写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

コシナ フォクトレンダーAPO-LANTHAR 50mmF2 Asphericalを使ってみました。

■なんだこれ!

 コシナから「フォクトレンダーAPO-LANTHAR 50mmF2 Aspherical」がソニーEマウント用として2019年12月に発売されました。

 このレンズすごいことにAPOについてのうんちくを述べるまでもなく、カメラに取り付けてファインダーをのぞいたとたんに"なんだこれ!"となるのです。これはどういうことかというと、ファインダーをのぞいた時にピントを合わせる部分の分離が良く、ピントの山がつかみやすいのです。なるほど、これが軸上の色収差をとことん追いつめたレンズなのかと思うのですが、一瞬不思議な感じがするのです。僕がファインダーをのぞいた時に発した第1声が実は"なんだこれ!"だったのですが、写真仲間のYさんと新年の撮影に同行たときにAPO-LANTHAR 50mmF2を渡すと、Yさんがファインダーをのぞき操作したときに発した言葉が、やはり"なんだこれ!"だったのです。僕もYさんもAFレンズは使うのですが、MFレンズによる撮影もかなり多いのです。この言葉をYさんからも最初に聞いたときは思わず吹き出してしまいました。

 コシナの創業は1959年、レンズ研磨をその始まりとしてその過程では光学ガラス溶解からカメラ製造までを手がける光学機器メーカーとして知られ、2019年には60周年を迎えたのです。その記念製品として発売したのが「フォクトレンダーAPO-LANTHAR 50mmF2 Aspherical」なのです。このアポランターは、その名称からもわかるようにAPOクロマート設計つまり色収差をなくすのを主眼として開発されたレンズなのです。APO-LANTHAR名のレンズは、ドイツ・フォクトレンダー社で当初は大判用として作られ、さらに1950年に発売された距離計連動の6×9判フォクトレンダーベッサⅡにはAPO-LANTHAR100mmF4.5が搭載され高級レンズが搭載されたボディとして珍重されました。このAPO-LANTHAR100mmF4.5のレンズ鏡枠先端には色収差を補正したアポクロマート設計を示すRGBのラインがあり特別なレンズとして特長づけられ、デザイン的にも差別化がなされていました。 

 歴史的にAPOと名打ったレンズは製版用を含めいくつかありますが、個人的な経験では20年ぐらい前に知人の「ミノルタAF APO600mmF4」を借りて使わせてもらった時に、ファインダーをのぞいたら大変すっきりしていて、サービス判にプリントしても画面がクリアでキリッとしていたのがすごく印象的でした。最近では、ライカカメラ社のAPOズミクロンM50mmF2ASPH.とAPOズミクロンSL50mmF2ASPH.が、同焦点距離で同F値で良く知られていますが、いずれも1本100万円前後と高価なのはご存じの通り。

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ソニーα7RIIに装着されたAPO-LANTHAR 50mmF2≫ 現在はソニーEマウント用だけが発売されています。右は、専用フードを付けた状態。内側には反射防止溝が切られ、フレアやゴーストが起きないようにとかなり深く作られています。すでに発売されているソニーEマウント用フォクトレンダーのAPO-LANTHARにはマクロレンズの65mmF2Asphericalと110mm F2.5がありますが、今回はマクロとつけずに標準レンズのむりのないスペックで最高画質を目指したもので、いずれもレンズ鏡筒先端には、ベッサⅡ以来のRGBポイントがカラーリングされています。

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APO-LANTHAR 50mmF2はマニュアルフォーカスレンズですが、マウント基部内側には電気接点が設けられていて、フォーカシングするとレンズ内に組み込まれた距離エンコーダーと連動してファインダー内のターゲット部分の画像が5倍に拡大表示されます。同時にヘリコイドの位置を示す距離スケールに撮影ピント距離が示されピント合わせが楽に行え、絞り値情報も表示されます。これら絞り値、シャッター速度などの撮影データはExif情報としてファイルに記録されます。また、絞り羽根は12枚で構成され、絞り開放F2、F2.8は形状が真円になるように作られています。左から、F2、F2.8の絞り形状を示しました。右はレンズ構成図で、8群10枚構成のうち4面に非球面、異常分散ガラスを5枚使いアポレンズとしての性能をだしています≫

