写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

写真と作家について考えさせられた2つの写真展

 東京都写真美術館「イントゥ・ザ・ピクチャーズ」という写真展示が、2018年5月12日〜8月5日の間にわたり開かれています。この写真展は、東京都写真美術館が収蔵している作品を中心に142点を、1)まなざし、2)よりそい、3)ある場面、4)会話が聞こえる、音が聞こえる、5)けはい、6)むこうとこちら、7)うかびあがるもの、と分類し、会場での作品には番号が振られているだけで、どのような作家の、どのようなタイトルの、いつ頃の作品か、どのようなプリント種類か、どこの収蔵品か、等々一切作品解説に関する記述はないのです。唯一の手がかりは、入場受付でもらう作品リストに、それぞれの作品番号と、作者名・タイトル・年代・プリント種が、日本語と英語で併記されているのです。展示作品の作者の数は60名で、うち26名が日本人作家なのです。

≪「イントゥ・ザ・ピクチャーズ」の会場で配布された作品リストの一部を転載≫
 そしてこれらの作品をどう見るか、主催者の弁によると『…… 作品を時代の資料として見て情報を得るというだけではなく、自分の興味にそって作品の中に写っているものをじっ くり見ることで、それまで気づかなかった作品の別の一面に気づいたり、あるいは「わからないこと」を発見しその「わからなさ」をたのしんだり、ということも美術館での「まなび」です。(TOP美術館Web告知より抜粋) 』ということですが、僕は順を追ってそれぞれをみていくうちに、写真というものがもつ特性がそれとなく浮かび上がってきたと思ったのです。
 まず、画本位で見て、誰の作品かということでパンフレットを見ると、時々その名当てがみごとに外れて、裏切られるのです。世間でよく知られている旧知の作品を少し外れると、日本という撮影地、時代などが重なった、木村伊兵衛土門拳の作品が入違って見えたりするのでした。これは、僕の不勉強の部分が大きく作用していることに間違いなのですが、同じようなことが森山大道荒木経惟田沼武能桑原甲子雄等々の作品が輻輳して見えることもあるわけでして、そこに写真のもつ特性が表れているのではないかと思った次第です。また作品も、東京都写真美術館収蔵品をメインに、東京都写真美術館学芸員が展示のために集めたものあるために、ある枠にはめられた別の見え方が現れてくるわけです。簡単にいうと、荒木経惟の作品が僕が今まで見てきたイメージとは異なるとか、時には外人の作家が日本を撮ると、ということになるのです。ここに写真のもつ特殊性というか、危うさがあるのではないだろうかと思ったのです。
 さて都写美の展示方法が面白いと思っていたら、四谷3丁目にある「ギャラリー・ニエプス」で、大西みつぐ、中藤毅彦、ハービー・山口3人展、「TRINITY - 街・人間・モノクローム」という写真展が2018年7月15日〜29日まで開かれています。この展示は作家の皆さんとは知り合いなのでさっそく行ってみました。ニエプスのWeb告知によりますと『この展示は、長く街と人々のスナップを撮り続けて来た3人の写真家の競作展です。「街」「人間」「モノクローム」というキーワードの下、スタイルの異なる作風の3人の 作品が互いにぶつかり、響き合い、融合してひとつの空間を構成します。』というわけです。大西みつぐさん、中藤毅彦さん、ハービー・山口さんそれぞれに共通したのはモノクローム作品であり、スナップであり、いずれも話題の写真家で、それぞれが個性豊かな写真家であることは毎違いありません。

≪会場でお会いした中藤毅彦さんと大西みつぐさん。7月16日、夕方≫
 そして会場に入ってびっくりしました。なんと展示されている3人の作品にタイトルと作家名が書いてないのです。都写美の展示に続き、ここでもなのです。僕個人としては3人の写真は一瞥すれば判別はつくというぐらいに思っていましたが、なかなかそうはいきません。中藤さんに作品リストはないのですか? とお伺いすると、何もないというのです。さらに「見ればわかるでしょう」と言われましたが、外すとかっこ悪いので、ただただ黙って見て歩きました。やはりこれは面白いです。なお、7月28日16時から会場にて3人のトークショーが開催されます。入場定員は先着順20名程度だそうで、早くからの場所取りが必要でしょう。

≪少し大きめに展示の作品を写してみました。あなたは、どれが、誰の作品かわかりますか≫
 都写美の写真が、国内外、長期にわたって多くの写真家によって撮影された作品の展示であるのに対し、ニエプスの展示では、日本、それもかなり共通の時間と場で活躍されているよく知る写真家の作品なのです。そして都写美のそれぞれの写真が学芸員によって選ばれたのに対し、ニエプスの展示では作家自身のセレクトによるものだと思うのです。この2つの展示を見て、写真のもつ特性と、その中で時代を超えて個を主張できる作品とはどういうものだろうかと考えてしまいました。 )^o^(