写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ミラーレス一眼、次の方向が見えてきた キヤノン

 2020年7月9日、キヤノンは夜9:00からユーチューブによるオンラインの発表会を行いました。その内訳は、新型ボディとしてミラーレスの「EOS R5」(4,500万画素)、「EOS R6」(2,010万画素)、ミラーレス用新型交換レンズとして「RF85mm F2 MACRO IS STM」、「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」、「RF600mm F11 IS STM」、「RF800mm F11 IS STM」に加え、「EXTENDER RF1.4×」、「EXTENDER RF2×」でした。このうち「EOS R6」と「RF600mm F11 IS STM」、「RF800mm F11 IS STM」を除くと、CP+2020を目前に控えた2月13日に行われたプレス発表時にその存在は明らかにされていました。

 そこで、いつもならば購入してから徐々に使用してレポートしていくのですが、R5の発売が7月下旬、R6の発売が8月下旬ということですが、わがスポンサー氏と協議の結果、この時期の新製品購入は見送ろうということになりました。そこで、発売前までに何か考えを示そうというのが今回のレポートです。実機は、サービスに行けば見せてもらえますが、コロナ禍の中で予約制であり、出向くのもはばかれるわけです。そこで与えられたニュースリリースキヤノンのWebサイトからの情報と過去の使用経験からまとめあげてみました。

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≪左:EOS R5、右:EOS R6。画素数の違いだけでなく、トップカバーの操作部を見るとEOS R5は2018年10月に発売されたEOS Rの発展形であり、EOS R6は2019年3月発売のEOS RPの発展形であることがわかります≫

 このうち「EOS R5」は、なぜか2月13日の発表時点では、デジタルカメラでは画面サイズに次いで基本スペックとなる画素数が公開されていないのが個人的な注目点でした。この意味するところは、なかなか分からなくCMOSの撮像方式が、裏面照射タイプとか積層方式になるのかとか、単純に過去2015年6月発売の「EOS 5Ds/5DsR」の5,060万画素を超えるのか、それとも2019年9月6日に発売されたソニーα7RIVの6,100万画素を超えるのかなどと邪推しましたが、かねてからのキヤノンの考え方の延長線上において4,500万画素に落ち着かせたあたりはフルサイズデジタルカメラの画素数に対して単に多ければよいということではなく、キヤノンなりの見識を示したものと考えました。このことは7月9日発表のニュースリリースにも『EOSシリーズ史上最高の解像性能』と明確にうたっていて、カメラの解像感が撮像素子の画素数だけで決まらないということを明確に示したことは注目に値します。

 実際、僕は2020年2月11日から『最新フルサイズミラーレス機画質比較と題して、ニコンZ7(4,570万画素、2018年)・ニッコールZ 35mmF1.8 S、Z24~70mmF4S、キヤノンEOS R(3,030万画素、2018年)・RF35mmF1.8 Macro IS STMレンズ、RF24~105mmF4 L IS USMレンズ、キヤノンEOS RP(2,620万画素、2019年)・RF35mmF1.8 Macro IS STMレンズ、RF24~105mmF4 L IS USMレンズ、ルミックスS1R(4,730万画素、2019年)・ルミックスS24-105mmF4、ソニーα7RⅣ(6,100万画素、2019年)・タムロン17~28mmF2.8 DiIII RXD、シグマfp(2,460万画素、2019年)・シグマ45mm F2.8 DG DN |Contemporary、コシナ フォクトレンダーAPOランター50mmF2・ソニーα7RⅡ(4,240万画素、2015年)の7機種を同じ条件で同じ場所を撮影したのと、ランダムな被写体を撮影したのをA3ノビで比較して見てもらう写真展を開きましたが、多くの人が画素数の違いはこのクラスの拡大では解像感には影響しないと感じたようで、考えるところ大でした。むしろプリントクオリティーに目の肥えた人は階調の良さということである機種(後で披露)を指していたのも印象的でした。以下にその時の写真展示を示しました。

