写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ペンタックス17 を使ってみました

 リコーイメージングから、35mmハーフサイズのフィルムカメラが「ペンタックス17(イチ・ナナ)」として去る7月12日に発売されたので、早速使ってみることにしました。ところで国内のカメラメーカーから、本格的なフィルムカメラが発売されなくなってからどのくらい経つのでしょうか。さかのぼると、2011年3月に発売された「フジフイルムGF670Wプロフェッショナル」が最後だったと私は記憶していますが、もう13年も前のことになるのです。同じようにペンタックス最後のフィルムコンパクトカメラは、いまから23年前2001年の「エスピオ140V」ということだから、どちらにしてもかなり以前ということになります。

 写真は、カメラしてもフィルムにしてもどちらも工業技術製品ですから、その時代時代における最新のテクノロジーが導入され撮影領域を拡大してきたことは事実ですが、一度停止された製造技術を復活させるのは難しく、過去にSシリーズを復刻したニコン、コンパクトカメラの後にレンズ交換式で距離計連動のヘキサーRFを作ったコニカの例などと同様に、リコーイメージングの「ペンタックス17」の場合も同じくさまざまな苦労があったであろうことは十分に察しますが、まずは使いもしないでいろいろという前に、少なくとも過去60年以上前からカメラに親しんできた人間として、リバイバルフィルムカメラの「ペンタックス17」を納得いくまで使いこんでレポートしてみました。

■まずは外観から

 化粧箱から取出してみると、縦画面のハーフサイズといってもボディは横型で、極端に小型ではなく、適度なカメラらしい大きさがあるのは良い感じです。その反面、手にした人は軽ーいというの多いが、これは上下カバーはマグネシウム合金で作られているものの、その他外装、内部は樹脂で成型されている部分が多いのです。見た目よりは軽く感じるのはそのせいだと思います。撮影時にカメラを持つときにどのように保持するかは意見の分かれるところですが、そもそも本機がハーフ判の縦位置撮影が基本となっていることと、一眼レフカメラとは異なりレンズ部分が小さいので、レンズ部分を持って保持するというのは難しいのです。とはいっても、ファインダーをのぞいたまま、下部のゾーンフォーカスマークを見ながらピント合わせをすることもできるので、実際の撮影は縦・横位置の撮影もあるでしょうから、構え方はそれぞれでしょう。

ペンタックス17》いわゆる斜め姿写真ですが、今回はリコーイメージングが発表したニュースリリース写真がさまざまな角度から、ビシッと撮れているので、レポートする側としてはそれ以上の情報を提供しようと苦慮しましたが、私なりの1枚です。ついでにいうなら、この外観撮影はGRⅢで行いました。

 カメラは撮影のときも大切だけど、持ち歩きのときも重要です。カメラとセットに付属してくる最短撮影距離25cmの長さのハンドストラップも近接撮影という目的を持っているときはよいですが、コンパクトタイプの「ペンタックス17」はカメラは重量感がないので、個人的には首からぶら下げるネックストラップが好みです。ペンタックス17の場合は、ストラップによっては横吊りのほか、縦吊りもできるようになっていますが、私は胸元への横吊りが好きです。

 

《横吊りのネックストラップをつけてみました》今から50年以上前に、一部ライカユーザーのあいだで流行ったストラップですが、なかなか良い感じです。

 外観は前掲の写真を見ていただければお分かりのように、特別に奇を衒ったという感じはしなく、私としてはカメラを両手で持った時のトップカバーのデザインが好みです。特に中央部の黒色部分は、その形状は一見するとペンタ部のよう、もしくは外付けファインダー頭部のようにも見え、オールドペンタックスファンならグレーで刻まれた“AOCO” マークが好きということになるのでしょうが、黒地にPENTAX、CRAFTMANSHIP by PENTAX、FILM CAMERA、 フィルム位置マークなどの配置が、それとなくメカニックな感じがするのです。

《トップカバーのお気に入りの部分》外装は、上下カバーは射出成型されたマグネシウム合金でLXのチタンカラー仕上げ風に、フィルム巻上げレバーはオート110から、レンズキャップはペンタックスQから、巻戻しクランクはLXからのというように往年のペンタックスカメラのイメージをあちらこちらに流用するなど、らしさを打ち出していますが、基本的には樹脂ボディなので手に持った感じは意外と軽いのです。

