写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ペンタックスK-3マークⅢモノクロームを使ってみました

 リコーイメージングは、APS-C判のペンタックスK-3マークⅢをベースにモノクローム専用機の「ペンタックスK-3マークⅢモノクローム」を4月28日に発売しました。画素数は2573万画素で、ローパスレスのモノクロ専用CMOSを採用しているために高解像が得られるのです。これは通常のデジタルカメラではカラー用の撮像素子が使用され、ベイヤー配列R.G.G.B.の色フィルターが付加され補間処理でカラー画像が形成されているのが、本機ではダイレクトに画素数が反映されるために高解像な画像が得られるというものです。階調再現には、標準に加えてローキーでコントラストが高めの「ハード」、ハイキーでコントラストが低めの「ソフト」を選べ、さらに明暗とシャープネスのコントロールもできるのです。

PENTAX K-3 MarkⅢ Monochromeモノクローム専用のブラックボディとレンズ。わが家のデスクトップスタジオでは最も雰囲気のでる“別珍”によるバックだと簡単にいい雰囲気になるので時々使います。

 早速入手して、使ってその性能の具合を知りたいとテストしようと考えたのですが、ここで困ったことになりました。その最大の特徴である、ベイヤー配列のR.G.G.Bカラーフィルターがないことによるシャープさの結果の基準がわからないのです。解像力などの数値によるデータが得られれば良いのですが、比較データがなければ、実写を旨にした私のレポートでは本意ではありません。そこで、急遽、追加でカラーボディと高解像のマクロレンズリコーイメージングから借り、レポートの開始となりました。

≪左:ペンタックスK3-ⅢにHD PENTAX-D FA MACRO 100mmF2.8ED AW(フルサイズ用、2022年)を装着、右:ペンタックスK3-ⅢモノクロームにHD PENTAX-DA 40mm F2.8 Limited(APS-C判、2013年)を装着≫ ここではどちらもAPS-C判使用となるので、100mmF2.8は焦点距離約150mmレンズ相当の画角が得られ、40mm F2.8は焦点距離約60mmレンズ相当の画角が得られます。カラーボディとモノクローム仕様のボディは“SR”、PENTAX、K-3Ⅲの文字が色違いになっています。

≪左:HD PENTAX-DA 40mm F2.8 Limitedのフードはいわゆるフジツボ形の小型フードがついている。右: 元祖LimitedレンズともいえるFA43mmF1.9と並べてみました。フルサイズ、APS-C、口径比の違いがあるものの薄型レンズはどちらも魅力です≫

≪左:モードダイヤル≫ AUTO・プログラムAE・Sv・Tv・Av・TAv・M・Bと刻まれている。AUTOはすべて自動のAE、Svは感度優先のAE、Tvはシャッター速度優先のAE、TAvはシャッターと絞り優先のAE、Mはマニュアル露出、Bはバルブ露出、Xはフラッシュ同調速度、U1~U5まではよく使う露出モードと撮影設定をまとめて設定できるユーザーモード。≪右:D FA MACRO 100mmF2.8ED AWの外観とレンズ構成。発売時には300本限定で白鏡胴も用意されました≫

≪左:モノクロームボディ、右:カラーボディ≫ メニューからデジタルフィルターを選択すると、カラーボディの場合には、オフ ↑ 粒状性モノクローム ↑ ドラマチックアート ↑ ネガポジ反転 ↑ シェーディング ↑ ハイコントラスト ↑ レトロ ↑ トイとモード ↑ オフとループ状になっていて、カラーボディの場合には、オフ ↑ 粒状性モノクローム ↑ ドラマチックアート ↑ ソリッド物カラー ↑ ネガポジ反転 ↑ シェーディング ↑ ハイコントラスト ↑ レトロ ↑ トイカメラ ↑ 色の置き換え ↑ 色の抽出 ↑ オフのループ状のコマンドを選択できる。モノクロームボディのオフはモノクロですが、カラーボディのオフはカラーから始まるのは当然で、カラーボディの方は色+モノクロームとなるので、必然的にメニューは多いわけです。さらに細かい制御をしたい場合には、カスタムイメージからも調整ができ、これらの設定を覚え込ませ、簡単に呼び出せるようにするのがU1~U5までのユーザーモードとなるのです。モノクロームボディの場合には、カスタムイメージから設定するとトーンカーブが表示されるので、写真的に理解するならこちらからの設定がわかりやすいです。

