写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

神話の8枚玉「ズミクロン35mmF2」が復刻

 1958年に発売された距離計連動ライカ用の8枚玉「ズミクロン35mmF2」が、中国で「LIGHT LENS LAB V2LC 35mmF2」として復刻されたというのです。どのようなものか、さっそく取り寄せて使ってみました。まずはオリジナル8枚玉ズミクロン35mmF2と中国製復刻版ライトレンズをフィルムとデジタルのライカに装着して、外観から比べてみました。

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≪ 左:オリジナル・8枚玉ズミクロン35mmF2、右:復刻版・LIGHT LENS LAB V2LC 35mmF2≫

 ライトレンズの“V2LC”は、硝材のロット番号だそうで、L はLead 鉛の英語の略、Cは単層コーテイングの略だそうです。つまりライトレンズには鉛入りガラスが使われているのです。この辺りは1958年に製造開始したオリジナルに対するこだわりだそうで、ある程度の量は確保されているようですが、大量に製造するとなるとエコガラスに移行するのだそうです。さらにこだわりは、オリジナルの8枚玉を分解して、寸法・曲率を計測して、ガラスの素材まで同じにとこだわった部分のようです。このうち各レンズは、直径で1mm大きく作られていて、オリジナルズミクロン35mmF2の交換部品にならないようにわざと大きく作られていて、オリジナルレンズの存在を侵さないようにとの配慮からだそうです。

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≪左:ライトレンズのレンズケース、中:レンズリアキャップ、右:レンズキャップ≫

 ケースはコダックのエクトラのレンズケースに似た感じのアルミ製の円筒で、つや消し黒のアルマイト加工がなされています。表面には、6群8枚のレンズ構成図と共に、漢字で“光影鏡頭實驗室 LIGHT LENS LAB”と刻まれています。光影は、光と陰であり、鏡頭はレンズ、實驗室は研究所とか研究室なのでしょう。写真中央はレンズのリアキャップで、レンズケースと同じでレンズ構成図が縮小されて刻印されています。写真右はレンズキャップでやはりレンズ構成図が描かれていますが、これだけは真鍮製でずっしりと重いです。

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 銘板を正面から見ると、復刻だということでも銘板はそっくりさんではなく、あえて探すならば“1:2 / 35”という表記ぐらいで、あとはLIGHT LENS LAB V2LC の商品名と、赤くCHINAと書かれ、1,000本中の472番目というシリアルナンバーが打たれ、さらに“stkb0006”と刻まれています。聞くところによると、このレンズは中国国内向けに製造されたもので任意の8桁の文字を書き込んでもらえるのだということで、これは日本での輸入元である“焦点工房”が注文したレンズの6番目ということです。海外向けのバージョンは、刻印の特注はできなく、すべて“8element”と刻印されるというのです。ところで、なぜ“LIGHT LENS”なのかと考えてみました。ライトレンズとライカレンズを読んでみると、ライカとライトでありイントネーションが同じなのだからと考えたのですが、どうやら単純に“光影鏡頭實驗室”を英語に翻訳すればライトレンズになるということでした。

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 レンズ交換のフィンガーポイントを中心に側面から見ると。左:ズミクロン、右:LIGHT LENS。フィンガーポイントはオリジナルは赤い樹脂製であるのに対し、中国製はルビーのような赤い人口宝石が埋め込まれています。樹脂製の赤いフィンガーポイントは表面が反射するので赤く見えますが、宝石は光を透過するので赤黒く見えます。さらにこの写真からわかることは、ライトレンズは不等間隔絞りであることです。この部分は次世代では等間隔絞りに改良されるようです。また無限遠ストッパー脇の立ての溝が5本が4本と少なくなっていますが、機能的には指掛りはまったく同じで、パッチンと止まる感覚は一緒です。この写真からはわかりにくいですが、レンズ鏡筒はオリジナルズミクロンがアルミであるのに対し、ライトレンズは真鍮だそうで、そのためにレンズ本体だけの重さを測ると165gと230gで、ライトレンズの方が65g重いのです。ただこれはレンズ単体での重さであり、ボディに付けるとその差はわかりにくいかもしれません。

