写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

写真のプリント

先日来、なぜか3人の方に写真を見て欲しいという相談を受けました。とはいっても、僕に見てもらいたいというのはプリントの仕上がりであって、写真の内容ではないのです。なぜか僕の周りにはこういう方々が集ってくるのです。相談を受けた順に紹介すると、お一人は神原武昌さん、もう一人は吉野信さん、そして野嵜正興さんのお三方です。神原さんは、魚眼レンズで赤外写真を撮るのを趣味とされていますが、お仕事はアメリカのイメージトレンド社というフィルムやデジタルカメラのゴミをとるソフトを作っている会社の日本代表です。最近は赤外フィルムが身近でなくなったことから、ご自身でデジタルカメラでの赤外撮影法を確立され、それを何とかご自分でモノクロプリントしようというわけです。また吉野信さんは、ご存じネーチャーフォトグラファーで、仕事柄デジタルで撮影した作品をモノクロプリントしたいというのです。そして野嵜さんは、とある製紙会社でインクジェットペーパーの研究をされていた方で、現在は定年されてから、写真を趣味とされ、年に複数回海外に撮影に出かけて撮影し、個展を毎年開いている方で、撮影はフィルムによるものです。というわけで、いずれの方もわりと最近までというか、いまでもフィルムを愛用されている方々です。
3人に共通した悩みは、プリントをインクジェットでご自身の手で上手に出力したいというのです。まずデジタルカメラでどのように撮影したらよいかということが第一でしたが、これはモノクロプリントを目的としてもカラーで撮影し、プリントの段階でプリンタードライバーでモノクロプリントを選択すればいいこと、フィルムからのプリントはデジタルデータ化するときにはなるべくフィルムスキャナーを使うこと、出力紙は素性のいいなるべく高級なものを使用すること(まずは純正で、慣れたらサードパーティー製を探すのもいいです)、プリンターは最低限A3ノビまでプリントできること、そしてカラーではいままでの銀塩プリントと違和感なくするためには染料のプリンターを使うこと、インクはもちろん純正を使うこと等、細かいことは抜きにして実行していただきました。結果は、かなり満足いくものが得られたようで、野嵜さんは写真展会場に展示して、プロラボの仕上がりと見分けがつかないようなカラーでA3ノビに光沢で仕上げていました。このA3ノビは、いままでの写真サイズでいうと半切相当になります。いずれにしても3人の方はだいぶ満足されたようですが、じゃあ何をしたかというと特別には何もしていなく、ただあたりまえの材料をそろえて実行しただけなのです。実は、そこがインクジェットプリントでしっかりとしたプリントを作るコツなのです。強いていうならば、インクジェットではカラーのほうが楽にプリントでき、モノクロはエプソンキヤノンもある時期からで、思った通りに仕上がるのはその機種に依存します。エプソンは2002年のPM-4000PX、キヤノンは2004年のピクサス9900i以降の製品ならなんとかなるはずです。

それにしても現在のカラープリントはずいぶん楽になりました。僕が初めてカラープリントに手を染めたのは、45年ほど前の高校生の頃、特集フォトアートの引伸ばし編にわずか1ページ、フィルターワークプラスαが書いてあるのを参考にしてでした。処理剤とペーパーはオリエンタルのものを使いましたが、セーフライトグラスはほとんど暗黒、ランプ点灯でき、しっかりと色が見える(固定される)には1時間以上を必要としたのです。しかも当時の乳剤はカラードカプラーがオイルプロテクトタイプでないために、完全に乾燥させないと水に濡れているときは乳白色に見えるのです。またカラーペーパーは、いま流でいうとバライタ印画紙で、光沢をだすためにはフェロタイプ乾燥させなくてはいけなかったのです。ここで初めて色が見えるのでフィルター補正を(引伸機のコンデンサーレンズ、防熱フィルターは光学ガラスではなく青板ガラスなので、その分を加味して)考え、再度プリントしてというわけです。もともと時代的には黒白写真の時代で、カラープリントも、カラーリバーサル現像も自分でやることに何の疑問も持っていませんでした。いつの頃からでしょうか、時間とコストなどの関係からラボにだすようになりましたが、写真を撮影した後に自分でプリントする楽しみが失われたのも事実です。そんなこともあり、インクジェットでカラーとモノクロプリントが自分でやれるようになったのは大きな喜びでした。そのためには、専用のフィルムスキャーナーを必要としましたが、最近ではデジタルカメラを使えば最初からプリントできるデータが得られるわけですから、これまた便利というわけです。とはいっても、最近の悩みはフィルム時代の画像がデジタルカメラの画像となかなかうまくつながらないのです。つまり、簡単にいうと手軽で良質なフィルムスキャナーがないということです。これには異論があるかも知れませんが、もしそのようなスキャナーが登場すれば、フィルムで撮影してデジタルでプリントするという楽しみがもっと増えるのではないかと考える次第です。とはいっても便利な時代で、5万円強のインクジェットプリンターで、半切相当のA3ノビのカラー・モノクロプリントが10分ぐらい(機種にもよる)でできるのですから素晴らしいことです。
◇写真は、45年以上前のオリエンタルカラー印画紙用セーフライトグラスと30年ほど前のフジカラーのCPフィルター(濃度の濃いいのだけ)。オリエンタルのCPフィルターは大事にしまってあり探し出せませんでした(笑)。当時のカラープリントフィルターは、ダイクロイックフィルターのように見えないことはなく、目に見える多い色(濃度)の分を足したり引いたりすれば良かったのです。