写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ソニーα9Ⅲを使ってみました

 ソニーから35mm判フルサイズのグローバルシャッターを搭載したミラーレス一眼が1月26日に発売されました。発表時に即予約してあったので、早速ということで夕方にいつものお店に受け取りに行ったのですが、前回の機種では4箱ほど入った大箱がいくつか置かれ、そこから引き出して、ハイヨッという感じで手渡されましたが、今回はあまりお店はざわついてません。前日の25日に銀座ソニーへ写真展を見に行ったついでにショールームに顔を出し、カタログをもらいに行ったのですが、4ページのペラ物しかないというのです。少しは分厚いカタログを期待していたのですが残念でした。すでに予約している旨を伝えると、受け取りは朝から混みますよと言われ、いや20年来のお付き合いのある店から買いますと伝えると、ありがとうございますということで、翌日いつもの店に出向き、文頭に戻るのです。このとき予約していない“プロの撮影をサポートする”という縦位置グリップVG-C5も取り寄せられていましたが、私もわがスポンサー氏もそのような撮影をするわけではなく、縦位置グリップVG-C5はその場でキャンセルして、近所のいつもの店に行き開封の儀を執り行いました。時間に余裕がありましたので、同梱されてきた専用のバッテリーチャージャーから30分ほど充電して、あらかじめ用意してきたソニーカールツァイス・バリオテッサーFE16~35mmF4を装着して皆で空シャッターを切り、無事終了。この時、何を撮ろうかと話題になったのですが、ソニー愛用者のHTさんがFE200~600mmF5.6-6.3G OSSを貸すから、カワセミを撮ったらというのです。確かにうれしい申し出ですが、その組み合わせを軽々と振り回すには、私にはそこまでの体力はないということで、ありがたくお断りしました。

ソニーα9Ⅲ》レンズは手元にあったツァイス・バリオテッサーT*FE16~35mmF4 ZA OSS。このレンズはソニーα7シリーズができた時の最初期のもので、ソニー製ツァイスレンズはすでに製造を終えていますが、使用上はまったく問題ないと判断しました。

《ボディ背後から見た各操作部と背面液晶板を開いてメニュー画面を表示》ソニーユーザーならばだいたいの操作部はおわかりいただけると思いますが、基本的には同じですが、タッチセンサー式のメニューをダイヤル式のセットといかに組み合わせて行うかがポイントになると思いますが、タッチセンサーですべて設定を行わせる方向に行ってるようです。あと、モード切替ダイヤルなどに設けられたボタン押し込み式のロック機構がさらに強固となった印象で、以前はロックボタンを押して、設定したり、解除できたのが、ボタンを押したままダイヤルを回さないと設定ができないのです。このあたりはプロ用機として、過酷な実践現場からの声を拾い上げての設定方式だと考えます。

《取り扱い説明書》最近のカメラで気になるのは、取り扱い説明書が必要以上に簡素になってきたことです。α9Ⅲも例外でなく、1枚の用紙を折ってB7判(128×91mm)にして表裏で16面に1色で刷ってあります。内容としては、①電池の充電しカメラにセット、②メモリーカードの入れ方、③レンズのつけ方、④初期設定の手順、⑤静止画の撮影法、となっています。確かにこれで写真が撮れるのですが、今回最初に設定したかったレンズ交換時にシャッター幕が下りる設定は、なかなか探せなく、結局私の書いた「α1の使用記」を読んで設定を完了させました。あれもこれもできるだけに、探し出すのには苦労します。なお、今回発売日前日にもらったα9Ⅲの4ページのカタログには仕様が省かれていて、Webの製品ページを見るようにとのことですが、Web情報は時間の経過で省略されたり、消去されていくこともあるので、しっかりとカタログという形で紙に残してもらいたいです。

