写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

25年ぶりの再会  山口聡一郎さん

 半年ぐらい前、職場に「SILENT RIVER」という1冊の写真集が送られてきました。差出人は山口聡一郎さん。何と25年ぶりの連絡で、知人の評論家で編集者でもあるタカザワケンジさんが紹介を書き、そのタカザワさんの紹介でとなっていましたが、差出人からどういう人かすぐ分かりました。1987年、当時僕は写真雑誌の編集者でしたが、写真ライティングの別冊を作るときにおつきあいいただいたコマーシャル系の写真家さんでした。その後はあまりおつきあいのないまま最近まできていましたが、当時は実直そのものの青年という感じでした。その山口さんから、7月の下旬に写真展の案内をいただき、8月20日から9月2日まで新宿の「蒼穹舎」で“DRIVING RAIN”というテーマでモノクロ写真で展示を行うというのです。うまいぐあいに時間がとれましたので、初日に訪問してみました。会場で、まずは作品を拝見と見ていましたら、山口さんが奥の事務室からでてこられまして、僕の顔を見たとたんに“あっ市川さん”と声をかけてくれました。

 お会いすると、25年という時はあっという間に縮まるもので、山口さんは当時僕がやっていたカイトフォトを武蔵野中央公園に見にきて、2週間後ぐらいに、立派な凧と撮影道具一式をご自分で作り上げてきたことにびっくりしたことを思い出しました。現在僕は、時間と体力の関係から地上に降りて写真を撮っているとお話ししました。山口さんはその後12年ほど写真をやめていたそうですが、写真活動を再開し、現在は岡山県に移住して、小さなホテルを経営しながら写真活動を行っているというのです。2012年の5月には岡山県の「奈義町現代美術館」で“山口聡一郎展 −Climate−”という個展を開いたのです。その内容は、岡山県東部の奈義町内の各所を、車の窓越しに撮った作品80点が奈義町の木材で森林組合が特別に製作した額縁に収められて展示されたそうです。同じタイトルで、4月には写真集を出版されています。今回の蒼穹舎での作品内容は、“DRIVING RAIN”とあるように雨の日に車のウインドー越しに撮影した作品だというのです。
 そして、作品の話をしているうちにおもしろい話を聞き出すことができました。東京にいるときはライカ判の1:1.5の縦横比の画面が似合ったのが、田舎にきてからは1:2の横に広がった画面が似合うというのです。その1:2のアスペクト比のカメラはどんなものなのか聞くと、普通のカメラでの写真をトリミングして作品に仕上げてるというのです。写真集も展示作品も正にモノクロプリントそのものなのですが、撮影はデジタルカメラだというのです。奈義町現代美術館でのClimateの時はキヤノンEOS5Dで、今回の蒼穹舎でのDRIVING RAINではキヤノンPowerShot G11だというのです。いずれもRAWモードで撮影し、モノクロデータへ仕上げるというのです。山口さんの興味ある発言は、決してカラーを否定しているわけでなく、『色という要素を除いても発表できる作品があるときはモノクロで作品を作り、カラーでの作品展も企画している』というのです。そのためにはつねにカラーデータも保存してあるそうです。展示、出版のスタイルは正にかつてのモノクロ時代ファインプリントそのものですが、素材はまったくのデジタルであるところに僕は注目しました。さらに話をお聞きすると、地方在住の写真家にとって作品展示と写真集制作にはデジタルの存在は画質、処理速度のどちらをとってもまったく的を得たものであって、その部分を積極的に使って作品づくりをしているというのです。もちろん出力はインクジェットプリンターで、エプソンのPX-5500だというのですが、その語り方は25年前と変わらない実直そのものでした。そして、とかく写真を語るというと作品内容だけだったり、カメラやレンズそのものであったりとかたよるわけですが、写真技術の現在を理解し、しっかりと自分の立ち位置を認識して作品制作を続けていくという姿勢に共感しました。そして最後にひとこと山口さんがつぶやきました。『写真をやっていてよかった。またこうやってお会いできたのだから』