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≪左から、ソニーα7RⅡ、シグマfp、ソニーα7RⅣ、ルミックスS1R、キヤノンEOS RP、キヤノンEOS R、ニコンZ7の順に展示しましたこの展示で明確になったことは、いまさらの感もありますが、写真画質は、画素数だけでなく、レンズの解像力、プリンター解像力の総合的な組み合わせから出てくるものであり、最も低いところで足切りされるのだということで、2,460万画素のシグマfpも、6,100万画素のソニーα7RⅣの画像も同じように見えるということです。なおここに使ったボディと基本レンズは、すべて市中での購入品です。

■注目したのはRF600mmとRF800mmの超望遠レンズ

 さてキヤノンEOS R5とEOS R6ですが、こうなると僕の写真目的には、なかなか注目点は見えなくなってしまうのです。特にコロナ禍によるCP+2020の中止、その後のさまざまな行事の中止、Stay HOMEなどで、かなり調子が狂い、ただいまリハビリ中ということになります。

 その中で僕が注目したのは、2月の発表時にはなかった「RF600mm F11 IS STM」、「RF800mm F11 IS STM」の2本の超望遠レンズです。なぜ注目かというと、1)最大口径比がF8と反射望遠レンズ以上にF11と暗いけどAF撮影が可能、2)鏡胴が樹脂で機構的に沈胴式であること、3)回折格子のDOレンズを使っていること、などですが、「EXTENDER RF2×」を使えば、焦点距離は2倍となり「1200mmF22」と「1600mmF22」となるのですがAFが機能するので、4)F22の光束でもAFが効くというわけです。

 かつて一眼レフの時代には、ミノルタが1989年に発売した「ミノルタAFレフレックス500mmF8」で絞りF8でのAFを可能としていました。この時はAFセンサー光束の瞳径を工夫していましたが、一眼レフシステムでF8の口径でAFを可能にしたのはこのレンズだけだったと記憶しています。つまりレンズ交換式のTTL-AFで、EOSのRF600mmとRF800mmは、口径F11、さらにはF22でAFを可能とするのは初のことであり、ミラーレス機ならであり、超高感度をむりなく使える最新のデジタルカメラならでもあるわけです。しかし、なぜミラーレスだと暗いレンズでもAFが可能なのでしょうか。これまでミラーレス機は、大口径レンズを投入し続けてきたなかで、このような真逆の発想でF11・AF、さらにエクステンダーと組み合わせF22・AFを可能にするなど驚かせます。

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RF600mm F11 IS STM、7 群10 枚構成、縮長:199.5mm、伸長269.5mm、望遠比:0.45、930g、IS効果:5段≫ 商品名にあるように、IS(手振れ補正)、ST(ステッピングモーター)を採用となりますが、DOレンズの採用でもレンズ名にDOが省略されました。このDOレンズには密着2層型回折光学素子に新規材料を採用し、DO レンズのコストを抑えることで普及価格の実現に寄与したそうです。フォーカシングエレメントはG4(前から4枚目)で固定絞りの前になります。図は伸長時。

 キヤノンDOレンズの採用は、1999年発売の「EF500mmF4L IS USM」と「EF600mmF4L IS USM」からで、屈折レンズと回折格子レンズを組み合わせることにより色収差の発生が少なく、レンズ全長を小型化できるという特徴があります。当初は、レンズにグリーンのラインが巻かれていてDOレンズであることを表していましたが、今回の商品名へのDO表記がなくなったように、最近のDOレンズではこのグリーンのラインは省略されています。

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RF800mm F11 IS STM、8群11枚構成、縮長:281.8mm、伸長351.8mm、望遠比:0.35、1,260g、IS効果:4段≫ RF800mmは一見してお分かりのように、RF600mmの前に1枚の凸レンズを配置して、フロントコンバーター的にさらなる超望遠焦点距離を得ているのです。どちらのレンズもインナーフォーカスで、800mmのフォーカシングエレメントは前から5枚目(G5)で、固定絞りの前となっています。どちらのレンズも伸長状態で、望遠比を0.45、0.35としていることはDOレンズの効果と考えます。図は伸長時。

