでしょう。TTArtisan50mmF0.95 ASPHのレンズキャップはというと、アルミ金属を厚みに削りだし、ロックのためにかなり細かな細工が施されていますが、その点においては日本と同じような考えを持っているのだと思った次第です。

 今回のレポートは、9月に彼岸花で撮影を開始して、12月のクリスマス イルミネーションまで入り込むというかなりロングランになってしまいました。その理由には、ほかの機材とオーバーラップしたことなどもありますが、やはり絞り開放F0.95、それもTTArtisan50mmF0.95 ASPHの描写をどれだけ良い意味で引き出せるかということでした。結果として、時間がかかりましたが、それだけのことはあったと思います。本文中、Artisan系のレンズと書きましたが、もともとはArtisan”というレンズがありましたが、会社が分裂して“TTArtisan”が登場したと聞きました。 (^^)/

キヤノンRF600mm F11と×1.4エクステンダーを使ってみました≪Ver.02 完結編≫

 キヤノンからEOS R5とEOS R6の発表に合わせて、“RF600mmF11 IS STM”と“RF800mmF11 IS STM”が発表され、7月下旬に発売が開始されました。実は当方すでにキヤノンミラーレスの「EOS R」と「EOS RP」を購入してきたので、「EOS R5」はスルーすると書いたのですが、わがスポンサー氏が長年続けてきたのに休むのは良くないというので「EOS R5」とRF15~35mm F2.8 L IS USMを求めてレポートしましたが、さらに「RF600mmF11」は面白そうだからこちらも使ってみてくださいというのです。ということで、「RF600mmF11」と「エクステンダーRF1.4」を注文したのですが、なかなかエクステンダーRF1.4が来ないので、しびれを切らしてということもありますが、あまり時間がかかると熱が冷めてしまうので、とりあえずはレンズ本体だけ引き取ってきました。

 そこでとりあえずは600mmF11だけを手にしたので、「600mmF11」を単体で取り上げ、「エクステンダーRF1.4」がきた時点で追加してレポートすることにしました。

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≪EOS R5ボディに装着したRF600mmF11 IS STM≫ まずはボディであるEOS R5に取り付けてみました。このレンズのテクニカルな面は後述しますが、沈鏡胴を採用していて小型・軽量なのです。写真は撮影状態、つまり沈胴を引伸ばして撮影状態にあります。この状態で手に持って構えてみるとハンドリングも良く、何を撮ろうかと考えました。

 この時点で考えていた被写体は、動くもの、ステージ、花などを思いながら、外観写真と「何を撮るかな?600mmF11」と書きFaceBookに載せると、瞬時に「とりあえず月を」撮ったらと返信が、ある写真大学のS先生から返事をいただきました。なるほどです、その日は中秋の名月の翌日10月2日なのです。 早速、あれこれ設定を考え、わが家のベランダから撮影したのが下の写真です。この時期は、アマチュアから専門家まで多くの方が月の写真をアップしているので、皆さんのと比較してみると、かなりベテランの方が撮影したのに近い月の画像が1発目から撮影できたのです。これは驚きでした。実際下に載せた写真は、2回目に撮影した結果ですが、大きく変わるところはありません。先生に提案をいただいてからわずか5分ぐらい後のことでした。

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中秋の名月+1日≫ CAF、マニュアル露出、F11・1/2000秒、ISO 1000、AWB、手持ち撮影、レタッチソフトによるプラス側にトーンカーブ補正。最初は、CAF、絞り優先AEで、ISO-AUTO、-3EV露出補正で撮影しましたが、露出はオーバーでした。このためトーンカーブ補正で上に掲載したのと同じように見れるようにしましたが、もともとオーバー気味の画像を適正にするためにトーンカーブ補正を行うと、場合によっては白飛びする部分もでてくるだろうと、2度目の撮影では露出設定をすべてマニュアルにして、わずかにアンダーになるように露出を与えたのが上の写真で、オーバー側にトーンカーブ補正してあります。

 この月が撮像素子に写る大きさは、焦点距離600mmだと直径約6mmに写るので、同じ焦点距離ならAPS-C、マイクロ4/3、1型でもみな同じですから、撮像素子の寸法が小さくなるにつれて、徐々に周辺の黒いスペースが消えていくというわけです。ただ、エクステンダーを使って焦点距離を変えると、1.4倍のエクステンダーでは840mmで8.4mm、2倍のエクステンダーでは1200mmとなり月は撮像素子に直径12mmの寸法で結像することになります。合焦点までの距離はExifには4294967295m(この数値は後日無限遠を表すことが判明しました)とでました。中秋の名月の場合は地球から月まで約40万kmとされていますから、測定誤差の範囲かわかりませんが、昨今のカメラはすごいとなります。せっかくですから、今回の作例には合焦ポイントまでの撮影距離データをすべて掲載することにしました。

