写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

電気的なソフトフォーカス描写

 いま「ソフトフォーカスの描写がMyブーム」です。そもそもは「ベス単フード外しの描写」として6月5日にJCIIフォトサロンでやっていた若松豊光作品展「百花 誰が為にか開く」を紹介したのが最初でした。関係者の間でけっこう盛り上がったので、このデジタルの時代にデジタルカメラを使ってベス単のフード外しをやってみたらどうだろうかというので一眼レフのキヤノンEOS1-DsMarkIIを使って試したのが第2弾でした。性格というか僕は中途半端ができないのです。さらに現在ある他のカメラでソフトフォーカスを試してみようということになり、第3弾はライカM9軟調描写として著名な「ヘクトール73mmF1.9」を試してみて開放で最短撮影距離なのに軟調な描写でありながらシャープで深度が深く、しかもしっとりとした描写にびっくりしました。引き続き、別のライカ用ソフトフォーカスレンズとして「メディアジョイソフトフォーカスレンズ」をアップしたら、何と9月3日(金)発売開始のコンパクトデジタルカメラリコーCX4」にソフトフォーカスモードが入ったのです。
 リコーCX4は、10メガの裏面照射CMOSを採用しISO1600相当の高感度までむりなく対応、28-300mm相当の10.7倍高倍率ズームなどで人気の高かった「リコーCX3」をバージョンアップし、最大3.7段分手ぶれ補正精度をアップ、被写体追尾AF、クリエイティブ撮影モードの採用(ソフトフォーカス/クロスプロセス/粒状感付き硬調B&W/トイカメラ等を集約)、連続4枚高速撮影し合成処理を行なうことでノイズを低減させた画像を記録する夜景マルチショットなどの新機能搭載などを特徴としています。もともとCX3は、目に見えるものなら手持ちでシャッターを押せばほとんど良く写るという特徴に加え、300mm相当画角のアップ描写と背景ボケ味が魅力だったのですが、この時期“Myブーム”のソフトフォーカスモードを搭載ということですから、これは見過ごすわけにはいきません。早速入手してそのソフトフォーカス描写の感じをテストしてみました。
 まず最初に理解しておかなくてはいけないのは、ベス単のフード外しやヘクトール73mmF1.9は、レンズの収差を利用してソフトフォーカス描写得るのですが、リコーCX4のソフトフォーカスは、電気的な画像処理によって得られるものだということです。つまり光学的なソフトフォーカス描写と電気的なソフトフォーカス描写は同じなのだろうか、それともどんな違いがあるのだろうかというのが最大の関心事です。CX4に新たに設けられたクリエイティブ撮影モードのソフトフォーカスモードは、強・弱と2段階切り替え式で、好みによって選択することができます。さらに“+通常撮影”という機能があって、ソフトフォーカス描写と通常撮影が同時に得ることもできるのです。もちろんソフトフォーカスモードだけの選択もできるのですが、今回のように比較検討しようという場合には、便利この上ない機能です(ソフトフォーカスモード以外のクリエイティブモードでも“+通常撮影”は可能で、アイディアとして素晴らしいです)。
それでは実際に撮影した結果をご覧いれましょう。

 上の写真はときどきこのブログに投稿してくれる神原武昌さんです。新宿の街角で、わざと背景がごちゃごちゃしているところで撮影させてもらいました。実はこのカット以前にも室内でいろいろ試したのですが、十分な光量がないと暗部がつぶれてしまう気がしました。そこで明るいところならどうだろうと試したのがこのカットです。左がソフトフォーカス:強、右が通常です。あまりにも輝度があるためにコントラスト比が高く、やはりシャドー部がつぶれてしまう感じがあります。もちろんこれは比較して見るからそう感じるわけでして、ソフトフォーカスモードの1枚だけ撮影すればそのようなことは目立たないかもしれません。〔ソフトフォーカス設定:強、焦点距離:105mm相当、F4.8・1/760秒、ISO100〕

