写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

キヤノンEOS 5Dsを使ってみました

本レポートのフルレポートが京都MJのサーバーにアップされました。
詳しくは、そちらをご覧ください。
http://www.mediajoy.com/mjc/ichikawa/ichikawa_part36_1.html

 キヤノンから有効5,060万とフルサイズで最高画素数を誇る「EOS 5Ds」と「EOS 5DsR」が2015年6月に発売されました。このカメラが登場するまでには高画素タイプカメラにはさまざまな動きがありました。いわゆるフルサイズ高画素タイプは2012年に発売された3,630万画素のニコンD800とD800Eに始まりました。このカメラでは光学ローパスフィルター(OLPF)を組み込んだD800と、光学ローパスフィルター効果を持たせないD800Eの2機種を用意しました。2013年になるとソニーが3640万画素で光学ローパスフィルターを外したソニーα7Rをミラーレス機で発売。そして2014年にはニコンはD800シリーズの改良機として光学ローパスフィルターを外したD810を発売。2015年にキヤノンが光学ローパスフィルターを組み込んだEOS 5Dsと光学ローパスフィルター効果を打ち消したEOS 5DsRを6月に発売し、さらにソニーが4,240万画素で光学ローパスフィルターを外したα7R Mark IIを8月に発売したのが現在に至る経緯です。
 この間いくつか話題に上ったのは、1)高画素に加え光学ローパスフィルターを外すと高鮮鋭画像が得られる、2)高画素はピントが合いにくく、カメラがぶれやすい、などでした。これらに対し、ニコンはD800Eで光学ローパスフィルター効果をなくし、D810では、ミラーショック軽減機構を組み込み、光学ローパスフィルターを外したのです。これに対しソニーα7は、ミラーレスですから機構的にショックは少ないわけで、さらにピントは像面によるコントラスト検出だから精度が高いということになります。もっとも、ニコンD800とD800Eでは高画質を得るためには、Gタイプレンズの使用、三脚使用のミラーアップ撮影、ライブビュー撮影、ノイズキャンセラーのOFFなどを細かく推奨してきました。このような経緯の中で、僕はたまたま毎年担当しているCP+で行われる上級エンジニアのコーディネーターとして、2013年、2014年にキヤノンとしては高画素一眼レフはやらないのですか?とキヤノンの責任者の方に質問してきました。答えとしては技術的には十分可能で、すでに5,000万画素の技術は確立しており、過去に撮像素子の技術としては発表済みだということでした。そしてさらに聞くと、撮像素子の大きさに対し、適切な画素数というのがあるというようなお話をされていましたが、結局、フルサイズで5,060万画素のEOS 5DsとEOS 5DsRをCP+2015の直前に発表したのです。当然、CP+2015のパネルディスカッションでは高画素に対する考え方、カメラブレへの対策、光学ローパスフィルターありのEOS 5Ds、光学ローパスフィルター効果なしのEOS 5DsRの技術などをお伺いしました。その後、PHOTONEXT の技術セミナーなどでも、両機に対する詳細な話を聞きましたが、僕個人の印象として得たものは、キヤノンは高画素タイプ一眼レフのフラッグシップモデルとしてEOS 5DsとEOS 5DsRを作ったものの、いまひとつ積極的ではないような印象を受けました。特に、光学ローパスフィルターは画素数が上がってもこれからも必要だと考えていて、光学ローパスフィルター効果なしの5DsR機は、モアレが発生する確率が高くなっても欠点を活かし、究極の解像を目指すという人ために作った明言していることです。

キヤノンEOS 5Dsモデルを選んだ理由
 本来なら2機種を比較すればよいのですが、結局、あれこれ悩んだ結果、今回、僕は光学ローパスフィルターが組み込まれたEOS 5Dsを使ってみることにしました。なぜか、そのほうがキヤノンの高画素一眼レフ開発の目指した目的に近いのではと感じたのです。そして、もうひとつ、下表に示すようにEOS 5Dsの高解像度でもA2判プリントにした場合の384ppiの解像度が、EOS 5D Mark IIIの255ppiと画質的にどれだけ異なるのだろうかということなどを考えて、あえて光学ローパスフィルターありのEOS 5Dsを使ってみようと思ったわけです。

