写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ライカ新旧タンバール90mmF2.2を使ってみました

 新たな画像データとコメントを加え「ライカ新旧タンバール90mmF2.2を使ってみました」として、京都MJのサーバーにアップしました。画素等倍まで拡大してより細かく見ることができます。

 写りすぎるデジタルの時代にあって、一風変わった特殊なレンズが好まれるようになりました。ひとつにクラシックレンズへの人気、さらにクセのある往年の名レンズの復刻などがあります。クラシックではロシアレンズなどは廉価に入手できますが、復刻版ではペッツバールタイプ、メイヤーのトリオプランが人気でしたが、この時期ライカカメラ社が、1935年に発売した「THAMBAR 90mmF2.2」を復刻させたのです。このタンバールは、一般的にはソフトフォーカスレンズとして認識されてきましたが、最近は限られた条件で点光源が変わった球形のボケ模様を発生させることなどから一部マニアには注目を集めています。もともとオリジナルタンバールは生産本数が少なかったことから、コレクターズアイテムのつねとして、このような注目を浴びることがない時代から、入手には60〜120万円ぐらい必要とする高価なものでした。そして今回発売された復刻版タンバールの価格は約80万円もするのです。そして機会があって、新旧のタンバールを使うチャンスに恵まれましたので、以下に実写結果を紹介しましょう。

≪左:復刻版タンバールM90mmF2.2、右:オリジナルタンバール90mmF2.2。復刻版の前にある丸い銀色に見える遮光部の付いたフィルターはソフトフォーカス効果を増大させるためのセンターフィルターで、オリジナルタンバールにも同じフィルターがありますが、大変貴重なために撮影当日には使うことができませんでした。なお、それぞれの極端に大きさが違うように見えますが、復刻版はフードなしの状態、オリジナルはフード付きの状態を撮影しました≫
 タンバールのレンズ構成は、右の図に示すように3群4枚構成です。同時代のライツのエルマー90mmF4と比べると、同じ焦点距離で3群4枚構成であっても最大口径がF2.2と大きく、レンズデザインと配置がまったく異なっていることです。エルマーはしっかりと描写させること、タンバールはソフトフォーカスレンズとして軟調描写をねらったわけですから、タンバールが大口径であることも納得いくわけです。一般的にはソフトフォーカスタイプのレンズとしては、単玉レンズを使い、絞り開放で撮ることにより収差を残してソフトフォーカス描写を得ることができますが、逆に絞り込むことによりシャープな画像となるのもよく知られていることです。そしてタンバールには、左上写真に示すような絞りフィルターが用意されています。このフィルターは、中心部に円形の遮光部を配置することにより、わずかに暗くはなりますが、周辺の光線だけを使って撮影するために軟調描写度が増すことになるのです。このためにレンズ鏡筒部には、フィルターなしのF値(開放でF2.2)とフィルターを取り付けたときのF値(開放でF2.3)の2系列が刻まれているのです。
 ざっとタンバールを紹介すると以上のようになりますが、ソフトフォーカスレンズですからその描写を見ることが一番わかりやすいので、さっそく、新タンバールフィルターあり、新タンバールフィルターなし、オリジナルタンバールフィルターなしの画像をお見せしましょう。もちろん撮影にあたっての、被写体、距離、光線状況、どこにピントを合わせたか、さらにどのような拡大率で鑑賞するかによっても軟調描写の印象は、大きく変わりますので、その描写はあくまでも一例であって、絶対的な評価でないことは、いうまでもありません。なお、撮影に用いたボディはライカM9です。

≪新タンバール・センタフィルターあり:絞り優先AE、絞り開放F2.3・1/200秒、ISO160。確かにフィルターなしよりは軟調度はわずかながら高いことがわかります。露出はF2.2とF2.3では表示の許容差ぐらいであって、Exifの表示としては変わりないことがわかります≫

≪新タンバール・センターフィルターなし:絞り優先AE、絞り開放F2.2・1/200秒、ISO160。フィルターありに比べるとシャープさがわずかに増してはいますが、その差は微妙です。どちらが良いというようなことでなく、どちらが好みかということになりますが、僕はこちらのフィルターなしの方が肌の描写の感じと、髪の毛のソフト度のバランスからいうと好みです。ただし、あくまでもVGAの左右640ピクセルでの拡大した条件でのことであり、もしA2などと大きく伸ばしたときには、鑑賞距離を含めて、好みの描写はまた変わるでしょう≫

≪オリジナルタンバール・センターフィルターなし:絞り優先AE、絞り開放F2.2・1/125秒、ISO160。新タンバールに比べると、軟調度が高いように感じる描写となっています。また露出は、1段弱多くかかっていますが、これは70年ほどの経時変化や時代による硝材の違いや、コーティングのあるなしなどによるであろうことは想像に難くありません。そして新旧での軟調度の違いは、ヌケの違いなどによるコントラストの違いからくる視覚的なものとも考えられます。この違いは、ヌケをよくするためにレベル補正を行うなどにより近似な描写が得られるのではと考えます≫
●ソフトフォーカスレンズのピント
 ソフトフォーカスは軟調描写であるわけですが、ソフトフォーカスレンズの描写にはピントがないと思われるかもしれませんが、実はしっかりとピントはあるのです。下の写真は、オールドタンバールで絞り開放で撮影したモデルさんの目の部分を画素等倍まで拡大したものですが、まつ毛、まゆ毛に、しっかりとピントがあることがわかります。したがって、光学的もしくは電気的にソフトフォーカス効果をかけた画像とは違う描写だと考えられます。このようなことから、ソフトフォーカスレンズが長い時代にわたって独自に存在できた理由があるのです。

●奥深いタンバールの描写
 タンバールでの作品というと木村伊兵衛氏によるポートレイトがよく知られていますが、近年では写真工業の『ライカのレンズ』や『カメラレビュー』の児島昭雄氏によるタンバールレンズの解説が最もわかりやすいです。児島氏によると、このセンターフィルターは中央の光束を使っているので、装着した状態でF6.3より絞って撮影すると写らなくなる、センターフィルターを付けるとアウトフォーカス部のボケはドーナツ状になる、センターフィルターなしでF9より絞り込むと一般のレンズと同じようにシャープに写る、というのです。今回の試用はライカカメラ社の新タンバールに加え、旧タンバールは知人のライカファン田中啓一さんのものを拝借してというわけで、時間的な制約からそれ以上の検討は行えませんでした。また、最近は柳沢保正さんによるタンバールによる夜景の点光源の球状ボケ模様が新鮮で注目を集めていますが、田中さんはすでにそのような描写が夜景だけでなく、明るい昼間でも発生することを確認しています。いずれにしてもこれから先の描写研究は、じっくりと使える所有者に許されるものだと考えますので、最後に最近気になる柳沢保正さんのタンバールでの作例を引き続き掲載して、借用物で瞬間旋風的にタンバールを使った僕のレポートはこれにて終了とします。 (^_-)-☆

≪タンバールによる夜景、撮影:柳沢保正さん、最近ご専門の方から、球形はボケでなく、合焦位置にも発生しているので、光源のにじみであるというようなご指摘をいただきましたので、球状のボケ模様としました≫
 そういえば、2010年に「ライカM9で軟調描写を楽しむ」という、記事をアップしていました。だいぶ前から僕はタンバールが欲しかったようです。