写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

2冊のフィルムカメラ本

 9月に入って2冊の本が僕の手元に送られてきました。1冊は写真家・赤城耕一さんの『銀塩カメラ辞典』、もう1冊はハヤタ・カメララボの根本泰人さんの『世界ヴィンテージ・カメラ大全』という本です。赤城さんから本が届いたときには、それほど深く考えずにざっと目を通しましたが、根本さんから送られてきたときに、あれ何か似ているなと思ったのです。もちろん、その内容として『銀塩カメラ辞典』は赤城さん的であり、『世界ヴィンテージ・カメラ大全』は根本さんそのものであるわけです。じゃあ何が似ているのかとなりますが、僕自身がもともと編集をやっていたからこそ思うのですが、1)どちらもフィルムカメラをテーマにしていること、2)赤城さんの本は「アサヒカメラ」に連載した記事の集大成で、根本さんのは「季刊アナログ」という雑誌に連載した記事の集大成であることです。もちろん、どちらもそのままではなく、前者には“大幅な加筆修正・新規原稿を加え再構成”、後者には“季刊アナログ大好評連載に書き下ろしを追加”となっているように、内容的にはそれぞれ見直しがなされていることです。3)どちらもハードカバー装幀であること、などです。小説などもそうですが、雑誌や週刊誌に連載した短編をまとめて1冊にまとめ上げられた本はいくつもあるわけですが、小説とは異なり、カメラ関係の解説本は毎月パラパラと読むのもいいのですけど、それらがまとめられると総体の知識として、さらに価値が出てくるわけです。赤城さんの本のカバーから引用させていただきますと、『座して死を待つのでなく、ここで最後の抵抗を試みて、銀塩カメラの魅力をあらためて辞典としてまとめてみることで、世界に向けて銀塩写真のすばらしさを訴求し、延命措置をはかろうというのが本辞典の目的のひとつである。』と書かれてありますが、これは写真家としての赤城さんの偽らざる気持ちでしょうし、この文章を根本さんに当てはめると、職業としてカメラへの関わり方が異なるので、最後の抵抗とは考えてはいないでしょうが、銀塩写真のすばらしさを訴求し、延命措置をはかろう……というくだりは、正にお二人に共通した思いではないかと思うわけです。
 それともうひとつ、それぞれタイトルが“辞典”と“大全”となっていますが、ここにも僕は注目しました。赤城さんの辞典の帯には『アカギ式銀塩カメラの楽しみ方67』とあるように、実際は本来の辞典とは異なっており、いまはなき銀塩カメラやカメラメーカー、さらにはアクセサリー、現像液であったりと、赤城さんの銀塩カメラへの思いや楽しみを辞典のように項目別に分類して読んでもらおうという本なのです。一方、根本さんの『世界ヴィンテージ・カメラ大全』は、大全と名づけられているわけですが、ざっと数えると約1,000機種のカメラの索引があり、それぞれが事細かに外観と各部を示すカラー写真とともに解説文で紹介されており、正に“大全”であるわけです。この内容の違いは、決して出版社が決めたことではなく、お二人の日常の写真というかカメラへの接し方そのものではないかと思うわけです。根本さんとカメラやレンズの話をすると、まるで機関銃のように次々と言葉がでてくるのです。僕はいまでは慣れましたが、知り合った当初はどこで、合いの手や返事を入れたらいいのかと苦慮しました(笑)。
 さて、それぞれの本の魅力はをいつまでも綴っていてもきりがありません。客観的な事実を記述しますので、どちらもぜひ手にとってご覧下さい。ちなみにここで掲載の写真の大きさが違うのは、片方をひいきしているからではありません。赤城さんのはA5判、根本さんのはA4でそれぞれ判型が違うので、感覚的に大きさに差がでるよう縮小してあります。
銀塩カメラ辞典:赤城耕一著、A5判ハードカバー 294ページ、平凡社、定価(本体1900円+税)、ISBN978-4-582-23122-9 C0072 \1900E、2012年9月12日発行
世界ヴィンテージ・カメラ大全:根本泰人著、本文オールカラー、A4判ハードカバー 279ページ(外箱付)、東京書籍、定価(本体3900円+税)、ISBN978-4-487-80706-2 C0072 \3900E、2012年9月19日発行
 最後に、赤城さんは“まえがき”の最初に『本書はおそらく日本最後、いや、世界最後の銀塩カメラのための辞典として編纂された』と書かれているわけですが、何と1週間後には根本さんの“大全”が発行されているわけです。ここは、赤城さんの執筆にあたっての銀塩カメラに対する思い入れとしての心構えであって、これからもまだまだ銀塩フィルムカメラの本はでてくるだろうと僕は願うわけです。