 PHOTONEXTの技術セミナーにて聞いたことによると、EOS 5Dsの高画素を活用する仕様として、1)ミラー振動制御システムを採用、2)新ピクチャースタイル「ディテール重視」(細部表現力を重視したシャープネス設定)、3)光学Low Pass Filterキャンセル(さらなる高解像度を求めたEOS 5DsR)、4)クロップ機能(×1.3、×1.6)で疑似望遠撮影可能、などがあげられています。このうちミラーショックを軽減させるためにはカム駆動方式を採用したということですが、ニコンもD810とD610では同じような機構を導入しているので、発売時期は多少ずれていますが、考えることはどちらも同じだなと思うわけです。さらに“ディテール重視”のピクチャースタイルでは、スタンダードや風景モードよりシャープネスを上げるというので、デジタルならではの高解像に対する対処法であり、なるほどと思うわけです。
 これに加え、ミラーアップと電子先幕シャッターによる低振動撮影として「LV静音撮影モード」、レンズやフィルターを通過した光線が収差や回折、ローパスフィルターなどの要因で理想と異なるときに本来の形に戻す「デジタルオプチマイザー」機能、シャッターレリーズし、ミラーがアップしてシャッターが切れるまでの時間を調整する「レリーズタイムラグ任意設定」などの機能を載せています。キヤノンによると、単に画素数を増やしても、その画素数を活かすことはできないとして、カメラ振動の抑制、高画素を活かす画像処理(ディテール重視)、入力信号の改善(デジタルオプチマイザー)を行なっているというのです。

■実際の撮影にあたって
 今回の撮影にあたっては、カメラ製造側が最初からこれだけのことを提示してきているわけですから、使う側として高画質を得るためにはその方法に極力沿って行うことにしました。まずランダム撮影以外の固定撮影は、三脚にはフィルムの8×10"カメラ用に使っていたHUSKY Quick Setを用意し、シャッターはケーブルレリーズを介して切ることにしました。この組み合わせは、大きさ・重量などからして僕的には本来は不本意な組み合わせで、最近はほとんど用のなかったアクセサリーですが、チャンピオンデータを引き出すためにはということで引張りだしました。そしてレンズは、標準ズームでLタイプでマクロモード付きの「EF24〜70mmF4L IS USM」を使いました。
<英国大使館正面玄関>

 いつもの英国大使館正面玄関です。撮影条件としては、焦点距離35mmにセットして、絞りF5.6で撮影しています。ピントは、61点の測距点のうち中央最上部の1か所が建物中央上のエンブレムにくるようにしてスポットAFで合わせています。シャッターは、いつもなら5カット程度で済ませるのですが、今回はブレだけでなくAFもあるだろうからと13回切った中から、最も高解像であろうというカットを選び出しました。そして画質的にどうだろうかということになりますが、エンブレムを画素等倍まで伸ばしてみると、わずかに柔らかさを感じますが、実用上は十分に解像しています。このあたりの見え方が、光学ローパスフィルターが入っているからかもしれませんが、ピクチャースタイルを「スタンダード」でなく、「ディテール重視」にセットしておけばもっとシャープになり、見え方が変わったかもしれません。ここに掲載の画像はJPEGですが、RAWデータを使えばもっとカリッと仕上げることは可能でしょう。なお、掲載は13カットのうちの1枚ですが、画素等倍で見ると微妙な違いを各カットとも見せていますが、家庭でA3ノビぐらいにプリントしても、その差を見つけ出すのは大変だと思います。

 上の作例のエンブレム部分を画素等倍まで拡大した画像をトリミングして掲載しました。十分に解像していることがわかります。 焦点距離:35mm、絞り優先AE(F5.6・1/500秒)、ISO100、ピクチャースタイル:スタンダード、AWB、三脚使用。
<遠景の森>

 遠くに見える森の樹木の葉がどれだけ細かく解像するか見るのですが、これは僕がいつも行う高解像チェック法の1つです。ここではピクチャースタイルをスタンダードとディテール重視に変化させて比較しました。掲載の左右640ピクセルVGAサイズの画面全体写真では、その差を見ることはできないので、このような場面を撮影した状況説明の写真だとご理解ください。同じ設定で10枚近く撮影した中から、最も良いと思われるカットを抽出。とはいっても、画質的には各コマともほとんどフレてはいないので、今回使用した三脚、ケーブルレリーズの組み合わせが良かったのだと思うのです。

 ピクチャースタイルをスタンダードに設定。上の画面の中央部分を画素等倍に拡大し、トリミングして掲載。 焦点距離:35mm、絞り優先AE(F8・1/125秒)、ISO100、AWB、三脚、ケーブルレリーズ使用。

