写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

神話の8枚玉「ズミクロン35mmF2」が復刻

 1958年に発売された距離計連動ライカ用の8枚玉「ズミクロン35mmF2」が、中国で「LIGHT LENS LAB V2LC 35mmF2」として復刻されたというのです。どのようなものか、さっそく取り寄せて使ってみました。まずはオリジナル8枚玉ズミクロン35mmF2と中国製復刻版ライトレンズをフィルムとデジタルのライカに装着して、外観から比べてみました。

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≪ 左:オリジナル・8枚玉ズミクロン35mmF2、右:復刻版・LIGHT LENS LAB V2LC 35mmF2≫

 ライトレンズの“V2LC”は、硝材のロット番号だそうで、L はLead 鉛の英語の略、Cは単層コーテイングの略だそうです。つまりライトレンズには鉛入りガラスが使われているのです。この辺りは1958年に製造開始したオリジナルに対するこだわりだそうで、ある程度の量は確保されているようですが、大量に製造するとなるとエコガラスに移行するのだそうです。さらにこだわりは、オリジナルの8枚玉を分解して、寸法・曲率を計測して、ガラスの素材まで同じにとこだわった部分のようです。このうち各レンズは、直径で1mm大きく作られていて、オリジナルズミクロン35mmF2の交換部品にならないようにわざと大きく作られていて、オリジナルレンズの存在を侵さないようにとの配慮からだそうです。

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≪左:ライトレンズのレンズケース、中:レンズリアキャップ、右:レンズキャップ≫

 ケースはコダックのエクトラのレンズケースに似た感じのアルミ製の円筒で、つや消し黒のアルマイト加工がなされています。表面には、6群8枚のレンズ構成図と共に、漢字で“光影鏡頭實驗室 LIGHT LENS LAB”と刻まれています。光影は、光と陰であり、鏡頭はレンズ、實驗室は研究所とか研究室なのでしょう。写真中央はレンズのリアキャップで、レンズケースと同じでレンズ構成図が縮小されて刻印されています。写真右はレンズキャップでやはりレンズ構成図が描かれていますが、これだけは真鍮製でずっしりと重いです。

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 銘板を正面から見ると、復刻だということでも銘板はそっくりさんではなく、あえて探すならば“1:2 / 35”という表記ぐらいで、あとはLIGHT LENS LAB V2LC の商品名と、赤くCHINAと書かれ、1,000本中の472番目というシリアルナンバーが打たれ、さらに“stkb0006”と刻まれています。聞くところによると、このレンズは中国国内向けに製造されたもので任意の8桁の文字を書き込んでもらえるのだということで、これは日本での輸入元である“焦点工房”が注文したレンズの6番目ということです。海外向けのバージョンは、刻印の特注はできなく、すべて“8element”と刻印されるというのです。ところで、なぜ“LIGHT LENS”なのかと考えてみました。ライトレンズとライカレンズを読んでみると、ライカとライトでありイントネーションが同じなのだからと考えたのですが、どうやら単純に“光影鏡頭實驗室”を英語に翻訳すればライトレンズになるということでした。

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 レンズ交換のフィンガーポイントを中心に側面から見ると。左:ズミクロン、右:LIGHT LENS。フィンガーポイントはオリジナルは赤い樹脂製であるのに対し、中国製はルビーのような赤い人口宝石が埋め込まれています。樹脂製の赤いフィンガーポイントは表面が反射するので赤く見えますが、宝石は光を透過するので赤黒く見えます。さらにこの写真からわかることは、ライトレンズは不等間隔絞りであることです。この部分は次世代では等間隔絞りに改良されるようです。また無限遠ストッパー脇の立ての溝が5本が4本と少なくなっていますが、機能的には指掛りはまったく同じで、パッチンと止まる感覚は一緒です。この写真からはわかりにくいですが、レンズ鏡筒はオリジナルズミクロンがアルミであるのに対し、ライトレンズは真鍮だそうで、そのためにレンズ本体だけの重さを測ると165gと230gで、ライトレンズの方が65g重いのです。ただこれはレンズ単体での重さであり、ボディに付けるとその差はわかりにくいかもしれません。

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 レンズ側面から見ました。今回使ったオリジナルレンズはドイツ製ですが、8枚玉ズミクロンにはカナダ製もあります。ライトレンズは、漢字で“中國製”と刻まれています。輸出モデルは“中國製”の部分はMade in Chinaとなるそうです。実はこのカットではそれぞれにE39(39mmφ)UVフィルターを装着してあります。オリジナルにはライツ製を、ライトレンズには復刻版を付けてあります。少なくとも刻まれた名称はそれぞれですが、機械的な加工部分はほとんど同じように復刻されているというこだわりです。さらに聞くところによると専用フード“IROOA”も復刻されていますが、日本にはまだ入ってきていないということです。

 ■いまなぜ復刻版8枚玉ズミクロン35mmF2か

 外観各部を見てお分かりのようにデザインはかなり近似しています。それにしてもなぜ中国で8枚玉ズミクロン35mmF2が復刻されたのでしょうか。それはまず第一に、中国で今ライカブームが起きているからではないでしょうか。

 そもそもズミクロン35mmレンズが、神話としてブームになったのはいつ頃のことだったのでしょう。私の記憶では、少なくとも20年以上前ことであり、日本における1990年代後半におけるライカブームが到来して以降の事だったと思うのです。当時はライカとつければ本は必ず売れた時代でもありました。非球面レンズになる以前のズミクロン35mmF2を歴史的に見れば、初代が8枚構成で1958年に登場し、第2世代が1969年に6枚構成で登場し、さらに7枚玉が1979年に登場しています。私はズミクロン35mmF2の第1世代8枚玉と、第2世代6枚玉を比較したことがありますが、基本的には6枚玉のほうが良かったという記憶があります。要はクラシックカメラやクラシックレンズの価値観は、コレクターズアイテムとして考えると、良く写るということも重要ですが、それ以上に生産数が少ない希少性であることも大切な要素となります。さらに枚数が多ければいいというわけではありませんが、中古価格は枚数が多い順に高価となっていました。

 このライトレンズの製造の仕掛け人は、中国の周さんという、40歳代のある大手企業の社長であり投資家のようで、このライトレンズは趣味で作っているというのです。すでに3年の時間を費やして出てきたのがこのライトレンズで、時間・投資金などは関係なく、完成度の高い、完璧な復刻版を目指して物作りをしているというのです。従来からのレンズを大量に生産し、新商品をどんどんだしてビジネスを成功させるメーカーとは違う道で歩んでいる人だそうです。

 いずれにしても、8枚玉ズミクロンが数の上から希少なわけで、クラシックライカファンなら一度は使ってみたいレンズということになります。そして単純に、日本の10倍も人口の多い中国ですから、クラシックライカファンも日本の10倍いてもまったくおかしくないのです。この結果、8枚玉ズミクロンへの要求も10倍高いということがいえ、復刻版の8枚玉ズミクロンが成立し存在する理由かもしれません。

 もっともこの復刻版というかライトレンズは、いわゆる海賊版やコピー商品とは異なり、堂々と独自ブランドを付けて、8枚玉の復刻であることをうたっているのが特徴です。日本だと名称は同じでも、性能は現代にマッチさせたレンズとするのが多いのですが、この辺りは中国と日本の物に対する考え方、大げさに言えば文化の違いであって、性能までを復刻させるという考えを理解するにはなかなか難しいです。もちろんこれは、周さんという企業家の趣味の領域であって、現実には、日本の最新レンズに、価格、デザイン、光学性能、機能など追いつき追い越せの競争が別のグラウンドで行われているのも現実です。

■オリジナルと復刻版を実写で比較しました

 撮影はいつもの英国大使館正面玄関で晴天時午前中の10時15分に行いました。最近ライカマウントレンズでは、フルサイズのミラーレス機でマウントアダプターを使って撮影を行うのがピント合わせの正確さから流行っていますが、ここでは、ライカマウントレンズであることから、まずはデジタルの距離計連動機である「ライカM9」を使い撮影してみました。

