写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

さて、どうしたものでしょうか

久しぶりにかつて、とあるカメラメーカーの企画担当者であったKさんからメールをもらいました。それによると、ある雑誌でデジタル一眼レフのテストをやっているが、どうも内容がよく理解できないからライターと出版社の性格を教えて欲しいというのです。またか、という感じですが、僕が長年にわたり技術系のカメラ雑誌の編集をやっていたせいか、いまでもこんな質問が時々舞い込みます。少し前にも、ライターの○○さんはどういう方ですか?「デジタルカメラの光学ローパスフィルターについて述べていますが根本的なところを勘違いされているのです」というような問い合わせがとある大学の先生からありました。“さて、どうしたものでしょうか”僕はどちらのレポートも読んでいないので、なんとも言えません、としか答えることができないのです。たまたま知っているライターさんや出版社の場合は、ある程度のバックグラウンドに関してはお話しできても、それ以上は口出しできないのが実際です。
Kさんは、今回、その雑誌上で書かれていることに対し、

1)この性能測定の原理が分かりません。あまり測定の根拠を説明しないまま、結果だけグラフ化しているので少し気になっています。
2)AF合焦速度が1/100秒単位で測定されていますが、どうやって測定したか、解像力測定ではどんなチャート(コントラストとか、ピッチ寸法、測定時の明るさなどなど)を使ったのか、AE測定では、色々なチャートを使っていますが、明るさの範囲はどれだけだったのか、測定時の明るさはいかほどか、ダイナミックレンジではどうも反射型の階段濃度板を使っているようですが、反射型ではそもそも濃度域が1:30程度しかないはずで、輝度範囲にして2の5乗分しかありません。どうやって2の8乗以上あると思われるセンサーの受光レンジを測ったのでしょうか。相当技術に明るい人達らしいのですが、測定の基本部分が理解できないので、評価が信じられず、このテストを依頼した雑誌社の性格も知っておきたいと思っている訳です。

というのです。
僕自身も時々カメラの評価をすることはありますが、いつも念頭においていることは、実際に撮影してプリントしてみることと決めています。フィルムカメラの時代には、どのようなフィルムを使い、どのような処理条件で、どのようなプリント条件かなどかなり不確定要素がありましたが、デジタルカメラの場合はかなりの部分が自己完結型で、評価はやりやすくなりました。それでも、レンズの良し悪しなどは、撮影時の条件によっては評価が逆転することもしばしばです。そして念頭においていることは『テストされているのはカメラでなく、テスター自身である』ということです。これはかつて長い間おつきあいいただいた、元東京大学生産技術研究所教授の故小倉磐夫先生にお教えいただいたことですが、その昔は、間違った数値評価を下すと、メーカーの技術担当者が大挙してきて、レポーターにとことんわかるまでやさしく理論解説するというのを見てきた身としては、できあがった写真そのもので攻防するしかないと考えているわけです。