写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

大口径ライカマウントレンズを楽しむ

 ライカMが発売されてライブビュー撮影が可能となり、すっかり僕の撮影スタイルも変わってしまいました。まず、ライカマウントの大口径レンズを使うことが多くなったのです。それも絞り開放での撮影です。かつてフィルムカメラの時代に、ノクチルックスの50mmF1.0だとかキヤノン50mmF0.95など、歴史的な大口径レンズの作例をいくつか見てきましたが、こんなものなのかな?、といつも思っていました。ところがリコーGXRのA12マウントがでたあたりから、事情が変わってきました。実際に、写す画面のピントを液晶モニター上で拡大して見ることができるようになったのです。これによって、絞り開放でも確実なピント合わせが可能となり、さらにある程度絞って被写界深度といわれる範囲にあっても、実際はピントは1点だということが良くわかるようになりました。もちろん撮影の速写性を考えると距離計連動がよいのですが、そうなると一眼レフもあるわけで、やはりライカ判フルサイズのライブビューがおもしろいのです。そこに11月、ソニーからミラーレスのα7とα7Rが発売されたのです。もちろん距離計に連動するわけありませんが、α7Rは3,600万画素という高画素タイプで、ライカマウントレンズで、今までにないおもしろい写真が手軽に撮れるのではないかと思ったのです。そんな時に追いかけで、12月にコシナから「フォクトレンダーVM-E Close Focus Adpter」が発売されたのです。

 上左に、「ソニーα7R」に「フォクトレンダーVM-E Close Focus Adpter」とコシナの「フォクトレンダーNOKTON 50mm F1.1」を取り付けた写真を掲載しました。上右には、VM-Eクローズ・フォーカス・アダプターの単体だけを示しました。この組み合わせのおもしろいのは、マウントアダプターに巧妙に伸縮可能なヘリコイドが組み込まれていて、ライカマウントレンズの最短撮影距離がアダプターのヘリコイド繰り出しで、通常の場合よりかなり近接できるようになるのです。たとえば、ノクトン50mmF1.1の場合には、通常は∞〜1mの撮影範囲であるのが、VM-Eクローズ・フォーカス・アダプターを使えば、∞〜47.9cmの範囲まで近接撮影が可能となるのです。つまり、一眼レフカメラの50mm標準並みの近接撮影が行えるのです。これは、ライカレンズ使いの人にとっては朗報です。もちろん一眼レフマクロレンズのように万能というわけにはいきませんが、あと一歩、寄れたらといったようなくやしい思いをされたライカマウントレンズ使い方は多いのではないでしょうか。このような使い方ができるのは、マウントアダプターを取り付けできるミラーレス機ならではの芸当であるわけでして、残念ながらご本家「ライカM」ではできません。さっそく、近接撮影を試してみました。 《ワイン:ソニーα7R、ノクトン50mmF1.1、F1.1・1/640秒、+0.7EV露出補正、ISO100、レンズのヘリコイドを最短1mに繰り出し、VM-Eクローズ・フォーカス・アダプターのヘリコイドを目いっぱい伸ばして最短距離約48cmで撮影》 ご覧のように逆光の条件に置いたワインボトルの撮影ですが、絞り開放F1.1という独特な世界での近接撮影が功を奏してソフトで幻想的なイメージを醸しだしています。とはいっても拡大するとわかりますが、ラベルの文字はシャープに描出されています。

《八国山:ソニーα7R、ノクトン50mmF1.1、F1.1・1/500秒、ISO100、VM-Eクローズ・フォーカス・アダプターのヘリコイドを伸ばさないで撮影》わが家の裏の里山である八国山で夕日の斜光線が落ち葉にあたるところを絞り開放のF1.1で撮影してみました。絞りF1.1で、合焦距離が約3mだとすると、この場合の深度は20cmぐらいと極めて薄いのです。前にも、後ろにもアウトフォーカスによるボケ像がでていいるのですが、合焦部の枯葉は1枚1枚がきわめてシャープに写されています。この八国山のある地域は、近年いわゆる「トトロの森」と呼ばれていますが、かつては標高89.4mの山頂から関東の8ヵ国の山々を望むことができたというのです。この場所での撮影は時々行うのですが、僕の写真仲間の宝槻稔さんの撮影ライフワークの場所だそうです。というわけで、宝槻さんと八国山の尾根伝いにカサコソと落ち葉を踏みながら歩き、撮影したときの1カットです。

 ピントの合っている葉の部分を中心にして、大きくトリミングしてみました。これで画素等倍に対して約60%ぐらいの倍率なのですが、拡大したことによって小さな画面では見えなかったアウトフォーカス部のボケ具合による光の織りなす描写が実に美しいのです。大口径レンズが生みだす、まさに光のページェントともいえる光景です。この光の具合は、レンズの焦点距離や口径によって異なるのですが、同じ焦点距離F値だからといって同じように描出されないところがおもしろいのです。もちろん撮影距離や、その場の光線状態にも大きく左右されるのですが、これがまさに“レンズの味”と総称される、そのレンズの個性なのです。高画素カメラと大口径レンズ、そして大伸ばしによって初めて見えてくる描写なのです。興味のある方は、ぜひお試しください。    ( ^)o(^ )