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≪いつもの英国大使館・8枚玉ズミクロン35mmF2≫ ライカM9、F5.6・1/1000秒、ISO-AUTO160、AWB。

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≪いつもの英国大使館・ライトレンズ35mmF2≫ ライカM9、F5.6・1/1000秒、ISO-AUTO160、AWB。

 さて、この2枚の写真の違いは分かりますか。二重像合致式の距離計で中央屋根直下にあるエンブレムにピントを合わせて、フレーミングをし直してシャッターを切るのですが、フレーミングの段階でした視野枠を下すのですが、角度を振ったことにより、いわゆるコサイン誤差が生じるのではないだろうかという危惧はあるのですが、撮影距離が十分にあることと、絞りF5.6と絞り込んでの撮影ですから、実用上は被写界深度の関係から無視してよいと考えました。撮影は、絞り優先のAEで行いましたが、同じボディで露出はどちらもF5.6・1/1000秒ということから、どちらのレンズも同じような透過光量であったということがわかります。撮影にあたっては、それぞれ専用のUVフィルターと専用フード“IROOA”を着けて可能な限り同じ条件で行いました。なお発色傾向はライカM9の撮像素子はCCDであることで、ライカM(Typ240)以降のモデルがCMOSであることなどから、大きく違いますが。この2カットを見る限りでは、撮像素子の影響は免れませんが、基本的に感度が少し低めにでているところの影響が大だと思うのです。

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≪エンブレムを画素等倍に拡大してみました、左:ズミクロン35mmF2、右:ライトレンズ35mmF2≫ 結果として、2つの画像を画素等倍まで拡大して比較してみると、ほとんど差はありません、あえて言うならばライトレンズの方が解像力がわずかに高いのです。もし同じレンズだとしたら十分に個体差の範囲とも言えます。私の経験ではそのままA3ノビに伸ばしてどんなに子細に見てもその差はでてこないでしょう。その程度の差なのです。以後、同じようにしてさまざまな場面で8枚玉ズミクロン35mmF2とライトレンズ35mmF2を撮り比べましたがわずかにライトレンズがいいのですが、大きな差はでてきません。そこで、以下掲載の作例はライトレンズだけを紹介することにしました。

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≪ブティックの店頭にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F4・1/2000秒、ISO-AUTO160、AWB。この写真から何が見えるかというところでは、手前のワンピース胸のあたりを見るために画素等倍まで拡大すると縦横繊維の1本ずつがどうにか読める柔らかい感じでした。むしろここで注目したいのは、左奥に広がるアウトフォーカス部分の癖のない柔らかなボケの感じです。

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NISSAN 2020 Concept Car ≫ ライトレンズ、ライカM9、F2.8・1/60秒、 ISO-AUTO400、AWB。銀座の日産ショールームに置いてあったコンセプトカーです。ゆっくりと回転しているところをシャッターを押しましたが、タイヤの側面のDUNLOPの文字などはゴムの質感がでているし、さらにホイールの金属部分やディスクブレーキ部分もシャープな感じの描写です。

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≪写真家 清水哲郎さん、トウキヨウカラス写真展会場にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F2・1/60秒、 ISO-AUTO200、AWB。左目にピントを合わせフレーミングをしましたが、顔はかなりアマイ描写となりましたが近距離だけにこれがコサイン誤差の影響かと考えました。清水さんは心優しい方で「顔はこのくらい柔らかい描写のほうがいいですね」といってくれました。感謝です。

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≪写真家 ハービー・山口さんの写真展『50年間のシャッターチャンス(1970-2020)〜その方の幸せをそっと祈ってシャッターを切ってきましたが、いかがでしょうか』会場にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F2・1/60秒、 ISO-AUTO1250、+1 EV、AWB。コサイン誤差でピントのズレがないようにと、距離計のズバリ合致部分に顔を配して撮影しましたが、やはり柔らかな描写となりました。どうやら絞り開放の描写は極端に甘いようです。実は、ズミクロン、ライトレンズを比較していた時からも感じていたことで、単に解像していないということだけではなく、フレアも発生しています。さまざまな絞り値で使った範囲では、ズミクロン、ライトレンズともかなり絞り開放は柔らかく、1~2段ほど絞るだけでキリっとピントが立った写りをする、極めて絞りによる画質の立ち上がりが早いレンズだと言えます。ただしホワットした描写はこの場には向いていました。

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≪若い2人、ハービー・山口さんの写真展会場にて≫ ライトレンズ、ライカM9、F2・1/60秒、 ISO-AUTO 1250、+0.6 EV、AWB。ジーっとハービーさんがノクチルックス50mmF1.0で撮影した6枚組カットを見つめる2人。大口径ならではのボケ具合に見いっていたのでしょうか。最近の写真展会場の照明は、世の中の流れに沿って、LEDランプになる傾向がありますが、スポット性が高く周辺の壁と作品との輝度比があるために、目には白い壁もライトから外れた所は落ち込んで黒く見えます。写真的にはハート形の2人の世界に包まれているようでいい感じですが、どうしたものでしょうか? 見たままに写るのが写真だとすると、カメラが解決するものか照明法が解決するものなのでしょうか。

 ■フルサイズミラーレス機で使ってみました

 個人的には、デジタルになって距離計連動機には限界があると感じています。その点において同じライカレンズでもミラーレス機でマウントアダプターを介してピント合わせして撮影したほうが大伸ばしに耐えられる確度の高い写真が得られると思っています。実際、上掲のハービーさんの写真展をやっていた新宿 北村写真機店のライカレンズ担当のスタッフは、ライカレンズをミラーレス機で使う人がほとんどだというし、私の周辺の古典レンズ好きの仲間たちはミラーレス機で撮影する人が事実上すべてとなりました。

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≪マウントアダプターを介して、左:ライカのLマウントを使ったフルサイズミラーレス機の「シグマfp」に8枚玉ズミクロン35mmF2、フルサイズミラーレス機のスタンダードとして「ソニーα7RⅡ」にライトレンズ35mmF2を装着。それぞれ純正のUVフィルター、ライカの専用フード“IROOA”を取り付けて撮影に臨みました≫

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≪解像度・フレアの具合、周辺光量の低下を見てみました≫ ライトレンズ、ソニーα7R2、F2・1/25秒、 ISO-AUTO 100、AWB。どうも絞り開放F2では、ピントがあまいのとフレアが目に付くので、8枚玉ズミクロンとライトレンズを比較してみました。ピントは右ページのピンクの付箋の先に置いた「ライカズマリット35mmF2.5」のシリアルナンバーの部分を12.5倍に拡大してピントを合わせました。照明は間接的な自然光下でわりと均等に光は回っていますが、画面全体の画像からは周辺光量の低下が目につきますが、不思議と周辺光量の低下の具合はオリジナルも復刻版も大きく変わりませんので、掲載はライトレンズだけにしました。さらにどちらもピントを合わせた部分を画素等倍に拡大して比較したのが以下です。

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≪左:8枚玉ズミクロン、右:ライトレンズ≫ 絞り開放だとこのような解像でフレア成分があることもわかります。私としては他のカットも同様でしたが、わずかにライトレンズのほうがフレアも少なく解像感も高く感じます。さらに発色の違いは、8枚玉ズミクロンが1958年、8枚玉ライトレンズが2020年ですから、62年前の硝材とコーティングではこの程度の差がでてもまったく不思議ではありません。さらにレンズそのもの、さらにはフィルターを透かして見た状態では、どちらもオリジナルのほうが淡く黄色に色づいて見えるのです。それがこの撮影結果に効いてきたのかもしれません。1950年代のレンズの硝材には、いわゆるランタン、クラウンなどの新種ガラスが使われてだしていた時期でもあるわけですが、現在では鉛フリーのエコガラスであるのに、ライトレンズでは硝材も当時のまま鉛ガラスを確保というのもちょっとしたこだわりです。