《記録メディアスロット》記録メディアのスロットは、過去にレポートした機種としてはソニーα1と同じで、蓋を開けると「CFexpressA/SD」とプリントされたSLOT 1と2が見えます。左にはSDカード1枚を軽く挿してあります。右はカード斜め上から挿入口見てみました。きわめてわずかな隙間の間にSDカードかCFexpressタイプAを差し込めるという細かい機構です。これはカメラが電気的な回路部分だけではなく、微妙な機械細工もまだまだ大切だということを示す好例なのでしょうが、CFexpressタイプAはソニーしか使っていなく、記録メディアを企画・製造しカメラを作るメーカーとしてのうまみなのかは私にはわかりません。プロには必要な機能なのでしょうが、私にはSDカードだけで十分です。

《バッテリーの充電》ボディには専用のバッテリーとBC-021が同梱されているのです。写真の左のオレンジ色LEDが最初に点灯し、緑色ランプは3段階に分かれていて3つが点灯して完全フル充電の状態になりすべてが消灯します。右は、ボディ左側面のUSBタイプCからの充電中を示しますが、PD対応の充電器から可能です。たまたま手元にあったニコンの充電器EH-7Pがあったのでつないで充電しましたが、市販のPD対応のUSBタイプC・タイプA端子を持つ中国製の安価な充電器でも可能でした。ソニーはPD対応でなくても充電できたのにと覚えていましたが、手軽さがなくなったのは残念です。

■まずはいつもの場所で普通に撮影

 α9Ⅲの有効画素数は約2460万画素です。2460万画素がフルサイズのデジタルカメラにとって多いか少ないかはすでに議論するまでもなく、一般的な撮影においては十分で、しかもスピードを重視するミラーレス一眼としては、とりあえずは妥当な画素数なのでしょう。ということで、まずはいつもの英国大使館正面玄関で最初の撮影を行いました。

《英国大使館の正面玄関》焦点距離35mm、絞り優先AE、F5.6・1/1600秒、ISO-Auto250。発売翌日の1月27日は晴天に恵まれました。春夏秋冬を通して10年以上前からこの場所で、朝10:15ぐらいから、定位置(ガードのフェンスがあり変わらない)から、焦点距離35mm(画角として)、絞りF5.6、フォーカス位置(屋根直下のエンブレム)と決めて撮影しています。この10年ぐらい前からは極端な小型センサーを使った機種を別にすると、各社とも過不足ない描写を示します。この間明確になったことは、2000万画素あれば通常の写真展時には問題なく使えることであって、ましてα9Ⅲは35mm判フルサイズであることからまったく問題なく、初のグローバルシャッター方式のイメージセンサーだということで何か違いがあるのだろうかと考えましたが、このシーンからすると特に描画に違いがあるようなことはなく、あえていうならダイナミックレンジが狭いとかいわれているからかもしれませんが、画面左下のシャドー部のつぶれが少し強くないかという気はするのですが、自然光下で季節が異なれば太陽の位置や照度の違いがあってもおかしくはないので、このカットから判断するのは難しいのです。ただこのカットからしてわかることは、シャッター速度が1/1600秒、ISO感度が250となっていますが、このような組み合わせは過去に例がないので、基準感度設定がISO250と高いのではないかと思うのです。

■グローバルシャッター方式センサーの違いを求めて

 ソニーのカタログによると、グローバルシャッター方式イメージセンサーは、従来の順次読み出し方式のローリングシャッター方式と異なり、全画素同時露光・読み出し方式であるために高速被写体の移動でも歪みのない画像が撮影できるというのが最大の特徴だというわけです。この機能に付随して、AE・AF追随の最高120コマ/秒撮影、1/80000秒の高速シャッター、全速ストロボ同調撮影可能、シームレスなブラックアウトフリー撮影、シャッターを切る前からの瞬間をさかのぼれるプリ撮影、8段のボディ内光学式5軸手振れ補正などがうたわれていますが、その違いをいくつかお見せできればと思います。