 神原さんの作例から反省して、モデルを若い女性にお願いして、十分に明るい晴天屋外の日陰で撮影してみました。ただし反省したのはモデルの選定でなく、撮影テクニックですのでお間違えのないように。撮影データをご覧いただくとおわかりのように、ぎりぎりまで露出をオーバー気味に設定し、さらに照度ムラをなくすためと目にキャッチライトを入れるため内蔵ストロボを強制発光させました。結果は、かなりいい感じで撮影できました。コンパクトデジタルカメラでの撮影は撮像素子が小さいため実焦点距離も短いため背景までしっかりとピントが合ってしまい、うるさくなるのですが、ソフトフォーカス効果で混雑した樹木の葉もあまり目立たなくなりました。もちろんこのカットはお嬢さんにも気に入ってもらいました。〔ソフトフォーカス設定:強、焦点距離:70mm相当、F4.5・1/90秒、+0.7EV、ストロボ強制発光、ISO161〕
 ◆押せば写る時代のデジタルカメラの時代にあっても、気持ちのいい写真を撮るには、それなりのシーン設定と調節が必要なことは今回の教訓でした。そして、光学的なソフトフォーカス描写と電気的なソフトフォーカス描写はやはり異なるようです(ここでいう光学的なということは、撮影レンズそのものによってソフトフォーカス効果が得られるものであって、いわゆる光学的なソフトフォーカスフィルターをレンズの前に付けたときの描写は除外します)。光学的なソフトフォーカス描写では反射の高い部分の周辺にはフレアが増大して輪どったような画像がベス単のフード外しなどではときどき得られるのですが、電気的なソフトフォーカスでは画面一様にソフトフォーカスな描写となります。CX4の取扱説明書によると『ソフトフォーカスレンズを取り付けて撮影したような、ぼかした画像を撮影できます。』と書かれているので、“ような”ということはたぶん設計者はわかっているのでしょう。ただ、光学的、電気的でもソフト度、被写体、撮影シーン、光線状態、露出などに加え、プリント時のサイズによっても大きく描写の雰囲気が変わるのがソフトフォーカスの描写です。電気的な処理で高輝度部を検出したり、エッジ強調したりするのはお得意とするところだろうと思うわけです。デジタルはまだ始まったばかり、さらに光学的なソフトフォーカスをシミュレーションすれば、もっとイメージにあったものができあがるでしょう。それでも現状のCX4に、あえて欲を言わせてもらえば、ソフトフォーカスの強・弱と通常撮影の3コマが同時に撮れればもっと素晴らしいカメラとして仕上がったのではないかと思う次第です。
 最後にもう1カット、ソフトフォーカス・弱設定で、花のクローズアップをご覧に入れましょう。ISO1600と高感度でも色鮮やかですし、むりな感じはありません。やはりソフトフォーカスの定番はポートレイトと花といったところでしょうか。〔ソフトフォーカス設定:弱、焦点距離:105mm相当、F4.8・1/45秒、+0.3EV、ISO1600〕

 ◇さて、このようなレポートをまとめているときにコシナから「フォクトレンダーヘリアークラシック75mmF1.9」が発表されました。このレンズは前述のヘクトール73mmF1.9の現代版ともいえ、レンズ設計的にも3群6枚構成のトリプレットタイプで、軟調描写を示すものです。また「ニコンD3100」には画像編集機能としてソフトフォーカスフィルターが入り、さらにキヤノンとして初のバリアングル液晶モニターを搭載した「キヤノンEOS60D」には、「ふんわりやわらかく」「くっきり鮮やかに」といった表現セレクト機能が新しく搭載され、撮影後の画像に特殊効果を加えられるアートフィルター機能にはソフトフォーカスモードが搭載されています。いずれも9月に発売が予定されていますが、まだまだ他社モデルにも似たようなソフトフォーカス機能が採用されているかもしれません。すでにソフトフォーカス描写は単なる“Myブーム”ではなく、現代写真表現のトレンドなのかもしれません。