写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

タムロンSP85mmF1.8を使って

 タムロンがSPシリーズとして単焦点のSP35mmF1.8 Di VC USDとSP45mmF1.8 Di VC USDを2015年9月28日に、2016年2月にSP90mmF2.8 Di Macro 1:1 VC USD、2016年3月にSP85mmF1.8 Di VC USDを発売しています。これらのうちマクロを除く3本は、いずれも光学系が新設計で、すべて手ブレ補正機構、超音波モーターによるフォーカス駆動機構を搭載し、新しい外観デザインを採用してます。いずれもタムロンの高級レンズシリーズで、その描写は大いに気になるところです。発売から時間もたち、そろそろ次のシリーズレンズの登場があってもよさそうですが、遅ればせながら『SP85mmF1.8』をレポートしてみることにしました。
 まず85mmという焦点距離ですが、これは何に使うレンズかといわれると、やはりポートレイト用なのです。昨今のズームレンズ時代にあえて単焦点レンズを使う理由は、やはりボケ味が欲しいからです。フィルムカメラの時代には、単焦点といえば大口径で、つまり明るいレンズという考え方がありましたが、デジタルの時代になるとカメラ機種にもよりますが、フィルム時代には考えられなかったISO1600相当というような感度も常用に使えるようになりました。結果として、ズームレンズにはない大口径のボケを味わえるのが単焦点レンズであり、『タムロンSP85mmF1.8』なわけです。レンズ構成は9群13枚、特殊低分散ガラスと異常低分散ガラスが各1枚使われています。同じ焦点距離F値で、キヤノンが7群9枚、ニコンが9群9枚なので、タムロンはレンズの枚数が多い分だけ、高価だけど贅沢なつくりということになります。それでは、その効果のほどをご覧いただきましょう。

≪花に囲まれて。絞りF2.5・1/200秒、マニュアル露出、ISO250、AWB、ニコンD810。最初に85mmはポートレイト用と書きましたが、もともとタムロンそのものがこのレンズをポートレイト用と定義しているのです。ところが僕のふだんのレンズ評価撮影場面のなかにはポートレイトはないのです。そこでこのレンズのもともとのオーナーである写真仲間の‘諸田圭祐さん’から拝借したのがこの写真なのです。感謝です≫
 とはいっても左右640ピクセルでは大伸ばしした時の鮮鋭度や調子はわかりませんので、50%に拡大した時の画像をトリミングして載せました。いかがでしょうか。ニコンD810は3,635万画素と高画素ですが、50%の拡大率でこの大きさですから、100%の画素等倍だとあまりにも大きすぎるわけです。いずれにしても、この拡大率でモデルさんにはさんにはごめんなさいという感じですが、高倍率に耐えられるお肌と、光学レンズ性能は立派なものなのです。
 そしてここで本当に見てもらいたいのは、トリミングのない全画面であって、ピントの合ったモデルさんをはさんだ前後ボケの描写なのです。これはシャープなモデルさんの髪の毛や眉毛に対し、滑らかな肌の感じ、さらには前後の柔らかなボケぐあいはタムロンSP85mmF1.8ならではというわけです。もちろん撮影した諸田さんの撮影技術にもよるところが大ですが、諸田さんの使用感では、柔らかな描写のなかにも解像性能が高く、ディストーションをまったく感じさせないところが、お気に入りの点だそうです。

≪絞りF2.8・1/1250秒、プログラムAE、ISO200、AWB、ニコンD700。半逆光気味で、まだ若いカエデの種子を狙ってみました。種子がシャープなのに対し、背景左の柔らかなボケ具合が、このレンズのもうひとつの特徴なのでしょう。そしてデジタルカメラでは目につく色収差の発生もかなり抑えられている印象があります。≫

≪絞りF1.8・1/4000秒、絞り優先AE、ISO200、AWB、ニコンD700。いつもやるボケ味を見るテスト。手前の草の花にピントを合わせてありますが、背景のボケは絞り開放であるために大きくボケています。画面周辺にはわずかな口径食を感じますが、実際は少しでも絞り込めば、あまり目立たなくなります。しかしごく普通に使っていると、このクラスのレンズとしては画像の平坦性が良いと感じました。これはタムロンのテクニカルデータのMTF曲線を見ると、画面周辺までかなりフラットな曲線を描いていることからも読み取れます。≫
 いかがでしたか。メーカーがSP85mmF1.8はポートレイト用といってるのを、実はさまざまな場面での作例を撮影してあるのですが、野暮な写真の掲載はここまでにしておきます。