●ローリングシャッター現象ゼロの検証

 まずは、ローバルシャッター方式と順次読み出し方式のローリングシャッター方式との違いをどのように見せられるか考えました。ソニーα1キヤノンEOS R3の時は、コマ速度と裏面照射と積層型CMOSイメージャーのローリングシャッター現象の違いを知るためにプロスポーツ写真家の梁川剛さんに機材を渡し、サッカーの試合を撮影してもらいましたが、梁川さんには東京から関西から東北まで動いてもらって、かなりの負担と迷惑をかけてしまったのではないかと深く反省したわけです。もちろん今回も、お願いすれば快く引き受けてくれるのはわかっていましたが、そこは何とかない知恵を絞ってでも自分で解決しなくてはならないだろうと考えました。

 過去の例から、さまざまな場所での撮影を考えましたが、以下がその結果です。

《α7RⅣ》焦点距離35mm、コマ速度HI、C-AF、サイレント撮影、プログラムAE:F5.6・1/3200秒、ISO3200(固定)

 

《α9Ⅲ》焦点距離35mm、H+、C-AF、プログラムAE:F5.6・1/3200秒、ISO3200(固定)。注)右下がりなのは私のカメラの構え方が水平でなかったからです。

 

 あれこれと考えた結果の撮影です。駅のベンチに座り、画角的に同じようになるようにと焦点距離35mmにそろえ、感度をそろえた2台のソニーαをカメラをプログラムAEにセットして、ピントはホーム線路側縁に合わせて、8両編成の各駅停車が走り出してすぐのところでα7RⅣで連写した中の1枚です。さらに素早くレンズ交換して同じ条件でα9Ⅲで撮影しましたが、みごとその違いがでました。カメラから被写体まで約4mで、α7RⅣでは電車が走行しだしてから2~3両目の連結部で写真のようなローリング現象が、α9Ⅲではさらに加速された7~8両目でもまったく歪みはでていませんから、さすがグローバルシャッターだというわけです。

 でも鉄道写真をやっている人ならお分かりかと思いますが、このようなシーン設定で写真を撮るか?ということです。一般的に走行する車内から、車外をねらうと手前にある電柱などは歪みますが、少し距離をおいた被写体ではそのような現象は起きないのです。東海道新幹線が時速280kmで走行していると仮定して、車内から富士山を撮る人は多いですが、富士山が歪んで写ったという写真は見たことはありません。つまり、撮影距離、焦点距離(画角)、走行速度(角速度)によって変わるわけでして、よほどの条件でもない限り過去の梁川剛さんにお願いした「ソニーα1」や「キヤノンEOS R3」でのサッカーの試合もそうでしたが、写された実際の写真を見る限りあまり神経質になる必要はないと思ったのが本音です。

●さらにグローバルシャッター方式とローリングシャッター方式を比較

1)ダイナミックレンジの違いを2400万画素同士で夜景を撮影して比較

 同じ2400万画素で、2400万画素グローバルシャッター方式とローリングシャッター方式を比較してみようと考えました。何でそんなことをするのと思われるかもしれませんが、実は購入して開封するときはいつも販売店の近くのとある“とんかつ酒場”で行うのですが、α9Ⅲに関してはダイナミックレンジが狭いとカメラ好きのマスターが声を大にしていうので、どんなものかと調べてみることにしました。設定は、同じ2400万画素のソニーイメージセンサー搭載の機種を使い、感度は私としては実用的にはこんなとこだろうという感じでISO3200で固定して撮りました。

 

《撮影画面の全景》最初は、α9Ⅲとα7RⅣを同じレンズバリオテッサーFE16~35mmF4を使い、ISO感度を3200にセットして絞りをF5.6に固定した絞り優先AEで撮影してみましたが、基本的に夜景の点光源を見るのにはズームレンズではつらく、そもそも2460万画素と6100万画素で、ダイナミックレンジの違いを見るのにはむりがあるのです。