 さてこの月の写真が、カメラを構えファインダーをのぞいて押すだけで簡単に写ったのは驚異です。まさにこれがF11という暗いレンズであり、ファインダーは暗さを感じさせなく、AFに連動し、高感度に強いデジタルのミラーレス一眼ならではのことであり、さらにレンズ側とボディ側の協調により5段もの手振れ補正効果を得られるというEOS R5とRF600mmF11 IS STMでの成果であるわけです。どうしてCAF(コンティニュアスAF)モードで撮影したかというと、手持ち撮影で600mmという焦点距離では、手振れ補正が働くこととは別にして、たぶん小刻みに揺れているだろうと考えたからで、ONE SHOOT AFでは決められないと思ったからです。なお撮影はカラーで、ホワイトバランスはAUTOにしての撮影であって、モノクロ変換はしていません。

■小型・軽量の超望遠

 月の撮影が大変うまくいったことに気をよくして、実は翌日に朝から20分ほど屋外で撮影してみましたが、あっという間に面白い写真が複数枚撮れてしまいました。それをまず紹介したいのですが、ここはやはりどのような技術でこのようなレンズが製品化されたのか考えてみました。まずこのレンズは、鏡胴を沈胴式にして、光学系には2つの回折格子を密着させたDOレンズを使い色収差をはじめとした諸収差を補正すると同時に小型化を図っているのです。下には、従来のEFレンズとRF600mmF11の重量・寸法比較を示していますが、沈鏡胴とDOレンズの採用、さらには最大口径がF11であることに加え、鏡胴のエンジニアプラスチック化を大胆に進めたためだと思うのです。DOレンズは、かつては高級品でレンズ鏡胴前部に緑色の線を入れて、他レンズとの差別化を図っていましたが、このレンズでは線を省いていますが、それだけ回折格子を用いたレンズが一般化したということなのでしょう。

 この結果、RF600mmF11単体で約930g(800mmF11は1,260g)という軽量を達成して、バッテリー、カードを含めたボディの重さ約740gを加えても1.7kg未満となり、私でも首からさげて歩くのは特に苦になることはありませんでした。実際は同様の重さのカメラを2台首からさげて歩き回りました。このレンズのもう少し詳細な技術に関しては、発表の時に書きましたのでそちらをご覧ください

 

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 ≪EF600mmF4とRF600mmF4の比較とDOレンズの配置≫  800mmF11のレンズ構成は、DOレンズの前に凸レンズを配置した形で焦点距離を増しています。それぞれのレンズに×1.4のエクステンダーを付ければ840mmF16、1020mmF16、×2のエクステンダーを装着すれば、1200mmF22、1600mmF22となりそれでもAFが働くというのです。注文して未着の×1.4エクステンダーの到着が待ち遠しいです。なお、この時期ネット上の安値実勢価格でRF600mmF11が96,000円、RF800mmF11が112,000円、×1.4エクステンダーが63,000円、×2エクステンダーが74,000円強です。

 ■いつもの英国大使館とランダムな撮影

  薄日のさす朝でしたが、それでも十分とさっそく屋外に引っ張り出してみました。最初に向かったのはいつもの英国大使館です。撮影位置は鉄柱のバリケードがあるので毎回定位置ですが、いつもなら快晴の日の朝10時15分ごろ、35mm焦点距離レンズをF5.6に絞って、正面玄関屋根近くにある紋章にピントを合わせての撮影となりますので、画角比較をされたい方は「キヤノンEOS R5を使ってみました」をご覧ください。

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≪英国大使館エンブレム≫ F11・1/640秒、ISO-AUTO 3200、AWB、手持ち撮影、合焦点まで33.2m。いつもなら画素等倍に拡大しての画面ですが、ノートリミングでこの大きさですから、さすが600mmの画角、4500万画素の質感です。当然のことですが、このF11という開放値の描写も十分満足できるものです。

