写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

「瀬戸内国際芸術祭2010」



休日を利用して「瀬戸内国際芸術祭2010」に行ってきました。この瀬戸内芸術祭は、今年が初の開催ということですが、香川県高松港とその周辺の小豆島、直島、女木島、男木島、大島、豊島、犬島の7つの島を舞台に、それぞれの島で7月19日から10月31日まで、アートが展示されているというものです。◇写真は高松駅前の歓迎幟と旧港建物に施されたアート作品、高松港周辺にもアート作品は5カ所ほどと総合インフォメーションがあります
まずアート作品展示のメインは直島のようで、島には建築家安藤忠雄さんの設計した地中美術館(直島福武美術館財団)があります。僕は、たまたま昨年小豆島をテーマにした写真展を開いたことから、小豆島を再度訪れたのですが、いつもなら宿泊できるホテルも満室状態で、島の観光活性化に芸術祭はかなり貢献しているようでした。島内には芸術祭の幟があちこちに翻り、芸術祭専用の循環バスが走り、港など要所には事務局が置かれかなり力の入ったイベントであることを感じさせます。僕は、せっかく来たのだから写真関係の展示を見たいと調べてみましたら、杉本博司さん、石川直樹さんと見慣れた名前を発見。展示場所は女木島の福武ハウスであることがわかりました。小豆島から女木島への定期連絡船はなく、一度高松港へ戻り女木島に行くというのが本来ですが、会期中は女木島へのアートツアーが小豆島からでているのをホテルで発見、早速申し込みました。女木島には小豆島土庄東港から約30分、ホテルから港まで送り迎えのバスがついてのツアーでした。
女木島は、別名「鬼ヶ島」ともいわれ、童話桃太郎伝説の桃太郎が、高松市の鬼無町から鬼退治に来たとか、島内の洞窟が鬼のすみかで瀬戸内海を荒らし回る海賊だったとか、平家の落人が島にたどり着いてメゲてそのような名前がついたとか、ガイドさんの親切な案内聞きながら、アッという間に島に着きました。目指すは「福武ハウス」ですが、親切なガイドさんは分かれ道の先まで案内してくれました。この女木島には、福武ハウスほかに愛知芸大などいくつかの国内外作家のアート展示が6カ所ほどに散在しています。
福武ハウスは、休校中の女木小学校をそのまま借り上げて、各教室の中にアーティスト毎の展示がなされている仕掛けです。入り口で入場料500円を払い、簡単なパンフレットをもらいました。パンフレットによると『福武ハウスとは、国内外のギャラリーがそれぞれ一押しする作家の作品を展示するギャラリー・サイトです。……』となっています。つまりギャラリーの押す、作家の作品展示であるようですが、パンフレットには各作家名以前にギャラリーの名称、所在地、Webサイトが記されていて、作家名が二の次なのです。