 どうにか考え出したのは、同じ2460万画素のフルサイズイメージセンサーのカメラを使い比較しようとなりました。ところが現在ソニーの2460万画素センサーのミラーレス機は手元にないのです。そこで引っ張り出してきたのが「シグマfp」です。メーカーが違っても大丈夫なのかとおしゃる方もいるかもしれませんが、過去のニコンD800とソニーα7Rとの関係においても、撮影条件を切り詰めていくとほぼ同じところに行きつくという経験がありましたのでので大丈夫だろうと考えました。ただ条件としてはレンズを同じにしなくては、センサーの違い以前にレンズ性能の違いが大きく出てくる可能性があると考え、マウントアダプターを介してソニーとシグマのどちらにも装着できるレンズとしては、私のアダプターの組み合わせではM42マウントしかないのです。そこで、あれこれ考えた結果、最近若い人に人気の“タクマー58mmF1.8”を使うことにしました。これならば専用レンズと異なりカメラ側から情報を得ることなく撮影できるので、何か違いを読み取ることができるのではないかと考えました。上の写真は、α9Ⅲとタクマー58mmF1.8の組み合わせで、絞り値をF5.6、ISO3200に設定してマニュアルでピント合わせして、遠景を撮影した全景です。中央部のビルまでは約4.5㎞あります。

 

《α9Ⅲ》焦点距離58mm、絞り優先AE:F5.6・1/4秒、ISO-Auto3200、-2EV補正。画面中央部のビルにピントを合わせてありますが、ほぼ画素等倍になるようにトリミングしてあります。

 

《シグマfp》焦点距離58mm、絞り優先AE:F5.6・1/3秒、ISO-Auto3200、-2EV補正。上と同じく画面中央部のビルにピントを合わせてあり、ほぼ画素等倍になるようにトリミングしてあります。

 

 この2つのトリミング画像からわかることは、シグマの画像のほうがわずかに黄色味を帯びていて、シャープな感じがします。どちらも同じようなレベルとも考えられ、これはノイズキャンセルなどの画像処理の企業間の考え方に起因するものなのかどうなのかわかりませんが、明確にわかることは、ビルの赤い航空障害灯の光芒がシグマのほうが長く見えることです。これは撮像板のマイクロプリズムの形状や配列、それとも撮像素子そのものからくるものかは私にはわかりません。いずれにしても専門家に聞いてみたい部分です。

2)反射式のグレースケールを撮ってみました

 夜景を撮影した1)の方式ではいまひとつわからない感じでしたので、さらにだめ押しとしてコダックの反射式グレースケールを、正午の炎天下に引っ張り出してほぼ同時刻にα9Ⅲ(2460万画素)とα7RⅣ(6100万画素)でバリオテッサーT*FE16~35mmF4 ZAの同じレンズを使い、同じ角度から撮影し、各ステップをPhotoshop上の数値で比較して見ました。もちろん、モニターによっては視覚的にも確認できるぎりぎりのところなのですが、数値表示することにより明確となりました。

 

《α9Ⅲ》コダックの反射式グレースケールを実写し各ステップの反射値を測定。F5.6・1/12800秒、プログラムAE、ISO-Auto3200

 

《α7RⅣ》コダックの反射式グレースケールを実写し各ステップの反射値を測定。プログラムAE、F5.6・1/12800秒、ISO-Auto3200

 

