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写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

キヤノンミラーレス用RF交換レンズを専業メーカーにライセンス

 4月23日の午後1時にタムロンからキヤノンRFマウントの交換レンズを開発・発売の発表のニュースが届き、追っかけで1時20分にシグマからやはりキヤノンのRFマウント交換レンズ開発発表がなされました。

 タムロンは、11-20mm F2.8 Di Ⅲ-A RXD (Model B060)を2024年内に発売を予定していて、シグマは18-50mm F2.8 DC DN|Contemporaryを2024年7月に発売し、2024年秋以降順次、10-18mmF2.8DC DN|Contemporary、16mmF1.4DC DN|Contemporary、23mm F1.4 DC DN|Contemporary、30mm F1.4DC DN|Contemporary、56mmF1.4 DC DN|Contemporaryを発売していく予定だというのです。

 日本の交換レンズメーカーとしては、すでにコシナキヤノンRFマウント用として2023年10月に「ノクトン50mmF1Aspherical」、2024年1月に「ノクトン40mmF1.2アスフェリカル」、2024年4月に「ノクトン75mmF1.5Aspherical」を発売してきていました。コシナの場合には、マニュアルフォーカス専用のレンズですが、電子接点を持ちボディとレンズ側で情報をやり取りし、Exif情報の書き込み他、ボディ内手ブレ補正(3軸)に加え、3種類のフォーカスアシスト機能(拡大表示、ピーキング、フォーカスガイドに対応しているなどの特徴を持たせています。この点において、キヤノンコシナがMF専業であるからあえて製造のライセンスを与えたのかと私は考えました。そこでAF対応としている交換レンズメーカーのタムロン、シグマにはどのように対応するのだろうかと、ひそかに注目していました。

■カメラマウントと交換レンズ

 カメラボディと交換レンズの関係は、過去にさかのぼるといろいろありますが、古くはライカスクリューマウント(L39)、プラクカスクリューマウント(M42)などドイツ製カメラのマウントと規格を同一にすることにより、日本の交換レンズとカメラは戦後の輸出産業としてその拡大に大きく寄与してきました。ところがM42マウントでは、ペンタックススクリューマウントのように本家をしのぐボディがあったり、さらには技術の発展過程でさまざまな機能(機構)付加されることにより、互換性がなくなったり、結果としてバヨネットマウント化へと進み、その過程ではシャッター速度優先・絞り優先、プログラムAEなどの3モードのAE化、さらにはAF化などの新機能も加わり、それぞれのマウントは各社なりの工夫がなされ、当然そこには必然的に自社の知的財産権(パテント)が生じ、交換レンズメーカーにとっては、同等の結果が得られるようにそのパテントを回避するか、そこを無視して使うか、さらにはライセンスを受けて製造するかなど、一眼レフ時代においてはさまざまな、係争やライセンスのクロスがありました。

■ミラーレス一眼のマウント

 ミラーレス一眼時代の到来にあたって、最初に名乗りを上げたのはM4/3規格のパナソニックDMC-G1で2008年10月のことでした。マウントはM4/3(マイクロフォーサーズ)規格ということですから、オリンパスと共同の規格となります。またソニーのEマウントが誕生したのは、2010年のAPS-C判の「NEX-3」と「NEX-5」からで、2013年にはフルサイズのα7シリーズが投入され交換レンズもFEマウントとなりました。このなかで特徴的なのは、ソニーのミラーレス一眼用のEマウントに関しては、そのマウントそのものの機械的な寸法の技術開示を当初から行ったことで、ボディ発売後マウントアダプターの製造にわずか1年強で60社以上が参入するというもので、フランジバックの長かったライカMマウントや過去に消滅した社を含めて、各社一眼レフ用の交換レンズがマウントアダプターを介することにより、ソニーα7ボディで使えることになり、新しいカメラというかレンズ需要層が掘り起こされたのです。

 ところがこの技術開示はマウント形状だけであって、AFを行う電子接点を介した情報を得るためにはロイヤリティーを支払はなくてはならないということでしたが、海外企業においてはどのように守られたか実態は不明です。このマウント寸法の積極的開示は、同様にして2012年の富士フイルムのXマウントでも行われ、さらに2017年に登場したデジタル中判のGFXも同様で、サードパーティーのマウントアダプターに電子接点のある他社35mm用交換レンズを装着すると、GFXで35mmフルサイズに切り替わるような機能を持たせたりというわけで、どのような契約内容であるかは不明ですが、前向きに技術開示を行っていたことは確かです。ここで前向きに技術開示を行った4/3グループ、ソニー富士フイルムは、簡単にいえば一眼レフ時代から引き継ぐレンズ資産が希薄で、やはり仲間づくりというか、サードパーティーのマウントアダプターや交換レンズを早期に取り組むことが、新規ユーザーとシェアの獲得には手っ取り早い手段だったのでしょう。こう書くとミノルタの流れをくむソニーはどうかということですが、2011年に発売した「LA-EA2」、2013年「LA-EA4」などのマウントアダプターは、ミノルタ時代のボディ内モーターのAFレンズをそのまま駆動させるようにしたアクチュエーターを3つも組み込んだAFマウントアダプターでした。同じボディ内モーター方式を採用したニコンでもFマウントからZマウントへの変換でもなしえなかったマウントアダプター技術で、ソニーにとってはいかにミノルタ一眼レフ時代のユーザーを引き留めるかが大切であったかがわかります。

