写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ライカMモノクロームを使ってみて

 デジタルなのにモノクロ専用機である「Leica M Monochrom」が発売されました。2012年5月の発表会のときわずかに使ってこのブログで報告しましたが、詳細なレポートはできませんでした。でも、やっとじっくりとフィールドで使う機会ができましたので、一番の疑問点をレポートしてみましょう。まず僕の疑問は、M9とMモノクロームは5212×3472ピクセル(18Mピクセル)と同じ画素数ですが、M9をカラーで撮って、撮影データをグレースケール化するか、レタッチソフトでモノクロ化したのとは、最初からモノクロ専用機であるMモノクロームのほうが高画質であるというのです。確かに、ベイヤー配列されたRGBフィルターがない分だけ高画質であろうことはよくわかりますが、ではどれだけいいのだろうかというわけです。もとカメラ会社で企画をやっていた学者肌のKさんは、簡単に分解フィルターはRGBと3色だから3倍いいとか、ライカに使われている元祖コダックのCCD撮像素子で色分解フィルターはベイヤー配列でRGGBの4マトリックスなので4倍いいとかいうのですが、本当にそうなのでしょうか。これは数値計算して求めることができるかもしれませんが、そもそもデジタルカメラの解像度は画素数で決まるわけで、M9もMモノクロームも撮影の最大画素数は変わらないのですから、画質の根拠をどこに置いて、そのような数値が出てくるのだろうかということになります。ここで、実写派の僕としては、これを目に見える形に表したいと考えたわけです。

 でも、その前に僕なりの経験に基づいた計算を試みてみます(^-^)。まず、3倍とか4倍とかいうのは単純にフィルターで分光されるからということでしょうが、画素数というか画質は単に数でなく、面積で効いてくるということです。したがって3倍と見るなら、画質は3の平方根、つまり√3で約1.7倍ぐらい。同じように4倍と見るならその平方根である約2倍よくなると見たほうが現実的な値です。僕は、3の平方根分よくなると思うのですが、実際はさらに控えめの約1.6倍ぐらいよくなるというのが妥当な数値だと思うのです。この計算概念は、たとえばFOVEONの画質にもあてはまります。FOVEONでは基本画素数に対して3層分だからと単純に3倍しますが、画質的には3の平方根約1.7倍ぐらいよくなるというのが妥当です。(以上は経験則に基づいた計算式でありまして、正しくは現在学者肌のKさんに計算をお願いしていますので、後日報告できるかはお楽しみに)
 もともと僕は、写真の画質を単純に計算式で出せるとは思っていないのです。なぜならば、撮影のときには撮影レンズの能力も絡んでくるでしょうし、写真として見るときにはプリンターの能力にも関係してきます。やはりそこは、実際に写した結果で見るのがより現実的だと思うのです。ということで実写テストの結果を紹介しましょう。撮影場所は、毎度おなじみの英国大使館です。晴天の日を狙って撮影しますが、機材としては、MモノクロームとM9を用意しました。撮影レンズは残念ながらMモノクロームと同時に発表された「Apoズミクロン50mmF2」は用意できませんでしたので、手元にあった“ズマリットM35mmF2.5”を用意しました。念のために“ズミクロン35mmF2”も使用しましたが、今回の趣旨はレンズの能力を計るわけではないので、同じレンズでボディを変えて使った方がデータの不確定要素を少なくできるので、熟考の結果ズマリット35mmだけをここではお見せすることにしました。Mモノクローム、M9と同じレンズを使うのですが、さらにその他の撮影時のデータは、極力そろえるようにしました。まず、撮影レンズの絞りはF5.6、ピント合わせは距離計の合致部分で行いますが、焦点部分は画面中央の屋根のひさしの下の紋章部分です。このようにしておけばカメラが多少斜めでも大きくポジションと撮影画面を外れません(撮影時に旗を持ったおじさんにずーっとわきから話しかけられフレーミングに集中できずに画面が少し斜めです)。カメラの設置は三脚を使い基本的には2台のカメラ位置が変わらないように、さらにはブレの要素をなくそうとした配慮からです。加えて、カメラのISO感度は自動セット、ホワイトバランスはオート、6bitのレンズデータを反映させるモードにしてあります。それでは、撮影結果を披露しましょう。