 2つのチャートからわかることもこれもまた微妙ですが、視覚的にもα7RⅣのほうが、黒濃度の高い部分まで、境界がわずかに見えていますが、実効感度がどのレベルにあるかにもよりますが、少なくとも2機種ともの違いはどのような濃度を示すかでもわかります。そこでより具体的に可視化できないかと考えたのが、グレーチャートのR.G.B.成分を読み取ったのがエクセルで作成した表と棒グラフです。いずれにせよその差は少ないとはいえ、確かにグローバルシャッター方式のほうが濃度の再現域が高輝度側、低輝度側とも低いのがわかります。実写もそうですが数値のプロット、グラフを見て確かにそうだといえる範囲で、その差は通常の撮影場面では判別できないでしょう。ただしコマーシャル的な商品撮影のような微妙な場面ではグラデーションのような場面では何か差が出るかもわかりません。今回は手元にあった機材で間に合わせましたが、もしα7SⅢのように1200万画素の機種と、さらにはα9Ⅲ同じ2420万画素のα7Ⅲがあれば、画素サイズが異なるので、ローリングシャッター方式とグローバルシャッター方式の違いがもっとでてくるでしょうが、個人の趣味の範囲としては、ここまででご勘弁をです。このほか気になったのは、プログラムAEだと、どちらも高感度域なり、さらにシャッター速度も1/12800秒ということですが、これは前回レポートした「ニコンZf」もそうでしたが、高速、高感度というなかでプログラムを組んでいるようですが、フィルム時代の感度やシャッタースピードの概念はここ数年のデジタルカメラの技術進歩のなかにあっては考え方を変えなくてはなりません。

3)1/80000秒のシャッター速度の描写は?

 グローバルシャッターになり、完全にメカシャッターからの制約から解き放たれそのメリットとして8万分の1(1/80000)秒シャッター速度搭載がうたわれていますが、その効果のほどはと、同じレンズとしてバリオテッサーFE16~35mmF4を使い、試してみました。いずれも、水道の蛇口から池に放水されている部分をアップで狙いました。

 

《8万分の1秒の描写》シャッター速度優先AE、焦点距離35mm、F4・1/80000秒、ISO-Auto12800。

 

《8千分の1秒の描写》シャッター速度優先AE、焦点距離35mm、F4・1/8000秒、ISO-Auto2500。

 

 この2つの撮影結果を見ると、2つの露出成果の違いから背景の濃度が違うのです。これは、どちらがどうだというような場面でなく、単純に8万分の1秒のほうが濃度が濃く見えますが、Exif情報から見る限り同じシーンでもシャッター速度8万分の1秒のほうが、アンダー気味に見えるのは、フィルムでいう相反則不軌のような現象でしょうか。それともAE露出に対してバリアブルK値(アンダー・オーバー傾向が逆ですが)のような考えが及んでいるのでしょうか、やはり私には説明できません。ただ明確に言えるのが、水の飛沫の状態が8万分の1秒のほうがわずかに細かく飛んでいるように見えるのです。ただこれも、この2枚の写真を比較してみて初めていえることであり、グローバルシャッターの最高速度の露出量に対してリニアに行かないのは、これからの課題となる部分でしょうか。

4)1/80000秒のシャッター速度でミルククラウンの撮影に挑戦してみました

 高速瞬間写真というと、われわれの世代ではアメリカMIT(マサチューセッツ工科大学)のエジャートン(Harold Edgerton)によるストロボ高速閃光による瞬間写真は有名であって、水を入れた風船やリンゴの実を弾丸が打ち抜く瞬間、さらにはミルククラウンなどの作品は1970年代にはイーストマン・コダック社がカラー印刷したポートフォリオとして配布したことなどもあって科学する写真として印象深く残っています。そこでストロボの閃光時間でなく、グローバルシャッターの8万分の1秒という超高速でミルクの滴下を撮影してみようと考えたのです。

 

《左:私が挑戦したミルククラウンと右:エジャートンが撮影したミルククラウンの写真》“Milk Drop CoronetHarold Eugene Edgerton,1957,Ektacoler Negative Film,MIT Museum

 

