写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

30年以上持ち続けた3Dカメラの夢

 1980年西ドイツ・ケルンで開かれた“フォトキナ”で1台の4眼式3Dカメラが大々的に発表されました。「ニムスロー3Dカメラ」で、米国のJ.NimsさんとAllen Loさんが開発したものです。カメラは時代的に当然のこととしてフィルムカメラで、当初製作はリコーが担当し、アメリカの時計会社タイメックスがスポンサーとなっていた記憶しています。当時発表会で配られた記念品のタイメックス腕時計には4眼のカメラがプリントされていました。1982年にはカメラを発売し、フロリダの特定ラボでプリントサービスが開始されましたが、ビジネス的には成功しませんでした。その後、カメラは「ニシカ」ブランドとなり製造はサンパックが行ったと記憶していますが、日本国内でカメラが正式に発売されレンチキュラーレンズの付いたカラープリントサービスが行われたという話は聞いていません、というか記憶にありません。その後、コニカコダックがレンズ付フィルムでレンチキュラープリントによる3D写真システムを開発したことがありますが、こちらもきわめて短命に終わってしまったというように記憶しています。いつの時代も、3D写真システムの難しさを感じさせたわけです。

 2012年CESの会場を歩いていてびっくりっしました。カメラのフロントに1980年と書かれた、ニムスロー3Dカメラが置いてあるのです。ブースにいる係の人に、1980年のこのカメラの発表会に出て、タイメックスの腕時計をノベルティとしてもらい、今でも持っていると伝えたところ、その担当のBOBさんと言ったと記憶していますが、急に日本語で話しだしたのです。それによると、当時のニムスさんはほかの事業へ向かったそうですが、ローさんは、この3Dブームの時代に夢よもう一度とばかりに「LO 3D Digital 3D Camera」としてシステムを発表したというわけです。

 今回発表された3Dシステムは、ローさんの名前をとって「LO 3D」と名付けられ、1)Digital 3D Printer、2)HD 3D Photo、3)Optical 3D Paper(レンチキュラー式)、4)Digatal 3D Camera から構成されています。このうち今現在、形になっているのは、1)のデジタル3Dプリンターで、中国のプリズムラボが製造を担当したようです。会場では、ローさんのポートレイト3D写真が貼り付けられたパンフレットが配布されていましたが、いくつかのサンプルプリントや3Dカラーペーパーが置かれていました。カメラは残念ながらまったくのモックアップでした。たぶんCESの会場でカメラ製作を担当してくれるパートナーを求めているような感じでしたが、30年以上も立体カメラに思いを寄せてるわけですから、すごい情熱です。
 今回のCESでも韓国のLGや中国のAIGOなどを始めとしたさまざまな企業が3Dシステムに取り組んでいますが、その一角にローさんのシステムは入り込めるでしょうか。そして今から30年後、各社が取り組んだ3D映像は日常のものとなっているのでしょうか、興味は尽きません。