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≪Snap Back Photo≫ CAF、  F11・1/640秒、ISO-AUTO 1250、AWB、手持ち撮影、合焦点まで107m。道を歩く女性の後ろ姿が素敵だったので、だいぶ先まで歩いていくのを見届けてシャッターを切りました。もちろんAFはコンティニュアスなので、女性の姿を追い続けています。手前の歩道の障害物、奥の歩道の木々や歩いてくる男性などが、圧縮感とともに程よくボケていて狙った女性を浮き立てていますます。

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≪走る自転車≫ CAF、  F11・1/800秒、ISO-AUTO 1600、AWB、手持ち撮影、合焦点まで23.2m。ゆるやかな坂を下ってくる自転車を狙ってみました。撮影距離からするとしっかりと自転車を漕ぐ、こちらに来る人物を面白いほど追いかけています。

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≪走行する車≫ CAF、  F11・1/800秒、ISO-AUTO 1250、AWB、手持ち撮影、合焦点まで206m。遠距離を走行する車を狙ってみました。狙ったのは中央の白いミニバン。走行をしっかり追いかけていますが、運転手の顔も反射がなければ識別できるほどのAF追随能力です。動いている被写体を何のためらいもなくシャッターが切れるのは、すっごく楽しいです。

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≪大輪のダリア≫ CAF、  F11・1/400秒、ISO-AUTO 12800、AWB、手持ち撮影、合焦点まで4.3m。近接での描写を試してみました。F11という明るさだと、この程度の大きさの花だと手前から花芯までピントが合うのはなかなかいい。シャープさも必要十分だと思います。

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彼岸花 CAF、  F11・1/640秒、ISO-AUTO 8000、AWB、手持ち撮影、合焦点まで13.9m。中距離にある彼岸花の群生を撮影しました。この感じからすると600mmF11というレンズでも深度は浅いように感じました。計算すると、この距離だと29cmぐらいが深度です。

 ■×1.4エクステンダーRFがやってきた

 RF600mmF11と×1.4エクステンダーRFをいつもの販売店に注文したのは9月10日、RF600mmF11はその日のうちに確保されたのですが、×1.4エクステンダーRFはその時点では在庫はなく予約ということで10月21日に来たのです。当初は両方がそろったらということで待っていたのですが、×1.4エクステンダーRFがなかなかこないので、途中でしびれを切らしてRF600mmF11だけを受け取ってきてレポートしたのがこのセクションの前までです。ここでは、改めて本体600mmと×1.4エクステンダーRFを装着しての撮影に挑戦したのでご覧ください。

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≪EOS R5ボディと×1.4エクステンダーRFとRF600mmF11の配置≫ ×1.4エクステンダーは、4群7枚のレンズ構成で防塵防滴構造を採用しています。この×1.4エクステンダーをボディとレンズの中間に装着することにより、焦点距離840mm、明るさF16のレンズとして使えることになります。

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≪RF600mmF11と×1.4エクステンダーRFを付けたEOS R5≫ 合成焦点距離は840mmとなります。左は沈胴状態、右は70mmの沈胴状態を伸ばした使用状態。

■何を撮るか 1)遠くの風景、富士山

 さて何を撮るか、×1.4エクステンダーRFが手元に届くまで時間がありましたので、あれこれと考え、まずは最初に考えたのは、遠くの風景を撮ることです。いろいろと考えた末に、わが家から少し離れたところにある山口貯水池(狭山湖)から富士山を撮ろうと考えつきました。ところが、連日の雨でなかなかチャンスはめぐってきません。やっと晴れた日の午前中を目指して現地に向かいました。狭山湖畔の展望所で、×1.4エクステンダーを付け焦点距離840mm状態で富士山をのぞくと、優雅な姿の象徴ともいえる富士山の裾野がカットされ写りません。ならばとレンズ単体の600mmでと挑戦しましたが、やはり同じです。840mm、600mmのどちらにしても裾野がカットされるならと最終的には600mmの縦位置で撮影しました。これならば狭山湖の水面も写し込むことができ、撮影場所を活かした富士山となりました。

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≪左:840mmF16(1/1250秒、ISO640、AWB)、右:600mmF11(1/640秒、ISO200、AWB)≫ どちらも裾野がカットされていて写真的に見ると富士山のもつ優雅さがありません。一応、シャッターは切りましたが、自分的にはボツ写真です。いずれも手持ち撮影。