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数寄屋橋公園から≫ ライトレンズ、ソニーα7R2、F5.6・1/125秒、 ISO-AUTO 200、AWB。ピントは背後の東宝のビルの壁面に合わせました。絞りF5.6と絞ってありますが、手前の柳の葉はすべて前ピンになっていますので柳の葉にはピントはきていなませんが、東宝朝日新聞のビルの壁面はみごとなほど解像していて、まったく遜色のない描写特性です。

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≪黄色く色づいた葉っぱ≫ ライトレンズ、シグマfp、F2・1/125秒、 ISO-AUTO 200、AWB、曇天。F2とF2.8の2カット撮影しましたが、左右640ピクセルではフレア成分は別にして解像的な差は見えませんので、合焦部の画素等倍拡大でその差を見ました。

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 ≪黄色く色づいた葉っぱ≫ ライトレンズ、シグマfp。左)F2・1/125秒、 ISO-AUTO 100、AWB、曇天。右)F2.8・1/80秒、 ISO-AUTO 100、AWB、曇天。それにしても、F2から1絞り絞り込んだF2.8で、これだけすっきりして、解像力的にも劇的に立ち上がるレンズは初めてです。どおりで、F2開放で撮影した清水哲郎さんとハービー・山口さんの顔が柔らかく描写されたわけです。

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≪写真家 飯田鉄さん、写真展「美徳の譜」会場にて≫ ライトレンズ、シグマfp。F2.8・1/60秒、 ISO-AUTO 100、AWB。ズバリ真ん中に飯田さんを配してピントを目に合わせました。絞りF2.8に絞ったことと、中央にいてもらったことが功を奏して、画素等倍にまで拡大すると、飯田さんの左右の目のまつ毛、眉毛は1本ずつシャープに解像していてメガネフレームともピントはばっちりです。何かすごいレンズです。画素等倍のクロップ画像を作りましたが、掲載は控えさせていただきました。

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≪夜の新宿通り≫  ライトレンズ、シグマfp。F2・1/30秒、 ISO-AUTO 100、-0.7EV、AWB。絞りF2開放で、夜の新宿通りの光源をアウトフォーカスして見てみました。これを見てみると、左右のボケがかなり崩れているのです。中央部はほとんど真円に近い丸ボケですが、左側の街灯の部分は非点収差の影響でかなり乱れています。このような絞り開放におけるアウトフォーカス時のボケが乱れる例としては、1950年代のズノー50mmF1.1に見ることができるわけですが、この時も1段F2に絞ると劇的に画質が向上したのですが、ライトレンズも同じといえます。

 ■現代に通じるクラシックレンズの味

 最近はマニュアルフォーカスながら、中国製の50mmF0.95や85mmF1.2やF1.4、35mm1.2やF1.4などの大口径レンズが続々とでてきていて、日本の市場にも時間差なく登場してきていますが、非日常的な大口径レンズが安価であることはレンズグルメにとっては大いに気になるところです。その中にはある意味で先端のレンズを隙間商売的に出てくるのに対して、60年以上も前の8枚玉ズミクロン35mmF2を鉛ガラスを使って堂々と復刻するというのも中国であるわけです。

 今回のズミクロンとライトレンズに最初は厳密に1:1の画質比較を行っていましたが、きわめてわずかにライトレンズの方が性能が良いのですが、さまざまな場面であまりにも類似していることから途中から比較はやめました。それにしても、そこまで似ているのを作るのはどのような考えに根差したものなのでしょうか。また途中で比較はやめたもうひとつの理由としては、オリジナルのズミクロンを持つ人は復刻のライトレンズを購入しないだろうし、復刻のライトレンズを持っている人はオリジナルを持ってないだろうと考えるのが妥当だろうと考えたのです。

 最終的にライトレンズを使って感心したことは、8枚玉ズミクロン35mmF2と外観・形状が似ていることもありますが、それ以上に感心したのは描写特性があまりにも似ていることでした。特に絞り開放ではどちらもホヤホヤの画像ですが、1段絞るとシャープになるというのは驚きです。昨今のレンズでは絞り開放からシャープな像を結びますが、まったく異なるわけで、まさに一部でいわれるクラシックレンズの味そのものです。いがいと、この描写特性をわかって使えばレンズの味の変化として受け入れられるのかなと考えました。オリジナルの8枚玉ズミクロン35mmF2が登場したのは1958年。その時代はまさに黒白写真が全盛であったわけですが、60年を経た今日でも絞り開放で黒白写真を柔らかく仕上げて、少し絞ってカラーでしっかり決めるという描写が楽しめます。

 今回たまたまこの時期に知ったのですが、札幌在住のクラシックレンズファンの陸田三郎さんはカナダ製の8枚玉ズミクロン35mmF2を所有されていて数々の作品づくりをされていますが、絞り効果による描写特性は当然のことといえドイツ製とまったく同様なのです。つまり絞り開放の柔らかな描写は、個体差ではなく8枚玉ズミクロン35mmF2に共通する特性なのです。

 今後ライトレンズは、サファリ・オリーブグリーン色仕上げ、金色仕上げ、サイケデリックなペイント仕上げ、チタン鏡胴仕上げなどのバリエーションを増やす予定だそうで、日本で焦点工房が販売するとなると10万円強となるようですが、中国を含めて海外の市場でどのように受け入れられていくのか興味は尽きません。

)^o^(  2020.09.22

キヤノンEOS R5を使ってみました

 キヤノンの最新ミラーレス一眼「キヤノンEOS R5」が7月30日に発売になりました。今回「EOS R5」と引き続く「EOS R6(8月27日発売)」は、一昨年来の各社のミラーレス新製品ラッシュでいささか疲れましたので、現物を見ないで勝手に『ミラーレス一眼、次の方向が見えてきた キヤノン』というタイトルで、キヤノンニュースリリースとホームページの技術情報を読むだけで、レポートを書き上げるという暴挙に出たのですが、アクセスカウンターによると5,000人ぐらいの方が見に来てくれたようで、それなりに興味持っていただけたのだと満足していました。ところがそのレポートを読んだわがスポンサー氏は、今まで継続してやってきたことを休むのは良くないから、買いましょうとなったのです(どうやら8k動画に興味があるようです)。小売店への購入依頼は少し遅れましたが申し込むと、当初はバックオーダーが多すぎて3か月待ちだと伝えられましたが、どうにか8月20日には手にすることができました。というわけで、早速「EOS R5」をレポートします。

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≪今回はEOS R5ボディに新しいレンズをということで、RF15~35mm F2.8 L IS USMを購入しました。すでにRとRPの時にRF24~105mm F4 L IS USMとRF35mm F1.8 MACRO IS STMは入手しているのです≫

 

■外観から見てみると

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≪回転収納式の背面液晶は先行のEOS R、EOS RPと同じです≫

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≪バリアングル的に使うにはこのように回転させます≫

 ところでEOS R5はEOS Rの発展機であり、上位機種であることは間違いと思うのですが、すでにEOS Rを使っているユーザーだとこの上の写真を見るとあれっと思うのではないでしょうか? EOS Rでトップカバー背面右肩の位置にあった“M-Fnバー”と呼ばれる新しいスイッチがなくなってしまったのです。その代わりに中央押しも可能な“マルチコントローラー”と呼ばれるボタンが新設されたのです。企画時にいろいろと議論されて良かれと新規採用した“M-Fnバー”でしょうが、個人的にもまったくなじめる機構でなかったために私は不使用のままやり過ごしてきましたが、EOS R5の“マルチコントローラー”は視覚的にも操作的にもマニュアルを読まなくても直感的に操作できるのはすごく良いです。それにしても、あれだけ新規軸として打ち出した“M-Fnバー”を、次期モデルではなかったことにする思いっきりの良さはキヤノンらしく素晴らしいです(皮肉ではありません)。

