写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

古い印画紙プリント

 久しぶりの自宅での連休。必要があって、古いカメラの写真を探し出そうと考え、いろいろと調べた結果、どうにか目的にかなう1枚を探し当てました。その写真とはキヤビネ判の黒白紙焼き写真で、カメラ機材の集合写真なのですが、目的のカメラ部分はわずか15mmぐらいの大きさにしか写っていません。何とかそのカメラ部分だけを仕上がりで左右150mm位で活用しようと手持ちのフラットベッドスキャナーの最高解像度である1200dpiでスキャンしましたが、拡大してみてびっくり、何と丸く絡み合ったような針金状のカビが立体的にレンズ部分に写り込んでいたのです。
 しかしまぁ、解像度1200dpiというと顕微鏡のような能力をもっているのですね。僕はカビの専門家ではないから、何カビかわかりませんが、そのカメラは1986年発売の一眼レフでしたから、印画紙はその時点のNEWSレリーズ用で、当然時代的にはRCタイプなのですが、とにかくびっくりでした。カビ入り画像はPhotoshopのスタンプツールで消しましたので事なきを得ましたが、キャビネいっぱいにカメラが写っていたらそんなに拡大プリントしないのでカビの発生は発見しなかったのにと思うわけです。ちなみに1つのカビの大きさは1mm弱の大きさで、目でも小さく確認できますし、指で触るとごつごつとしています。これには驚きました。当日は、600枚ぐらいのプリントをざっと見ましたが、中には定着不足で黄変しているのもありますが、ほとんどは問題ないものでした。たぶん、印画紙の表面はゼラチン質であるために何らかの有機的なゴミが付着していてカビが発生したものと思います。いずれにしても、印画紙の問題ではないはずで、水洗処理が有機物を含む井戸水で行われたのではないかと推測したわけです。やはり水洗水は、井戸、水道でも浄水器を通しておいた方がよかったのでしょうね。
 そこで考えついたのが、もっともっと古いプリントだとどうだろうと1900年代初頭のポストカードを引っ張り出してみました。何枚かあるうちで“女性の写真”を1枚を掲載しました。このポストカードそのものはイタリアでプリントされ、ニューヨークで売られたと裏に記してありますが、ヨーロッパでは1889年のパリ博覧会が開かれた頃からこのような絵はがきが流行したといわれています。この絵はがき、実は40年ほど前に新宿西口地下広場の通路で若いお兄さんが旅行用のボストンバックを広げて売っていた中から、本物の写真(印画紙)で人着(人工着色)が施されたなかで、きれいなものだけを1枚100円ぐらいで買いました。いま見ても、なかなか趣のある写真で、日本でも明治のころ外国人向けのポストカードがあったのを見たことがありますが、ヨーロッパでは子どもが花を持ったりした可愛い写真が多いのが特長です。そこで、この女性の写真で一番シャープな部分を拡大してみました。
 僕の経験では、この手のポストカードを600dpiとか1200dpiといった高解像度でフラットベッドスキャナーで取り込み、インクジェットプリンターでA3ノビに引伸ばすと、味わいある大型プリントができあがることです。これは当時のカメラが、引伸ばしを前提にしていなく、密着プリントであったために、印画プリントはかなり高解像度で、プリントそのものが紙ネガとして機能するために、複写しても大きな伸ばしに耐えられると考えられるわけです。この辺りは、目視でのプリントに合うように出力された昨今の一部のデジタルプリントとは大きく異なるわけです。そして拡大された部分をご覧になっておわかりになるように、特にカビのようなものは見あたりません。もちろんさらにさらに拡大すると表面に小さく軽い亀裂のようなものが見えることもありますが、この辺りは経時による表面の劣化という感じですが、ポストカードの大きさの程度では実にきれいです。さらに人工着色の筆使いが細かく見えてくるのは、最近のカラーが全盛の時代には、おもしろいことです。
 最後に、実際ポストカードとして使われた1枚をお見せしましょう。本来なら切手を貼る面には文章がびっしりとフランス語で達筆で書かれているのですが、そのために切手は写真面に貼られています。1909年にだされたハガキらしいですが、内容は僕の語学力からするとさっぱりです。
 それにしても写真を後世に残すためには、基本的にはプリントが一番いいと思うわけですが、処理が少し違ったりしたためにカビが発生したり、十分な定着や、水洗処理が行われなかったために、黄変したり、銀鏡が浮き出たり、変退色したりと趣味のアマチュアプリントなら自己責任でいいですが、プロのプリンターの仕事がそうであったために回収騒ぎがあったなどいうのも聞いた話です。写真は後々残るために、しっかりといい仕事をしてもらいたいものです。