写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

“ニコンZ7”でツァイスレンズを使う 「TECHART TZE-01」

 今春のCP+2019に面白いマウントアダプターが2つ参考展示されていました。1つは焦点工房ブースの、TECHART社ニコンZ用のマウントアダプターでソニーのFEレンズがAFなどがニコンZシリーズで作動して使えるというのです。もうひとつはKIPONの「CANIKON」というマウントアダプターで、キヤノンのEFレンズがニコンZのボディでAFを含めて作動するというものでした。

 それから待つこと約半年、ソニーFEレンズ⇒ニコンZボディ用マウントアダプター「TECHART TZE-01」が7月下旬に焦点工房から発売されたのです。早速入手してみましたので、その使用結果を報告しましょう。

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  まずこのボディとレンズの組み合わせので、写真仲間に手渡すと、何も気づかずに操作する人、少し触って、何これおかしくない?と気づく人は半々だという感じでした。それというのもこの「TECHART TZE-01」は、『ソニーαのマウント内径46mmとフランジバック18mm』と『ニコンZのマウント内径55㎜とフランジバック16mm』の、わずかな寸法差を利用してマウントアダプターを作ってしまい外観的にはマウントアダプターの装着はほとんどわからないのですから驚きです。

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 それをわかりやすくするには?と考えたあげくの写真がこれです。この「TECHART TZE-01」マウントアダプターを立たせるのに苦労しました。仕掛けが丸見えですが、この辺でご勘弁をというわけです。これを見ておわかりのようにマウント内径差9㎜、フランジバック差2㎜、マウント基準面から約5㎜の後部マウント篏合部を利用して、ソニーのFEレンズがニコンZボディに取り付くようになっているのです。それも、単に取り付くというだけでなく、AE・AFに連動するというわけです。

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≪左:ニコンZ7のマウント部分、右:ニコンZ7に「TECHART TZE-01」を装着。よく見るとおわかりのように、ニコンZマウントの電子接点が上にあるのに対し、ソニーαの電子接点は下にあるのです。この上下差とわずかな寸法違いを利用してTZE-01マウントアダプターは成立しているのです≫

 このあたりどのように考えたらいいのだろうかと思うのですが、あれこれ考えていたら“ソニーマウントのレンズがニコンZマウントボディに取り付く”と考えるよりは、上の写真に示すように“ニコンZのマウントをソニーαのマウントに変える”アダプターと考えると、使い勝手を含めてわかりやすくなるのです。こうすると、ニコンボディのレンズの着脱回転方向が他社とは逆であるのが苦手な人には朗報となるかもしれません。

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≪今回は、ツァイスT*バリオテッサーFE1635mmF4 ZA OSSソニーFE70~200mmF4G OSSの2本を用意して実写の検討を行いました≫

 まずレンズを取り付けて気になるのが、取り付けやすさと外しやすさです。このあたりは、ニコンマウントとソニーマウントの脱着方向が逆であることが、うまく幸いして、一体感は十分にあります。そして、過去のマウントアダプターにありがちなガタはまったくといっていいほどなく、撮影時にも上記レンズの組み合わせでは問題なく、レンズ側を持って、ボディ側を持っての操作ではまったく問題ありませんでした。続いて電源をONにし、シャッターボタンを半押しするとAFが作動し、合焦でエリアがグリーンになりシャッターが切れるなどオリジナルレンズと大きく変わる部分はありません。またターゲット追尾AFなども可能で、使用上はつまらないほどあたりまえに操作できました。基本的にレンズの動作と性能は、ボディによるというわけですね。

■さまざまなシーンで実写してみました

 2本のレンズでさまざまな場面で撮影してみましたが、取り立てて問題にするような場面はありませんでした。基本的には、AE・AFなどを含めて、ボディの仕様、性能に従って撮れているわけです。

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ニコンZ7+TZE-01+バリオテッサーFE16~35mmF4:焦点距離16mm、プログラムAE、絞りF10・1/400秒、ISO100、デーライトAUTO(豊平館)≫

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ニコンZ7+TZE-01+バリオテッサーFE16~35mmF4:焦点距離21mm、プログラムAE、絞りF4・1/20秒、ISO180、デーライトAUTO(豊平館広間)≫

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ニコンZ7+TZE-01+バリオテッサーFE16~35mmF4:焦点距離35mm、プログラムAE、絞りF7.1・1/200秒、ISO100、デーライトAUTO(木化石)≫

 なおバリオテッサーFE16~35mmF4は、超広角ズームであるがために残念ながら被写体によっては16mm側で樽型歪曲が、35mm側で糸巻き型歪曲が目につくのですが、カメラ側のマニュアルでレンズ登録して、マニュアルでの歪曲補正はほとんど効果ありませんでした。念のためと、ソニーのα7Ⅱボディに取り付けて同じ場面を比較撮影しても歪曲はほとんど同じでした。歪曲を補正するには、撮影後Z7ボディ内の画像編集メニューの、ゆがみ補正やアオリ効果を使った方がよく、さらにはレタッチソフトでの補正の方が大きく見れていいでしょう。

