久しぶりにレンズのレポートです。今回のレンズは、「フォクトレンダーNOKTON 25mmF0.95」です。いままでに写真用レンズとして最も明るいレンズとして登場してきているのがF0.95です。1961年に発売されたキヤノン7用の50mmF0.95が最初で、以後2009年に発売されたNOCTILUX-M 50mmF0.95、そして今回使ってみた2010年に発売されたコシナ・フォクトレンダーのノクトン25mmF0.95があるわけです。僕としては、過去にそれぞれのレンズを使ったことはあるので、それらをF0.95ということで比較してみたいとも思いましたが、ノクトンは価格95,000円(税別)で、キヤノンは当時57,000円で発売されましたが、発売時期が50年も違うのです。ノクチルックスは価格が約11倍(1,006,000円・税別)以上も高いので同じ土俵で比較するのはちょっと違うかなと思うわけです。それともうひとつ決定的に違うのは、キヤノンとノクチルックスはライカ判用標準レンズとして50mmであり、ノクトンはマイクロフォーサーズ用であるので、同じ画角を得るためにはノクトンは焦点距離25mmであるわけです。
ところが世の中はうまくできているもので、このブログ熱烈愛好者の神原武昌さんがAngeniux 25mmF0.95をゲットしたからと持参してくれたのです。これだとばかり、早速拝借して比較することにしました。でもキヤノンとはあまりにも時代が違うといいながら、なぜ同じ時代のアンジェニューで比較するのだろうかと思われるかも知れませんが、焦点距離が同じ25mmであること、さらに開放F値も0.95と同じであることが意味あるのです。つまり60年代の大口径レンズはフィルム感度の不足をレンズ側で補うためにあったわけですが、ISO感度1600が日常的になったデジタル時代の大口径レンズはボケ味をだすための役割が大であるわけです。そのためには同じ開放F値であっても、焦点距離が違えば、まったくボケ具合は別物となってしまうので、比較してもあまり意味がないわけです。その点においてはアンジェニュー25mmF0.95(写真上左)は、Cマウントのため、もともとは16mmシネ用であるためにイメージサークルはフォーサーズよりは多少小さいわけですが、標準レンズは25mmであっためにF0.95のレンズは、その時代他社からもいくつかでています。そこで早速、Cマウントアダプターを介してルミックスGF-1に取り付けて、ノクトン25mmF0.95(写真上右)と比較してみました。
結果を上に示しました。撮影地は英国大使館正面玄関前で、モデルは敬意を表して所有者神原さんにお願いしました。左がノクトン25mmF0.95、右がアンジェニュー25mmF0.95の描写です。どちらも絞り開放F0.95で神原さんの左目にピントを合わせて撮影していますが、同じシーンで、絞り優先AEですが仕上がりの濃度が違うところが少し微妙です。念のためにどのような露出が行われているか、exifを調べてみますと、ISO100でノクトンが1/3200秒、アンジェニューが1/2500秒とわずかに異なります。そこでさらに違いをと見ると、右のアンジェニューの周辺光量が低下していることが気になります。これは16mmシネの画面サイズが約10 x 7.5 mmと小さいから当然でして、このあたりは特に問題にする部分ではありません。最も気になるのはボケ味です。撮影は三脚を使用してボディを固定したままレンズ交換して撮影していますから、背景はまったく同じはずです。そこで、神原さんの左肩の右の花を見てください。アンジェニューは球面収差とコマ収差によって二重像による2線ボケとなり丸くなっていて、まるでミラーレンズのようなボケ味です。主要被写体である神原さんがもっと後ろに下がると丸い2線ボケは消えるポジションもあります。また、この拡大率ではわかりませんが、もっともっと拡大してみるとピントの合ったところの解像はノクトンが圧倒的にシャープでした。あたりまえといえばそれまでですが、これが時代の差なのでしょうね。ちなみに神原さんが手に持つのはフィルムカメラのサモカです。
そこでノクトンの絞り開放F0.95はどんな描写をするのでしょうか、最もぼけが大きくなる最短撮影距離17cm近くで、絞り値を変えて比較撮影したのが上の写真です。左が開放F0.95、右がF2.8です。いずれにしても画面サイズの小さいフォーサーズでこれだけのボケ味をだすのはさすが開放F0.95であるわけです。そしてF2.8に絞ると、ピントの合った所がぴりっとしてきて、とたんにぼけた部分がうるさくなるわけですが、マイクロフォーサーズカメラにおけるノクトン25mmF0.95の魅力というのは、このボケ味そのものであるわけです。ところで、ピントは一番手前のバラの花に合わせてありますが、マニュアルでフォーカスポイントを決めて、部分拡大して細かくピント合わせするわけですが、正にライブビューならではのものです。また、F0.95・F2.8のいずれも実絞りによるピント合わせですから、もし絞り込みによる焦点移動があっても、まったく影響受けないのは、やはりライブビューならではのものです。念のためにいうと未確認ですが、ノクトンが絞り込みで焦点移動するということではありません。あくまでも、ここは一般論です。
さてF0.95という魅力を改めて考えてみますと、やはりボケ具合を楽しむことに尽きると思うのです。ですからこのレンズで無限遠の風景を撮ることは意味がないと思うし、夜景もデジタルの時代にあっては自動で複数コマ撮影して手ブレのない撮影が可能となったり、三脚使用はいうまでもなく、感度が高くなれば標準のレンズでも充分いけると思うのです。そのF0.95の描写を僕なりに求めて撮影したのが、右の写真2枚です。当然絞りはF0.95開放です。特に左の女性二人はご覧になればおわかりのように、肩からカメラをさげた「カメラ女子」であったわけですが、左の子がルミックスGF-1、右の子がニコンの一眼レフを持ってお互いを撮影しあっていたのですが、「ノクトン25mmF0.95」だと背景がうるさくないよと貸してあげましたが、逆に撮ってくれと頼まれたのでそのようにしましたが、20mmのパンケーキレンズでは背景に人物が点々と入り込んでしまうことから、大口径F0.95の効用は十分に理解してもらえました。さらに右のショウブの花は、白い花びらの部分がわずかにソフトフォーカスレンズのようなフレアっぽさを見せる描写をするのです。どちらも絞り開放の描写では、ソフトな描写傾向を持つような印象を受けますが、これを少しでも絞ってきりっとさせつつ、ボケ描写を活かすのがノクトン25mmF0.95の使いこなし方かも知れません。僕としては、ほとんどの場面を絞り開放F0.95で狙い、うまくピントを合わせると驚くほどシャープな画像をモニターで確認できました。特に二人の女性の写真では、向かって右の女性の左目にピントを合わせましたが、画素等倍まで拡大してみると、マツゲはいうまでもなく虹彩までしっかりと写り込んでいました。モニターで見る画面は全体、拡大部分ともシャープに見えるのですが、A4ぐらいにプリントするとかなり柔らかな描写をするというのがもうひとつの特性です。適度な柔らかさを持つなかにシャープさを持つレンズとしては、僕自身の経験ではライツのヘクトール73mmF1.9があるわけですが、絞り開放F1.9の描写特性にノクトン25mmF0.95と何か共通を感じました。ただしこれは、あくまでもピントの合った部分での描写であって、アウトフォーカスしたボケ部分の暴れ具合は、アンジェニュー25mmF0.95を上回るものがヘクトール73mmF1.9にはあります。ノクトン25mmF0.95は、F0.95という大口径でありながらアウトフォーカス部のボケも素直で暴れるようなことはなく、ほどほどの価格というのも魅力で、きわめてバランスのとれたマイクロフォーサーズ用の交換レンズだと思うのです。