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 レンズ側面から見ました。今回使ったオリジナルレンズはドイツ製ですが、8枚玉ズミクロンにはカナダ製もあります。ライトレンズは、漢字で“中國製”と刻まれています。輸出モデルは“中國製”の部分はMade in Chinaとなるそうです。実はこのカットではそれぞれにE39(39mmφ)UVフィルターを装着してあります。オリジナルにはライツ製を、ライトレンズには復刻版を付けてあります。少なくとも刻まれた名称はそれぞれですが、機械的な加工部分はほとんど同じように復刻されているというこだわりです。さらに聞くところによると専用フード“IROOA”も復刻されていますが、日本にはまだ入ってきていないということです。

 ■いまなぜ復刻版8枚玉ズミクロン35mmF2か

 外観各部を見てお分かりのようにデザインはかなり近似しています。それにしてもなぜ中国で8枚玉ズミクロン35mmF2が復刻されたのでしょうか。それはまず第一に、中国で今ライカブームが起きているからではないでしょうか。

 そもそもズミクロン35mmレンズが、神話としてブームになったのはいつ頃のことだったのでしょう。私の記憶では、少なくとも20年以上前ことであり、日本における1990年代後半におけるライカブームが到来して以降の事だったと思うのです。当時はライカとつければ本は必ず売れた時代でもありました。非球面レンズになる以前のズミクロン35mmF2を歴史的に見れば、初代が8枚構成で1958年に登場し、第2世代が1969年に6枚構成で登場し、さらに7枚玉が1979年に登場しています。私はズミクロン35mmF2の第1世代8枚玉と、第2世代6枚玉を比較したことがありますが、基本的には6枚玉のほうが良かったという記憶があります。要はクラシックカメラやクラシックレンズの価値観は、コレクターズアイテムとして考えると、良く写るということも重要ですが、それ以上に生産数が少ない希少性であることも大切な要素となります。さらに枚数が多ければいいというわけではありませんが、中古価格は枚数が多い順に高価となっていました。

 このライトレンズの製造の仕掛け人は、中国の周さんという、40歳代のある大手企業の社長であり投資家のようで、このライトレンズは趣味で作っているというのです。すでに3年の時間を費やして出てきたのがこのライトレンズで、時間・投資金などは関係なく、完成度の高い、完璧な復刻版を目指して物作りをしているというのです。従来からのレンズを大量に生産し、新商品をどんどんだしてビジネスを成功させるメーカーとは違う道で歩んでいる人だそうです。

 いずれにしても、8枚玉ズミクロンが数の上から希少なわけで、クラシックライカファンなら一度は使ってみたいレンズということになります。そして単純に、日本の10倍も人口の多い中国ですから、クラシックライカファンも日本の10倍いてもまったくおかしくないのです。この結果、8枚玉ズミクロンへの要求も10倍高いということがいえ、復刻版の8枚玉ズミクロンが成立し存在する理由かもしれません。

 もっともこの復刻版というかライトレンズは、いわゆる海賊版やコピー商品とは異なり、堂々と独自ブランドを付けて、8枚玉の復刻であることをうたっているのが特徴です。日本だと名称は同じでも、性能は現代にマッチさせたレンズとするのが多いのですが、この辺りは中国と日本の物に対する考え方、大げさに言えば文化の違いであって、性能までを復刻させるという考えを理解するにはなかなか難しいです。もちろんこれは、周さんという企業家の趣味の領域であって、現実には、日本の最新レンズに、価格、デザイン、光学性能、機能など追いつき追い越せの競争が別のグラウンドで行われているのも現実です。

■オリジナルと復刻版を実写で比較しました

 撮影はいつもの英国大使館正面玄関で晴天時午前中の10時15分に行いました。最近ライカマウントレンズでは、フルサイズのミラーレス機でマウントアダプターを使って撮影を行うのがピント合わせの正確さから流行っていますが、ここでは、ライカマウントレンズであることから、まずはデジタルの距離計連動機である「ライカM9」を使い撮影してみました。

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≪いつもの英国大使館・8枚玉ズミクロン35mmF2≫ ライカM9、F5.6・1/1000秒、ISO-AUTO160、AWB。

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≪いつもの英国大使館・ライトレンズ35mmF2≫ ライカM9、F5.6・1/1000秒、ISO-AUTO160、AWB。