 私の撮影は、なるべく照度が欲しかったので、透明なガラスの窓際にテーブルと白いカップを置いて行いました。撮影の設定は、サイレント、シャッター速度優先AE:1/80000秒、ISO-AUTO、コマ速度H+(120コマ/秒)でしたが、撮影後のExifデータを見ると、F22・1/16000秒、ISO51200、-0.7EVとでてます。このあたりは、初期型のバリオテッサーFE16~35mmF4が指定の最新レンズでなかったためにソニーα9Ⅲの撮影機能を十分に発揮できなかったためだと考えましたが、仕様を詳しく読むと連写の場合には1/18000秒しかでなく、単写の場合に1/80000秒がでるのがもともとの設定だそうです。もう1つ、このシーンを撮影のためにセットしていて分かったことですが、ソニー専用のEFレンズなら8万分の1秒を設定できますが、マウントアダプターを通したレンズでは8千分の1秒までしか設定できないのです。当初はミルククラウンをマウントアダプターを介して50mmマクロレンズで撮影しようと考えたのですが、あきらめて手持ちのバリオテッサーFE16~35mmF4の焦点距離32mm近辺で撮影したのです。

 エジャートンが撮影したストロボによる高速度写真にほぼ近いものは撮影できましたが、当時のストロボの閃光時間はどのくらいだったのでしょうか、私の撮影ではミルククラウンとはいきませんでしたが、シャッター速度1/16000秒でミルクこけしのような撮影はできました。これはエジャートンが撮影したカットとほぼ同じで、反省点としては、黒いカップにすればよかったのではないかとも考えましたが、かつて写真学校で実験としてマルチストロボを使ってミルククラウンの撮影をしたという身近な人に聞いたら、ミルクは粘りのある練乳のほうが良い、高さ70cmぐらいから滴下すればよいということでしたが、改めてエジャートンの写真を見ても、バックグラウンドの色などから当時の苦労がしのばれます。

 そのほかカタログによると、シャッターを切る前の「プリ撮影」ができる、「全速フラッシュ同調ができる」などの特徴があげられています。「プリ撮影」はすでに他社のカメラにも搭載されている機能です。ストロボは、私個人としてはデジタルになって高感度化が進み使用が少なくなったこと、ストロボ光の閃光時間は、GN(ガイドナンバー)と撮像感度(ISO)、さらには被写体までの距離との兼ね合いで決まるので、どのような場面で有効かは判断が難しいでしょう。というわけで、グローバルシャッターとはというようなことばかり追いかけてきましたが、どうも写真を撮るという楽しみが失せてきてしまう気がしましたので、私の撮影するいつもの被写体を追いかけてみました。

■さまざまな一般撮影場面で使ってみました。

 やはり大切なのは普通に写真を撮ってみることだと考えますので、以下ランダムに撮影してみました。

 

半蔵門国民公園焦点距離16mm、プログラムAE、F8・1/1000秒、ISO-Auto250。レンズ性能に依存する部分が大だと思いますが、文句ない描写です。ただ16mmという超広角画角で撮ったからでしょうか、ビルの陰の部分の黒が強く見えますが、やはりダイナミックレンジ(ラチチュード)の狭さが関係しているのでしょうか。さらに多数撮ってみる必要はありそうです。

 

《英国大使館跡地の遺跡》焦点距離24mm、プログラムAE、F5.6・1/12800秒、ISO-Auto3200。半蔵門の英国大使館跡地の発掘現場から江戸時代、弥生時代後期の竪穴式住居跡、弥生時代の土器、縄文式土器などが発掘され、一般公開されました。写真は江戸時代の住居跡地で、富士山の宝永4年の噴火の時に火山灰を集めて埋めた穴も左に見える。ノーマルプログラムだが、シャッター速度と感度の高さは、最新のデジタルカメラならではのプログラムです。

 

《建築家 隈研吾氏がデザイン監修した喫茶店焦点距離16mm、プログラムAEF9・1/3200秒、ISO-Auto3200。わが町におしゃれな喫茶店ができました。もともとはシャッター街に近かった商店街の築52年のタバコ屋さんを隈研吾氏の監修デザインにより地元の板金屋さんがリノベーションしたのです。壁面は、広島廿日市の速谷神社の銅板屋根の吹き替えで交換したものを再利用、店わきには後楽園のベンチが置かれています。最初は軽い気持ちで夕方散歩がてらにスマホを持って撮影してきましたが、その銅板の色変わりが良いので、朝陽が当たると良いだろうともう一度α9Ⅲを持参で行きましたが逆光で、結果としては壁面の描写としては残念ながらサムスンの安物スマホに負けました。そこで意識したのは、シャッター商店街の雰囲気を出すために道路を入れて16mm超広角で朝陽が差しているいるところを狙いました。