《バッテリーはCR2を1個使います》グリップ部のネジをコインで回すと止めネジが外れますが、電池蓋と簡単に分かれてしまうので、なくさないように注意が必要。歳くうと意に反して、このようなネジを入れるのも難儀ですし、落下したとき拾い上げるのも一苦労です。電池は、ストロボの発光などにより寿命は変わるでしょうが、せっかくだからタイプCのUSB充電式のリチウム電池だと、あまり維持費を気にしなくては良いのではと思いました。

■フィルムの装填

 フィルムの装填は難しいことではありません。とはいってもこれは、さまざまなカメラを何十年も触ってきた私の世代だから言えることであって、最近の若い人、とりわけデジタルカメラスマホしか扱ったことがなかった人にはどうでしょう。

《裏蓋を開けました》フィルム巻戻しクランクを引上げると裏蓋が開くというメカニズムは過去の各社のカメラと大きく変わる部分ではありません。ただし、135フィルムにあったDXコード接点には対応していません。昨今のフィルムは、パトローネにDXコードがないものが多く、ISO400とか書いてあっても実効感度は100程度というカラーフィルムもありますので、現在のフィルム環境だと現実的にはこの方がマッチしているのでしょう。

《フィルムを詰めてみました》いわゆるフィルムのベロを適度に引き出し、裏蓋を閉めて、フィルム巻上げレバーを巻き上げればよいだけの、イージーローディング方式です。このあたりのメカを見ると他社の方式にも似ているような感じもありますが、わが家に眠っていたペンタックスズーム70と見比べると巻上げ軸の部分は似てる感じでした。アイピース右側の穴は電気レリーズ用の2.5㎜Φのミニミニジャック用ですが、このボディからすると穴が大きく、ゴミや水が入るということではなくても、ここには気持ちとしてカバーキャップが欲しいところです。

 

《距離指標》上から見ると6点のゾーンフォーカスマークが刻まれています。この刻み具合だと、私としてはメートル距離表示のほうがわかりやすいのです。焦点距離F値など、過去の例から見ると3~4点ゾーンぐらいが妥当です。何でこんなに細かいのだろうと、下から見ると、メートル、フィートとそれぞれ6ポイント目盛られているので、ここからくるのだとわかりました。なお、ファインダーをのぞくと、レンズ鏡胴上部に刻まれているゾーンのマークが読み取れます。個人的には、m表示が上に来ていたほうがわかりやすいのですが、皆さんはどうなのでしょう。レンズ構成は、3群3枚のトリプレットタイプ、3群4枚のテッサータイプに比べるとどうなのでしょうか。一般的には、トリップレットは構成枚数が少ないだけに色ヌケが良く、中心部がシャープだといわれていますが、最新の光学設計とコーティング技術により、どのような描写を示すかが楽しみです。

 なお、フォーカシングは目測ですが、シャッターボタンを半押しするとレンズがピコッとわずかに前後するので、いわゆるヘリコイド回転による距離合わせと異なり、直進的に前後するアクチュエーター方式を採用しているのが新しさを感じます。ただこの方式が製造上のメリットからくるのか、次期モデルへの布石なのかはわかりません。

《左:裏蓋を開いた背面》ファインダーアイピース右わきには、充電完了・警告などを知らせるLEDランプがあり、さらに中央下にはPENTAXと書かれています。シャッターはビハインドレンズシャッターであることがわかります。また、暗箱内部はかなり入念にフレアカットの遮光版が付いています。フィルムガイドレールは樹脂でして、磨き上げたという感じはありません。シャッターは、ビハインドレンズシャッター式で、B.4~1/350秒の秒時。レンズ背面には固定絞りが設けられていて、その背後(フィルム面側)にシャッター羽根が設けられています。作動させてみるとプログラム式でティアドロップ式の2枚の羽根を開閉させて露出を制御する機構のようで、フィルム感度の情報を得て、シャッタースピードの制御を行うプログラム式のようです。このあたりの技術は、明らかにされていないことと、あえて細かく聞いていませんので、あくまでも個人的な判断でしかありません。