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ニコンZ7+TZE-01+FE70~200mmF4G:焦点距離170mm、プログラムAE、絞りF4・1/500秒、ISO100、デーライトAUTO(ショウブとボート)≫

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ニコンZ7+TZE-01+FE70~200mmF4G:焦点距離200mm、プログラムAE、絞りF4・1/200秒、ISO100、デーライトAUTO(赤く色づいた落葉)≫

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ニコンZ7+TZE-01+FE70~200mmF4G:焦点距離122mm、プログラムAE、絞りF4.5・1/250秒、ISO100、デーライトAUTO(ネムノキと石の彫刻)≫

 ソニーFE70~200mmF4Gは、同じ焦点距離であるF2.8より小型・軽量であるためにハンドリングも良く、高画素を活かすシャープさがなかなかいい感じです。

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≪左:今回の実写撮影は、ソニーFEレンズを用いて行いましたが、ニコンZボディ+TECHART TZE-01+シグマMC-11アダプターを組み合わせれば、ニコンZボディでシグマのキヤノンEFマウントレンズやキヤノンEFレンズがグングン動くのです(左はキヤノンEF50mmF1.4、右はMC-11アダプターを介してシグマ35mmF1.4Artを取り付けています)。右:マウントアダプターTZE-01のリアキャップ部分にはUSB端子が付いていて、TZE-01のファームウエアアップが行えるというのです。ということで、当初は単純にニコンZの信号をソニーレンズの接点に変換して流して情報をやり取りしているのではと考えましたが。どうやら実際はマウントアダプターの中にそれなりの電子チップが入っている感じなのです≫

 このほか、手元にあったソニーEマウントのタムロンズーム、ソニーFEマウントのサムヤンのAFレンズも問題なく作動しました。特にタムロンのズームはEマウントで18~200mmのDX(APS-C)対応レンズなのですが、ニコンZ7の場合はFX、DX、5:4、1:1、16:9と撮像範囲設定が5種類あるために手動セットとなりますが、27~300mm相当の小型高倍率ズームとなり、この組み合わせは小型・軽量の万能機として使えます。

 撮影後のExifデータはどのように書き込まれるかは興味あるところですが、Exifを読めるソフトにもよりますが、私の使うPhotoshopCS5では、レンズ名の所には“16.0-35.0mmf/4”と表示されます。純正のZレンズを使うと“NikkorZ 24.0-70.0mmf/4S”などのようにフルに表示されるのです。

ニコンZマウントの意味するところが見えてきた

 2018年の夏ごろの事でしたでしょうか、ニコンのあるお偉方とカメラ仲間と話しているときに、『ニコンのカメラでツァイスのレンズが使えたらどうだろうか』という話題になりました。その場にいたカメラ仲間というかニコンユーザーの人たちは、「ニコンのレンズが最高ですから、あまり魅力を感じません」というような、リップサービス的にきわめて模範的な答えをいうのです。逆にニコンの方自身が『そうかなー、写真レンズとしてのツァイスレンズは、現在でも厳然としたポジションがあると思うのだけど……』となり、そこでその話は途切れたのです。僕はそこで、ひょっとしたら当時噂の段階であったニコンのフルサイズミラーレス機にはツァイスレンズが交換レンズとして用意されるのかも?と秘かに思っていたのですが、2018年8月23日に正式に発表されたのを見るとまったくそのようなことはなかったのです。

 その後、すっかりこのことは忘れていましたが、CP+2019で焦点工房のブースで『TECHART TZE-01』を見たときに、まさにこれだ!と思ったのです。内径55㎜とフランジバック16mmというどこよりも大きく、どこよりも短いフランジバックの存在意義が、高画質以外にもう1つ見えてきたのです。この結果、ニコンZレンズはどこの社のボディも受け付けないし、逆に、ソニーEFレンズ、キヤノンEFレンズ、ペンタックスKマウントレンズなどをくわえこむことができるのです。これは数年前ソニーがシグマのMC-11を使ってα7シリーズを拡販したのに対し、今度はニコン『TECHART TZE-01』を使ってソニーFEレンズを取り込んでいくことも可能になったわけです。マウントアダプターの製造はニコン自身がやる、やらないの問題ではなく、こうして中国企業によって、実際に行われていることが注目される点です。さらにいうならば、マウント内径55mmφを最大限に活かした後玉直径の大きな専用レンズを作れば、最小マウント内径・最長フランジバックに合わせなくてはならない交換レンズメーカーのレンズを寄せ付けない交換レンズを作ることも可能なわけです。実際は、その物理的サイズを活かした高画質レンズを作ることが現実的であるかどうかはわかりませんが、今後の各社の動向はどうなるかと考えると興味は尽きません。  (^_-)-☆