 ピクチャースタイルをディテール重視に設定。画素等倍に拡大してトリミングして掲載。こちらのディテール重視のほうが、全体的に色もわずかに鮮やかになり、シャープさが増した結果でしょうか、視覚的には細かく解像している感じがします。 焦点距離:35mm、絞り優先AE(F8・1/125秒)、ISO100、AWB、三脚、ケーブルレリーズ使用。
 このほか同じ森をアングルと焦点距離を固定したまま、1)ミラーアップの2秒後にシャッターが切れるモードでピクチャースタイルがスタンダード、2)ミラーアップの2秒後にシャッターが切れるモードでピクチャースタイルがディテール重視、3)ミラーアップの1/4秒後にシャッターが切れるモードでピクチャースタイルがディテール重視、4)ライブビュー静音モード1でピクチャースタイルがスタンダード、5) ライブビュー静音モード1でピクチャースタイルは、ディテール重視、と変化させて撮影しましたが、その結果は大変微妙で、左右640ピクセルVGA画面ではわかりにくいので、ここでは実データ画面の掲載は省略させていただきます。詳細な画像データは「京都MJ」のサーバーにて、画素等倍で実画面が見られるようにしてありますのでご覧ください。結論だけを先に紹介しますと、個人的には2)の、ミラーアップの2秒後にシャッターが切れるモードでピクチャースタイルはディテール重視とするのが、効果的であったと思うのですが、あくまでも見た目の印象でしかないのです。結局は、しっかりと防振対策を施したという成果と見るべきか、それともEOS 5Ds自体がぶれにくいカメラなのかとも考えられますが、この判断はここではつきません。

■高画素で光学ローパスフィルター搭載の意味

 いつもこのお堂の屋根を撮ると、いままでどのデジタルカメラもモアレが発生していました。あるときにそのことを見つけて以来、光学ローパスフィルターがなく、鮮鋭度が高いことを自慢する機種がでてくると、いつもこのお堂を撮影してきました。今回のキヤノンEOS5DsRは、光学ローパス効果を打ち消して鮮鋭度が高くなると、キヤノンはいっていますが、この部分の考え方は先述のようにあまり積極的ではありません。むしろ今後とも光学ローパスフィルターが必要であるといいきっているあたりが、他社とは大きく異なる点です。そこで、今回はEOS5Dsの光学ローパスフィルターの効果のほどを見てみようということになりました。結果は、以下のピクセル等倍のトリミング画像にも示しましたが、今までに見たことがないほどにみごとに屋根の板が細かく描写されています。しかも、モアレはまったく発生していないのです。これは今までに見てきた中では、どの機種よりもきれいであり、おみごとです。ピクチャースタイルはスタンダードとディテール重視をそれぞれ設定しましたが、わずかにディテール重視のほうがシャープがかかっている関係からか細かく見える感じがします。

 ここに掲載したのはディテールい重視のトリミング画像ですが、とにかくモアレの発生は見えません。この手の問題はむずかしいです。すでになぜこの屋根なのか、各機種のモアレ発生具合だけをチェックした僕のレポートがありますので、そちらを合せてご覧ください。EOS5Dsの描写のきれいさがよくわかると思います。これらを見る限りモアレに関しては素晴らしい結果がでました(本当にどれくらいきれいかは上記京都MJのサーバーにアップされたものと比較して確認ください)。撮影レンズ(EF24〜70mmF4 L IS USM)の解像力、5,040万画素という撮像素子に対し、最適化した光学ローパスフィルターを配置した結果が功を奏したのだろうと思いますが、大変気持ちの良い画像が撮影できたことは、特筆されることだと思います。 焦点距離:35mm、絞り優先AE(F8・1/100秒)、ISO100、ピクチャースタイル:スタンダード、AWB、三脚、ケーブルレリーズ使用。

■手持ちでランダムに撮影してみると
 ここまでは、三脚を使って細心の注意を払って撮影した結果ですが、高画素一眼レフは三脚使用でというのは、ニコンD800/D800Eでの考え方でしたが、その後D810に発展して、かなり安定して手持ち撮影が可能となりました。EOS5Dsも同じようにミラー振動制御システムを採用していますが、上記の作例では最大限高画素の特徴を引き出すべく、超重量級の三脚にワイヤーレリーズ、シャッター走行遅延モード、ミラーアップライブユー撮影など、可能な限りのカメラブレ効果を防止する撮影を行いましたが、今回はあまりにもブレないようにと気を使ったためにか、ブレによる具体的な画像の劣化は画素等倍の画像でも明確には確認できなく、最も効果的であったのはピクチャースタイルの「ディテール重視」モードでありました。つまり画像処理による画像の向上のほうが効果あったのです。
 とはいっても、これはブレ防止に対する配慮をカメラ製作側とカメラ使用者側が最大限配慮した結果の成果でありまして、実際一眼レフカメラならば手持ち撮影でどれだけ良い結果が得られるかというのが、本来最も知りたい部分だと思うのです。そこで、実際はどうなのだろうかということで、手持ち撮影の結果をいくつかお見せしましょう。
<いつものチャート的なマンション>