《右:裏蓋を閉じた背面》ファインダーをのぞくと視野枠が見えますが、近接時のパララックス補正はかなり下に降りているので撮影時は要注意です。さらにアイピースのネジはマイナスネジを使ってます。このあたりもクラシックを意識したのでしょうか。さらによく見るとネジの摺割が大昔の木製カメラのようにそろっているのです。さすがクラフトマンシップカメラと思ったのですが、改めて正面のネジを見るとバラバラなので、そこをもってクラフトマンシップということではないようです。

 なお、カメラ各部の操作に関しては、人それぞれの考えがあるでしょうが、まずはでき上ってきた商品には、使用者自身がそのカメラの操作に慣れることが大切だと思うのです。

■フィルムは何を使うか

 さっそく撮ってみようと、フィルムを調達することになります。ここで一気に20数年前に戻されてしまいました。フィルムには、黒白、カラーリバーサル、カラーネガと3種類あるのです。かつては、撮影前日まで何のフィルムを持って行くか大いに悩んだものでしたが、昨今のフィルム事情などを考えて、カラーリバーサルをまず外し、黒白かカラーネガかとかあれこれ考え、せっかくフィルムを使うなら、現像からプリントまでデジタルの介在がなく純粋にアナログで通せるようにと黒白フィルムをメインにして選びました。撮影はいつものご近所と、せっかくだからと秩父まで出向いてみました。実写は近接から無限までといろいろですが、シャッターを切っていて、つい失敗がないようにと、1場面に3~4カットぐらい切ってしまいました。このあたりは、カメラになれがないからでしょうね。

■現像に出してみました

 まず、フィルム現像に出しました。実は身近な環境でフィルム現像とプリントができるのですが、今回は現像・密着プリントまでいくらかかるのか知りたくて、駅前の大きなカメラ店に出してみました。カラーは翌日上るのですが、黒白は1週間かかるのです。以下が、現像・密着プリント(ベタ焼き)の結果です。

《ベタ焼きから大きく伸ばすコマを決める》せっかくやるならとまずはベタ焼きにして、さらにsmcペンタックスフォトルーペ5.5×でのぞいて判断しようというわけです。ざっと見ていただいてお分かりのようにコマ間隔はそろっていますし、露出はすべてAUTOポジションで(これは私の主義で、どんなカメラでもその会社の設計思想を知るためにまずはオートで撮ります)、露出補正はかけていませんから、濃度のバラツキもありません。なお撮影モード:AUTOポジションは、フルオートという意味で、露出のほかピントもパンフォーカスになるというのです。ハーフ判で焦点距離25㎜ということだとほとんどの撮影はパンフォーカスで問題ないと考えますが、念のため撮影時には距離リングをそれらしい所にセットして行いました。

 仕上がったベタ焼きから、各コマを細かく見ようとしましたが、ルーペがフルサイズ用の5.5倍では微細な部分の判断がつかないのです。これは、ハーフ判によるせいもありますが、ピントを細かく見るには10倍ぐらい欲しいのです。そこで10倍のルーペを使い、引伸ばすカットを決めましたが、実はここまでくるのには大きなビックリがいくつかありました。まず、イルフォードのHP5+36枚撮りが1本1,500円、現像代が1,230円、4切密着プリントが3,590円なので合計6,320円なのです。これを2本撮り、さらにカラーネガを36枚を1本撮り同時プリントしましたが、フィルム代が3,000円、現像代が930円、L判プリント@56円で、74枚プリントだと4,144円、何と総計で8,000円かかったのです。ここまでかかると総計するのは、止めました。ここで個人的には悲鳴を上げ、以下は周りの方々に助けてもらいました。

 なお、このイルフォードHP5+には、黒白フィルムなのにフィルム自体にDXコードがサイドプリントされているのです。DXコードは、パトローネのテレンプの下にある市松模様(撮影可能枚数、感度、ラチチュード)、フィルムのベロの部分、フィルムのエッジ部分に規格当初は制定されていましたが、フィルムエッジ部分から種別を読み込むのはカラーネガフィルムの自動プリンター用であって、黒白フィルムにプリントされているのは初めて見ました。同様な例としてはかつて3M社(イタリア・フェラニア社)のカラーリバーサルフィルムであるスコッチクロームにもDXコードのエッジプリントがなされていたのを見ていますが、他にはありませんでした。

《今回のプリント作業の結果》完全にアナログプロセスで通した黒白写真ですが、それぞれをノートリミングで6切印画紙を1/2にして余裕を持たせてプリントしましたが、結局はブログに載せる時点でフラットベットスキャナーでデジタル化されるのです。