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 ≪左)電源をOFFにしてレンズを外すとシャッター幕が閉じているので、気持ちとして楽になります。電源ONのままレンズを外すと撮像面がむき出しになるので注意が必要です。レンズ交換式のミラーレス機としてシャッター幕が閉じるのは、先代のEOS R以来のセーフティー機構ですが、大口径、ショートフランジバックならではのメカニズムで、フィールドでのレンズ交換が気分的に手軽に行えるのです。右:記録メディアはCFexpressカードとSDカードの2スロット式。写真は間に合わせにXQDカードとSDカードを軽く差してありますが、CFexpressカードとXQDカードは外形は同じですが、別物なので要注意≫

 

■「キヤノンEOS R5」の特徴

 「キヤノンEOS R5」の特徴を見てみますと、4,500万画素の撮像素子、電子シャッター使用時最高約20コマ/秒、機械シャッター/電子先幕使用時は最高約12コマ/秒の高速連続撮影が可能、約100%の広範囲AFエリア、常用最高ISO感度51200、レンズとボディ側との相助作用による最高8.0段手ブレ補正効果、手振れ補正機構内蔵の交換レンズでも5軸の手振れ補正が可能、8K/30P・4K/120Pの動画撮影可能などがうたわれていますが、ここでは実写から、私の興味ある部分を中心に取り上げてみました。

■実写から見るEOS R5

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≪いつもの英国大使館正面玄関:焦点距離35mm、絞り優先AE、F5.6・1/640秒、Auto-ISO100、AWB≫ 手にした翌日だけ晴天の青空となりましたが、以後天候には悩まされました。天候にもよりますがEOS R5の発色傾向は全体的に淡いライトな感じで、左のオレンジ色の車止めポールからもその傾向は読み取れます。撮影時刻は晴天に日の朝10時30分ごろ、春夏秋冬一貫した条件です。その日の天候にもよりますが、EOS RやRPより柔らかく感じられますが、最初のカットなのでもっと撮り込まないとわかりません。

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 全体画面の中央上部を解像感はレンズの解像力によるところが大で、単焦点のRF35mmF1.8 Macro IS STMを使えばもう少し切り立った描写になると考えます。とはいっても、画素等倍に伸ばすようなプリントは通常はありえないのでA3ノビやA2程度ではプリント上は大きな差は出ないと考えられます。調子の再現は全画面からも読み取れましたが、特別に白飛びしているところもなく全体的に柔らかく見えます。

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焦点距離15mm:絞り優先AE、F5.6・1/640秒、Auto-ISO100、AWB≫ 焦点距離を変えても露出は変わりませんでした。少なくともこのカットから見る限りRF15~35mm F2.8 L IS USMレンズの直線性は良いようです。

 

■ランダムに撮影してみました

 撮影は、極端に細かくアングルの変化を避けなくてはいけない場合には、三脚で位置固定して行いますが、最近はすべて手持ちで行うようにしています。もちろん掲載カットは手振れなどが起きていないベストのものを選ぶのですが、仮にブレの要素が加わっても、手振れ補正機構で吸収できる範囲だと考えるし、画質に影響が出てもそれがカメラとレンズの実力だと思うのです。

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≪いつものマンション:焦点距離24mm、プログラムAE、F7.1・1/400秒、Auto-ISO100、AWB≫ このシーンで見るのは中央のマンションのタイルの地肌の解像感と左右のビルの調子再現です。ここ数年この場所で同じように撮影してきているので半ば第2チャート化していますが特別問題ない描写です。中央と右の上に立つアンテナ避雷針を画素等倍まで拡大して見ると色収差の発生もなく、ポールの丸みを感じさせ、それぞれが細かく解像し、細かな色も分離して見えますのでなかなかな描写です。

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 いつものマンションの画像を画素等倍に拡大して中心部を切り出してみました。基本的にはこのような状態ではレンズの解像力が大きく関係してくるのですが、必要十分な解像感といえるでしょう。

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≪遊具:焦点距離35mm、プログラムAE、F6.3・1/320秒、Auto-ISO100、AWB≫ さまざまな色に塗り分けられた遊具、自然の緑など、取り立てて誇張された派手な発色のない場面ですが、落ち着いてみることができます。このレンズの焦点距離35mmはズームレンズとしてみるとテレ端になるわけでして、手前の遊具のポール、背後のビルを見るとズームレンズのお約束通り、わずかに糸巻き型の歪曲が認められます。

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千鳥ヶ淵のお堀:焦点距離15mm、プログラムAE、F6.3・1/320秒、ISO100、AWB≫ 風のない晴天の昼下がりですが、やはり全体に落ち着いた色調で、色づくりがかつてのキヤノンとは異なるやさしい描写です。

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≪彫像:焦点距離29mm、プログラムAE、F4・1/125秒、Auto-ISO100、AWB≫ 四季を通じてこの場で撮影することが多いのですが、ほとんどの場合彫像が黒くつぶれてしまうことが多いのですが、像の日の当たった部分は白飛びがなくぎりぎりの描写です。撮影はAFですが、この場合ピントは背後のサクラの木の葉に来てました。

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≪写真展にて:焦点距離35mm、プログラムAE、F3.2・1/30秒、Auto-ISO200、AWB≫ 天体写真とネコ写真をライフワークとする山野泰照さんの写真展会場にて、画面右端に立ってもらいシャッターを切りました。顔認識+追尾優先AFですが、このポジションでシャッターボタン半押しで山野さんの眼鏡越しの目を瞳認識し、合焦してます。焦点距離35mmでF3.2だと右腕袖から先はぼけています。瞳認識AFはすっかり人物撮影においては不可欠な機能となりました。なおEOS R5の瞳認識は動物にも対応することになりました。なお写真展会場での撮影では、どの社のカメラでもその場の光を使うとこんな色調になります。自然な発色を望むときはレタッチソフトで自動レベル補正か自動カラー補正を使えば一発で補正されますが、ここではそのまま掲載しました。また露出レベルも顔でなく背景の壁に合うことが多く、少しばかりトーンカーブを持ち上げてあげないと顔がつぶれるのですが、本機ではそのようなことはなく、そのままの露出レベルです。

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≪自分の顔を写してもらいました:焦点距離35mm、プログラムAE、F2.8・1/30秒、Auto-ISO800、AWB≫ 他の人を載せるだけでなく自分の顔もアップしました。山野さんのシーンもそうですが、プログラムAE時は“1/焦点距離”までは絞りで制御して、それ以上暗くなると自動的に感度がアップしていくわけで、山野さんの場面は写真展会場で明るかったのでISO200となり、喫茶店の店内のここではISO感度800となりました。撮影は顔認識+追尾優先AFでしっかりと向かって右の目にフォーカスしてます。

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≪英国大使館脇の歩道で:焦点距離35mm、プログラムAE、F5・1/200秒、Auto-ISO100、AWB≫  歩道わきに生える植物の葉にピントを合わせてシャッターを切りました。 背景のボケは、とくに癖もなく素直です。

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 ピントの合った部分を画素等倍にして切り取りましたが、文句ない解像です。画素等倍は実用的でない拡大率ですが、近距離での撮影で、ここまで拡大すると絞りF5でもかなり深度は浅く見えます。

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≪お花畑で:焦点距離15mm、プログラムAE、F5・1/200秒、Auto-ISO100、AWB≫ 焦点距離15mmという広角を活かし、かつ自然な感じで撮れる場所を探しました。撮影された画像から視覚的に見ると、お花畑の向こうに鎮守の森があるような感じですが、一番手前の黄色い花から、奥の森までは距離にするとわずかに20mというぐらいです。ピントは中央の森に合わせてありますが、拡大すると葉が1枚ずつ解像していますが、森を離れた左右の木々は大きく拡大すると解像していません。ここがデジタル写真ならではの事であり、焦点距離15mmでF5という明るさで、基本的に背後の被写体は過焦点距離内として全体にピントがきているのではないかと考えるわけですが、厳密にはピントが外れているのです。被写界深度を計算でだすことも当然可能ですが、許容錯乱円をどの程度に設定するかということ以上に、高画素機での大伸ばしは難しさをもっています。