【ライカMモノクローム】 ズマリットM35mmF2.5、絞りF5.6、シャッター速度:1/2000秒、ISO320

ライカM9】 ズマリットM35mmF2.5、絞りF5.6、シャッター速度:1/1000秒、ISO160

ライカM9】 ズマリットM35mmF2.5、絞りF5.6、シャッター速度:1/1000秒、ISO160、Photoshopにてモノクロ変換
 さていかがでしたか、このブログつまり左右640ピクセルVGAへのリサイズ画面ではその差はわかりません。そこでわが家のプリンターで最大限可能なA3ノビに両方をモノクロでプリントしてみましたが、やはりよくわかりません。A3ノビというと写真サイズでは半切よりもわずかに大きいのですが、その差はわからないのです。もっともっと大きくすればいいのでしょうが、この辺りは実際プリントしてみなければわかりません。そこで、インクジェットプリンターでぎりぎり写真として見える解像度である100dpiをめどに同じプリンターでプリントしてみたら、結果は確かな差がでました。やはりMモノクロームのほうが明らかに画質がいいのです。でも今回のようにAB比較をしなければ、A2ぐらいまではM9とMモノクロームの画質差はなかなかわからないのでしょうが、それ以上のA1やA0サイズ、さらには1.2m幅のロールに伸ばすようなときはその差は歴然としてきます。ここでは、そんな大きなプリントを見ていただくことはできませんので、MモノクロームとM9 の画素等倍での画質差を見てもらいましょう。これを見て、何倍いいかわかればすばらしいことです。

【ライカMモノクローム等倍画面】 ズマリットM35mmF2.5、絞りF5.6、シャッター速度:1/2000秒、ISO320。エンブレムの解像感、壁の質感と立体感など、明らかにMモノクロームがいいのがわかります。でも同じ画素数、同じレンズで、ここまで違っていいのだろうかという感じがします。

ライカM9モノクロ変換等倍画面】 ズマリットM35mmF2.5、絞りF5.6、シャッター速度:1/1000秒、ISO160、Photoshopにてモノクロ変換。ここまで大きくするかどうかは別にしてショックな画質です。実はナイショですが(笑)、第2世代ズミクロンの35mmを同じボディでとり比べたときの差も同じぐらいです。この部分はいずれ、京都ライカブティックのほうに詳細なレポートをするつもりです。

 デジタルカメラの時代はカラーで撮影してモノクロ出力する技法は、僕の作品づくりでは日常です。今回のブログでは、データでモノクロを見てもらうようにしたので、M9で撮影したデータをPhotoshopにてグレースケール変換しましたが、ふだんはそのような手順はとらずに、カラーデータのままでインクジェットプリンターのドライバー上でモノクロプリントになるように設定しています。そもそもデジタルになって、フィルムカメラの時代のように、今日は白黒かそれともカラーか、さらにはリバーサルかネガか、銘柄は、などなどとフィルムの選択は悩む部分が多かったのですが、デジタルになってからそのようなことはプリントするときに悩めばいいのだと思っていたのに、ライカMモノクロームの登場でまた振り出しに戻ってしまったのです。
 とはいっても先日開いた個展の「僕の五島」では、A3ノビで25枚モノクロプリントしましたが、どうしても一部の作品に色を捨てきれないので、POSTカードサイズで同じようにカラーで全作品25枚をプリントしましたが、どちらもご覧になった方も含めて、作者である僕も、簡単にカラーがいいとか、モノクロがいいとかいうのいい切れないということでした。
 ところで面白い発見をしました。ライカMモノクロームを使ってシャッターを押し、背面液晶で撮影画面をプレビューするとすべてが作品に見えるのです。つまり、カラーでは雑然としたなんでもない画面が、モノクロだとまるで作品のように見えるのです。たぶん、これが“モノクロ写真の魅力”の1つだと思うのです。ですからカラーで見れる写真は、そのままモノクロに変換してみても十分に作品として見れますが、逆にモノクロ作品はカラー化しても見れないこともあるというわけです。そこで考えましたが、カメラはカラーで撮影して、背面液晶とEVFはモノクロで見えるモードがあってもいいなと思ったわけです。このモードがあれば、撮影時にすでに気分は作家です。デジタルでは撮影時にモノクロ画面を選ぶことはできるのですが、カラーデータで可能性だけは残しておきたいものです。こんなカメラが欲しいと、とあるメーカーの技術者に伝えましたが、商品化の可能性は不明です。
 最後に、画質は解像度に加え、レンズの良さにも大きく関係してくるのだというあたりまえを再認識しました。ただ、どちらがどれだけ画質的に優れているかでなく、撮影者が日常的にどこまで大きくするチャンスを持っているのかが、ポイントとなることはいうまでもありません。ただし今回は、プリンターの解像度要素を加味していません。やがてそのあたりも明らかにしたいと考えています。

京都ライカブティックのHPに、Mモノクローム、M9ボディとズマリットM35mmと第2世代ズミクロン35mmを使った本格的レポートを掲載しました。ぜひご覧ください。