いつもの場所で撮ってみました

 私のカメラレポートの実写はいつもここから始まるのです。

《英国大使館正面玄関》ペンタックス17のレンズは、トリプレットの25㎜F3.5。35㎜フルサイズに換算すると37mm相当の画角となり、もともとこの場所はフルサイズ35㎜を想定して設定してあるので、ジャストフィットとなりました。撮影モード:AUTO、距離設定:∞、フィルム:ILFORD HP5プラス(ISO400)、現像:アートラボ、引伸機:富士B、印画紙:ILFORDシルバークロームRCペーパー(2.5~3号相当に設定)、145×105㎜(余白を除く)、引伸ばしプリントをフラットベッドスキャナーで読込み、レタッチソフトでトーン・濃度を整えました。撮影は、いつものように午前10:00ごろ。天候は青空ですがわずかに薄っすらと雲がなびいています。

 仕上がり結果からすると、このような場面で一般的にはコントラストを高めるためにY2フィルター(40.5㎜Φ)をかけるのが従来でしたが、ここ25年ぐらいはフィルターを使わずに私は撮影してきたので、フィルターなしの撮影となりました。ネガフィルムをルーペで覗いた状態とプリントからの印象としては、ISO400という高感度のせいでしょうか粒子が粗いような感じがします。これは、フィルム自体の性能なのか、現像条件からくるものなのかは、サンプル数が少なくわかりません。ただ、絞り・シャッター速度はいくつかわかりませんが、明確にわかることは、左右の樅ノ木の葉がしっかりと解像していないのはパンフォーカス撮影だからでしょう。

《シカのイルミネーション》撮影モード:AUTO、距離設定:1.7m、その他条件は英国大使館正面玄関と同じです。夜になると網状に作られたシカにLEDランプが埋め込まれていて点灯するのですが、奥武蔵のホテルの庭園は夜にはクマがでるかもしれませんので写真は撮れません(笑)。プリントを直にみると画面全体が白っぽくフレアがかって見えましたので、デジタイズした時に、トーンとコントラストを見た目でよい感じになるようにレタッチソフトで調整しました。撮影距離は目測でゾーンの人間2人(1.7m)に合わせましたが、下の芝目を見ておわかりのように、シカの下の芝にピントがきてることがわかり、かつて目測のカメラをたくさん使いこんだ時の勘というか経験がまた生きていることが証明されたとうれしいです。しかし、撮影モードはAUTOなので距離設定に依存しないのでしょうが、芝目からすると距離設定は働いているようです。ついでながら、露出に関する勘もまだまだ健在なはずなので、絞りとシャッター速度を自分で決められれば、写真の露出の原理がわかっていいのにとも思いました。

長瀞豆腐ずくめランチ》撮影モード:AUTO、距離設定:0.5m(やはり距離設定は多少効いているようです)。料理のナイフ・ホーク位置で撮影しましたが、35㎜判37㎜相当画角では、テーブルの上に乗った食事全体をカバーできませんでした。かつて海外旅行が流行ったときに人気だったフィルムカメラは、機内食のトレイを席を立たずに撮影できるのがポイントでした。今回は屋外のテーブルに置かれたトレイを前に立って真上から撮影しました(長瀞にて)

秩父武甲山撮影モード:AUTO、距離設定:∞(この状態から見るとパンフォーカスのためなのかなとも感じます)。秩父に来ると必ず寄る定点撮影ポイント。全体的に柔らかく描写されていて、古い時代の黒白写真を彷彿とさせます。画質は、カメラ、フィルム、画面サイズ(ハーフ判)、撮影、現像、プリント、スキャニングなどすべてに関係した結果なので、ここに写真撮影技術、処理のうまい・へたなどが関係してくるので簡単に断定はできません。

《廃校になった小学校の卒業記念モニュメント》撮影モード:AUTO、距離設定:1.2m。かつての卒業生たちが残していった手作りの人形や顔型ですが、薄暗い場所で感度400、絞り値はどのくらいかわかりませんが、焦点距離25㎜のパンフォーカスではこんなところなのでしょう。

《酒瓶とドクダミの花》撮影モード:AUTO、距離設定:1.2m。2本撮影した中で選んでプリントした中で、左斜め後ろから太陽光があたり、階調、黒の締まり、解像感など一番良かったカットです。デジタイズした時に残念ながらその感じは失われました。やはり黒白フィルムはオリジナルプリントで見るのが最高ですね(小鹿野宿にて)