     ■完全電子マウントになったニコンタムロンSP85mmF1.8■
 このレンズを使用しているときに面白いことに気づきました。今回使用したニコン用のSP85mmF1.8は完全電子マウントになっているのです。完全電子マウントとは、機械的な動作伝達でなく電気的な信号処理により、超音波モーターでレンズの進退、電磁アクチュエーターにより絞り羽根の開閉動作を行うものです。そこで改めて、先行の新SPシリーズのニコン用3本を調べてみると、従来と同様に絞り込みは機械的なレバー式となっているので、完全電子マウントは「SP85mmF1.8」が最初なのです。
 それでは、タムロン以外の社のニコン用はどうなっているのだろうと、いくつかの最新レンズを使用している写真仲間のHさんに調べてもらうと、以下のようになりました(作例写真もそうですが、もつべきものは友達ですね(^_-)-☆)。
 この完全電子マウントは、ご本家ニコンの場合には、2008年発売のPC-Eニッコール24mmF3.5D ED、PC-Eマイクロニッコール45mmF2.8D ED、PC-Eマイクロニッコール85mmF2.8D、2013年発売のAF-Sニッコール800mmF5.6E FL ED VRの4本を筆頭に、AF-S DXニッコール16-80mmF2.8-4E ED VR、AF-S NIKKOR 24-70mmF2.8E ED VR、AF-Sニッコール200-500mmF5.6E ED VR、AF-Sニッコール300mmF4E PF ED VR、AF-Sニッコール400mmF2.8E FL ED VR、AF-Sニッコール500mmF4E FL ED VRという具合に電子マウント化が静かに進んでいるのです。もともとPCレンズでは光学系を機械的に移動させるために絞りを動作させることはできなく、800mmでは光路長が長いので絞り羽根の動作を機械的に行うことは難しく、電磁式シャッターを採用するということを早くからやっていましたが、いつのまにか多くのニッコールレンズが完全電子マウントになっていたのは驚きです。これらは製品名にも明記されていて、開放F値の後に‘E’と表記されているので簡単に名称からも判別できます。さらにこの時期からタムロンも完全電子マウントになったわけですから、ちょっとしたニュースであり、技術の大きな流れの変化を感じるのです。


≪左から、完全電子マウント:ニッコール24〜70mmF2.8E、レバー式:ニッコール14-24mmF2.8、レバー式:シグマ35mmF1.4DG≫

≪左から、レバー式:シグマ50mmF1.4DG、レバー式:トキナーAT-X11-20mmF2PRO DX、レバー式:トキナーAT-X24〜70mmF2.8PRO FX ≫


 これでおわかりのように、キヤノンEOSをのぞき、一眼レフでは一部のニッコールレンズとタムロンSP85mmF1.8だけが完全電子マウントなのです。当然これからの流れとして、ニコンタムロン、他社を含めて今後は完全電子マウント化していくだろうことは明らかです。
 完全電子マウントは、現在に繋がるカメラとしては1987年に登場したキヤノンEOS650が最初でした。当時は本格的AF化を先行したミノルタα7000が、ボディ内AFモーター駆動でレバー式絞りバネ駆動であったのです。その時期ニコンもAFはボディ内モーター、絞り羽根は機械的なレバー式であったのですが、約30年近い歳月を経て完全電子マウントに移行しつつあるのですから感慨深いものがあります。
 当時は「一眼レフAFはレンズ内モーターかボディ内モーターか」というような雑誌での特集企画が組まれたりもしましたが、懐かしい思いでです。完全電子マウントは、その後登場したミラーレス一眼ではほとんどすべてがそうであり、一眼レフでも完全電子マウント化への対応への流れは当然となり、残るところはペンタックスタックスKマウントだけとなりますが、これも時間の問題でしょう。
 今後もし各社交換レンズが完全電子マウントになれば、交換レンズレンズメーカーとしては、機械的なマウント部分と電子接点(もちろん情報の内容も含め)の対応で、各社のボディに対応できるようになるわけですから、製造する側にとってもユーザーにとってもメリットが出てくるわけです。これは、シグマのようにオプションでマウント交換をうたっているところにとっては朗報でしょう。そしてもうひとつ。4月にシグマが発売した「ソニーEマウントコンバーターMC-11」のように、「シグマ製キヤノンマウントレンズ→ソニーα7ボディ」でフル活用というような関係も、さらにニコンレンズへと拡大できる可能性がでてきたわけです。これはなにかすごいことが起きるような予感がするのです。 (^_-)-☆