 CP+2024の時点で明らかになっていたサードパーティのミラーレス機対応のに加え、キヤノンマウントにシグマとタムロンが加わったことにより、新たな展開を展開を迎えることになりますが、改めて各社の対応マウントを整理してみました。

・シグマキヤノンRF(APS-C)、ソニーE、富士フイルムX、ニコンZ、M4/3、Lマント

コシナキヤノンRF、ソニーE、富士フイルムX、ニコンZ、M4/3

タムロンキヤノンRF(APS-C)、ソニーE、ニコンZ、富士フイルムX、M4/3

トキナーソニーE、富士フイルムX、M4/3

 ここで注目されるのは各社ともそれぞれのミラーレスマウントに対応させていますが、キヤノンRFのシグマ、タムロンに対してのAPS-C判だけのライセンスというのが気になります。これから先、いつかはフルサイズモデルの生産もライセンスされるでしょうが、いつになるのでしょうか。

■CP+2024の周辺で

 実はCP+2024が2月22日から開催されたときに、いくつか目についたのがミラーレス機用の交換レンズでした。その時点では最新だったコシナフォクトレンダーノクトン50mmF1 Asph. 、シグマ15mmF1.4、シグマSportsライン500mmF5.6、サムヤンAF35~150mmF2-2.8L、LAOWA 10mmF2.8 ZERO-Dを自分の持参したカメラで試写させてもらいました。

ソニーα9Ⅲに装着したコシナフォクトレンダーノクトン50mmF1 Asph. と絞り開放実写作例。絞り優先AE、F1・1/500秒、ISO-Auto250、手前右側の緑の葉に合焦させています》

ソニーα9Ⅲに装着されたシグマ15mmF1.4DG DN|Artと作例、プログラムAE、F2.8・1/60秒、ISO-Auto250、気持ちよい歪曲です

ソニーα9Ⅲに装着されたシグマ500mmF5.6DG DN OS|Sportsと作例、プログラムAE、F5.6・1/500秒、ISO-Auto12800、手持ち撮影、かなりシャープであることがわかります

《サムヤンAF35~150mmF2-2.8L。左:ケンコー・トキナーのブースにあったサムヤンAF35~150mmF2-2.8Lを持参のソニーα9Ⅲに装着、中:シグマブースにあったLマウントのサムヤンAF35~150mmF2-2.8L、右:ソニーα9Ⅲに装着した状態で試写、焦点距離35mm、プログラムAE、F4.5・1/80秒、ISO-Auto250、テーブルを見る限りワイド側でも直線性が良いようです》

 実写はしませんでしたが、新たにライカLマントアライアンスグループに入った韓国サムヤン初のLマウント交換レンズレンズ「AF35~150mmF2-2.8」が、国内販売代理店であるケンコー・トキナーのブースでなくLマウントアライアンスのシグマブースにあったのが興味をひきました。いずれにしても、各種マウントボディを持ちあるくほどの体力はありません。現状で交換レンズメーカー各社に合致の確率が高いのはソニーだというわけで、最新のα9Ⅲを持参してみたわけです。

ソニーα9Ⅲに装着されたLAOWA 10mmF2.8 ZERO-Dとその実写。プログラムAE、F4.5・1/80秒、ISO-Auto250。Exif情報の書き出しには対応している》