 さて、この2枚の写真の違いは分かりますか。二重像合致式の距離計で中央屋根直下にあるエンブレムにピントを合わせて、フレーミングをし直してシャッターを切るのですが、フレーミングの段階でした視野枠を下すのですが、角度を振ったことにより、いわゆるコサイン誤差が生じるのではないだろうかという危惧はあるのですが、撮影距離が十分にあることと、絞りF5.6と絞り込んでの撮影ですから、実用上は被写界深度の関係から無視してよいと考えました。撮影は、絞り優先のAEで行いましたが、同じボディで露出はどちらもF5.6・1/1000秒ということから、どちらのレンズも同じような透過光量であったということがわかります。撮影にあたっては、それぞれ専用のUVフィルターと専用フード“IROOA”を着けて可能な限り同じ条件で行いました。なお発色傾向はライカM9の撮像素子はCCDであることで、ライカM(Typ240)以降のモデルがCMOSであることなどから、大きく違いますが。この2カットを見る限りでは、撮像素子の影響は免れませんが、基本的に感度が少し低めにでているところの影響が大だと思うのです。

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≪エンブレムを画素等倍に拡大してみました、左:ズミクロン35mmF2、右:ライトレンズ35mmF2≫ 結果として、2つの画像を画素等倍まで拡大して比較してみると、ほとんど差はありません、あえて言うならばライトレンズの方が解像力がわずかに高いのです。もし同じレンズだとしたら十分に個体差の範囲とも言えます。私の経験ではそのままA3ノビに伸ばしてどんなに子細に見てもその差はでてこないでしょう。その程度の差なのです。以後、同じようにしてさまざまな場面で8枚玉ズミクロン35mmF2とライトレンズ35mmF2を撮り比べましたがわずかにライトレンズがいいのですが、大きな差はでてきません。そこで、以下掲載の作例はライトレンズだけを紹介することにしました。

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≪ブティックの店頭にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F4・1/2000秒、ISO-AUTO160、AWB。この写真から何が見えるかというところでは、手前のワンピース胸のあたりを見るために画素等倍まで拡大すると縦横繊維の1本ずつがどうにか読める柔らかい感じでした。むしろここで注目したいのは、左奥に広がるアウトフォーカス部分の癖のない柔らかなボケの感じです。

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NISSAN 2020 Concept Car ≫ ライトレンズ、ライカM9、F2.8・1/60秒、 ISO-AUTO400、AWB。銀座の日産ショールームに置いてあったコンセプトカーです。ゆっくりと回転しているところをシャッターを押しましたが、タイヤの側面のDUNLOPの文字などはゴムの質感がでているし、さらにホイールの金属部分やディスクブレーキ部分もシャープな感じの描写です。

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≪写真家 清水哲郎さん、トウキヨウカラス写真展会場にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F2・1/60秒、 ISO-AUTO200、AWB。左目にピントを合わせフレーミングをしましたが、顔はかなりアマイ描写となりましたが近距離だけにこれがコサイン誤差の影響かと考えました。清水さんは心優しい方で「顔はこのくらい柔らかい描写のほうがいいですね」といってくれました。感謝です。

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≪写真家 ハービー・山口さんの写真展『50年間のシャッターチャンス(1970-2020)〜その方の幸せをそっと祈ってシャッターを切ってきましたが、いかがでしょうか』会場にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F2・1/60秒、 ISO-AUTO1250、+1 EV、AWB。コサイン誤差でピントのズレがないようにと、距離計のズバリ合致部分に顔を配して撮影しましたが、やはり柔らかな描写となりました。どうやら絞り開放の描写は極端に甘いようです。実は、ズミクロン、ライトレンズを比較していた時からも感じていたことで、単に解像していないということだけではなく、フレアも発生しています。さまざまな絞り値で使った範囲では、ズミクロン、ライトレンズともかなり絞り開放は柔らかく、1~2段ほど絞るだけでキリっとピントが立った写りをする、極めて絞りによる画質の立ち上がりが早いレンズだと言えます。ただしホワットした描写はこの場には向いていました。