 

《BOKEHモードとAUTOモード絞り開放となるBOKEHモードの効果を見るためにAUTOモードと同じ時間と同じ場所で撮影し、2コマ同時にプリントました。撮ったときは、左がAUTOモード、右がBOKEHモードですが、昼過ぎの炎天下では差がでません。わずかに露出的にはBOKEHモードのほうがオーバー気味に露出がかかっているようで、プリント濃度に違いがあるものの、描写にはその差はわかりません。

■カラーネガフィルムで撮ってプリントを作る

 やはり現在は、カラープリント、それもネガカラーフィルムからがスタンダードかと考え、カラーネガフィルムで撮ってみました。ここではカラーネガを36枚を1本撮り同時プリントしましたが、先述のようにフィルム代が2,000円、現像代が930円、L判プリント@56円で、74枚プリントしたら4,144円というわけです。つまり、ネガカラー36枚撮りフィルムを1本使うと7,000円近くかかるというわけです。0円プリント時代にハーフサイズの同時プリントを頼むと500円ぐらいで仕上がりましたから、その時代を知る私にとっては、ただただつらいです。

半蔵門国民公園にて》撮影モード:AUTO、撮影距離:1.2m。L判プリントをフラットベットスキャナーで読み取ってのデータですが、拡大掲載となりますが、特に問題なくきれいに描写されています。右上の枯葉からはボケを感じさせます。

《バラの花》撮影モード:AUTO、撮影距離:1.2m。上と同じ条件で急いで撮影したために、背後の葉にピントが合ってしまいました。バラの花がベターッとして赤いのはピントが外れていることもありますが、カラープリンターの特性で緑1色の中に対抗色の赤があると、極端に赤が強調されベタッとした再現になります。同じようなシーンでは緑1色の芝生の中などでも起きます。理想的には、上のカットのようにさまざまな色が混ざっているほうがプリント時の色判断がしやすいのです。こういうのを専門用語でカラーフェリア(赤メクラ)と呼んだようなこともありますが、40年ぐらい前の話ですね。この一連のプリントの裏面を見るとNNN +1とか+2、+3とかでわずかに濃度を操作しているようですが色は標準のそのままのようです。

■カラーネガで撮ってデジタルデータに変換

 結局、昨今のフィルム好きの若い人たちは、カラーネガで撮り、現像に出して現像済みフィルムは持ち帰えらず、デジタルデータだけを受取るとも聞きますが、半分理解できる半面、それではフィルムで撮る価値はないでしょうというのが私の考えです。そこで見つけたのが、ペンタックスファンのフォトグラファー中村文夫さん。同じようなことでテストしていたので、資料提供の協力を申し入れ快諾を得られたのです。

 以下は、中村文夫さんからのデータによります。今日、フィルムからのデジタイズは、一般的にはフィルムスキャナーを使うのが簡易ですが、ここでのネガとリバーサルのデジタルデータ化は中村文夫さんの方式によりました。

《ネガカラーフィルムの像》中村さんはこのカットをデジタルカメラで複写したのです。カメラ:ペンタックスK-1MkⅡ、露出:1/20秒、ISO400、7360×4912ピクセルで取り込み(撮影・デジタイズ:中村文夫氏)

《カメラを使ってネガ像をポジ画像に変換》一部のカメラではカメラ内でネガ-ポジ変換できますが、レタッチソフトを使ってもネガ-ポジ変換できます。カメラ:ペンタックスK-1MkⅡ、露出:1/20秒、ISO400、7360×4912ピクセルで取り込み(撮影・デジタイズ:中村文夫氏)

《カメラ屋さんのプリンターでデジタイズ》現在一般的には、カメラ店、現像所のプリンターを通してデジタルデータ化するのが一般的でしょう。これは、中村さんのお住まいの近くの大型店で処理してもらったデータです。Exifからノーリツプレシジョン社のQSSプリンターでデジタイズされたことがわかりました。取り込みデータ量は2903×2040ピクセル写真屋さんのカラープリントは安全を見込んで周辺がトリミングされます。発色の違いは、レタッチソフトやカラープリンターの修正範囲です。(撮影:中村文夫氏)