■いつもの英国大使館の正面玄関と

 最初に述べたように、ローパスレスのモノクロ専用CMOSを採用しているためベイヤー配列R.G.G.B.の色フィルターがなく、モノクロ機ではダイレクトに画素数が反映されるために高解像な画像が得られ、カラーボディではR.G.G.B.の色フィルターのを通した信号を補完処理でカラー画像が形成されるので、モノクロ機では解像力が高いのではと考えました。まずは、そこから見てみることにしましたが、とりあえずはいつもの英国大使館正門を撮影してみました。

≪いつもの英国大使館正面玄関:DA 40mm F2.8レンズ≫ F5.6・1/2000秒、ISO400。AM10:15。天候は晴天、いつもの場所から、いつものように屋根直下のエンブレムにピントを合わせました。40mmレンズは約60mmレンズ相当画角となるので、屋根を入れると地面までは入らない挟角です。いつもは画角30mm相当レンズで行うのを標準としてます。画質的にはまったく問題なく、エンブレム周辺の壁面はツブレもなく窓枠のハイライトから、右樹木のシャドーまできれいに描写されています。

 さて、ベイヤーフィルターを使ったカラーボディと、使わないモノクロームボディの解像感の違いを引き出すにはどうしたらよいかテストしてみました。

≪正福寺地蔵堂≫ カラーボディにDA 40mm F2.8レンズ。F5.6・1/200秒、ISO200、晴天下での撮影ですが、中央部に屋根の庇の暗部が占める面積が多いためAEでは暗部が描出されるように+の露出補正がかかったようになり、屋根・空・左右の植栽はオーバー気味の露出成果となります。東村山市にある東京都内唯一の国宝である正福寺地蔵堂(1407年、応永14年建立)です。この建物の屋根はこけら葺きという、スギなどの木材を薄く切って重ねて、反り返った独特の形状を持っています。この状態で撮影して、屋根の部分を拡大すると、デジタルカメラの画素数が少なかったころはモアレが発生していたのですが、高画素となった最近はモアレは出現しなくなりましたが、カメラ・レンズのトータルな解像性能を知るにはなかなか有効な被写体です。

≪㊧モノクロームボディ、㊥カラーボディ、㊨カラーボディ・粒状感モノクロームモノクロームボディとカラーボディのカラー、デジタルフィルターをかけて同じように撮影して、中央屋根庇部分から上にトリミングして約120%に拡大しての掲載です。この極端な部分拡大でわかることは、カラーの場合とそのモノクロ画像はちょっ見た感じでは、カラーボディの方が解像感があるように見えますが、微細に見るとモノクロームボディの方はカラーボディとは異なる感じで微妙に解像している感じがありますが、これはボディ側の画質設計段階のシャープネスのかけ方の違いからくるものかもしれません。ただ解像というよりは、大変微妙ではありますが、階調的な再現幅はモノクロームボディの方が上という感じで、左のモノクロームボディの画像は、何となくこけら葺きの分離が幅広く見えていることになるのでしょう。いずれにしてもAPS-C判で2573万画素の120%拡大というような引伸ばしは通常はありえないことです。

≪いつもの風景 北山公園≫ モノクロームボディDA 40mm F2.8レンズ。F5.6・1/1000秒、ISO400、晴天下での撮影ですが、1つの例でカメラやレンズの性能や描写傾向を決めることはできません。ふだんは、拡大して中心から周辺の枝葉の細かい部分を見ていますが、今回はもう1つのアプローチでモノクロームとカラーボディ比較してみました。ここに掲載した全体画面からは判別できませんが、木道の一番先に3本に枝分かれした木があるのですが、その左側の幹に下から1mほどの位置に「PENTAX」と赤く中太マジックで書いたA4の紙を横にして貼付けてあるのです。

 以下、その結果を紹介しましょう。

≪㊧モノクロームボディ、㊥カラーボディ、㊨カラーボディ・粒状感モノクローム≫ 正福寺と同じように3種類撮影しましたが、100m以上離れたほぼ∞状態を示す距離をターゲットにしました。約300%の拡大画像ですが、㊧のモノクローム画像はかろうじてPENTAXと書いてあるのが何となく認識できます。㊥はカラー画像ですが、赤のガムテープで張り付けてあり、その部分は明確にわかりますが、文字部分はまったく読めません。㊨のカラーボディのモノクローム画像はまったく解読不可能です。まるで画像解析しているような感じですが、カラー画像の方が情報量が多いということを再認識しました。

■実際の撮影場面では?