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 狭山湖畔から見たAM11:25の富士山≫ 距離の関係から600mm横位置では下の湖面が写りませんのであえて縦位置にしました。これにより狭山湖岸から写したことが表現できたと思います。キヤノンRF600mmF11、F11・1/800秒、ISO320、AWB、手持ち撮影。山口貯水池(狭山湖)から見てますが、地図上では約75km先にあります。合焦点までの距離はExifには4294967295mとでました。どうやら無限遠は、距離が“4294967295m”とでるようです。巻頭の月の写真では、中秋の名月の時期の月までの距離40万kmに近いので誤差の範囲かと思いましたが間違いでした。

■何を撮るか 2)動物園

 学生時代の後輩のカメラマン氏は、最近はいつも横浜のズーラシアで動物のさまざまな表情を撮影して、まるで生息地で撮影しているような感じで撮れています。もともと彼は音楽ライブの写真を撮影するのがここ数年来の日課でしたが、この春前から横浜ズーラシアでの動物撮影に切り替えています。なんでだろうと考えましたが、どうやら新型コロナウイルス感染の関係から、ステージの撮影ができなくなった結果だろうと謎ときしました。ならば私もズーラシアへ行けばいいのですが、身近な所でと東京都の多摩動物公園に出向きました。当然のこととして、RF600mmF11と×1.4エクステンダーRFを持参したのですが、ここでも狭山湖同様に600mmで十分ということになりました。

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≪シフゾウ。 CAF、600mmF11、1/640秒、ISO6400、AWB≫ 中国にいるシカ科の草食動物です。動物園の通路から最初はエクステンダーを付けて840mmで狙いましたが、アップすぎるのであきらめて600mmにして撮影しました。ここでは左右640ピクセルVGAにリサイズしてありますが、実際は長辺方向800~1200ピクセルくらいのほうがシャープな感じがつかみやすいです。ピントは目の部分に合っていますからこれでいいのでしょう。

 この日は平日ですいていましたので、さまざまな動物を撮影することができましたが、何か1枚となるとこのカットになったわけです。ところが不思議なもので、同日ほぼ同じ時刻に、写真で知り合ってるHさんが、同じ多摩動物園内で撮影していたのです。写真を拝見すると動物の顔のアップが多いのですが、レンズは80~200mmのズームでした。やはり動物園では600mmは長め過ぎるなと感じた次第。

■何を撮るか 3)疾走する犬を撮る

 もっと動的な写真を撮れないだろうかと考え、知人に協力してもらおうということでお願いし、快諾を得ましたので先方の住まいに出向いて2匹のラブラドール犬が疾走するところを撮ろうと考えたのです。当日は雨なら中止、曇天なら決行と決めて横須賀まで出向き広大な土地で2匹に走ってもらいました。ここでのチェックポイントは、動物(犬)の顔認識に加え、走る犬にピントが合わせ続けられるかということでしたが、フレーミングさえしっかりできれば、意外と簡単にクリアしてしまいました。ただここでの問題点は、焦点距離が長いと手持ち撮影では被写体を目で見ていて、カメラのファインダーにのぞき替えると、被写体(撮影ターゲット)を探してしまうことが何回かあったのです。下の写真は、犬に走ってもらい2回目ですが、これを10回近くやるとさすがのワンコも疲れてきたようで、ゆっくりと歩きだしてしまうのです。

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焦点距離840mm、F16・1/1250秒、ISO4000、AWB、合焦点距離33.2m≫ 黒の犬モモは5歳、茶色の犬チャイは15歳だそうで、もっぱら疾走役は若いほうの黒いほうのモモでした。このカットは2回目にうまくフレーミングできた最初のころのカットです。ただし残念なことにこのカットでは、大きく拡大すると茶色のチャイの目にピントが来ているのがわかります。少しでも色がある場所を選びましたが、背後に黄色く見えるのはセイタカアワダチソウです。

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焦点距離840mm、F16・1/1000秒、ISO2000、AWB、合焦点距離27.9m≫ 黒のモモが走ってくるコマの延長にあったカット。35mmフルサイズを各辺とも15%ほどトリミングして、モモが大きく見えるようにしてあります。このカットからモモの目にAFし続けていることがお分かりいただけると思います。フレーミングさえしっかりできれば、あとはシャッターボタンを押すだけなのです。それでこんな写真が撮れるわけですから驚きです。ちなみにこの写真を見た某社のカメラ技術者がおっしゃるには、黒い犬の顔・瞳認識は難しいそうです。

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焦点距離600mm、F11・1/640秒、ISO500、AWB、EOS R6≫ 数回繰り返すうちに、犬が疲れたようで撮影するのと、犬を押さえる役を交代したときのカットです。被写体は私と犬2匹ですが、発色、質感描写とも自然でいい感じです。