■カラーネガフィルムで撮影しデジタルデータでもらう

 結局、あれこれやって、経済的にも納得できるのは、カラーネガフィルムで撮影し写真屋さんでデジタルデータ化してもらうのが、現在フィルムを使って画像を作り出すのには最もコストパフォーマンスが高いとなるのです。

 若いフィルムカメラファンが、ペンタックス17を使って24枚撮りで、ある全国チェーン店に出したら、現像・プリント・データで3,110円(税込)だったようです。ちなみにフィルムは3年前に購入したフジカラーN100で、その時には1本737円だったようです。

《全国チェーン店のネガカラーフィルムからのサービスの種類と価格》それぞれ価格が設定されていますが、色調補正に、「カラフル:色鮮やか・楽しい雰囲気」、「レトロ:ノスタルジックな世界観」、ハイキー「ふわっと・淡い印象」と別料金ですが、やはり若い人たちを顧客としてつかもうとすると、このようなプリントのバリエーションがあってもおかしくなく、スマホへのデータ転送サービスなども含めて、時代の動向をしっかりつかんでいるといえるでしょう。

■カラーリバーサルフィルムで撮ってみました

 中村文夫さんが、カラーリーバーサルフィルムで撮影したというので拝見し、さらに拡大撮影したデータをいただきました。カラーリバーサルフィルムの現像は大型店で1本2,000円だったそうで、これにフィルム代1本4,000円ぐらいを加えると、やはりバカになりません。

《現像後のスリーブをライトボックスに載せて撮影しました》リバーサルらしくわずかに露出アンダー気味な感じもしますが、大きく伸ばすにはちょうどよい濃度に上がっています。今は、フィルムスライドプロジェクターもありませんし、スライドマウントもありません。やはりデジタルデータ化して使うほかは用途はありませんね。

《観光バス》東京北の丸公園武道館の向かいにある駐車場に停まっている観光バスです。デュープカメラ:ペンタックスK-1MkⅡ、レンズ:50㎜マクロ、露出:1/20秒、ISO200、7360×4912ピクセルで取り込み。かなり良い感じで複写できています。アスファルトの路面がマゼンタ発色するのはフィルム時代にはよくありましたが、デジタルで補正はできる範囲です(撮影・デジタイズ:中村文夫氏)

《逆光の銅像銅像は、北の丸公園の旧近衛師団本部の脇にある北白川宮能久親王の騎馬像。デュープカメラ:ペンタックスK-1MkⅡ、レンズ:50㎜マクロ、露出:1/20秒、ISO200、7360×4912ピクセルで取り込み。逆光なのに、ゴーストイメージやフレアの出現を感じさせません。やはり最新のHDコーティングの成果でしょうか(撮影・デジタイズ:中村文夫氏)

 かつてカラーリバーサルフィルムといえば、スライド映写、印刷用の原稿として多用されましたが、また、プリントするためにはチバクロームコダック14RCタイプのポジ-ポジカラーペーパーを使ったり、インターネガ(カラーネガ)フィルムで複写して引伸ばしプリントするなどいくつかの材料とテクニックがありましたが、それらに向けた感光材料はすでに遠い昔に廃止となっていて今は、デジタル化しかありません。

フィルムカメラのむずかしさを改めて知る

 今回のペンタックス17の試用にあたっては、フィルム全盛時代の正統のやり方を現在可能な限りな方法で試してみました。もし黒白フィルムを何が何でもアナログ処理を通そうとするなら自家処理か一部のプロラボに持ち込むしかなく、さらにカラーネガフィルムを引伸機で面露光でプリントしようとすると一部プロラボ(例えば、東京赤坂のフォトグラファーズラボラトリー: 03-3583-1607)しかありません。カラーリバーサルフィルムも同様で、現像も富士フイルムか、上記プロラボぐらいしかありません。