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≪若い2人、ハービー・山口さんの写真展会場にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F2・1/60秒、 ISO-AUTO 1250、+0.6 EV、AWB。ジーっとハービーさんがノクチルックス50mmF1.0で撮影した6枚組カットを見つめる2人。大口径ならではのボケ具合に見いっていたのでしょうか。最近の写真展会場の照明は、世の中の流れに沿って、LEDランプになる傾向がありますが、スポット性が高く周辺の壁と作品との輝度比があるために、目には白い壁もライトから外れた所は落ち込んで黒く見えます。写真的にはハート形の2人の世界に包まれているようでいい感じですが、どうしたものでしょうか? 見たままに写るのが写真だとすると、カメラが解決するものか照明法が解決するものなのでしょうか。

 ■フルサイズミラーレス機で使ってみました

 個人的には、デジタルになって距離計連動機には限界があると感じています。その点において同じライカレンズでもミラーレス機でマウントアダプターを介してピント合わせして撮影したほうが大伸ばしに耐えられる確度の高い写真が得られると思っています。実際、上掲のハービーさんの写真展をやっていた新宿 北村写真機店のライカレンズ担当のスタッフは、ライカレンズをミラーレス機で使う人がほとんどだというし、私の周辺の古典レンズ好きの仲間たちはミラーレス機で撮影する人が事実上すべてとなりました。

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≪マウントアダプターを介して、左:ライカのLマウントを使ったフルサイズミラーレス機の「シグマfp」に8枚玉ズミクロン35mmF2、フルサイズミラーレス機のスタンダードとして「ソニーα7RⅡ」にライトレンズ35mmF2を装着。それぞれ純正のUVフィルター、ライカの専用フード“IROOA”を取り付けて撮影に臨みました≫

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≪解像度・フレアの具合、周辺光量の低下を見てみました≫ ライトレンズ、ソニーα7R2、F2・1/25秒、 ISO-AUTO 100、AWB。どうも絞り開放F2では、ピントがあまいのとフレアが目に付くので、8枚玉ズミクロンとライトレンズを比較してみました。ピントは右ページのピンクの付箋の先に置いた「ライカズマリット35mmF2.5」のシリアルナンバーの部分を12.5倍に拡大してピントを合わせました。照明は間接的な自然光下でわりと均等に光は回っていますが、画面全体の画像からは周辺光量の低下が目につきますが、不思議と周辺光量の低下の具合はオリジナルも復刻版も大きく変わりませんので、掲載はライトレンズだけにしました。さらにどちらもピントを合わせた部分を画素等倍に拡大して比較したのが以下です。

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≪左:8枚玉ズミクロン、右:ライトレンズ≫ 絞り開放だとこのような解像でフレア成分があることもわかります。私としては他のカットも同様でしたが、わずかにライトレンズのほうがフレアも少なく解像感も高く感じます。さらに発色の違いは、8枚玉ズミクロンが1958年、8枚玉ライトレンズが2020年ですから、62年前の硝材とコーティングではこの程度の差がでてもまったく不思議ではありません。さらにレンズそのもの、さらにはフィルターを透かして見た状態では、どちらもオリジナルのほうが淡く黄色に色づいて見えるのです。それがこの撮影結果に効いてきたのかもしれません。1950年代のレンズの硝材には、いわゆるランタン、クラウンなどの新種ガラスが使われてだしていた時期でもあるわけですが、現在では鉛フリーのエコガラスであるのに、ライトレンズでは硝材も当時のまま鉛ガラスを確保というのもちょっとしたこだわりです。

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数寄屋橋公園から≫ ライトレンズ、ソニーα7R2、F5.6・1/125秒、 ISO-AUTO 200、AWB。ピントは背後の東宝のビルの壁面に合わせました。絞りF5.6と絞ってありますが、手前の柳の葉はすべて前ピンになっていますので柳の葉にはピントはきていなませんが、東宝朝日新聞のビルの壁面はみごとなほど解像していて、まったく遜色のない描写特性です。

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≪黄色く色づいた葉っぱ≫ ライトレンズ、シグマfp、F2・1/125秒、 ISO-AUTO 200、AWB、曇天。F2とF2.8の2カット撮影しましたが、左右640ピクセルではフレア成分は別にして解像的な差は見えませんので、合焦部の画素等倍拡大でその差を見ました。

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 ≪黄色く色づいた葉っぱ≫ ライトレンズ、シグマfp。左)F2・1/125秒、 ISO-AUTO 100、AWB、曇天。右)F2.8・1/80秒、 ISO-AUTO 100、AWB、曇天。それにしても、F2から1絞り絞り込んだF2.8で、これだけすっきりして、解像力的にも劇的に立ち上がるレンズは初めてです。どおりで、F2開放で撮影した清水哲郎さんとハービー・山口さんの顔が柔らかく描写されたわけです。