 

《写真ギャラリーバー「こどじ」にて、㊧写真家・石川武志さんと㊨写真評論家・タカザワケンジさん》焦点距離16mm、プログラムAE、F4・1/30秒、ISO-Auto3000。奥のタカザワケンジさんにピントを合わせていますが、狭い店内ながらむりなく自然な遠近感で撮影できてます。もちろんこの部分はレンズの特性によるところが大ですが、露出も照明光のテカリ以外の部分には適切な露出が与えられていることがわかります。

 

《対称形に近いキヤノン25mmF3.5で撮影してみました》焦点距離25mm、絞り優先AE、F8・1/1000秒、ISO-Auto250。ミラーレス機の特徴は、マウントアダプターを使えばオールドレンズが使えることです。そこで1956年にキヤノンから発売された、トポゴンタイプの25mmF3.5を使ってみました。撮影地はいつもの所沢航空公園駅前のYS-11です。こちらもいつも、晴天の日の午前中に撮影しています。このシリーズでは過去にα9で同じキヤノン25mmF3.5で撮影していますので気になる方は参照してください。このレンズはフィルム最盛期の時代のものですが、日本の70年代に活躍された多くの写真家が愛用した名レンズですが、周辺減光の感じはα9Ⅲとフィルムでの減光はほぼ似たような感じです。レンズの描写としては素晴らしく、画素等倍に拡大しても背景のマンションのアンテナに色収差のようなものは発生していません。

 

《航空公園前のモニュメント》焦点距離32mm、プログラムAE、F5.6・1/2000秒、ISO-Auto250。ここに来るともうひとつ定点的に撮影する場所がこのモニュメントの前です。ここで何を見るかですが、機種によっては滑走路を模したカーブした面の白い部分が飛んだり、右背後の樅ノ木の葉が黒くつぶれてしまったりといろいろですが、少なくともα9Ⅲではそのようなことはありませんので、さすが最新機種といえます。

 

ムーミンパークにて・1》焦点距離22mm、プログラムAE、F5.6・1/2000秒、ISO-Auto250。建物と空のコントラストがいい感じでしたのでシャッターを切りましたが、完全な順光でないということなのでしょうか、それともレンズのせいでしょうか、シャドーの部分の色再現が見た目よりダークな感じがしました。これは露出がアンダーということではありません。

 

ムーミンパークにて・2》焦点距離35mm、プログラムAE、F8・1/250秒、ISO-Auto250。入間基地に向かうのであろう航空機を見上げた形でシャッターを切りました。拡大すれば、軍用機に詳しい人なら簡単に判別できるぐらいにしっかりと写っています。

 

秩父神社にて・1》焦点距離35mm、プログラムAE、F4.5・1/250秒、ISO-Auto250。α7シリーズがでた直後に発売された韓国のサムヤンAF35mmF2.8FEレンズですが、最初のα7Rから今回のα9Ⅲまで、特に問題なく使えています。

 

秩父神社にて・2》サムヤンAF35mmF2.8FE、焦点距離35mm、プログラムAE、F6.3・1/250秒、ISO-Auto250。結ばれたおみくじを外して供養するのだろうか。

 

《CP+2024ソニーブースにて》サムヤンAF35mmF2.8FE、プログラムAE、F4・1/80秒、ISO-Auto250。CP+の会場にはバリオテッサーFE16~35mmF4を装着すると大きく重いので、パソコンその他一式をもって歩くのには、サムヤン35mmF2.8だとフード・フィルターを装着してもわずか95.5gとと軽量なので、その小型さと軽さの誘惑に負けて、このレンズだけで通してしまいました。やはりこのような場面では24~105mmぐらいのズームレンズ1本が最適かなと思いました。