 それと厄介なのは、かつてのメジャーなフィルムメーカーの商品ラインナップも少なくなり、街には未知のわからない名称のフィルムが氾濫しています。一部にはカラーネガフィルムの場合には、既存の現像ラインに流すと、組成が異なるため大手ラボ系列でははっきりと受け付けないことを明言しているのも現実です。またカラーネガフィルムの一部では、Cine、昭和レトロ、〇〇〇70sとか、×××80sなどと名記したものもあり、それぞれが昭和のレトロな色再現であったり、さらには1970年代に撮ったカラーネガのプリントが退色した感じに仕上がったり、80年代のとかいうわけで、つまりかつてカラー写真に求めた忠実な色再現などへの意識は希薄なのです(自動プリンターを通すとその色調も補正されてしまうのでは?と思うのですが)。そのあたりに対して前掲のチエーン店のプリントオーダーリストには、時代にマッチさせた色再現注文ができるのも素晴らしいことです。また、一部フィルムにISO400と銘記されていても、実行感度が100相当しかないのもあり、なかなか難しいです。

 業務用のカラープリンターもデジタル化され、フィルム画像をどのような解像度で読み取り、出力しているかは、アナログ時代とは大きく異なるのです。逆にデジタル化により救われているのも事実であり、従来だとカラーネガフィルムの場合-1段から+2段ぐらいが適正に焼ける露出許容範囲だったのが、かつて私が試した富士フイルムのフロンティアの場合には、-3段、+5段ぐらいまでは普通にプリントできてしまうのです。これだと、実効感度が100でも、ISO400にセットしてもプリントできてしまうのです。一方でこのような高価な現像・プリントシステムは一般小売店では維持することができなくなり、店内での処理はインクジェットのプリンターによるようになったりと、大きく変化してきています。また、黒白やリバーサルは現像料金や処理への所要日数も地方へ行くことにより高く、時間もかかるというのも現実です。

 簡単にいえば、フィルム全盛期の時代から考えると、収集から処理、デリバリーまでしっかりと複数確立していたのが、システムとして成立しなくなったのです。

 上に掲載したグラフは、私が今から18年ぐらい前に東京工芸大学でイメージングマーケットというテーマで授業をしていた時に使った黒白フィルムと印画紙の生産の推移を示したパワーポイントの画面ですが、何と1966年がピークなのでして、2006年にはほとんど消え入るような状況になっていたのです。これにカラーフィルムとペーパーの生産を加え、さらにデジタルカメラの伸張・推移、さらにはスマートフォンの台頭などを加えると写真全体の推移がわかります。昨今は明らかに写真を楽しむ層が増えてきたのは事実ですが、高度に進化してきれいに写るデジタルカメラの画像に飽き足らなくなった人たちが、自分だけの表現技法としてシャッターチャンスよりも、8×10インチ判の大型フィルムカメラや古典印画法へと向かうのも自然な動きかもしれません。そのようなムーブメントの延長線上に若い人たちの間でフィルムカメラへのニーズがあるのでしょう。

ペンタックス17に思うこと

 今回の使用レポートには、いろいろと逡巡があり、かなりの時間をかけました。その第1は、揺れ動く写真という画像システムの中で、かつての自分自身の考え方を簡単にあてはめて良いのだろうかということで、カメラもしかりでした。それでも、やはり個人的に思うには、絞り・シャッター速度・感度・ピント合わせが、わかるようなカメラであると、次のステップに進めるだろうし、写真を基本から学ぶことができると思うのです。日本のカメラ産業は戦前から多くの企業が手掛けてきて、フィルムカメラも2002年に生産、金額的にデジタルカメラに主流の座を譲ってから、早くも20年以上経つのです。この時点でフィルムカメラを再起させるためには、リコーイメージングも大きなリスクを抱えてのスタートだったと思うのです。その点において、最初の出荷は予約で完売だったと報じられていましたが、私の周りではいくつかの場所で早速購入した人たちを複数知っていますが、かつてこのようなことはあまりありませんでした。やはりそれだけフィルムカメラに対する期待が大きいのだと改めて知ったわけです。

 ただ、今回私の周りの購入層はわりと高年齢層だったのですが、20~30歳前後の若い人(女性3、男性2)に触ってもらい聞いてみると、やはり買いたいというのです。ただそのための購入費が8万円ぐらいだということは別にしても、写真を作っていく道具として、縦位置画面のハーフサイズというのはどうなのでしょう。スマホの画面が縦位置だから縦位置にしたというのは苦しい弁解です。やはり横画面で、世の中のテレビ、PC画面、劇場画面は横位置の画面が常ですから、横位置のしかもライカ判フルサイズというのが画質的にも最もなじむのではないでしょうか。すでに、次が模索されているようですが、ぜひそのあたりで探って欲しいと思う次第です。 (^^)/