『写真技法と保存の知識』というタイトルからすると、さまざま思い浮かべてしまうのでしょうか。本書には“デジタル以前の写真−その誕生からカラーフィルムまで”という副題がつけられています。原著は、フランスの歴史科学研究委員会編で、フランスの写真保存研究の第一人者である国立保存センター所長のベルトラン・ラヴェドリン氏らの著作で、『Comite des travaux historiques et scientifiques,CTHS』という名で2008年に刊行されました。英語版もすでに出版されていて『Photographs of the Past:Process and Preservation』という題がつけられているので、英語のタイトルを見るとだいたい内容がわかりますが、すでに原本は版を重ねているという注目の書籍です。日本では、写真修復家の白岩洋子氏により翻訳され、日本大学芸術学部写真学科の高橋則英教授監修により青幻社より6月に出版されたのです。
本書では、ヘリオグラフィー、ダゲレオタイプ、ティンタイプ、アンブロタイプ、リップマンプロセス、塩化銀紙、鶏卵紙、焼きだし印画紙、サイアノタイプ、プラチナとパラジウムプリント、カーボン印画、ゴム印画、ダイトランスファープリント、コロタイプ、コロジオンネガ、カラーピグメントプリント、チバクロームプリント、ガラス乾板、ゼラチンシルバーネガフィルム、発色現像現像方式ネガフィルム、等々過去に発表されたさまざまな写真技法をほとんど網羅しています。
内容は、第1部:ポジ画像に始まり、支持体によって金属、ガラス、プラスチックフィルム、布、紙、さらに第2部ではネガティブ:紙、ガラス、プラスチックフィルム、第3部:保存、劣化の種類と影響要因、保存処置、デジタルイメージングと文化財保護、災害、等々です。このうちさまざまな古典写真技法は、歴史、製作法、劣化とケアというように細かく紹介されています。写真技法のルーツは、いうまでもなくフランスやイギリスにあるわけですが、本書は源流ともなる国からの研究書であるために、歴史的に豊富な作品群を例題に、カラー写真誕生以前の黒白写真を含めてすべてカラーで見せているために、作品そのものの風合い、さらには劣化の具合などもオリジナルの感じで見ることができます。なお、表紙カバーは日本人の家族写真で埋められていてるほか、内容も現在の日本の状況に合わせて加筆されているそうです。
≪体裁≫B5判変形(220×170mm)、368ページ ≪定価≫5,500円+税 ≪書籍コード≫ISBN 978-4-86152-617-6 C1072 ≪版元≫青幻社、http://www.seigensha.com
昨今、古典プリントに対する写真趣味人の注目度は大でワークショップなども多方面で開かれていますが、本書は、これらの人々への実技知識書として、さらには幅広く写真にかかわる多くのクリエイターを始め、写真教育関係者、古典写真を手にする博物館学芸員などの人々にとっては必携の書といえるでしょう。なお出版にあたっては、一般財団法人 戸部記念財団の助成を受けています。