写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

Takatiho ZUIKO レンズ

 オリンパスソニーが資本・業務提携を結んだと9月28日に発表されました。ソニーオリンパスに500億円の出資をして、議決権を握る筆頭株主となり、役員1人がソニーから派遣されるというのです。この先の詳しいことは、一般紙や経済誌をご覧いただければと思うわけですが、ここでは改めてオリンパスの歴史を簡単に振り返り、歴史ある“Takatiho ZUIKOレンズ”を紹介しましょう(Takachihoでないところがまず歴史を感じさせます)。

 オリンパス光学工業株式会社の前身、株式会社高千穂製作所が顕微鏡の国産化とその他理化学計器類の製作を目指して設立されたのは大正8(1919)年10月12日のことだった。大正8年第一次世界大戦終結以来、なお上昇を続けた景気がその絶頂に達した年である。生糸、綿織物を中心に輸出は増進を続け、電力、紡績等を中心とする企業の拡張増設は相次ぎ、また戦時中から輸入が杜絶した工業製品国産化のため、盛んに新会社設立が行なわれていた。わが国の顕微鏡は、明治初年以来、西洋医学特に細菌学の発達に伴い、その需要は漸増していたが、まったく外国製品に依存する状態だった。顕微鏡の輸入は明治の初期から行なわれ、始めはイギリス製品が中心であった。…中略…、その後、生物顕微鏡、双眼実体顕微鏡ではドイツのツァイス、ライツが台頭し、オーストリアのライトヘルトで発展した金属顕微鏡とともに国内顕微鏡の需要をほとんど独占していた。しかし、この顕微鏡を国産化しようと志すものが皆無であったわけではない。(1969年発行、オリンパス光学工業社史「50年の歩み」冒頭より抜粋要約掲載)

 つまり現在のオリンパスは、1919(大正8)年に株式会社高千穂製作所として顕微鏡と理化学計器の製作を目指した会社であったわけですが、1936(昭和11)年には初のカメラ「セミオリンパス」を発売を発売しています。この1936年の頃にカメラを生産していた企業で現在もカメラ製造を続けているのは、オリンパス以外には、精機光学研究所(現キヤノン)、リコー、旭光学工業(ペンタックスリコーイメージング)というわけで、歴史あるコニカミノルタ、ペトリがカメラ作りをやめてしまった現在では、オリンパスは日本のカメラメーカーとしては最古参に属することになります。1942(昭和17)年には、高千穂光学工業株式会社と名称を変えていますが、以下に“Takatiho”と名称の入ったレンズを2本を示します。

 左のレンズはライカスクリューマウントの50mmF1.5で、大変希少なものです。オリンパスの社史によりますと

 1936(昭和11)年12月「大口径を有する写真レンズの研究」をテーマに商工省の工業奨励金9,000円を交付された。このため当時わが国に2台しかなかったアスカニア製のオプチカルベンチとともにアダムヒルガーのインターフェロメーター(干渉計)スフェロメーター(球面計)を購入して、渋谷工場内に鉄筋コンクリートの測定室を新設して、研究の完璧を期した。当時の国産ガラスメーカーは、光学兵器に力を注ぐ軍の要請にこたえて正さ規模を拡大しつつあったが、なお国産ガラスのみを使って初めて50mmF1.5および50mmF2.0の写真レンズを作る困難は並大抵でなかった。しかし、その困難を克服して作られたこの大口径レンズは、材料の制限にもかかわらずきわめて優秀で戦時中、X線間接撮影用として島津製作所に供給され、また戦後ライカに装着されて、市中のカメラ店のショーウインドーに飾られていたとこともあると伝えられるほど、優れた性能を持っていた。

 右のレンズはズイコー250mmF4.5で、1943(昭和18)年に開設された伊那工場で生産された自動航空写真機用レンズとされています。3群4枚構成のテッサータイプ。1945年の終戦と同時に生産中止となり、戦後、一部暗箱用レンズとして販売されたことがあるようです。この2本のレンズ、掲載の都合から2枚の写真を1枚に組み合わせたために250mmが現物よりかなり小さく見えますが、焦点距離と開放F値から現物の大きさをご想像ください。いずれも戦前のレンズであり、“ZUIKO”とネーミングされているのが親しみがわきます。
 戦後は1948(昭和23)年に「オリンパス35I型」を発売、1949(昭和24)年にオリンパス光学工業株式会社となり、1949(昭和24)年にガストロカメラの研究に着手、1959(昭和34)年に「オリンパスペン」を発売、1963(昭和38)年「オリンパスペンF」発売、1972(昭和47)年「オリンパスM-1」発売、以後さまざまなカメラを開発・発売し、2003年オリンパス株式会社に社名変更、2004年には映像事業と医療事業を分社し、オリンパスイメージング(株)とオリンパスメディカルシステムズ(株)を設立しています。これだけ歴史のあるZUIKOレンズですが、ぜひこれからも後世に残るような物作りに頑張って欲しいものです。なお50mmF1.5はKYさん、250mmF4.5はSTさんのご厚意により写真撮影できました。