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≪写真家 飯田鉄さん、写真展「美徳の譜」会場にて≫ ライトレンズ、シグマfp。F2.8・1/60秒、 ISO-AUTO 100、AWB。ズバリ真ん中に飯田さんを配してピントを目に合わせました。絞りF2.8に絞ったことと、中央にいてもらったことが功を奏して、画素等倍にまで拡大すると、飯田さんの左右の目のまつ毛、眉毛は1本ずつシャープに解像していてメガネフレームともピントはばっちりです。何かすごいレンズです。画素等倍のクロップ画像を作りましたが、掲載は控えさせていただきました。

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≪夜の新宿通り≫  ライトレンズ、シグマfp。F2・1/30秒、 ISO-AUTO 100、-0.7EV、AWB。絞りF2開放で、夜の新宿通りの光源をアウトフォーカスして見てみました。これを見てみると、左右のボケがかなり崩れているのです。中央部はほとんど真円に近い丸ボケですが、左側の街灯の部分は非点収差の影響でかなり乱れています。このような絞り開放におけるアウトフォーカス時のボケが乱れる例としては、1950年代のズノー50mmF1.1に見ることができるわけですが、この時も1段F2に絞ると劇的に画質が向上したのですが、ライトレンズも同じといえます。

 ■現代に通じるクラシックレンズの味

 最近はマニュアルフォーカスながら、中国製の50mmF0.95や85mmF1.2やF1.4、35mm1.2やF1.4などの大口径レンズが続々とでてきていて、日本の市場にも時間差なく登場してきていますが、非日常的な大口径レンズが安価であることはレンズグルメにとっては大いに気になるところです。その中にはある意味で先端のレンズを隙間商売的に出てくるのに対して、60年以上も前の8枚玉ズミクロン35mmF2を鉛ガラスを使って堂々と復刻するというのも中国であるわけです。

 今回のズミクロンとライトレンズに最初は厳密に1:1の画質比較を行っていましたが、きわめてわずかにライトレンズの方が性能が良いのですが、さまざまな場面であまりにも類似していることから途中から比較はやめました。それにしても、そこまで似ているのを作るのはどのような考えに根差したものなのでしょうか。また途中で比較はやめたもうひとつの理由としては、オリジナルのズミクロンを持つ人は復刻のライトレンズを購入しないだろうし、復刻のライトレンズを持っている人はオリジナルを持ってないだろうと考えるのが妥当だろうと考えたのです。

 最終的にライトレンズを使って感心したことは、8枚玉ズミクロン35mmF2と外観・形状が似ていることもありますが、それ以上に感心したのは描写特性があまりにも似ていることでした。特に絞り開放ではどちらもホヤホヤの画像ですが、1段絞るとシャープになるというのは驚きです。昨今のレンズでは絞り開放からシャープな像を結びますが、まったく異なるわけで、まさに一部でいわれるクラシックレンズの味そのものです。いがいと、この描写特性をわかって使えばレンズの味の変化として受け入れられるのかなと考えました。オリジナルの8枚玉ズミクロン35mmF2が登場したのは1958年。その時代はまさに黒白写真が全盛であったわけですが、60年を経た今日でも絞り開放で黒白写真を柔らかく仕上げて、少し絞ってカラーでしっかり決めるという描写が楽しめます。

 今回たまたまこの時期に知ったのですが、札幌在住のクラシックレンズファンの陸田三郎さんはカナダ製の8枚玉ズミクロン35mmF2を所有されていて数々の作品づくりをされていますが、絞り効果による描写特性は当然のことといえドイツ製とまったく同様なのです。つまり絞り開放の柔らかな描写は、個体差ではなく8枚玉ズミクロン35mmF2に共通する特性なのです。

 今後ライトレンズは、サファリ・オリーブグリーン色仕上げ、金色仕上げ、サイケデリックなペイント仕上げ、チタン鏡胴仕上げなどのバリエーションを増やす予定だそうで、日本で焦点工房が販売するとなると10万円強となるようですが、中国を含めて海外の市場でどのように受け入れられていくのか興味は尽きません。

)^o^(  2020.09.22