写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

MADE IN OCCUPIED JAPAN

 政府は、1952年4月28日のサンフランシスコ講和条約が発効したのを、日本の主権回復と国際社会へ復帰したということで、記念式典を今日4月28日に、政府主催で憲政会館で開催しました。
 しかし、その主権回復は沖縄、奄美群島小笠原諸島は切り離なされたものであり、沖縄は1972(昭和47)年5月15日の本土復帰まで米施政権下であったために、この4月28日を屈辱の日としてとらえる考えがあり、今回の式典には沖縄県仲井真弘多知事は欠席し、高良倉吉副知事が代理出席しました。ところが、なぜか28日の今現在、ニュースを除き式典のことはあまり話題になりません。どうしたのでしょう。僕なりに今日に向けて、ブログネタを作り上げたのでアップします。
 まず、ここに1台のカメラがあります。“RICH RAY”35 SUPER STARTです。このカメラの特長は、後に述べますが、底を見ると「MADE IN OCCUPIED JAPAN」と記されています。戦後の復興期において、カメラが輸出産業の花形であったことはよく知られていますが、終戦後輸出が再開されるようになったのは1947年ごろからで、以後サンフランシスコ講和条約が発効するまでの間に輸出されたカメラには“MADE IN OCCUPIED JAPAN”、つまり“占領下の日本製”と記されていたのです。このオキュパイドモデルは、このほかにもコニカ、ニッカ、キヤノンニコンミノルタ、マミヤなどいくつかのメーカーのカメラや交換レンズに見ることができ、一般的には陶磁器、玩具、双眼鏡、計算尺などの存在も知られており、いずれも製造期間が約5年ほどと短いために、現在一部マニアの間ではコレクターズアイテムともなっています。
 さて、この「リッチレイ35」ですが、このカメラにも興味深い物語があります。リッチレイ35は、裏紙付の35mm無孔フィルムであるボルタ判を使うメニスカス単玉のベークライトボディで、シャッター速度は単速のI.B.だけで、絞りを変えられるように見えますが、絞りレバー動きません。実はまったく同じ外観仕様で、「スタート35」というモデルがあります。こちらは、1951年に一光社から発売されていますが、設計はどちらも野村光学研究所の野村勝雄氏で、当時スタート35のほうが多く販売されていました。この「スタート35」と同じ「リッチレイ35」がどのような経緯で発売されたかはわかりません。わずかに月刊「写真工業」1952年9月号に野村勝雄氏が『スタートカメラの設計について』書かれています。そのなかにリッチレイ35のことが最後にでてきますが、「設計はスタート35と同一だが、製品に優劣があるとしたら製作者の良心の問題で、カメラ界のためにお気づきの点をご警告くださるよう……」と何やら恨みのような感じを読み取れますが、多くは触れていません。
 この「スタート35」ですが、実は僕が最初に手にしたカメラなのです。小学校入学のときは、着飾って新しいランドセルを背負い、このカメラで撮影してもらいました。当時は、引伸ばしということはなく、正方形画面にその後のポラロイドSX-70のプリントのように密着プリントを余白を付けて写真屋さんが1枚ずつていねいにカッターで形を整えてくれたのを覚えています。ボルタ判黒白ネガを3コマずつ切って紙のネガケースに入ってました。その後、僕は同じ正方形画面の66判フジペットを使うようになりましたが、意外と引伸ばしプリントというのは、それより後の時代だったと記憶してます。特に、戦後生まれの団塊の世代は、この「スタート35」からカメラ道に入ったという人が多いのです。
 このようなオキュパイドモデルに類似したカメラには1945〜1955年ごろのドイツ製カメラにおいてもMade in U.S.Zone Germany(合衆国統治地域のドイツ製)というように記せられたカメラを見つけることができます。右は、ドイツのアグファ社がアメリカの子会社であるアンスコ社に輸出した「アンスコ・バイキング(Ansco Viking 4.5)」という1952年製の6×9cm判スプリングカメラですが、レンズ下部の銘板のところに“MUNCHEN U.S.Zone Germany”と書かれています。いずれにしても、該当品だからといって希少価値で高価だというわけではなく、物を集めるコレクターの目安だと思う程度でいいと思うのですが、オキュパイドモデルは日本の戦後輸出産業史を語るには欠かせないテーマです。

 さてもうひとつ、裏紙付の35mm無孔フィルムであるボルタ判をお見せいたしましょう。この写真にあるボルタ判フィルムのスプール、裏紙、フィルムを裏紙に張り付ける粘着テープ、フィルム終端に巻き込む撮影済みと印字された粘着テープ、フィルム巻止め用粘着テープなどです。いまから10年ほど前に、愛甲商会がボルタ判フィルムの製造をやめたときに残っていたものを実費で分けてもらいました。いくつかは仲間にプレゼントしましたが、現在手元に残っているのは写真に写っている分だけです。
 それでもいつかはと考え、ベルビアの35mm無孔フィルムを100フィート用意してありますが、上で紹介したリッチレイ35はシャッターは単速のIのみ、絞りはレバーがありF5.6とF8刻まれてはいますが動きません。ちょっとリバーサルでの撮影はむりのようです。時間があったら、フィルムを巻き、ボルタ判カメラを持った人を集めて撮影会でも開きたいと考えています。