 このところ数回登場している立体的に細かくタイルが貼られているマンションです。左右640ピクセルにリサイズしてますが、オリジナルはやはり柔らかく描写されていますが、それぞれのタイルはしっかりと見えます。ピクチャースタイルは初期設定の「スタンダード」のままであり、やはり「ディテール重視」にセットしておけば壁面のタイルはもっとシャープになっただろうと考えられます。もうひとつ、実は同じシーンを他のカメラ、レンズで撮影しているのです。それによりますと、茶色いマンションの左隣の白いビルの窓枠には倍率色収差の発生らしきものが認められましたが、このキヤノンの組み合わせではほとんど見えないのです。このあたりはレンズの基本性能による部分であるかもしれませんが、レンズ光学補正機能による周辺光量補正か色収差補正やデジタルオプチマイザー機能の働きによるものかもしれません。このような技術は、その動作内容が見えないだけに、サードパーティーのレンズを使ったときにこのカメラではどのように機能するか、など大いに興味がわく部分です。 焦点距離:24mm、プログラムAE(F4・1/1000秒)、ISO100、ピクチャースタイル:スタンダード、AWB、手持ち撮影。
タマスダレの群落>

 池のほとりに植わっている一面に白い花が咲いたタマスダレの群落をねらってみました。その葉が1本1本、針のように細いのですが、拡大して見るとわかりますが十分細かく分解され再現しています。 焦点距離:24mm、プログラムAE(F13・1/320秒)、ISO1600、ピクチャースタイル:スタンダード、AWB、手持ち撮影。
ヒガンバナをアップ>

 撮影した時期はちょうどヒガンバナの咲く季節でした。どれだけ近寄れるかはレンズのもつ機能によるものですが、撮影レンズのマクロ域に入る手前ぐらいのポジションでクローズアップしました。画素等倍までモニター上で拡大して見ますとメシベの先にピントがきていて花粉まで見えますから画質的には十分なものです。 焦点距離:70mm、プログラムAE(F10・1/500秒)、ISO1600、ピクチャースタイル:スタンダード、AWB、手持ち撮影。
<池のほとりで>

 いつもの公園の池を何気なく見ると、止まり木にしっかりとカワセミが羽を休めていました。正午近いので、本来は森の中へ行っているはずなのにと思い、カメラを向けましたが、ボディについているレンズで最も長焦点側は70mmなのでまったくむりとは知りつつ、シャッターを切りました。しかし残念なのは長焦点側で70mmであることです。

 70mmレンズの画角で、VGAサイズではさすがカワセミもほとんど見えません。本来なら経験的にはこの場所では焦点距離600〜800mmぐらいが欲しいところです。そこで、画素等倍まで拡大しクロップ(トリミング)してみました。いかがですか、これぞ高画素イメージャーの威力です。 焦点距離:70mm、プログラムAE(F10・1/400秒)、ISO1600、ピクチャースタイル:スタンダード、AWB、手持ち撮影。
<レストランで写真展>

 知人がレストランで写真展を開きました。せっかくだからと数枚シャッターを切りましたが、その中に1枚おもしろい写真を見つけました。ピントは左から3本目のボトルに合わせましたが、そのキャップの上を画素等倍に拡大してびっくりしました。なんと、小さなホコリがしっかりと写り込んでいるのです。レンズ性能も当然ありますが、高解像イメージャーならではの写りだと思います。

 裸眼では、ぐっと近づき目を凝らして見なくては確認できないビンの上のホコリまで写っていました。レンズ性能と高解像イメージャーのコンビネーションがもたらした素晴らしい写りだと思います。 焦点距離:50mm、プログラムAE(絞りF4・1/40秒)、ISO400、ピクチャースタイル:スタンダード、AWB、手持ち撮影。

■高画素カメラの撮影法
 以上で、キヤノンEOS5Dsのレポートをおしまいとします。画素数がフルサイズで5,040万とチャンピオンで登場したEOS5Dsですが、まずはモアレ発生の少ないという特徴が見つけられました。高画素につきもののブレに関しては、実際、使ってみた印象では必要以上に手ブレを気にする必要はないということが正直なところです。これは何もキヤノンだけでなく、ニコンソニーの高画素機にも共通していえることです。どんどん撮影してダメなカットは捨てていく、これこそデジタル時代ならではの高画素機の撮影法だと思うわけです。高画素をどのように生かすか?それはユーザーそれぞれによって異なるわけです。
 そしてここに載せた実写作例はごくわずかであり、後日画素等倍まで拡大して見られるようにと、さらに詳しいテスト結果画面と手持ち撮影による多くの作例を、「京都MJのサーバー」にアップしてありますので、ご覧ください。(2015.09)