■一眼レフAFとミラーレス一眼のAF

 キヤノンのミラーレス機のAFシステムを構成するキーテクノロジーは“デュアルピクセルCMOS AF”の採用です。この技術は2013年8月に発売されたAPS-Cサイズ・約2,020万画素の「キヤノンEOS 70D」からの採用で、ライブビュー撮影時の像面測距において 位相差検出することにより素早いピント合わせが可能というわけでした。このデュアルピクセルCMOSは、1画素が2個のセンサーで構成されていて、この応用で位相差検出を行うというキヤノンならではの独自技術です。

 個人的には「EOS 70D」が出たときに、CP+2014の上級技術者によるパネルディスカッションの席上で、位相差検出を画素1対の中で行うのか、それともどのようなピクセル配置で位相差を検出するかを聞きましたが、そこはノウハウで話せないということでしたので、いまもその見解は変わらないと思います。

 ただ当時は、各社とも高画素化へとまっしぐらでしたが、キヤノンだけはフルサイズ、APS-Cとも画素数的には控えめで、独自に最適な画素数があると考えているような印象のラインナップでしたので、そのような点も含め質問した記憶があります。さらにデュアル1対のそれぞれの各画素は独立してイメージセンサーとして働かせることもできるというところまでは聞き出せましたが、それから先は不明でした。以下にキヤノンのHPからデュアルピクセルCMOS AFのイラストを示します。

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≪左:キヤノンのデュアルピクセルCMOS センサーの概念図、右:AFセンサーの測距エリアはほぼ視野の100%で1,053分割に分割されているのです≫

 このデュアルピクセルCMOS AFのおかげで、EOS R5とR6は、極端に開放値が暗くない場合には、フルサイズ画面サイズのほぼ全体が1,053分割の測距エリアとなり、より暗い開放F値(F22)でも横:約40%、縦:約60%に制限されるもの像面位相差検出AFで測距できるのです。この分割部分はEOSRとEOS RPでは143分割というからEOS R5とR6はずいぶん分解能が高くなったので驚きです。

 下図には一眼レフカメラTTL位相差AF検出方式の原型である、ハネウエル社のTCL-AFシステムの原理図を示しましたが、焦点面に等価の位置にくるようにセパレーターレンズとセンサーを置いて位相差の合致を検出してAFを行うのです。実際は焦点面の背後でなく、一眼レフミラーの中央部光束を部分透過ミラーで45°下部に導いて、焦点面と等価の位置にある測距センサーで検出するのです。

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 この測距のセンサーは当初はラインセンサーでしたが、最近はある程度の面積を持ったエリアセンサーが使われるようになりましたが、セパレーターレンズ部分の寸法により開口が決まり、初期のAF一眼レフでは公称F6.3、実効でF7~8止まりだとされていました。

 下にはこの2月に発売されたばかりの最新一眼レフの「キヤノンEOS-1DxMarkIII」のAFセンサーとAFユニットとAF測距エリアを示しますが、撮像面全体でAFを可能にするミラーレス一眼と一眼レフとでは最も異なる部分といえるでしょう。

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≪左から、AFセンサー、AF光学系ユニット、ファインダーにおけるAF測距点。最大191点(クロス測距点:最大155点、中央測距点はF2.8対応デュアルクロス測距点≫

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≪ミラーレス一眼では基本的には全画素を使って位相差検出AFを行うことができます。左:位相差検出であるために主要被写体が手前にあることがわかり、左の女性の顔認識も行われます、中:ピントが合っていない場合の信号、青・ピンク、前と後、右:合焦で信号が一致≫ キヤノンのHPのムービーからですが、僕が勝手に解釈しています。この画面からも、位相差検出がレンジファインダー(二重像合致式)と同じ考え方に基づいていることがわかります。像面検出AFにはこのほかコントラスト検出方式があり、ピントを前後させていく中で最もコントラストが高い所を合焦点とする方式で、山登り方式とか、TV-AF方式とか呼ばれています。一般的に位相差検出方式AFは前ボケ・後ボケを検出でき、合焦速度が速いのが特徴とされています。