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≪醤油屋さんの店頭:焦点距離18mm、プログラムAE、F2.8・1/60秒、Auto-ISO2500、AWB≫  直線性の良い写真が撮れるレンズなので、古い味噌・醤油屋さんの 店頭を写させてもらいました。こういう画面では、解像特性が高いのはいうまでもなく、直線性の良いデフォルメ感のないレンズなので自然な感じに撮影できています。

 

■最高8段の手振れ補正効果とISO感度51200を試す

 EOS R5は、レンズとボディ側との相助作用による最高8.0段手ブレ補正効果、常用最高ISO感度51200とうたわれています。実際どのように写るか試してみました。

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≪水車:焦点距離24mm、絞り優先AE、F22・0.6秒、Auto-ISO100、AWB≫ 最高8段の手振れ補正を活かした撮影ということで考えました。通常の撮影では、ゆっくり回る水車は写し止められてしまいますが、ここではあえて絞りを最小のF22に設定し0.6秒というスローシャッターで狙ってみました。結果はまずまずで、背景と手前の水車との輝度差が大きくて、背景が露出オーバーですが、水車から流れる水は白く糸を引いたように写せました。本来なら定番の新緑の奥入瀬渓谷の水の流れを追うようなシーン、地下駅広場など雑踏での人の動きを流すような撮影の時などに効果を発揮する技法ですが、手持ち撮影で行えるところが、まさに最新のカメラ技術の応用といえます。

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≪1秒手持ち撮影:新宿ゴジラ通り、F18・1秒、ISO100、-1EV露出補正≫ 東宝シネマの屋上にいつもならスポット照明されたゴジラがいるのですが、コロナ禍の自粛で照明は点灯されていません。しかし定位置であるために、あえてそのまま撮影しました。なぜ1秒かということですが、他社機種ユーザーには2~3秒を手持ち撮影できたと自慢する人もいますが、仮にそれが事実としても私の能力としては1秒が限界ではと考えて、1秒となる絞り値を選択しました。シャッターを切った後には“BUSY”とファインダー内に表示され、ノイズキャンセル処理をやっているのがわかります。このサイズからはわかりませんが、拡大画面はブレていないようにも感じますが、レンズの画質や拡大率によって評価は変わるでしょう。

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ISO感度51200での撮影:新宿ゴジラ通り、プログラムAE、F11・1/1000秒、ISO51200、-1EV露出補正≫ こちらは同じ場所で、ISO感度を常用感度の最高ISO 51200にマニュアル設定して、プログラムAEで撮影してみました。この画面左右640ピクセルへのリサイズ画面では、1秒手持ち撮影もISO感度51200撮影も大きく変わるようには見えません。実際は実用的な写真展示サイズのA3ノビあたりに拡大プリントにするとその差はでるのだろうかと考えます。さらに実際の場面でEOS R5とこのレンズを使いプログラムAEでの撮影では、通常の薄暗い場所での撮影でも最高感度51200まで上がることはないだろうと考えられます。ただ、いずれにしてもいつも見ている感じより少し柔らかい描写のような気がします。これが手振れによるものか、超高感度撮影によるものか、さらには交換レンズそのものの解像特性によるものかは、これらの撮影でははっきりと断定することはできません。ただこのカットは1/1000秒でシャッターが切れていますから手振れ補正の効果を除いて考えても良いと思いますが断定はできません。

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≪画素等倍近くまで拡大して画像の一部をクロップして見ました≫ 左:1秒手持ち撮影、右:ISO感度51200。それぞれが極端に画素等倍という大きな拡大率ですが、ISO感度51200のほうはザラツキがあり、トーンも狭まっているのがわかります。4,500万画素で画素等倍で引伸ばすと横幅で2.9mの大型プリントになりますが、実際は鑑賞距離にもよりますし、プリンター側の画像処理機能も働くので実用上はまったく問題ないということになり、先述のように実際の撮影場面ではISO 51200になる撮影条件は少ないと思われます。

■いつものライカマウントクラシックレンズを使ってみました

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≪左)キヤノン25mmF3.5(1956年製)と右)コシナフォクトレンダースーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH.(1999年製)≫

 ミラーレス一眼はフランジバックが短いのが特徴で、マウントアダプターをボディとレンズの間に入れることにより、さまざまな昔のレンズがフルサイズで使えるのが魅力で、かなりの人が最新ボディにクラシックレンズを組合わせて楽しんでいます。このうち一眼レフの場合にはミラーボックス分だけフランジバックが長いので、ほとんどのミラーレス機に一眼レフ用の交換レンズはフルサイズ機でもむりなく使えるのですが、ミラーのないフランジバックの短いライカとその類の交換レンズの、対称型光学系を採用した広角系のレンズには一部周辺減光の問題や色付きがあったりするので、私の使用レポートでは必ずその点をチェックポイントとしてきました。当初は焦点距離50mmぐらいから超広角まで各種ライカマウントレンズを対象にしてレンズの適、不適を見てきましたが、ある時期に撮像素子の形式が変わればレンズ描写も変わるということがわかりましたので、最近ではライカスクリューマウントの「キヤノン25mmF3.5(1956年製)」と「コシナフォクトレンダースーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH.(1999年製)」をクリアすればOKというように考えるようにして、チェックを簡略化しました。ということで、早速この2本を持って撮影に出かけましたがどうも天候の関係かスッキリ来ないのです。撮影場面によって、露出が定まらないのです。結局、3か所ほど場所を変えても納得できなかったので、最終的にはいつものYS-11駐機場に行って撮影を終了させました。

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≪Canon25mmF3.5(1956):絞り優先AE、F5.6・1/800秒、Auto-ISO100、AWB≫ 同じレンズでもどうしたのだろうというぐらいに周辺光量の落ち込み、色づきが先行機のEOS RとEOS RPの時よりも極端に少なくなっています。発表の時にはCMOSの撮像方式が、裏面照射タイプとか積層方式になったわけではないと聞いていましたが、CMOSのマイクロレンズの集光特性とか、画像処理エンジンで何か対応したのでしょうか。写真は表現ですから、周辺光量、色づきなど含めてこういう感じが好きという人がいてもおかしくないです。

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フォクトレンダー・スーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH.(1999):絞り優先AE、F5.6・1/800秒、Auto-ISO100、AWB≫ キヤノン25mmの時と同様に周辺光量の低下、色づきはありますが、好みの問題としてとらえればそれまでですし、前モデルより格段に変わっている印象があります。ちなみにコシナのーパーワイドヘリアー15mmF4.5 ASPH.は、現在のモデルではMマウント化され、光学系も一新されこのような周辺光量の低下、色づきはありません。

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≪RF15~35mm F2.8 L IS USM:焦点距離15mm、絞り優先AE、F5.6・1/640秒、Auto-ISO100、AWB≫ 今回のRF15~35mmレンズの描写です。露出、発色、周辺光量ともまったく問題ない描写ですが、表現としての描写では上の2点のような描写を好む人がいてもおかしくないのです。

 このほか、参考までにと第2世代6枚玉ズミクロン35mmF2と沈胴式ズミクロン50mmF2では周辺減光、色づきもなく、まったく問題なくアダプターで使用できました

■追いつ、追われる立場にあるEOS Rシリーズ

 キヤノン初のフルサイズミラーレス機が「EOS R」が登場してから約2年半経ち、EOS R5とR6が発売されました。この間さまざまな要因が絡み合い、昨今のカメラ市場の低迷はCP+2020、フォトキナの中止、Stay Homeで外出の自粛などが重なり、かなりつらいものがありました。そのような中で発表・発売された新製品ですが、その発表形式はYouTubeによるオンライン配信という過去に例のない発表会となりました。

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≪7月9日21:00から行われた異例のYouTubeによる発表会のオープニング画面。キヤノン㈱常務執行役員 戸倉剛氏によるご挨拶≫

 各社ともこのようなオンライン発表会は行っていますが、画面左下を見てお分かりのように12,564人が視聴中となっているあたりは、コロナ後のこれからも新しい発表会の在り方を示しているような気がします。