◇女木小学校の校舎には、FUKUTAKE HOUSEとかここでも作家名でなくギャラリーの名前がアルファベットでつづられています。校舎の塀の壁には数年前まで在校した小学生の絵がアート作品よろしく描かれています。今回のイベント参加のアート作品は、屋外などなどのものは無料で見られますが、主だった作品は入場料を必要とし、請求すると右のようなチケットと簡単なギャラリー、作家、作品紹介のチラシをもらうことができました。全島のアート作品を見るにはパスポート5,000円を買うのがお得だそうです。
ということで校舎内を1階、2階とまわるうちに見つけたのが石川直樹さん(スカイザバスハウス)の「島は、山」という作品でした。明るい部屋にB4ぐらいのアクリルボードに両面にはさまれた写真作品が、白い展示台の上に点在して置かれて石川さんの作品の雰囲気を盛り上げています。また教室の黒板には作品へ寄せた文が整然とプリントされていました。限られた空間でありますが、見せ方の工夫は感じられます。もっと写真を見たいと思ったら部屋の端にさりげなく写真集がおいてあるのです。写真以外のアート作品もこのときばかりはと、しっかり見ました。もちろん、僕を含め他の人もさっと通り過ぎていくような作品もありましたが、辻直之さんの「風の精」(小山登美雄ギャラリー)という6分間のDVD作品には不思議と長く1巡するまで見てしまいました。
と校舎をすべて見たつもりでしたが、どこにも杉本博司さんの作品が見あたりません。改めてチラシの作品配置図を見ると、校舎の中庭に杉本博司失楽園 水の記憶」(ギャラリー小柳)として展示されているようです。行ってみると、手押しポンプの井戸の蛇口の下にタライが置いてあり、その中に光学ガラスのブロックが雑然と置かれ、さらにタライの円周の内側に円い透明ガラスの板が置かれ、「ポンプを動かして水をいっぱいにして下さい」と書かれているのです。さらに白い百葉箱の中に地球儀や赤い玉、時計、フラスコなどが置かれ「G線上のキンチョウ」と書かれ、さらに放置された下駄箱に園芸用のシャベルを複数並べ「しゃべるシャベル」とか、ホッピングをそのまま並べて「直立二足歩行器」とか、船のいかりの先にホースリールからでたホースを差し込み「いかりの循環」とか大木の上の股に一輪車を引っかけ、さらに肩掛け手押し消毒器をぶら下げ「消毒済みの労働」とか鶏小屋の中にそのあたりにあるもののを並べ、水道の蛇口からホースでつないだり、写真はどこにと探して歩いたら小さな鶏小屋の中に大事そうに2枚カバーで覆われてあったようで、それ以上は記録する意欲もなく、よく憶えていません。
 僕は、その場を足早に去りましたが、同姓同名で違うアーティストがいたんだなという気分でした。仮に同じ杉本博司さんであっても、アートってむずかしいとかいうものを超えていました。あれは、杉本さんご本人が手を下した作品なのか、それともギャラリーが杉本さんのイメージを膨らまし想像して展示したのだろうかとか、考えるだけでした。帰り際に、携帯を取りだしていつも杉本博司はすごいというフォトグラファーズラボラトリーの平林達也社長に電話して「杉本博司って写真家?」とつい聞いてしまいました。返ってきた答えは「ええそうですよ」でしたが、つい僕は違うよアーティストだよと言い切ってしまいましい、平林さんには、今度土産話を聞かせて下さいといわれ、電話を切りました。
ということで、方向変換、島の中をぶらぶらとカメラを提げてスナップすることにしました。島内には、昭和30年代のたたずまいが残り、漁村の路地には、おばあさん達が乳母車改造の車で荷物を積んで行き来しています。あまりにも荷物車が多く止まっているところがありましたので、おじいさんに聞いてみると島で唯一の店で、農協だそうです。なかにはおにぎりやサンドイッチが売っているからのぞいて行きなさいと、ご親切に案内いただきました。

写真左は、福武ハウスの別館ともいえる旧女木保育所の屋根に施された、キューレーション:三木あき子さん、ラング/バウマンさんの「Comfort#6」のアート作品。右は島内で見つけた漁網を屋根にかぶせたお宅。何か共通点を感じさせる楽しい風景でした。女木小学校の屋内の作品はすべて撮影禁止と記されていましたが、ここには書かれていなかったのでパチリ。

島で見つけた自然のアートです。写真左は防波堤近くの倉庫の前で、大きくするとなかなかの迫力です。タイトルは「朽ちたらアート」。右は塀から顔を出したアロエ科の多肉植物。タイトルは「僕も力強く生きたい」です。
◇ついでというか、せっかく行ったからと限られた時間で参加した女木島アートツアーでしたが、僕にとっては、島の生活スナップも撮れましたし、写真とは、アートとは、写真家とは、アーティストとはなどなど考えるいい小旅行でした。そして、このブログを書くうちに何となくその世界の謎解きができた旅でもありました。