写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

カメラ博物館でカメラとレンズの特性を知ろう

 日本カメラ博物館に解像力チャートとコリメーター、シャッター・EE試験機が配備され、ご自分のカメラやレンズを持参されれば、その性能の一端を測定することができるようになりました。解像力チャートは、JIS解像力チャートであり、日本カメラ財団の前身である日本写真機光学機器検査協会の時代に頒布されていましたが、コンゴー(CONGO、金剛)などのブランドを持つ大判レンズメーカーの山崎光学研究所(東京日野市)が、廃業するに伴い日本カメラ博物館に1.6mのコリメーターとともに寄贈されたものです。山崎光学の創業は1924(大正13)年で、初代山崎光七氏が、1906(明治39)年に浅沼商会に入社し、1924年に退社し、高価な外国製レンズに対し廉価な純国産大判カメラ用レンズを作るために興しましたが、日本でも最古に属する写真用レンズメーカーとして知られています。ここで最古に属すると書いたのは、小西六が国産初の量産カメラ「チェリー手提用暗函」発売したのが1903(明治36)年、日本光学工業の創業が1917(大正6)年で、山崎光学が純国産の大判カメラ用レンズを完成させたのが昭和6年ですから、写真レンズの専業メーカーとしては十分に古いわけです。

フィルムカメラ時代の測定器が配備されています。左から、解像力チャート、1600mmコリメーター(焦点距離320mmレンズまで測定可能、パール光学製)、400mmコリメーター(焦点距離80mmレンズまで測定可能、旭光学工業製)、マルチシャッターテスター(シャッター速度、露出を測定できます。京立電機製)、400mmコリメーター、マルチシャッターテスターは写真機検査協会の時代のものです。コリメーターは、平行光束を作り出す光学系で、カメラの無限遠の精度を知ったり調整することができます。≫

≪チャート全体が短辺方向で入るように合わせます。近くに大型の三脚が置いてあるのでカメラを装着し、視野中心がチャートの中心になるようにカメラとチャートが光軸に対し垂直に、撮像面とチャートが並行平面になるようにセットしますが、だいたいでいいです。もちろん手持ち撮影でも可能です。厳密にやると、均一照明で行うこと、チャート板がきわめて平面であること、撮影倍率を求めることなどが必要とされますが、目安としては十分です。35mm判フルサイズ、APS-Cだと左右に余裕が、マイクロ4/3のカメラだと縦横むだなく入ります。≫

≪上の状態で撮影したチャートの部分拡大。左:中央部チャートを画素等倍まで拡大しました。右:最右上部をチャートを画素等倍まで拡大しました。黒と白のペアの間がどこまで分離しているかで、解像力の違いが判ります。右上のチャートでは、解像力のほか、白い線の左側に青く、右側に赤く色付きが見られます。これが倍率の色収差です≫
 このチャートによる解像力試験は、フィルムカメラ時代に確立されたもので、デジタルカメラの時代には別のチャートがISOで定められています。したがって、このチャートを使ってレンズ性能を知るというより、そのレンズの性格を知れるというレベルに解釈したほうがいいです。それでも、レンズの銘柄による解像力の違い、開放絞りvs.絞り込んだ違い、カメラの画素数による解像力の違い、手ブレ補正機構ONとOFFの違い、手持ち撮影限界を知る、色収差、像面湾曲、ディストーションなど収差の発生の具合、などなど、さまざまなことがチェックできます。特にフィルムカメラ時代は、撮影後に現像されたフィルムをどこまで解像しているか光学顕微鏡で白黒ペアの分離を解読する作業がありましたが、現在では背面液晶モニターで簡単に画素等倍にまで拡大して見られるのですから便利です。撮影は、もともとカメラ博物館内は禁止でしたが、このゾーンだけはこの時期から撮影可能となっています。
 今回の山崎光学研究所の廃業に伴い、山崎啓三氏から、最終モデルのコンゴーレンズ他、多くの資料も寄贈されました。この中には尾関萬里氏が設計したコンゴーレンズの設計図面、写真家の土門拳が戦前山崎光学の工場を訪れて撮影した写真の、複数のオリジナルプリントは長く山崎光学の社宝として大切に保存されていましたが、これを機会にとカメラ博物館へ寄贈されました。このうち土門拳が戦前山崎光学の工場を撮影した部分は、土門拳のフィルム資料では内容、所在が行方不明になっていた部分で、そこが明らかになり土門拳写真の研究資料としては大変貴重なものです。

≪戦前の山崎光学、CONGOレンズ210mmF4.5(市川蔵)、K.YAMAZAKIは、初代山崎光七氏の頭文字。CONGOの名は1912年に進水した日本海軍の戦艦「金剛」から名をとったのです。 右:土門拳が戦前山崎光学の工場を撮影した写真のうちの1枚≫
注1)撮影するときは受付のお姉さんに声をかけましょう。
注2)新宿にある山崎光学写真研究所とは別会社です。