 さて、何となくモノクローム専用ボディの画像と、カラーボディの画像の違いが分かったところで、これ以上比較してもその決定的な差を見つけ出すのは難しいので、さまざまな場面で使った感じをお見せしましょう。

≪英国大使館正面玄関の紋章≫DA 40mm F2.8レンズ: F5.6・1/1000秒、ISO400。40mmといってもAPS-C判では60mm相当となるので、いつもの正面玄関写真では門扉の紋章までは入らないので、近づいてアップしました。この写真からわかることは、炎天下で日差しは強いわりにはシャドーからハイライトまで柔らかく描出されている感じです。もちろん、撮影モードを変えたり、モニターが変われば見え方も変わるでしょうから、やはりプリントして判断しなくてはわかりません。

半蔵門国民公園≫ DA 40mm F2.8レンズ:F2.8・1/5000秒、ISO200。元英国大使館敷地にできた公園のテーブル。なんとなくイングリッシュガーデン風かなとも思いますが、背景の花の色はどのようなものかはイメージしにくいですが、画面中央左脇の黒いテーブルのエッジにピントを合わせました。黒のテーブルの中に白く輝く輝点もあり、黒の濃度は高いように感じます。DA 40mm F2.8レンズとしてみると、背景のボケ具合は均質で、クセはまったく感じません。

千鳥ヶ淵公園の遊具≫ DA 40mm F2.8レンズ:F6.3・1/400秒、ISO400。露出モードはプログラムAEで撮影。この遊具は子供向けに樹脂製で柔らかく、左の丸い部分は黄色、中央のくねった滑り台は緑、右端の滑り台は赤という具合ですが、モノクローム画像から元の色はなかなか想像つきません。フィルム時代のパンクロマチックかオルソパンクロマチック的な特性なのでしょうか。

≪写真家 石川武志さん≫ DA 40mm F2.8レンズ:F2.8・1/80秒、ISO5000。OMシステムギャラリーでの1カットです。特に露出補正は加えていませんが、ほどよく石川さんに露出がきています。カメラの自動露出補正での描写もありますが、ISO5000と高感度ながら柔らかみを持っているのは、フィルム時代の高感度描写とは異なり、柔らかでおとなしい描写です。

≪新宿の街角にて①≫ DA 40mm F2.8レンズ:F2.8・1/80秒、ISO100。街に活気が出てきたので、スナップです。店の奥の女性にはしっかり目線をもらっています。

≪新宿の街角にて②≫ DA 40mm F2.8レンズ: F2.8・1/80秒、ISO400。40mmレンズの直線性の描写は良好。やはり全体的に柔らかいです。

≪新宿の街角にて③≫ DA 40mm F2.8レンズ:F4・1/80秒、ISO640。歌舞伎町入り口にて。

≪新宿の街角にて④≫ DA 40mm F2.8レンズ: F2.8・1/80秒、ISO1600。プログラムAEで、暗い路上でしたのでシャッターは1/80秒と遅めですが、少しぶれた感じが雰囲気あり、お互いを撮りあったばかりなのしょうが、気持ち流動感があっていい感じです。FBでのプレビュー時点で上の写真に36票、このカットに13票の「いいね」が入りました。私的にはこのカットの方が写真的には面白いのですが。元都電の引込み線跡遊歩道にて。

≪新宿の街角にて④≫ DA 40mm F2.8レンズ:F2.8・1/80秒、ISO5000。上のカット比べるとプログラムAEでやはり絞り開放は当然のこととして、シャッター速度は1/80秒ですが、感度がISO5000にアップしています。この上昇はシャドー部が多かったからでしょうか。いずれにしてもハイライトからシャドーまで描出されていますが、地図案内のハイライト部がわずかに飛んでいますが、これを避けるにはマイナスの補正をかけるよりしかたないでしょう。DA 40mm F2.8レンズは実質約60mm相当画角となるのですが、スナップにおけるこの準望遠的な距離感に最初は戸惑いましたが、昨今の風潮を考慮するとこの距離感がすごく有効だなと思いました。