 さて、このような状況下においてキヤノンが市場投入してきた「EOS R5」と「EOS R6」どのような新規性があるのだろうかと、簡単な比較表を作ってみました。これを見ると入れ替わりの新世代機ではなくて、画素ごとのラインとみることもできます。

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 この表からすると、実用的にはEOS R6が、高感度特性、連写速度、手振れ補正範囲などの高さから注目されるボディとなります。もちろん、「EOS R5」は4,500万画素という高画素に加え、8k動画撮影が可能なことなどのプレステージを備えているわけですが、私が注目したのは、『このカメラは画素数では上回っているEOS 5Ds (約5060万画素)をも凌ぐ解像性能を達成しています」とキヤノンはアナウンスしているのです。この点に関しては前回の私の「EOS R5」と「EOS R6」レポートでは、デジタルカメラの解像感は、カメラの画素数・プリンターの解像度に関連するものであって、通常の展示用のA3ノビ、A2クラスの拡大プリントでは、2,000万画素機も6,300万画素機も、その差はわかりにくく、むしろレンズの解像力、ピント合わせの精度のほうが画質向上の構成要素としては大きいということを書きました。

 ところが、今回のキヤノンの解説を読むと『CMOSセンサー、映像エンジン、レンズ、それぞれの性能を余すところなく引き出し、三位一体となってEOS最高解像性能を実現。「解像感」「ノイズ」「光学特性」のすべての要素から画質の向上を図りました。画素数では上回っているEOS 5Ds (約5,060万画素)をも凌ぐ解像性能を達成しています。』となっているのです。このアナウンスにはわが意を得たりという感じがありますが、さらにキヤノンは『ISO12233準拠のCIPA解像度チャートで確認』となっていますから、どうやらCIPA(カメラ映像機器工業会)で規定された条件での撮影解像力を読み取っての結果だと思うのです。そこで改めて5060万画素のEOS 5Ds を引っ張り出してくるのですが、実はこのカメラが発売されたときの使用で気になる画面がありました。それは今回の2番目のマンションの壁面を作例に示した画面中央の画素等倍の部分を見ると明らかに今まで同じ場所を撮影してきた画像とは違い解像感に乏しかったのです。その時点で私はレンズの解像が低いのかなぐらいしか考えませんでしたが、別に使っているユーザーに聞いても何か不思議な感じだというのです。結局それは、ユーザーの知りえない形での画像エンジンの性能が絡んでいたのだなと思うわけです。

 EOS 5Dsの私のレポートは、京都MJのここに示しておきますが、EOS R5のマンションの画も焦点距離24mmで示してありますから、比較してみていただければ納得してもらえるかもしれません。いずれにしても高画素になれば画質が高いという考えが、メーカーと、私のレベルからも見ても同じことを言っているあたりが、興味深い点です。なお今回の撮影では、すべてのカットが破綻なく描写され、念のために主だった画像のヒストグラムを見てみると、黒つぶれも、白飛びもなくきれいに収まっているのが印象的でした。次はどの手で来るのかな、楽しみなことです。

  なお、近日中にはニコンが普及価格で「Z5」を発売、ソニーが「α7S III」に加えミノルタ時代からのAレンズをサポートする新しい「マウントアダプターLA-EA5」を、さらにパナソニックがフルサイズで小型・普及価格の「LUMIX DC-S5」発売するなど、キヤノンとしては追い上げの立場から、追われる立場にもなったわけで、業界としては活性化するのではと思われる反面、この先はますます混戦模様となる気がするのです。  (^^♪

ニッコールZ 58mmF0.95 Sノクトを使ってみました。

  レンズ交換式カメラの主流がミラーレスになって各社それぞれの考えを持ってシステムの拡充を図っていますが、そのようななかでニコンは2018年8月23日のZシリーズの発表当初から交換レンズの中に『NIKKOR Z 58mmF0.95 S Noct』の発売を予告していたのです。とはいってもレンズ構成など仕様の詳細、さらには価格も含めてなかなか明らかにされずにいましたが、2019年10月12日から受注生産ということで販売が開始されたのです。この間いくらで発売されるのだろうというのが話題となりましたが、発表されて少し経った頃、ニコンの関係者のいる前で、写真仲間で発売価格はいくらになるかと話題になり、僕は125万円じゃないのと勝手にいったら、ニコンの人の目が真ん丸になったのをおぼえています。その125万円というのは、ライカノクチルックス-M50mmF0.95 ASPH.が発売当初そんな値段だったから当てずっぽうに答えたわけで、当然のこととして知るわけはないのです。しかし、目玉が丸くなったのを僕は見逃すわけなく、ほぼ間違いないなと思ったのです。

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ニコンZシリーズ最上位機種のZ7ボディにニッコールZ 58mmF0.95 Sノクトを着けました。専用フードが着いたこの状態で3Kg近くあります≫

 この“ニッコールZ 58mmF0.95 Sノクト”の推奨小売価格は1,265,000円ですが、意外と人気が高いようで、受注生産開始後1カ月もたたない11月1日に想定外に注文が多すぎるということで受注が休止されたのです。この間、私の知人では何と2人もこのレンズを入手していたのです。その使用結果はいろいろ見聞きしましたが、やはり自分で使ってみるのが一番です。ということで、このレンズを入手したのは2020年の7月の上旬ですから、7月12日から受注を再開したその初期ロットだと思うのです。 

 だいぶ前置きが長くなりましたが、さっそくレンズを見てみましょう。このレンズは驚くことばかりなのです。あらかじめ、すでに購入されていたMさんに聞くと外装の段ボール箱をその場で外しタクシーで運んだ方がいいとか、お店に聞くと梱包はするけれど運搬にはキャリーカートを持参されたいとかで、かなりの大きさで、重量物であることが事前にわかりました。実際に受け取ってみると、やはりハンドキャリーはむりで、キャリーカート持参は正解でした。

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≪左:段ボール箱、右:トランクケース≫

 さらにびっくりすることは段ボール箱を開けると中から専用のトランクケースが出てくるのです。樹脂製ですが、減圧弁までついていて、かなり頑丈に作られています。

 中を開けてみると、レンズ本体と同梱のフードが入いっていますが、そのほとんどは緩衝材のスポンジであり、一部にポケットが開けられてますが、いかにZ58mmF0.95 Sノクトレンズに付加価値を付けるかと腐心したであろう苦労がしのばれます。さらにこのトランクケースは、レンズ同様に受注生産であって、ケース単体だけも119,900円で売るというのですが、なかなかニコンユーザーの心理をくすぐるのがうまいです。

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≪左:トランクケース単体、右:トランクケースを開けたところ≫ トランクケースの取っ手部分中央の下が減圧弁、トランクケース内はほとんどがウレタンのスポンジが場所を占めていますが、上中央がレンズ本体、左が同梱の標準フード、右は物入れ、さらにNoctと書かれレンズ構成図が描かれた部分も物入れで、内部は2分割されていますが、Z7ボディを入れるのは少しきつい感じです。

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≪同梱の専用フードとレンズを正面から見てみました、商品名Noctが黄色く色づけられています≫

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≪レンズは10群17枚構成、右図の黄色部分はEDレンズ、シアン色部分は非球面レンズ使用を表しています。それぞれのレンズにはニコンならではのナノクリスタルコート、アルネオコートが施され、特に第1面にはフッ素コートがなされているので、水滴がついても軽く拭けば取り去ることがができるというのが特徴です≫

■Z7に装着して試し撮り

 今回取り付けたボディはニコンZ7で、Zシリーズとして最初に発表された時のボディです。Zシリーズは、Z7、Z6に加え、その後APS-CのZ50、さらにこの8月28日にはフルサイズのZ5を発売するというわけですが、Z7は現状ではシリーズ機中の最高級モデルとなるのです。

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≪Z7ボディとZ58mmF0.95 Sノクトレンズのマウント部。Z58mmF0.95 Sノクトにはフォーカシングはオートフォカスではなく、マニュアルフォーカス専用機ですが、各種情報をやり取りする電気接点はレンズ側にもフルに植設されていて数は11か所で同じです。実際はかなり精度高くフォーカスエイド機能が働きますので、それを指針にピント合わせということも考えられますが、やはり実際の画像でピントは合わせたいです≫ 