 

■これからの量産効果を期待しつつ

 今回のα9Ⅲのレポートは、交換レンズとのマッチングもありましたが、グローバルシャッターならではの特徴ある写真を撮ろうとして、電車の撮影に始まり、うまくいったーと思ったのですが、さらにその特徴を追いかけているうちになぜか新製品としてのワクワク感が薄れていくのでした。グローバルシャッターの搭載は、従来は工業生産品の製造工程において、ロボットの目として機能させることなどには大変すばらしく有効なことは理解できますが、その精密さ、正確さを持つグローバルシャッターのフルサイズイメージセンサーソニーが最初に民生機に搭載したのは技術的な大きな進歩であり、2024年のカメラグランプリ受賞は間違いなしといったところです。さすがデジタルカメラ用のイメージセンサーとミラーレス一眼のトップシェアを誇るソニーならではの他社よりも1歩先に行く(行かなくてはならない)必然性は十分に理解できます。

 ただ、現状の価格に対して、ダイナミックレンジの問題に加え、超高速シャッター速度、秒間120コマ/秒のコマ速度など、一般の写真を楽しむ人にとっては、どれだけメリットがあるものなのかと考えてしまいました。その点において現状では、まったく用途を特定したプロ用機なのです。かつてコダックデジタル一眼レフDCSプロフェッショナルが登場した1991年の価格は130万画素で約450万円。それが、時間経過とともに飛躍的に画素数と性能がアップし、価格も10万円を切るようになって、現在のミラーレス市場を作り上げているのです。グローバルシャッター内蔵の撮像素子も、量産効果があれば極端に安くなるのが電子カメラならではの特徴だと思いますが、そんなに急がないでも、ゆっくりじっくりと育て上げて欲しいという気持ちも正直あります。

 すでにレポートしたソニーα1キヤノンEOS R3のときは、サッカーのボールが確かにわずかながら歪んで見えたのですが、それがスピード感を表しているような感じがありました。カメラは写真を撮る道具であって、写真表現としてはかつては“ジャック=アンリ・ラルティーグのA.C.F.グランプリ・レース(1912)”では、ローリングシャッター現象を巧みに利用して後世に残る傑作を作り上げています。こういう形での表現が成立するのも写真ならではであって、デジタルの時代にローリングシャッター現象をうまく利用して作品に仕上げた写真家は豊田慶記さんしか身近には知りません。ラルティーグから110年近く経った豊田さんの作品にしても、カメラの未完成な部分を巧みに画作りに利用しているわけで、そこに写真の奥深さというか楽しさを見つけることもできるのではないかとも思うのです。

《ローリングシャッター現象を応用した作品。左:A.C.F.グランプリ・レース、ラルティーグ(1912)、右:孵化、豊田慶記(2021)》

 もちろん、グローバルシャッター機能を持った民生用カメラの登場を否定するものではまったくありませんし、むしろこの時期をスタートにしてカメラ技術の進歩がさらにあると考える次第です。

《左:スマホで撮った隈研吾のデザイン監修した喫茶店、右:α9Ⅲで撮影したモデルさん》茶店の写真は本文中にスマホに負けたと記しましたが、その違いはこの程度。また今回は全体を通してα9Ⅲで写した結果に発色に派手さがないなと思っていましたので、CP+2024の会場に「写真・映像用品年鑑」のために撮影させてもらったモデルのLUNAさんが明るい服装できてくれたので、トリミングしてアクセントとして加えてみました。それでも全体を通してみるとα9Ⅲの発色は、何となく季節か天候かレンズによるのか、全体的に彩度が低いような気がするのですが、どうでしょうか。

 今回の「ソニーα9Ⅲ」は、季節、天候、時間と限られた撮影環境での使用でしたが、時間が許すならばカワセミの飛翔ぐらいは押さえておきたいなと思いました。今後、残された時間のなかで新たな写真を追加で切ればと思うわけです。 (^^)/