写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ポラロイドI-2を使ってみました

 ポラロイドといえば、かつてはインスタントカメラとフィルムの代名詞でした。1948年に最初の黒白、カラーのピールアパート式のフィルムとカメラに引続き、1971年に魔法のカメラアラジンとも呼ばれた一体型の「SX-70ランドカメラ」を1972年に発売して以来、不思議な会社で時間の経過とともにカメラ技術としてはなぜか低下していったというのが正直な印象で、どういうことだったのだろうかといつも考えていましたが、結局、2008年12月に倒産してしまいました。その原因はということはさておいて、その後ポラロイドというブランドは売りに出され、デジタルカメラ、サングラスなどさまざまな商品が売り出されました。

 2008年10月26日、インポッシブル(Impossible)社は、市場にある元ポラロイド社のカメラ約1億台のために、ポラロイド社のオランダ工場フィルム製造装置の13ラインをが買い取り、建物は10年のリース契約でスタートさせました。モノクロ乳剤はイルフォード(ハーマンテクノロジー)、カラーはアグファをスピンアウトした技術者の会社から調達。ユニオンカーバイト社製のポラパルスバッテリーも間もなく製造終了しましたが代替品が見つかり、フィルムパックは10枚から8枚撮りとなったのは、バッテリーの厚みに関係しているとされています。当初は旧ポラロイド社の技術スタッフを入れてSX-70タイプから8×10インチ判まで作る計画を発表していましたが、なかなかうまくいきませんでした。そもそもポラロイドの感光乳剤は、歴代デュポン、コダック、小西六、富士フイルムなど専門企業が提供していた経緯がありますが、オランダ工場は塗布されたフィルムのパッキングを行う工場で、一番重要な乳剤を塗る工場(アメリカ・マサチューセッツ州ボストン郊外)は2004年で生産終了し、2005年には太陽電池パネルの製造会社に売却済みでした。

 私の記録によりますと、2008年にポラロイド社が破産した後、ポラロイドブランドのカメラはSummit Grobal社が、フィルムはTHE IMPOSSIBLE PROJECTなどが手がけてきましたが、2013年ごろにはアメリカのSAKAR(サカール)が加わるなど、各社がポラロイドブランドへ参入しましたが、その後いくつかの社を経て2018年にはインポッシブル社はPOLAROIDの商標を使う権利を得て、POLAROID ORIGINALS と社名を変えて、旧ポラロイドフィルムとカメラを復刻しています。最後に詳述しますが、今回の「ポラロイド1-2」はこの時期に端を発するカメラなのです。

 

《新しく開発発売された「ポラロイドI-2」》ミニ三脚は旧ポラロイド社が600シリーズを発売した時のもの。新型の「ポラロイドI-2」は、充電式のバッテリーを内蔵して、オートフォーカス機構を採用し、ボディの触感も良く、さまざまな撮影機能が加わった最新インスタントカメラとして仕上がっています。

 

《ポラロイドI-2カメラの化粧箱とカラーiタイプフィルム》左:化粧箱の上にはもう1枚ケースがありますが、基本はこの箱です。右:iタイプフィルムは、8枚撮り2パックと3パック入りが発売されています。このフィルムには、電池入りと電池なしの2種類あり、電池入りは旧ポラロイド社のカメラに使うことができます。

 

《ポラロイドSX-70(1971)とポラロイドスペクトラプロ(1986)》旧ポラロイド時代の自己現像型フィルムを使うカメラです。インポッシブルが今回発売した「ポラロイド1-2」は、ポラロイドスペクトラプロに匹敵するシリーズ中の最高級機となります。

 

《ポラロイド1-2カメラの底面》Do not undertake a project unless it is manifestly important and nearly impossible Edwin Land(明らかに重要で、不可能に近いプロジェクトでない限り、着手しないこと、エドウイン・ランド)とプリントされています。

 

《左:ボディ左肩部の操作部、右:ファインダー内情報》丸い電源スイッチをONにすると、モード切替、絞り値、シャッター速度、B.撮影、セルフタイマー表示、ストロボON、フィルム残枚数、バッテリー容量などがマルチに直感的にわかりやすいように表示されます。

 

《ポラロイドI-2とSX-70の撮影とファインダー光学系》左:カメラ上部に反射ミラーが入っていて、フィルムに露光する。撮影レンズは98㎜F8で、前面のカバーグラスを除くと、3群3枚構成のトリプレットです。フィルター径は49㎜Φ。ファインダーは、正像が得られる実像式で、ファインダー内情報としてAFポイント、撮影モード、露出、ストロボなどの設定状況を示しています。右:SX-70の光学系、折り畳み式で一眼レフ方式であることがわかります。

 

《ポラロイドI-2でシャッターを切ると》ポラロイドI-2でシャッターを切ると、写真のように黒いベロがでて、排出されたフィルム(プリント)を直射光からカバーしています。これはインポッシブルのフィルムでは、旧ポラロイドフィルムと同じように現像ポッドから遮光液と現像液がローラーで押し出されますが、乳剤そのものへの遮光性が現状では弱いために、一時的に光線を少しでも遮断する工夫のようです。このような、遮光用ベロが全体をカバーし停止(静止)するのは、旧ポラロイド時代の自己現像型カメラにはありませんでした。乳剤の完成度が低いとかありますが、環境への配慮などから有機溶剤が使えないなどの要因があるようです。

 

