写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

交換レンズの完全電子マウントがもたらしたもの

 キヤノンのEFマウントが完全電子マウントで、30年前にスタートしたことは前回の本項で報告したとおりですが、レンズ交換式カメラのマウントで近年ユーザーに見える形で最も大きな変化をもたらしたのは、レンズ内AF駆動と絞り羽根の電磁制御だと思うのです。それまでのレンズ交換式のAF一眼レフカメラでは、ボディ内のモーター回転をAFカプラーを介してAFレンズの焦点調節を行っていたのに対し、レンズ内にAF駆動用のモーターを組み込み、さらに従来レバーで機械的に絞り羽根の開閉が行われていたのを電磁制御としたのですから、機械的な連係はなくなりかなり設計製造に自由度が増したのです。例えば絞りレバーの運動方向でいえば、AF時代を迎えたときのレンズを取り外してマウント側から見ると、ミノルタαマウントでは絞り羽根が絞られていて、レバーを時計方向に押すことで開放方向へ開くのです。これがニコンマウントになると、絞り羽根が絞られていて、レバーを反時計方向に押すことで絞り羽根が開放方向へ開き、さらにペンタックスはレバーを時計方向に押すことで絞り羽根が開放方向へ開くのです。これに駆動部分としてレンズ駆動のためのAFカプラー部分が加わるわけですから機械的にも動きは複雑です。この間AFに対応させたミノルタはαマウントでは、レンズ側の絞りリングをなくしましたが、他社もその後にレンズ内駆動式に変え、絞りリングをなくす方向へと動いていることはご存知の通りです。
 この過程において、ミノルタのαマウントを引き継いだソニーは、ミラーレスのEマウントボディに一眼レフのαマウントレンズを装着して、フルにAF・AEの作動する“LA-EA2”マウントアダプターを開発したのです。このマウントアダプターはフランジバック長の違いを利用して、ソニー独自のトランスルーセントミラーと呼ばれる半透ミラーが組み込まれ、さらにAFと絞り制御用のモーターが内蔵されたものでした。これにより狭いマウントコンバーターのなかで、機械的な運動を電気信号に変える、電気信号を機械的な運動に変えるということができることが実証されたのです。
 ミラーレス一眼登場の初期段階では、マウントコンバーターによる他社レンズや過去に消滅したカメラボディのレンズが装着可能なことによりかなり普及へ拍車をかけたということは紛れもない事実です。これらは、いずれもマニュアル絞り、マニュアルフォーカスを前提としているのですが、通常の撮影ではこれでも間に合うという人も多いようで、ミラーレス機にはボディとマウントアダプターを持っていても、専用のAFレンズは持っていないという人も存在するのです。とはいっても、やはりフルにオートで撮影できる専用レンズ使用の便利さは、誰もが認めるところです。過去のレンズ資産を活かしながら撮影を楽しむのか、最新の専用レンズで、早くAFでピント合わせて撮影を楽しむのかは、撮影者の考えと撮影テーマにもよるのですが、昨年登場したシグマの「マウントコンバーターMC-11」では、ソニーのα7シリーズのボディに着けて、シグマSEマウントかシグマ製キヤノンEFマウントの一部交換レンズを装着してAFで使用ができるというのです。まさしく、完全電子マウントの特徴を生かしたわけです。また、ソニーのマウントアダプターの逆手を行くような、AFには全く無関係のライカマウントレンズを、アダプター内のモーター駆動でレンズ全体を進退させてAF撮影を可能とするTECHARTの「ライカM➡ソニーEマウント」アダプターが発売されたのです。どちらも、機械制御式マウントの時代には考えられなかったことです。どちらも2016年の発売ですから、少し時間がたちましたが、改めてこの時期に使う機会を得ましたので、簡単にレポートしてみました。

《左は、TECHARTのアダプターを介して、ズミクロン35mmF2(第2世代)を装着。右は、シグママウントコンバーターMC-11を介して、ソニーα7RにキヤノンEF50mmF1.8を装着した状態です。この組み合わせは、本来シグマが推奨しているレンズではありませんが、推奨レンズの持ち合わせがなく、手元にある手軽なレンズとして装着してみたところ、AFは特に問題なく作動していると自分で判断して使ってみました》 撮影はどちらも新しいボディのほうがいいだろうということで、どちらもα7RIIのボディを使いました。