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≪レンズ鏡筒上部には液晶窓が開いていて、左側の丸いDISPスイッチを押すことにより撮影距離や絞り値を表示させることができます≫

■撮影して見たら

 本来ならばさまざまな場面で撮影してみたいのですが、今回はそれをフィールドに持ち出して撮影するためには天候もいまひとつでしたので、むしろF0.95という明るさを活かして身近な所で撮影することにしました。

 とはいっても実際は外に持ち出しましたが、ボディとレンズで約3kg近い重量は屋外で簡単に振り回すこともできませんし、首から提げて歩くのもかなりハードです。そこで撮影は少しだけ手持ちで行いましたが、基本的には三脚使用で撮影しました。その三脚も、カメラの重量からすると脚と雲台がかなりしっかりしたものということで、わが家の最重量級8×10インチ用のハスキーQuick-Setとなりました。

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≪撮影はこんな感じで行いました。なお、撮影はすべてJpgのFineで、Rawデータは使いません≫

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≪ハスの実、F0.95・1/2000秒、ISO100、手持ち撮影、AM6:00、曇天、無風。左右640ピクセルにリサイズしたために、見た目は柔らかく見えますが、実の部分はシャープです≫

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≪上の写真のハスの実の部分を画素等倍に拡大しました。4,500万画素の画素等倍ですから十分な解像を得ているとは思うのですが、カメラ重量、カメラ操作、自分の体力などから総合的に考えて手持ち撮影はこのレンズシステムでは難しいと考えました≫ 

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≪F0.95・無限遠風景です。F0.95・1/1600秒、ISO100、曇天、無風。画面全体を左右640ピクセルにリサイズして掲載しています。解像感は見れませんが、手前左の菖蒲の切り株から深度が浅いことは確認できます≫

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≪F0.95:画面中央の樹木の葉の部分を画素等倍で切り出してみました。下の部分に横に線が走っているのは電車の架線で、過去にこの場で撮影したほとんどのカメラの場合にはこの部分に色収差の発生が認められるのですが、Z7ボディとZ58mmF0.95 Sノクトの組み合わせでは認められません。ただし、これがZ58mmF0.95 Sノクトの光学的な性能そのものから派生しているのか、Jpgに出力するときに色収差の除去の画像処理結果の成果なのかはわかりませんが、葉が1枚1枚解像していますので文句ない画質です≫

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≪F5.6・無限遠風景です。F5.6・1/60秒、ISO220、曇天、無風。画面全体を左右640ピクセルにリサイズして掲載してるので解像感は見れませんが、手前左の菖蒲の切り株から深度が深くなったことは確認できます≫

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≪F5.6:F0.95の場合より解像の向上は十分認められますが、4,500万画素の画素等倍画像ですので、A2相当の実際のプリントに拡大しても解像力の違いは見えないだろうと考えます。結局、このような画面で絞り値変化の違いが出てくるのは、深度だけて言ってもよさそうなくらいです。それぐらいZ58mmF0.95 Sノクトの絞り開放の解像度が高いということになるのです≫

 ■絞り値変化によるボケ味の違い

 絞り値をF0.95・F2・F4・F5.6まで変化させて設定して同じポイントにピントを合わせた場合のボケ具合を見てみました。

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≪F0.95・1/1000秒、ISO100≫ F0.95のボケはとろけるように柔らかく、なかなか素直で美しい。

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≪F2・1/200秒、ISO100≫ 撮影距離にもよりますが、F2ぐらいの絞り込みがあってもボケ具合は美しい。

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≪F4・1/60秒、ISO140≫ 撮影距離にもよりますが、背景の丸いボケ具合を見ると、口径食の影響はあまり出ていません。

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≪F5.6・1/60秒、ISO280≫ どのくらいのボケ味か好きかによって設定する絞り値は変わりますが、ファインダー上で確認するよりは、実際のデータである程度の大きさに拡大して見るのがよいでしょう。どのボケが好きかは、撮影目的と主題によるわけでしてその変化の具合は意外とシンプルです。

 撮影は絞り優先AEで、各絞り値を設定していますが、シャッター速度が1/60秒を下限として、そこから先は撮像感度が上がっていくのですが、これはISO感度設定をAUTOにしているからで、手振れ限界シャッター速度を焦点距離58mmの場合には1/60秒を下限とするということなのでしょう。ただ、これはあくまでも理論値であり、レンズとボディの重量、さらには高画素イメージセンサーのことなどを総合的に判断すると、下限シャッター速度設定は1/125秒ぐらいでもよかったのではと思うのです。

 ところで、Z58mmF0.95 Sノクトレンズにおいて、この絞り値設定おける被写界深度を計算で出してみると、撮影距離を1m、許容錯乱円を0.026に設定して被写界深度を計算してみると、

F0.95:前方深度6.87mm、後方深度 6.96mm、合計深度13.83mm
F2:前方深度14.36mm、後方深度 14.78mm、合計深度 29.15mm
F4:前方深度28.34mm、後方深度 30.05mm、合計深度 58.39mm
F5.6:前方深度39.26mm、後方深度 42.61mm、合計深度 81.88mm

となりました。これを見てわかるように撮影距離1mでは、絞り開放F0.95の場合で14mm弱で、上掲のようなシーンでは撮影距離がもっと近いわけですから、それぞれの深度はさらに浅くなるわけです。

■絞り開放F0.95から十分シャープ

 それぞれの絞り値変化での描写を画素等倍まで拡大して見ました。

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≪画素等倍の画質、左:F0.95、右:F2≫ 絞り開放F0.95で十分な解像力を持っていますが、F2に絞ると紅葉したサクラの葉の葉脈がよりシャープになりました。

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≪画素等倍の画質、左:F4、右:F5.6≫ F4に絞るとさらにシャープになってきます。F5.6に絞ると左下の茶色の斑点部分をよく見ますと深度が増しているのはわかりますが、葉脈のシャープさはF4のほうがあるようにも見えます。いわゆる回折現象の影響でしょうか、それとも撮影のバラツキから出てきた現象でしょうか?

 いずれにしても絞り開放F0.95から必要十分な解像力を持ち、絞れば解像力は増してくるというのは一般的なレンズと大きく変わる部分ではありません。ただしこれは4,500万画素Z7の場合であるわけですが、一般的な大きさの拡大展示においてはプリント上では判別できるかは不明です。なお、画素等倍に拡大した状態で葉の周辺には色収差やフリンジはまったく認められませんので、光学性能の高さと画像処理のうまさがあるのだろうと考えました。

 ところで、ニッコールZ58mmF0.95 Sノクトのパッケージをお店から担いで帰ってきて、開梱して最初にのぞいたのが以下の写真の場所なのです。ここで見えたのは、撮影にあたりマニュアルフォーカスですから、徐々に拡大して見えたのがシステムキッチンの扉の木目調プリント地なのです。この拡大画面は低倍率(50%)、等倍(100%)、高倍率(200%)とあるのですが、高倍率200%でも極めて明快にピントの山がつかみやすく、ピントを合わせやすいのです。これは、EVFファインダーがいいとかいうことでなく、光学系、つまり撮影レンズの解像力、収差特性などに依存するのだということで、早速翌日は朝5時半に起床して撮影してきたのが上の写真なのです。当日は、わずかに雲がでていて無風でした。結果としてテスト撮影にはベストな条件であったと思うのです。

 以下最初の開梱でビックリした場面を再現してみました。

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≪F0.95・1/60秒、ISO140、ハスキーQuick-Set三脚使用、ピントは≫ ピントは中央の白い台の部分より下の扉の右側の木目調プリント地に合わせてみました。カメラからピントを合わせた所までは約4.3mです。

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≪そのピントを合わせた部分の画素等倍拡大がこのカットです。この木目模様の細かい柄でピントがキリっと合わせられるのですからすばらしいと思ったのです。上の扉の部分まで入れて切り出しましたが、ピントは外れていてボケていますが、それぐらい深度は浅いということになります≫

