写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

忘れてました。フィルムX線検査

 久しぶりにフィルムカメラを持って羽田から福岡まで1泊の旅行をしてきました。カメラは35mmレンズシャッター式のフォクトレンダー・ビテッサT(VITESSA T)です。このカメラは僕が昔から欲しかったクラシックカメラ御三家のなかの1台で、その独特なフィルム巻き上げ・シャッターセット機構がお気に入りです。写真をご覧になっておわかりのようにカメラに向かって右の長く突き出た棒がフィルム巻き上げ兼シャッターセット機構で、左側にちょこっとでたのがシャッターボタンです。このカメラは1956年ごろ西ドイツで製造されていましたが、レンズは交換式で、僕の個体はカラー・スコパー50mmF2.8付きです。このカメラとくに操作法は難しいことはないのですが、シャッタースピードと絞り値がLV値で固定されてしまうので、わずかな露出変更が簡単にできないのが難点です。そして最も感心するのが「フィルム巻き上げ兼シャッターセット棒」の収納法です。これはどこに書いてあるわけでもないので、興味ある方はぜひ現物で試してください。写真では棒は3.4cmほど飛び出ていますが、そーっとゆっくり押し込んでいくと、残り9mmぐらいの所でぴたっと止まるのです。もちろん巻き上げ・セット時はすべて一気に押し込む1ストローク式ですが、この途中でぴったっと止まり、収納できるところはちょっとした“からくりカメラ”で、感心してしまうのです。
 持参したフィルムは、ISO400の36枚撮りカラーネガフィルム2本です。自宅を出るときは空港でのセキュリティーチェックは手検査でやってもらおうと透明のビニール袋にフィルムを入れておいたのですが、パソコンや腕時計、コインなどなど金物を別にしていたら、うかつにもフィルムをバッグのなかに入れたままにしてしまったのです。気づいたときは後の祭り、以前は“Film Safety”とか書いてあったのを思い出し、まぁ何とかなるだろうと気を取り直し、帰りも強気にそのまま通してしまったのです。慣れって恐ろしいですね。フィルム主体に撮影していたときはかなり神経を使っていた部分がすっぽり抜けてしまったのです。まぁ、ここまでは良かったのですが、帰ってきた翌日、たまたま感材工業会専務理事のKさんに会い、「福岡へフィルムカメラ持って遊びに行ってきました」と誇らしげに報告したところ、即返ってきた言葉が『X線によるセキュリティーチェックは受けなかったでしょうね』という言葉だったのがショック!でした。それが今回だけはついと言い訳しましたが、Kさんによると、最近の検査は以前よりも強くなっているので感度に関係なくフィルムは必ず機内持込とし、手検査を受けるようにとのことです。航空会社には手検査(ハンド・インスペクション)を受け入れるようにと申し入れてあるそうで、国内もそうですが、国際線でトランジットなどがある場合には1回の旅行で最低でも4パスぐらいするわけですから、確実にX線かぶりの影響は高くなるそうです。特にかぶりは、カラーネガフィルムの場合にはプリント時の補正で多少緩和されることもあるようですが、カラーリバーサルフィルムでは、一般には認識できなくても、シビアなプロの目で見ると影響がでることが多々あるそうです。それと、今さらですが、鉛などでできたフィルムセーフティーバッグは、不透過だと逆に強い照射を与えられるということで、かえって危険だということもかなり以前から指摘されていたことを思い出しました。
 ところで、なぜビテッサを使ったのか、そしてその結果は後日お知らせしますが、このカメラを首からさげてとある博物館に入ったら、ちらっと見られた瞬間に熱い視線を感じ、いいカメラ使ってますねと学芸員の女性に指摘されましたし、途中ぶらっと寄った北九州市カメラ店HASEGAWAの長谷川幸司さんには渋いカメラを使っていますねといわれました。長谷川さんのお店は九州でも一番のライカショップであり、常連のお客さんはほとんど皆さんが自分でプリントされるというのですから、すごいのです。写真左は、西ドイツ製「エキザクタ66」を手に持つ長谷川幸司さん。レンズはきわめて初期の真ちゅう鏡胴のツァイス・プラナーを付けています。店内にはライカ以外にも、かなり質の高いクラシックカメラ、写真用品が置かれています。