《上:α7RIIのボディ、TECHARTアダプター、ズミクロン35mmF2:絞りF2.8・1/60秒、ISO 640、AWB》
 結果はご覧の通りです。もちろんAFは100発100中ではありませんが、目線とピントがうまく狙った右目のところにきたのを合格としました。基本的にほとんどのカットはピントは十分にきていますが、タイミングの合わせが難しいのです。つまり合焦のスピードが気になるのです。これは時には、80年も前のライカスクリューマウントレンズもAF撮影を可能にしてしまうのですから、しょうがないですね。今回は対応させていませんが、すでにファームウエアアップも発表されているので実際はもう少し早いかもしれません。結果として、ベストピントをここに掲載したのですが、ピントは合ってあたりまえで、実は最も驚いたのは1970年製の角付き2代目ズミクロンの描写です。フィルムで使っていたときはここまではわかりませんでしたが、4620万画素のα7RIIの画素等倍で見ると、みごとシャープに解像しているのです。これにはびっくりしました。自分で持っている他のライカ用35mmレンズと比較すればいいのでしょうが、目的とするところが違うので今回は省略しました。なお、ここでの掲載はノートリミングで左右640ピクセルへリサイズしていますので、その解像感の詳細はわかりませんから、モデルさんには悪いけれど画素等倍にしたトリミング画像をお見せします。ここでほめるのは解像感だけでなく、この拡大に耐えるお肌もご立派です。

《上:ズミクロン35mmF2で撮影の部分を画素等倍に拡大トリミング》 

《上:α7RIIのボディ、シグママウントコンバーターMC-11、キヤノンEF50mmF1.8:絞りF2.8・1/60秒、ISO 500、AWB》
 こちらも同じ条件で撮影してみました。このレンズは、実はキヤノンEF交換レンズ群で最も安価だったレンズで、最近一部では撒き餌レンズとかいわれる1万円するかしないかのものでした。ただ写りとしては定評があります。ズミクロンと同じように画素等倍で観察するとわずかに解像的に劣るかなとも見えるのですが、発売時の価格差もさることながら、現実としてはここまで大きくすることはないでしょうから、発色特性、露出レベルなどの個体要素を別にすれば、かなり高性能といえるでしょう。ここでの掲載はズミクロン同様にノートリミングで左右640ピクセルにリサイズしていますので、その解像感はわかりませんから、ズミクロンと同様に画素等倍にしたトリミング画像をお見せします。厳密にいうと、焦点距離の違いに加え、影距離、撮影倍率も違いますが、その点はご容赦を。

《上:EF50mmF1.8で撮影の部分を画素等倍に拡大トリミング》

《左:ソニーα7RIIボディ、TECHARTアダプターとズミクロン35mmF2の間の情報のやり取りは電子接点だけ、右:ソニーα7RIIボディとシグママウントコンバーターMC-11とキヤノンEF50mmF1.8間の情報のやり取りも電子接点だけで行われるので、それぞれ異なるレンズでのAF撮影が可能となります。つまり、レンズの撮影光学系とボディの撮像素子の間に物理的に介在するものはないので、露出やAFのレベルを別にすれば、レンズ性能そのものが写りに効いてくるのです》
 今回のタイトルは『交換レンズの完全電子マウントがもたらしたもの』としましたが、30年前にキヤノンが完全電子マウントのEFレンズを発売してから約30年経った今日、まったくマニュアルのライカレンズをAFにしたり、異なるメーカー間のレンズがAFを含めて機能したり、というような使い方は考えられたのでしょうか。すでにキヤノンでは、一眼レフフルサイズ➡ミラーレスAPS-Cフォーマットへと、フランジバックの異なるものを変換するマウントアダプターをEOS-Mとともに発売してきていましたし、シグマでは購入後の異種マウントへの交換を有料で行うサービスを実施しています。またニコンペンタックスも、すでに一部レンズに電磁絞りを採用して完全電子マウント化を徐々に進めています。同様にタムロン、シグマの交換レンズメーカーも絞りレバーのない完全電子マウントのニコン用交換レンズを発売しだしました。
 今後レンズ交換式カメラボディの電子マウント化がさらに進むと、交換レンズメーカーにとっては機械的な加工が少なくなり、交換レンズの種類を増やすのが楽になるでしょうし、一眼レフではペンタックスのように少数派ボディの交換レンズも作りやすくなるのではとも考えるのです。一眼レフ⇔マウントアダプター⇔ミラーレス一眼⇔交換レンズの関係が、新しいカメラのスタイルを生み出すかもしれません。 (^_-)-☆