写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

フィルムの時代が残したもの

 かつての仕事の関係でしょうか、私の所にはいろいろな写真の貴重な資料が集まってきます。いつもカメラやレンズの話がメインになっていますが、たまにはフィルムというか銀塩写真をテーマにして書いてみようと思いました。下の写真をご覧ください。

≪表紙はビニール引き、シアン、マゼンタ、グリーンと分冊になっている≫

日→英/独/仏/西 5ヵ国語 写真関連用語集(改訂第2版)、1992年9月発刊

英→日/独/仏/西 5ヵ国語 写真関連用語集(改訂第2版)、1992年9月発刊

日→英/独/仏/西 5ヵ国語 写真関連用語集Ⅱ(第1版)、1994年4月発刊

 3冊とも富士写真フイルム営業技術の方がまとめた社員向けの5ヵ国語対応用語集で、1990年代の後半に私の所に、1冊の本にならないだろうかと相談に持ち込まれたのです。内容的に専門的すぎるということから本にはならなりませんでしたが、その時の検討材料としていただいたものを持っていたのです。

 いずれも読んで字のごとくで、「英語→日/独/仏/西」「日→英/独/仏/西」と写真関連用語をそれぞれ5ヵ国ではどのように表すかという用語集なのです。10.5×18.5cm判の体裁ですが、上からシアン色表紙158頁、マゼンタ色表紙150頁、グリーン表紙166頁、発行年月からすると上記2冊を出して、まとめあげたのがグリーンの3冊目ということなのでしょう。その内容の一部を以下に載せましたが、もともと写真が戦後はアメリカのイーストマン・コダック社が出したレポートなどが多く、それを翻訳するだけでも解説や本が成立した時期もあったわけですが、1990年代になると日本発の感光材料技術が世界を席巻するようになり、世界各地で働く富士写真フイルムの社員にとっては、英語から日本語への翻訳ではなく、日本語から英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語で感光材料の高度な技術や微妙な違いを伝える必要がでてきた時代だと考えるわけです。

≪本文ページの一部≫

≪本文ページの一部≫

 

■日/英 写真関連・感覚用語集(改訂新版・総合合冊版)、A5判・403頁

 こちらも、2003年に当時の富士写真フイルム株式会社営業技術部が発行したもので、私と同年だったOBの方が、面白いものあるからあげるよと言われ、2023年にもらったものです。発刊当時は、社名にまだ“写真”がついていましたが、2006年には「富士フイルム」に変わっているのです。

≪表紙はビニールになっていてハンドブックとして手元に置くことが前提だったのでしょう≫

 A5判403頁。日/英感覚用語集を手にしたときに、あれっと思ったのは上の3冊の用語集との類似性でした。よくよく調べてみてわかったことは、営業技術部のIさんが一貫してこれらの用語集をまとめられたことがわかります。それも、単なる化学的なテクニカルタームだけでなく、時間を重ねることによりフィルムやプリントの再現性だけでなく、写真にまつわる感覚的な部分まで英語化されているのが素晴らしいのです。

 ただ、2003年というと、カメラがフィルムとデジタルの生産が逆転した翌年であり、その後写真はいっ気にデジタル化へ向かうというわけですが、このような用語辞典を活用された時期には、世界に向けて富士のフィルムが攻勢をかけていたのだと思うわけです。

≪本文ページの一部≫

≪本文ページの一部≫

 時代も変わり、PCやスマホで数10か国語に翻訳できるソフトの活用が日常的になり、スマホでの音声入力、さらにはカメラで撮影した画面文字のOCRによる文字認識・抽出、さらに多国籍言語への翻訳・音声出力など、あっという間にできてしまう現代は、素晴らしい時代といえます。かつて海外旅行に行くときは、5ヵ国語対応JTBの旅行会話集や、小型の三省堂「ジェム英和・和英辞典」などを持参することによりそれなりに役立ちましたが、昨今ではスマホ1台の持参で相互通訳までできる時代ですから時代は大きく変わったというわけです。

 なお、これら4冊の写真関連用語集は、私の手元に置いてあっても宝の持ち腐れとなりますので、先人の方々のご苦労を未来に残すために、JCIIライブラリーに蔵書として寄贈してありますので、興味ある方はご覧ください。 (^_-)-☆