■HDペンタックスD FAマクロ100mmF2.8ED AW

 高解像感を調べるために借りた100mmマクロですが、ほとんどをDA 40mm F2.8で撮影をしてしまいました。手にしてみると、かつてMF時代のSMC ペンタックス-M マクロ100mmF4よりAFで大口径なのに小型なのには驚きます。そこで、わが家の自然色標準被写体として常備している枯葉類を撮影してみました。

エノコログサと枯葉:モノクロームボディ≫ 100mmF2.8マクロ、F2.8・1/160秒、ISO320、-0.7EV、レベル補正。露出補正なしで撮影したらわずかにオーバー気味でしたので-0.7EVの露出補正をかけ、さらにメリハリがつくようにとPhotoshopで自動レベル補正をかけました。中心部に配置されたエノコログサにスポット的にAFでピント合わせしましたが、絞り開放でも大変シャープであること、画面が均質な描写を示しているのは立派です。

エノコログサと枯葉:カラーボディ≫ 100mmF2.8マクロ、F2.8・1/160秒、ISO320、-0.7EV、レベル補正。撮影条件は上と同じですが、カラーの方が情報量が多いせいか、よりピントが合っているようにも見えますが実質は同じでしょう。

エノコログサと枯葉:モノクロームボディ≫ F8・1/160秒、ISO2500、-0.7EV、レベル補正。同じ条件で絞りをF8に絞り込みました。明らかに深度が深くなった分シャープな部分が増えましたが、解像力的には開放のF2.8と大きく変わりません。これはマクロレンズとして開放から諸収差が補正され十分な解像力が得られているので、これ以上絞り込むと回折により解像力は低下するかもしれません。

エノコログサと枯葉:カラーボディ≫ 100mmF2.8マクロ:F8・1/160秒、ISO1250、-0.7EV、レベル補正。絞り込みにより薄赤や橙に色づいた葉の葉脈もすっきり見えますが、まったく平面の紙などを複写する場合には必要以上の絞り込みは不要でしょう。左下のは乾燥しきった真紅のトマトです。

≪名前は不明の花ですが≫ 100mmF2.8マクロ:F5.6・1/400秒、ISO100、レベル補正。最初はこの草花を40mmレンズでモノクローム撮影しましたが、なんだかわからない絵柄となりましたので、改めて100mmマクロでカラー撮影しました。

≪約100%の画素等倍相当に拡大≫ 上のカットをトリミングしました。F5.6に絞ってありますが、画素等倍までプリントを拡大することは実際にはあり得ませんので、かなりシャープな像だとおわかりいただけるでしょう。

■デジタルのモノクロ単能機の意味するものは

 「ペンタックスK-3マークⅢモノクローム」を使った結果を紹介しましたが、カラーボディよりシャープであるかということに関しては、なかなか実画面(実プリント)での認識は難しいというのが正直な印象です。そこで、同じモノクロームボディを出しているライカユーザーにそのあたりを聞いてみると、かなり似た印象をモノクロームボディに持っていることがわかりました。つまり高感度に対応しながらも、階調の特性が豊かなのです。そもそも、「モノクロ=フィルム」描写と単純に直結して考えることにむりがあるのです。もしフィルムでの描写特性に例えるならば色素発色のモノクロームフィルムに近い階調というか描写特性でしょうか。いずれにしても、撮影時からモノクロにもいくつかモードも設定できますが、デジタルですからレタッチソフトでの調整、インクジェット出力なら用紙の選択、プリンタードライバーでの調整などもあるわけですから、簡単には決められないでしょう。

 ただ、今回さまざまなシーンでの撮影でわかったことは、個人的には街中でのスナップにデジタルのモノクロはすごく相性がいいと思いました。そこで、ブレを抑えたいならより高速シャッターで、深度が欲しいなら絞り込んでも感度で対応できるというわけでして、それらをカバーするのがデジタルならではの高感度、いや超高感度特性であって、これは何物にも代えがたいと思うわけです。さらに付け加えるなら、モノクロ専用機を持つ潔さ、思い入れも大切だなと思うのです。

 2022年末にリコーイメージングは、ペンタックスブランドでフィルムカメラプロジェクトをスタートさせましたが、むしろコンパクトなデジタルでモノクローム専用機をだしたほうがこの時期は話題性は十分でしょうし、そのブランドはリコーGRでも、ペンタックスエスピオでもいいわけでして、時代の流れに対して後ろ向きなモノ作りより、前に向いた製品作りであって欲しいと、考えるのは私だけでしょうか、熟考を願う次第です。 (^_-)-☆