 ■いつもの英国大使館正面玄関を撮影

 この場所の撮影は定点観測的に行っていて、春夏秋冬を通して青空の日、朝10時から10時半ぐらいの間に、英国大使館の正面玄関屋根中央直下のエンブレムにピントを合わせ、絞りF5.6に設定して撮影しています。撮影にあたっては、ボディはソニーα7RIIですが、APO-LANTHAR 50mmF2に内蔵された距離エンコーダーと連動して5軸の手ブレ補正機構が効果的に働くというのです。かつてこの場面は三脚を立てていましたが、昨今のカメラではこのような状況下では手ブレすることもなくなりましたので、手ブレ補正機能を含めたカメラの性能を知るということから、すべて手持ちで撮影しています。

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≪英国大使館正面玄関≫ ソニーα7RII、APO-LANTHAR 50mmF2:絞りF5.6・1/640秒、ISO100、AWB。この場面で、左右640ピクセルの画像では色傾向ぐらいしかわからないのですが、元画像を拡大すると、画素等倍に近いところでヒマラヤスギの葉が1本ずつどうにか解像して見えます。通常だともわっとした固まりになって見えてしまうのです。もちろんカメラの解像力にもよるでしょうが、レンズの解像度に寄るところ大だと思います。

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≪英国大使館正面玄関エンブレムを画素等倍に拡大≫ α7R2の画素数4,240万に連動して大きく拡大されています。描写としてはエンブレムの各部ともしっかりと解像してますが、カメラの画素数と画像処理エンジンに大きく関連してくる部分で、ぎりぎりな感じです。

■ランダムな撮影を行ってみる

 ランダムな場所と時間での撮影ではありますが、私の生活圏の中での撮影ですので見た目は変化に乏しいですが、ご覧ください。

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≪作例1:鉄錆≫ソニーα7RII、 F4・1/200秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。正月のお天気のいい日に、自転車でぶらりと出かけたときにやっと見つけた被写体です。α7R2ボディは、マニュアルフォーカス撮影の場合“12.5倍”まで拡大してピント合わせができるのですが、驚くことに鉄錆びの表面のざらつきで、ピントの合った、合わない、をしっかりと検知できるのです。細かく比較していないので断定はできませんが、僕の経験では今までなかったことです。

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≪作例1a:鉄錆≫ソニーα7RII、上下中央・右から2個目を画素等倍に拡大してみました。鉄錆のざらつきでピントを合わせることができたということをご理解いただけるでしょうか。

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≪作例2:YS-11ソニーα7RII、F5.6・1/1600秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。いつもの退役飛行機です。ANKだから“エアー日本”時代の機体です。このシーンは、わりといつも撮影していますが、今回一番驚くいたのは、垂直尾翼の表面の凸凹感が妙にリアルに再現されているのです。左右640ピクセルでもわかるのですが、レンズの解像力が高いということは、こういうところの描写まで大きく関係してくるのですね。このほか画素等倍の作例に示しましたが、機体を囲うフェンスの直線の切れはすごく美しい描写です。

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≪作例2a:YS-11≫ 上のカットのフェンスの部分を画素等倍に拡大してみました。上のほうの機体だと、リベットの頭や継ぎ目、さらにはペンキの塗りムラなどもわかります。

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≪作例3:飛行機のヘッド≫ソニーα7RII、F5.6・1/500秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。同種のシーンを他機種でも撮影していまっすが、先端部の白のペイントの剥離や塗ムラ部分の切れ込みなどに、アポレンズならではのシャープさがうかがえます。

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≪作例4:常緑樹と山茶花ソニーα7RII、F5.6・1/500秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。冬の青空の中に繁茂する常緑樹の葉を狙ってみました。

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≪作例4a≫葉の部分を画素等倍に拡大してみました。絞りF5.6ですが、中距離であるためにフォーカスポイント前後にピントが来てますが、画像に崩れはありません。

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≪作例5:少年航空兵の像≫ソニーα7RII、F2.8・1/1600秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。背景のボケ具合を見るために絞りは1段絞り込みのF2.8としましたが、深度内に入っているところの石像の描写はムラなくシャープで、石像の背景の肩の高さまでにある樹木の葉のボケは丸く環を描いています。この写真をどの大きさまで引伸ばすか、拡大率によってもボケ具合は大きく見え方が変わってきます。