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焦点距離840mm、F16・1/1250秒、ISO840、AWB、EOS R6≫ 超望遠レンズとしての圧縮効果を狙ってみました。緩やかな坂に渋滞した車列に向かって走る人など距離感がなくなったところが面白いです。

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焦点距離840㎜、 CAF、  F16・1/250秒、ISO-AUTO 6400、AWB、手持ち撮影、合焦点まで206m≫ 西武新宿線で向かってくる小江戸号の撮影してみたのですが面白くないのです。それで下っていく小江戸号を狙っていたら、手前の踏切が開き人が渡りだしたので、シャッターを切ってみました。小江戸号までは206mあるようですが、超望遠ならではの圧縮効果でわずかしか離れていないように撮れました。

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焦点距離840mm、CAF、F16・1/250秒、ISO2500、AWB≫ カモが水に潜り、バシャバシャとすぐ先に顔を出すことを繰り返しやっていたので撮影。一連を高速連写で狙ってみましたが、水が跳ねるのは面白いのですが、ほとんど水しぶきでカモの表情がよくわかりません。そこでバシャバシャとやって再度水に飛び込む前のカモです。それにしてもカモの羽は水はけがすごく早いのにびっくりしました。

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焦点距離840mm、CAF、F16、手持ち撮影、合焦点まで無限遠4294967295m)飛んでいる鳥を撮影するのは至難の業です。このカットはわが家近所の自然公園にオオタカが営巣というので撮影に出向いて、らしき鳥を追い求めましたが、何度か挑戦してうまく飛翔する状態をキャッチしましたが、大きく伸ばしてみるとどうやらカラスでした。その時はるかかなた上空に飛来した飛行機が上の2枚の写真です。左は横田基地から飛び立ったアメリカ空軍機、右は入間基地から飛び立った自衛隊機というところでしょうか。掲載はどちらも機体中心にクロップしていますが、東京郊外でもこの程度は撮影できるのがEOS R5と600mmF11+1.4×テレコンバーターの実力です。プロペラが歪んで写っているのがローリングシャッター現象でしょうか。

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焦点距離840mm、CAF、F16・1/1000秒、ISO3200、AWB、手持ち撮影、合焦点まで無限遠4294967295m)さらにダイナミックに飛んでる飛行機を撮りたくなったので、Go toを利用して沖縄へ。朝東京を立ち、午後2:30に嘉手納基地わきの“道の駅かでな”の展望台へ到着。機材を持って帰りかけている人に聞くと、明日11月26日は祭日だから今日25日は午後から休みのようだというのです。何?と調べると11月26日は私の誕生日でもありますが、今年はアメリカの感謝祭の日なのです。5時の展望台クローズまで頑張って飛んだのはこれ1機でした。駐機場から動き出したところを狙いましたが、距離としては無限遠ですが背景の格納庫までを含めてシャープです。NAVYだから海軍の飛行機なのでしょうね。

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焦点距離840mm、CAF、F16・1/1250秒、ISO2000、AWB、手持ち撮影、合焦点まで無限遠4294967295m)最大出力で離陸したばかりです。エンジンから排出されたガスがモヤのようにして見えています。駐機場から出て、滑走路の端まで自走し、Uターンして速度を上げてから飛び立ちました。

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焦点距離840mm、CAF、F16・1/1000秒、ISO2000、AWB、手持ち撮影、合焦点まで無限遠4294967295m)駐機場から走行し、飛び立つところまでファインダー越しに追いかけるのはわりと楽な作業です。車輪はすでに収納されていますから、ある程度の高度がでていることがおわかりいただけるでしょう。ピントはしっかりと追いかけて合っていることがわかります。

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焦点距離840mm、CAF、F16・1/1000秒、ISO1000、AWB、手持ち撮影、合焦点まで無限遠4294967295m)翌日感謝祭の日は午前中に普天間飛行場の見渡せる丘に出向きましたが、この日はまさに感謝祭、当然のこととして1機も、1人も動いていない休日でした。宜野湾市にある普天間飛行場は、市街地の中にあり2004年8月には隣接する沖縄国際大学にヘリコプターが墜落したのは記憶に新しいです。そこで840mmでのぞいてびっくり。なんとオスプレイが20機ほど整然と駐機しているのでした。以前、こちらに訪れたときはタムロンの200~500mmズームでしたが、今回は840mmなので不足はありませんが、飛んでいるところを撮れなかったのは残念です。