《カラーiタイプフィルムを使いポラロイドI-2カメラで撮影》4枚は自然光下で、2枚はストロボを発光させての撮影です。もともとポラロイドのフィルムは、色鮮やかな環境でしっかりとライティングして撮影するのが上手に撮影するためのコツでしたが、ライティングにより右下2枚のようにハイキーな感じにも、高コントラストの調子にも仕上がるのです。旧SX-70フィルムはシャッターを押してから画像が浮かび上がってくるのは早かったですが、新しいインポッシブルのカラーiタイプフィルムの画像の出現はスローで、安定するには時間がかかります。なお、私は、1972年に撮影した旧SX-70フィルムのプリントを所有しいてますが、カラー画像の変化はほとんど感じさせません。なお、撮影は私のいつもの最初の撮影場所である英国大使館正面玄関を同じ位置から撮影しましたが、98㎜F8レンズは水平画角から見ますと35㎜判フルサイズの焦点距離35㎜相当にあたるのがわかります。いずれの撮影も露出補正は行っていません。なお、実写プリントの掲載にあたっては、当初はフラッドベットスキャナーにプリントを並べ黒バック紙を背景にスキャンしようと考えましたが、強い光源がプリントにあたると、影響がでてはいけないだろうとテーブルに並べて集合で複写しました。

■ポラロイド1-2カメラの設計技術者はオリンパスのOB

 ところで、なぜインポッシブルのインスタントカメラをいまさら取り上げたのかということですが、実は7月に“Green funding.jp”でポラロイドカメラクラウドファンディングが開始されたのです。目標額は1000万円で、33%引きの98,075円(フィルム付)で購入できるというのです。あっという間に目標額は達成されましたが、ほぼ同時期にAmazonでも発売126,579円(フィルム付)で販売が開始されたのです。ここで使用したカメラとフィルムはクラウドファンディングで購入したものです。

 その中で解説によると日本人光学技術者の小島祐介氏が関係したというのです。小島氏は1967年4月~2003年3月までオリンパスに在籍し、この間カメラの開発に携わり、2003年の4/3規格デジタルカメラ登場のころ、2003年4月にイーストマン・コダック社副社長として移籍し、そのうち日本コダック社長を2年務めたという経歴の持ち主で、写真業界では知られた人でありました。そこで、さっそく小島氏に連絡を取り、いくつか質問をさせていただきました。

 まず「ポラロイドI-2」開発にあたっては、2018年に小島氏の旧知であったインポッシブルの社長から開発の依頼を受け、小島氏ほか、かつて小島氏がオリンパス時代企画したアルミ製限定カメラO-productの設計者であった赤木利正氏を加えて、2018~2022年の間、総勢5人のオリンパスOBメンバーがそれぞれの居住地に近い八王子(橋本)にワンルームを借りてオフィスを構えて“ポラロイド1-2”を開発したというのです。このチームは、この「ポラロイドI-2」の他にもう1機種開発していますが、現在プロジェクトチームは解散しています。

 この間の開発ストーリーは、以下のYouTubeを参照ください。

 https://youtu.be/3nTs5idQvqE?si=NYhWmbNEhsk2J6MA

 こちらをご覧になればおわかりいただけると思いますが、レンズ周りAF・AE関係は日本、デザインと製造はポラロイド台湾チームが担当したということです。ポラロイド社側はPolaroid International B.V. としてオランダのアムステルダムにあり、ポラロイドチームのチーフは、ポラロイドインターナショナルの社長であるOscar Smolo Kowski氏が務め、オーナーは彼の父親だそうです。

 

「ポラロイドI-2」のフィルムカセットを取り出し口には細かい字で社名や製造国が記されています》下の白い丸い棒は、現像液袋をつぶすローラー。

 ここで、私が注目したのは、細かな操作を簡単に目視的に行える、コマンド操作とその表示ですが、このほかにAFはLIDARと呼ばれるレーザー測距技術で、この最新技術をカメラに応用したことは素晴らしいことです。1972年のSX-70の時は超音波によるソナーAFシステムが採用され、盲人用の杖としての応用なども伝えられましたが、LiDARセンサーはLight Detection And Rangingの略で、光を使用して物体や環境の距離や形状を計測する技術を指し、リモートセンシングなどの地形の測距から今は車の衝突防止センサーの主流になっています。

 

SX-70のソナーAFの超音波発信部と電子回路部分とソナーAFの原理

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 また最初に触れましたが、旧ポラロイド社はなぜつぶれたか、改めて当時の資料を探ってみると、その1つとして、1997年にシャオ(i-zone)をトミー(現タカラトミー)からの熱いラブコールに押し切られる形で発売して大ヒットしましが、当時はフィルム製造をメキシコで手作業で行っていたのを、1999年にスコットランドに年産600万本の自動化工場を作るものの、完成直後の稼働前にブームが去りお蔵入りになったこと。

 その2として、2000年発売の「オリンパスCamedia C211Zoom」JoyCamプリンター内蔵のデジタルカメラシチズン製プリントエンジンとフィルムを掻き出す爪の不調でアメリカに出荷した44,000台全数を日本へShip backして再輸出したが全然売れなく40,000台を廃棄、仕掛品50,000台分は部品代だけ払って廃棄、などなどが重なった結果だとされていますが、意外にもここにも小島氏が関係していたのです。その小島氏が、新ポラロイド社の最新型インスタントカメラ「ポラロイドI-2」を作ったというのですから、不思議な縁を感じた次第です。 (^^)/