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≪作例6:古民家の前で≫ソニーα7RII、F2・1/160秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。絞りF2開放で、背景のボケ具合を見てみました。向かって左の目にピントを合わせていますが、女性は画素等倍まで伸ばすとあまりにも繊細に描写するので、嫌われますので画素等倍は控えました。背景のガラス部分が波打ってムラに見えるのは、平面性の悪い戦前のガラスだからです。

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≪作例7:昔の乾物屋さんにて≫ ソニーα7RII、F2・1/125秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。やはり絞り開放のボケ具合を見るための作例ですが、みごとに偏りのないボケが得られています。向かって左の目のメガネにピントを合わせてありますが、合焦部分はかなりシャープでクリアです。

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≪作例8:建設中の高層マンション≫ ソニーα7RII、F5.6・1/1000秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。建設中のマンションを下から上まで写し込もうと、さらに撮影可能な場所でぎりぎりまで下がりましたが、最上階上部のクレーンまでは50mmの画角では入りませんでした。撮影した後に、モニター上で見てみると、縦横斜め、円形、奥行きありとさまざまで、平面的なチャート撮影よりもしっかりと写真としての高解像を読み取ることができます。

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≪作例8a:建設中の高層マンション≫ 高解像を見るためにはどこを切り取るかあれこれ試したが、27Fの文字が見える所にしました。この場面は、たぶんプリントにした方が高解像であることはよくわかると思います。この時の最上階は30階を建設中でした。このカットあまりにもすごい描写なので、畳1枚の大きさにプリントする予定です。

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≪作例9:山茶花≫ ソニーα7RII、F2・1/1600秒、ISO100、-1EV、AWB、手持ち撮影。絞りF2開放で右下のメシベにピントを合わせてみました。バックの距離にもよりますが、口径食が表れています。

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≪作例9a:山茶花のメシベ≫ メシベ部分の画素等倍への拡大ですが、マクロレンズ的な描写を示しています。このカットもそうですが、基本的に現在のフルサイズミラーレスは高画素タイプなので、APOランターのようなマニアックなレンズを使う人は自分でトリミングすればいいわけです。

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≪作例10:ピラカンサスの実≫ ソニーα7RII、F2・1/1600秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。背景のピラカンサスの実のボケには方向性を感じますが、複雑に重なり合った画像だからでしょうか。このカットではあえて右後ろのボケを入れましたが、作例9と同じで、カメラ自体は必要以上の画素数があるわけですから、最終的にはトリミングしてボケ部分の強い描写部分はカットしてもまったく問題ない画質の範囲です。

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≪作例10:ピラカンサスの実≫ 絞り開放ですが、合焦部分を画素等倍までトリミングしました。まるでマクロレンズの描写です。

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≪作例11:落ち葉≫  ソニーα7RII、F5.6・1/500秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。いつもは、枯葉の葉脈を写して解像感を見ていましたが、新しく猫じゃらし(エノコログサ)を加えてみました。実は表面がヌッペリな被写体では解像感はなかなかわかりにくいですが、猫じゃらしのように細かいと、拡大すればズバリ解像力がわかります。猫じゃらしのほかにはサボテンの翁丸のような白い細い毛でおおわれているのも、解像力の判定はわかりやすいです。

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≪作例11:雑草に一輪の花≫  ソニーα7RII、F5.6・1/500秒、ISO100、AWB、手持ち撮影。APO-LANTHAR 50mmF2はマニュアルフォーカスレンズですが、実はこのような場面では断然威力を発揮するのです。現在のミラーレス一眼のほとんどは、位相差検出とコントラスト検出を組み合わせたAFなのですが、このような場面でピントをAFで合わせるのはなかなか難しく、私の場合には撮影を途中で断念することも多々あります。もちろんMFに切り替えればいいのですが、AF性能も含めてカメラを見ているので、ついそのままAFまかせで、何度かチャレンジしてカメラの個体差としてあきらめるのです。
 

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≪左:「APO-LANTHAR 50mmF2」を「TECHART TZE01」マウントアダプターを介して「ニコンZ7」に装着してみました。右:APO-LANTHAR 50mmF2の絞りリングは、先端のリングを押し込みながら180°回転させるとF2~16までクリックのない無段階絞りリングとして動作でき、シネの撮影などで便利とされています≫