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焦点距離600mm、CAF、F11・1/800秒、ISO250、AWB、手持ち撮影、合焦点まで無限遠4294967295m)≫ 屋我地島古宇利大橋展望所から古宇利オーシャンタワーを望む。沖縄本島屋我地島、古宇利島へはすべて橋でつながっています。青い空と青い海沖縄ならではのブルーです。フォーカスは橋の上の左側の車が走行している部分をねらっていますが、距離的には無限遠となるのでしょう。

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焦点距離600mm、CAF、F11・1/2500秒、ISO100、AWB、手持ち撮影、合焦点まで無限遠4294967295m) 本島の恩納村からのサンセット。黄金色に輝く海面が美しく、手前にはカヤックツアーの人たちがいたのですが、撮影時には左右に分かれてしまい画面内には入れることができませんでした。下に見えるのは残波岬灯台。完全に沈むまで待ちましたが、残念ながら下にあった雲の影に太陽は隠れてしまいました。

■楽しくカジュアルに使いこなせる超望遠レンズ

 このレンズ、最初に手にしたときは600mmを何に使うか持て余しましたが、使い込んでいくうちに徐々に面白さがわかってきました。それにしてもF11固定絞りで600mm、さらには×1.4エクステンダーと組み合わせて840mm、自分としては超望遠として未知な撮影分野に挑戦してみましたが、結果はご覧の通りです。そもそも焦点距離600mmか800mmか、エクステンダーは×1.4か、×2.0かとその選択に悩むわけですが、600mmを使って思ったことは、何でも長ければいいということではなく、しっかりとした撮影ターゲットが決まっている以外は、これ以上は長くても、倍率が高くても使う頻度が少なくなるような気がするのです。ちなみに、私の撮影と時を同じにして、北海道鶴居村でタンチョウを撮っている方に問い合わせると、焦点距離600mmぐらいがちょうどよいということでした。

 いずれもC-AFモードで、しっかりと撮影ターゲットをフレーミングできれば、あとは適切な撮影感度、シャッター速度が自動的にセットされ、ピントも露出も合うというわけですが、600mmF11、840mmF16という焦点距離F値で手振れもなく、しかも人物や動物の目にピントが合うというのですからすごいというのに尽きるわけです。これらはまさにデジタルカメラならではの最新技術を存分に発揮させたからであって、新しいデジタルカメラならではの境地を開いたからといって決して過言ではないでしょう。

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≪左:600mmF11のマウント後部からのぞいて振ってみると、最後群レンズがブラブラと動くから手ブレ補正ユニット部分であることがわかります。右:エクステンダー×1.4RFが加わってからは、仲間のEOS R6も加えて撮影を行いました。R6は、R5、Rと同様に、電源をOFFにしてレンズ交換するときにはシャッター幕が降りてCMOS撮像面がむき出しにならないので、レンズ交換するときには大変気が楽です≫

 このためには、光学的には従来は高価な光学素子であったDO(回折格子)レンズを組み込み、レンズ鏡筒には硬度の高い樹脂を大幅に採用して、しかもガタなくスムーズに70mmも伸縮する沈胴式として成型部品で構成するなど小型化と軽量化が図られているのです。またレンズ内部をのぞき込んでみると、内部は成型された樹脂そのものであって、特別に内面反射防止の黒塗装が施されているわけではないのです。この樹脂の仕上げは目で見るとグレーな感じにも見えるのですが、写真に撮ってみると黒くなっているので、なかなか高度な素材だと感じました。もちろん撮影時の露光条件によって変わるのはわかっていますが、なかなかだと思った次第です。

 いずれにしても、従来からのカメラ技術ではまったくダメダメであったものを、デジタル、さらにはミラーレスの特長を最大限に生かして気軽に超望遠撮影ができるようにした技術者の柔軟な発想にはただ驚くばかりした。今回は掲載しませんでしたが、室内の声楽のシーンでは譜面を持つことができないからプロジェクターでスクリーンに投影し、そのように暗い場面での撮影も600mmF11で/100秒でISO25600の手持ち撮影できたのもすごいことでした。室内でマスクした顔のアップでしたが、まるで屋外で撮影したようにきれいに写っていましたのも驚きです。これからも今までの写真の常識をひっくり返すようなカメラ技術の進歩のうえに、さらなる写真撮影の領域の拡大がなされることを大いに期待するものです。 (^^)/