 いろいろ考えましたが、測距点が撮像画面全体にあり、暗いと横:約40%、縦:約60%に制限されるということですが、F22光束でもAFが可能ということですから、上の3枚の位相差を表す画像の持つ意味はわかりますが、デュアルピクセルをどのように使っているかはわかりませんから、これから先の技術は不明です。

 では他社のボディの場合はどうなんだろうと、実絞りAEで試してみたらF16でもAFは作動しました。ちろん暗いところではすぐ決まらなくても、明るい所ではピッ、ピッとくるのです。つまりF22光束対応ということは、デュアルピクセル採用だからではなく、像面位相差検出ではセンサーの感度増幅が大きく影響するようで、EV-6(F1.2)まで作動するという高感度特性が大きく効いていると考えられます。

 他社機による実験は簡単で、TechArtのライカM⇒ソニーEマウント用のアダプターに、50mmF1.5レンズを付けて、さまざまな絞り値(最小F16)と照度下で行いました。ちなみにTechArtのLM-EA7は、ソニーの位相差検出AF機対応で、それ以前のコントラスト検出AFモデルには使えなく、製品に同梱のテクニカルデータによると焦点距離50mmの場合には最大F1.4、最小F25まで作動するとなっていて、焦点距離は15mmF4.5~90mmF2までAFで作動し、135mmF3.5の場合にはMFでとなっていましたが、ヘクトール135mmF4.5で使用してみるとまったく問題なく作動しました。TechArt LM-EA7は、レンズ全体を進退させる全群繰り出し方式なので、機械的な重量バランスから制約が出てくるのだろうと考えます。なお使用したソニーα7RIIは、位相差AFエリア表示がファインダーに表示できるので、その範囲内でのAF撮影となります。

■デュアルピクセルの効果は

 では、デュアルピクセルの効果は何なのかということですが、本レポート冒頭の写真展の所に戻りますと、写真を見に来た方々で画質にうるさい方の多くはEOS RとEOS RPがいいといったのです。それは何を指して言っているかと聞くと、調子再現の階調が滑らかだというのです。それぞれのカメラとレンズで標準的に撮影した結果のデータに、同じプリンター、同じ用紙を使って、同じA3ノビに拡大し、同じ額装法で同じ場所に展示したときの実プリントの印象ですからかなり信ぴょう性は高いと思います。

 この時から僕は考えていましたが、どうやらこれがデュアルピクセルの本当の効果ではないかと思ったのです。キヤノンではデュアルピクセルの効果を位相差検出に対してアピールしていますが、ここからは私の勝手な推測になりますが、キヤノンではデュアルピクセルの片方のセンサー部分を高感度寄りに、もう一方のセンサーを低感度寄りに使い、両方の信号を合わせて幅広い輝度域に対応させているのではないかと思うようになったのです。このようなことはフィルム時代にも行われていて、高感度乳剤層と低感度乳剤層と重層塗布され2段構えで光を受けていたのです。乳剤の場合には縦方向に配置していましたが、デジタルのデュアルピクセルの場合には1画素の中で分割して配置していると考えたわけです。EOS R5とR6では、人間の視覚に近い光と色をリアルに再現、HDR PQガンマによるHEIF(10bit)で記録可能などと書かれていますが、前モデルのEOS RとEOS RPでも、すでにユーザーレベルで階調再現のよさを認識できていたわけですから、新モデルEOS R5とR6での実写での効果のほどを知りたいものです。

■単なる画素数競争から、高感度特性、階調再現重視への技術指向

 新モデルEOS R5とR6のもう1つの大きな特徴は高感度特性です。EOS R5では4,500万画素で常用感度ISO100~51200、EOS R6では2,010万画素で常用感度でISO100~102400もあることです。F11・F22レンズへの適合も含めて感度へと重点が移ったわけです。とはいっても、階調再現の良さはすでにEOS RやEOS RPでも実現されていたわけですから、ユーザーはどのように受け止めるのか楽しみです。

 いつもなら実機を使ってのレポートですが、今回は使わないでのレポートとなりましたことは、ご賢察のほどを。 (^_-)-☆