 しかし何でソニー用のレンズがニコンに取り付けるのでしょうか? ということですが、正月に出向いたカメラ居酒屋のお客さんに、先日の私のソニーα7RIVのレポートを読んだ人がいて、ソニー用シグマ45mm F2.8 DG DNコンテンポラリーの描写が気に入ったそうで、ニコンZ6用にシグマ45mm F2.8 DG DNを購入して楽しんでいる人がいたのです。ソニーのα7にシグマ45mm F2.8 DG DNならわかりますが、ソニー用のシグマ45mm F2.8 DG DNを「TECHART TZE01」マウントアダプターを介してわざわざニコンZ6で使っているのです。一般ユーザーにも進んでいる人がいるのですね、驚きました。

 というわけで私も、ニコンZ7にAPO-LANTHAR 50mmF2をつけてみたのです。デザイン的にはニコンZ7とマッチしてます。使ってみるとソニーα7とは動作は異なりますが、シャッターボタン半押しで距離リングを回転させていくと合焦時にはグリーンのフレームが点灯するのです。さらにタッチシャッターを押してフォーカシングしていくとグリーンランプ点灯でシャッターが切れるのです。ただ、やはりマニュアルですから、画面を最大限拡大してピントを合わせたいと考えると、精度的にどうかなと思うのです。絞り値表示、Exif記録の絞り値などは連動しませんでした。まぁ、使って問題はまったくないのですが、電子接点がフルに機能しないので、あまりお薦めの組み合わせではありません。ニコンZマウント用APO-LANTHAR 50mmF2の出現を待ちましょう。

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≪作例13:新宿ゴジラ通り≫ ニコンZ7、絞りF2・1/60秒、ISO100、-1EV、AWB。ゴジラの顔にピントを合わせてありますが、Z7は4,570万画素だから、50mmの画角だと画素等倍にトリミングすると歯の一部しか見えないのです。画質的には過去に撮影しこのシーンでは最高のシャープさを誇ります。また、シャドー部の文字の描写も良いです。f:id:ilovephoto:20200113224617j:plain

≪作例14:口径食と背景の点光源のボケ具合を見てみました≫ ニコンZ7、絞りF2・1/125秒、ISO100、-1.7EV、AWB。ボケ形状は合焦部までの距離、絞り形状、背後の点光源の位置によっても異なりますが、形状としてはごく普通の描写を示しています。

■ミラーレス機の標準レンズ

 2018年にニコンキヤノンからフルサイズのミラーレス機が発売されましたが、その時のうたい文句は、大口径マウントにショートフランジバックで高画質だったわけです。すでに先行していたソニーからはそのようなことはあまり聞かなかったことです。実際それぞれの社が、交換レンズをラインナップするにあたっては、大きく、重く、高価なものが続々と投入され、一般ユーザーが考えるミラーレスは小型・軽量であるということとはボディにはあてはまっても、交換レンズにはなかなかあてはまらないのです。結局、交換レンズが大きく、重くなったことにより、いまひとつフルサイズミラーレス化の動きには沿えなく、この先どのような展開がなされるのか楽しみです。

 そのようななかで最近の交換レンズの技術動向をWatchしていたら、キヤノンが2019年11月7日に人工蛍石結晶を採用したカメラ用交換レンズ「FL-F300mm F5.6」を1969年に世界で初めて一般消費者向けに発売し2019年で50周年を迎えたと発表したのです。またニコンも2020年1月7日に、2019年9月に発表していた「AF-S NIKKOR 120~300mmF2.8E FL ED SR VR」に加え、新しく「ニッコールZ 70~200mmF2.8 VR S」を2月に発売すると発表したのです。このニコンの2本のレンズは、EDレンズ1 枚、蛍石レンズ2枚に加えて、新開発のSRレンズ(SR:Short-wavelength Refractive)1枚を採用して優れた光学性能を実現したというのです。キヤノンの場合は新製品としての蛍石仕様の新製品レンズは発表されていませんが、やがて出てくるだろうと考えられます。このうちニコンのSRレンズは青色の波長を大きく屈折して色収差を抑えるものですが、キヤノンがすでに2015年に発表・発売していたBR光学素子も同種の考えをもつのではないだろうかと興味は大です。

 その点において「フォクトレンダーAPOランター50mmF2」は、特殊分散ガラスと非球面レンズを使いAPO仕様で50mm標準レンズをむりなく高画質化したというのは、この時点では先を行っているわけです。この先各社のフルサイズミラーレス用交換レンズがより高画質化に向かうであろうことは間違いないでしょう。コシナからのさらなるAPOレンズの出現も期待したいものです。  )^o^(