写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

リコーGXRマウントを使ってみて

 2010年フォトキナで発表されたリコーGXR用のライカMマウント用ユニットが、「リコーGXRマウント」として9月9日に発売されることになりました。リコーGXRは2009年12月に発売されましたが、「ボディ」、レンズと撮像素子を組み込んだ「カメラユニット」が別々に用意され、コンパクトデジタル同様の小型撮像素子を搭載したもの、一眼レフ同様のAPS-Cサイズの撮像板を組み込んだものなどが、レンズに応じてそろえられていました。このたび発売の“GXRマウント”は、レンズはありませんが、撮像素子にAPS-CサイズのC-MOSを組み込みライカMバヨネットマウントを備えています。つまりGXRボディとGXRマウントを組み合わせれば、APS-C判のライカMマウントデジタルカメラができあがってしまうのです。イカMマウントを採用した互換カメラとしては、フィルムの時代には、ミノルタコシナコニカなどがありましたが、デジタルではエプソンがご本家ライカより2年先行して「エプソンR-D1」を2004年に発売したのは記憶に新しいところです。今回、新たにリコーがこの分野に参入してきたわけですが、その実力のほどは大いに気になるところです。この時期、発売に先立って使うことができましたので簡単にレポートしましょう。外観ですが、すでにCP+2011で公開されていましたので大きな変更はありません。あえていうならマウント上部に“GXR MOUNT”というロゴが入ったことでしょう。ここに掲載の写真はレンズにペンタックスが2000年に発売したライカスクリューマウントの「SMC PENTAX-L 43mmF1.9 Spesial」を装着したものにしました。ご存じペンタックスは、この10月からリコーのカメラブランドとして再スタートすることになったわけですが、これからも末永くお幸せにといった、僕なりの思いを込めた組合せです。
 まず最初に、同じライカMマウントのエプソンR-D1ライカM8、M9となぜ価格がまったく違うのかということですが、エプソンとライカは光学式連動距離計を搭載していますが、リコーGXRマウントのピント合わせは、昨今、流行りのライブビューによる液晶画面でのピント合わせです。つまり光学式連動距離計を搭載していなく、その分だけ安価に価格設定できるのです。ライブビューでのピント合わせは、全画面もしくはワンタッチで4倍か8倍のライブビュー拡大画像を見てピント合わせするこの種のカメラの「MFアシスト」の定石通りで、連動距離計のズレを気にしないで、大口径レンズの至近でのピント合わせもしっかりと行えます。そしてカメラのファインダーの範囲を超えた広角も望遠も外付けファインダーを必要としないメリットがあります。
 さっそく試写してみました。まず最初に用意したレンズは、1935年製の「Hektor 2.8cmF6.3」と1959年製の「Super Angulon 21mmF4」です。なぜ、この2本のレンズかということですが、どちらも光学的には対称型というレンズデザインを採用しています。対称型は、シャープで歪曲収差の少ないことを特長としていますが、周辺光量の落ち込みが目につくことが欠点です。フィルムカメラの時代には、この適度な周辺光量の落ち込みが、空などにおいては中央に配置した主題を引き立たせるような効果があって、僕は好きでした。ところが、デジタルの時代になると、特にスーパーアンギュロン21mmF4は、エプソンR-D1(1.5倍)では中央部だけは画像がでても、周辺は真っ黒でまったく画像がでなかったのです。このためにエプソンユーザーからはダメレンズの烙印を押されていたのですが、ライカM8(1.33倍)、M9(フルサイズ)が発売され使ってみると、わずかに周辺がうっすらと赤く偏色しますが、画像はフルサイズのM9を含めて周辺までバッチリ写るのです。つまりカラーでは難ありですが、モノクロなら問題ないのです。ヘクトールエプソンR-D1では問題ありませんが、ライカM8、M9ではきわめてわずかですが四隅が赤く色づくのです。つまり撮像素子が大きいから写らないのではなく、小さくても写らないことがあるわけで、このあたりが一番の関心事であったのです。その原因に関しては光学系がテレセントリックか、オンチップマイクロレンズが周辺部でどのくらい偏向しているかなどに関係がありますが、ソニーのNEXシリーズのようにメカニカルバックが短いミラーレス機が登場するなどの世の中の動きと無関係ではないような気がします。ちなみにこのGXRマウントのC-MOSには光学ローパスフィルターが省略されているので、ライカのM8・M9と同じということで高解像が期待できます。
 では試用結果を簡単に報告しましょう。僕の個人的なライカマウント用デジタルカメラの評価スケールは、この2本のレンズなのです。作例はどちらも同じポジションからの撮影ですから、YS-11が余裕で入り、周辺に樹木が写っているのがスーパーアンギュロン21mmF4(絞りF8セット)で、ぎりぎりにYS-11が入っているのがヘクトール2.8cmF6.3(絞りF9セット)です。画角的にはフルサイズのライカ判にするとスーパーアンギュロンは31.5mm相当、ヘクトールは42mm相当の画角となります。撮影はどちらも焦点距離、設定F値からして、機械的な突き当ての∞位置にて撮影しました。写った結果ですが、すべて初期設定の状態で、絞りだけ設定しましたが、周辺光量の低下、周辺の色偏向などあまり感じなく、まったくつまらないほど普通にきれいに写っています。

 わずかにヘクトール2.8cmF6.3が画面全体にフレアっぽさを感じさせますが、そこはノンコートで76年も前の製造ですからご勘弁いただくとして、解像感はもともと両レンズともかなりのレベルでしたので、それを引きずっています。僕が感心したのは樹木・草の緑が自然な感じで生々しくないことで、同じ緑でもそれぞれ色として分離しているところです。このあたりまだまだ撮り込まないとわかりませんが、まずは気になるところです。

 このGXRマウントにはチェッカーというおもしろい立体スケールが同梱されています。3枚組の写真をご覧になっておわかりいただけると思いますが、左がチェッカー、中がスーパーアンギュロン21mmF4のお尻の出っ張り具合、右がそのお尻にチェッカーをかぶせた状態です。これでおわかりのように、このチェッカーがかぶさらないレンズはこのGXRマウントには使えないというわけです。ちなみにホロゴン15mmF8は使えません。これでわかりますが、チェッカーがあまりにもピッタリなのでリコーの開発メンバーにはスーパーアンギュロン21mmF4を所有している人がいるのではないかと思うのです。また、レンズ名称、焦点距離、絞り値などをマニュアルセットですがExif情報として入力できるのです。さらにそれらに加え、周辺光量補正(±3)、ディストーション補正(樽、糸巻き、各強・中・弱)、色シェーディング補正(R・B成分毎)など、自分好みのレンズ設定もできるわけで、さらにExif情報ともどもMYセッティングに保存しておくことができるのです。加えてこれらのデータをカメラ本体、SDカードへ記録できるというのです。いずれも、使いこなせる人にとってはかなりうれしいスペックです。限られた時間での評価ですが、スーパーアンギュロン21mmは、M6TTL、M7などのフィルム時代には、お尻の出っ張りがじゃまをして、露出計が使えなかったのですが、デジタルになると露出もピッタリとなりました。さらに当初デジタルカメラでは使えないといわれたのが、時間が経つことにより普通のレンズとして使えるようになったわけですから、技術の進歩を目の当たりに感じるわけです。
 ちょっと使った僕の印象は、1)レンズマウント部の機械加工精度が高く、レンズ交換がすこぶるスムーズ、2)とにかく難ありだったレンズもよく写る、3)今後は、Exifに撮影者名を書き込めるとか、お得意のファームウエアアップで、さらに使いやすいライカマウントカメラに仕上げて欲しいものです。