 また、LAOWA初のAFレンズだというLAOWA 10mmF2.8 ZERO-D、11mmF4.5、14mmF4の話を会場にいた男性スタッフに話を聞いていると、どうも話し方に自信のほどをうかがわせたので、あなたはLAOWAの社長ですかと聞いたところそうだというのです。LAOWAの社長(李大勇氏)はかつてデジカメWatchの取材記事に応じていたのを覚えていたので、改めて私自身の名刺をだしましたが、李社長はその日は名刺を持ち合わせていないというのでしたが、さらに突っ込んでいくつか気になる点を聞いてみることにしました。10mmF2.8 ZERO-Dは、ソニーEとニコンZマウントをAF化しているのですが、その実施にあたってはソニーニコンからライセンスを受けているのかと伺うと、受けていないというのです。それで日本でビジネスしていけるのかと聞くと、他社それぞれのレンズのAF化は各カメラメーカーからは技術的な開示がなくても自社でやっているというのです。しかもライセンスを受けた会社は開示された技術に従ってやっているけれど、LAOWAは独自技術で対応させたのだから、それで問題ないはずだというのです。一瞬、聞くと納得できるような答えですが、そうはいかないではと尋ねると、もし先方から何か言ってきたら、話し合いには応ずるというのです。なるほどです。李氏は北京理工大学を卒業後、日本のタムロンに11年いて光学設計などを担当してきて独立したという経歴の持ち主です。しかもオフイスは現在も大宮に構えていて、スタッフは自分1人だそうですが、そこから安徽省合肥にあるLAOWAの工場に指示を入れているのだというのです。ライセンスを受けていないのはソニーニコンの両社なのでしょうが、キヤノンのRFマウントには手を出していないところが気になりました。LAOWAの製品ラインナップは、他社にない独自技術路線だと理解していましたが、AF化にあたっては残念な考え方です。このような考えでいつまでやっていけるか気になるところです。

■これからの交換レンズ事情は

 カメラマウントの特許関係に関しては、私個人の志向からすると大変興味あるところで、これはかつてこの方面の権威であった東大生研の故小倉磐夫教授の薫陶を受けたところが大であり、過去のミノルタ・ハネウエル特許係争のときミノルタへの取材にはすべて立ち会ったため必要以上の知識を持たされています。そんなこともあり、より個人的にはソニーFEマウントの韓国のサムヤン35mmF2.8AFを8年ほど前に、最近ではニコンZマウントの中国製TTartisan32mmF2.8AFを入手しては、動作確認のために時々思いだしては使っていますが、どちらも小型・軽量の短焦点レンズですが、通常に使う範囲では特に問題なく作動していています。

 このうちサムヤン35mmF2.8AFは電子接点がオリジナルのソニーより2つ多いので、ソニーの関係者に新技術を先に流しているのかと聞いてみると、先方が勝手に作ったのでわからないというのです。とはいえ、最初期のα7Rから最新のα9Ⅲまで普通に動作しているからご立派なものです。サムヤンの交換レンズはケンコー・トキナーが日本での代理店をやっているので6万円ぐらいでした。また、ある時期にサムヤンはキヤノンRFマウントのAF交換レンズをだしていた覚えがありますが、現在は見当たりません。何らかの話し合いがあったのでしょうか。ニコンZ用のTTartisan32mmF2.8AFは、代理店の焦点工房で数量限定でわずか23,000円ぐらいでしたから驚きです。こちらはライセンスを受けて製造しているのか焦点工房を通して聞いてみましたが、受けていないというのでした。そのあたりが数量限定の意味を含ませているのでしょうか。それぞれの事情に関しては、ユーザーレベルではわかりません。

 また、機械的なマウント図面を開示したとしても、AFへの特許権はそれぞれのカメラメーカーにあると思うのですが、私の知る限りの情報では、たとえばレンズ基部に絞りリングがあるのは、また別の社が特許を取得しているというのです。このほか、焦点工房の扱う、七工匠(7artisans)ではAF50mmF1.8(ソニー用、絞りリング付き)、銘匠光学(TTArtisan)では、AF35mmF1.8(フジX)、AF56mmF1.8(ソニーE、フジX、ニコンZ)、AF27mmf2.8(ソニーE、フジX、ニコンZ、絞りリング付き)などもあります。なお、LAOWAの製品は、ケンコー・トキナー傘下のサイトロンジャパンが扱っていますが、同社はやはり中国のCamlanというブランドの交換レンズも扱っていますが、その詳細は不明です。いずれにしても、中国における交換レンズの製造は、ライカMマウント型ではもっと複数の企業が行っているわけですから、今後の成り行きが気になるところです。

 今回の遅まきながらのCP+2024のレポートで分かったことは、韓国サムヤンがLマウントアライアンスに参加したことともに、ソニーとも何らかの契約を結んだので改めて新製品として登場したのではないかということです。また、キヤノンが、シグマ、タムロンにフルサイズの交換レンズ製造のライセンスはいつ与えるのか、同様にサムヤンにもライセンス供与の時期はくるのだろうか、ということでした。

 おまけとして、ソニーα9ⅢはプログラムAEで使うとと、かなりの確度でISO250で使われることが多いのは、やはり従来のCMOSとグローバルシャッター組み込みのCMOSでは基準感度が異なるようですが、ユーザーにはわからないことです。 (^^)/