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≪そのフォーカス部分にマイクロ写真用の解像力チャートを置いてみました。ピントはチャートのピッチを見て行いましたがモアレが発生して合わせずらかったです。これは撮像素子の画素が縦横に並んでいるため、解像力チャートの黒白バーに直行し平行に並んでしまうために干渉縞が生じると考えますが、4.3m先に置いたチャートのピッチが4,500万画素撮像素子の画素ピッチより細かくなっていることになります。いずれにしてもレンズの解像力が高いから出てくる現象といえるでしょう≫

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≪そこで、チャートを45°回転させて撮影してみました。ご覧のようにチャートのピッチ0.8ぐらいまで解像しています。これは、撮像素子のピクセルが正方形であることを裏付けることになりますが、チャートのピッチがさらに細かい部分ではモアレが生じます。≫ 

 ■高性能だけど

 ニッコールZ58mmF0.95 Sノクトは発売直後の受注休止を終えてのこの時期の発売となったわけですが、実際私の知る限りではこの1本を含めて3人もの人が身近で購入しているのです。やはりニコンというのは素晴らしいファンを抱えていることは間違いないのです。

 過去に私は、アンジェニュー25mmF0.95(1953)、キヤノン50mmF0.95(1961)、キヤノンEF50mmF1.0L USM(1989)、ノクチルックスM50mmF0.95 ASPH.(2008)、コシナ・ノクトン25mmF0.95(2010)を使ったことがありますが、いずれも普通の大口径交換レンズとして使用することができました。その性能は発売時期と価格に大きく影響されるわけですが、Z58mmF0.95 Sノクトは最も新しいだけにあって性能も高性能です。しかし、高性能と引き換えにF0.95付きボディを振りまわすにはかなりの力と勇気を要するのです。この辺りはどのように考えたらよいのでしょう。

 今回私に購入を依頼してきた、Ⅰさんはコレクターだから持っていることに価値があると豪語していますが、聞くところによると夕闇迫った牧場で、ニッコールZ58mmF0.95 Sノクト、Aiノクトニッコール58mmF1.2S、オリジナル・フォクトレンダーノクトン50mmF1.5(L39)、エルノスターのついたエルマノックスなどのレンズやカメラを愛でながら、サム・テイラーのハーレム・ノクターン を聞く会を開くというから優雅なものです。 

  なお、このブログでノクトニッコール関係では、過去に「AF-Sニッコール58mmF1.4GとAiノクトニッコール58mmF1.2S」というレポートをアップしていますが、この時にはAiノクトニッコール58mmF1.2Sの画質の良さを思い知ったのです。

 最後に、8月末にはZシリーズフルサイズ機の「ニコンZ5」が発売されます。SDカードのダブルスロットだというのですが、すでに発売されているZ7、Z6をSDカード仕様に改良するようなことはできないのでしょうかと切に願う次第です。

ミラーレス一眼、次の方向が見えてきた キヤノン

 2020年7月9日、キヤノンは夜9:00からユーチューブによるオンラインの発表会を行いました。その内訳は、新型ボディとしてミラーレスの「EOS R5」(4,500万画素)、「EOS R6」(2,010万画素)、ミラーレス用新型交換レンズとして「RF85mm F2 MACRO IS STM」、「RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」、「RF600mm F11 IS STM」、「RF800mm F11 IS STM」に加え、「EXTENDER RF1.4×」、「EXTENDER RF2×」でした。このうち「EOS R6」と「RF600mm F11 IS STM」、「RF800mm F11 IS STM」を除くと、CP+2020を目前に控えた2月13日に行われたプレス発表時にその存在は明らかにされていました。

 そこで、いつもならば購入してから徐々に使用してレポートしていくのですが、R5の発売が7月下旬、R6の発売が8月下旬ということですが、わがスポンサー氏と協議の結果、この時期の新製品購入は見送ろうということになりました。そこで、発売前までに何か考えを示そうというのが今回のレポートです。実機は、サービスに行けば見せてもらえますが、コロナ禍の中で予約制であり、出向くのもはばかれるわけです。そこで与えられたニュースリリースキヤノンのWebサイトからの情報と過去の使用経験からまとめあげてみました。

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≪左:EOS R5、右:EOS R6。画素数の違いだけでなく、トップカバーの操作部を見るとEOS R5は2018年10月に発売されたEOS Rの発展形であり、EOS R6は2019年3月発売のEOS RPの発展形であることがわかります≫

 このうち「EOS R5」は、なぜか2月13日の発表時点では、デジタルカメラでは画面サイズに次いで基本スペックとなる画素数が公開されていないのが個人的な注目点でした。この意味するところは、なかなか分からなくCMOSの撮像方式が、裏面照射タイプとか積層方式になるのかとか、単純に過去2015年6月発売の「EOS 5Ds/5DsR」の5,060万画素を超えるのか、それとも2019年9月6日に発売されたソニーα7RIVの6,100万画素を超えるのかなどと邪推しましたが、かねてからのキヤノンの考え方の延長線上において4,500万画素に落ち着かせたあたりはフルサイズデジタルカメラの画素数に対して単に多ければよいということではなく、キヤノンなりの見識を示したものと考えました。このことは7月9日発表のニュースリリースにも『EOSシリーズ史上最高の解像性能』と明確にうたっていて、カメラの解像感が撮像素子の画素数だけで決まらないということを明確に示したことは注目に値します。

 実際、僕は2020年2月11日から『最新フルサイズミラーレス機画質比較と題して、ニコンZ7(4,570万画素、2018年)・ニッコールZ 35mmF1.8 S、Z24~70mmF4S、キヤノンEOS R(3,030万画素、2018年)・RF35mmF1.8 Macro IS STMレンズ、RF24~105mmF4 L IS USMレンズ、キヤノンEOS RP(2,620万画素、2019年)・RF35mmF1.8 Macro IS STMレンズ、RF24~105mmF4 L IS USMレンズ、ルミックスS1R(4,730万画素、2019年)・ルミックスS24-105mmF4、ソニーα7RⅣ(6,100万画素、2019年)・タムロン17~28mmF2.8 DiIII RXD、シグマfp(2,460万画素、2019年)・シグマ45mm F2.8 DG DN |Contemporary、コシナ フォクトレンダーAPOランター50mmF2・ソニーα7RⅡ(4,240万画素、2015年)の7機種を同じ条件で同じ場所を撮影したのと、ランダムな被写体を撮影したのをA3ノビで比較して見てもらう写真展を開きましたが、多くの人が画素数の違いはこのクラスの拡大では解像感には影響しないと感じたようで、考えるところ大でした。むしろプリントクオリティーに目の肥えた人は階調の良さということである機種(後で披露)を指していたのも印象的でした。以下にその時の写真展示を示しました。

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≪左から、ソニーα7RⅡ、シグマfp、ソニーα7RⅣ、ルミックスS1R、キヤノンEOS RP、キヤノンEOS R、ニコンZ7の順に展示しましたこの展示で明確になったことは、いまさらの感もありますが、写真画質は、画素数だけでなく、レンズの解像力、プリンター解像力の総合的な組み合わせから出てくるものであり、最も低いところで足切りされるのだということで、2,460万画素のシグマfpも、6,100万画素のソニーα7RⅣの画像も同じように見えるということです。なおここに使ったボディと基本レンズは、すべて市中での購入品です。

■注目したのはRF600mmとRF800mmの超望遠レンズ

 さてキヤノンEOS R5とEOS R6ですが、こうなると僕の写真目的には、なかなか注目点は見えなくなってしまうのです。特にコロナ禍によるCP+2020の中止、その後のさまざまな行事の中止、Stay HOMEなどで、かなり調子が狂い、ただいまリハビリ中ということになります。

 その中で僕が注目したのは、2月の発表時にはなかった「RF600mm F11 IS STM」、「RF800mm F11 IS STM」の2本の超望遠レンズです。なぜ注目かというと、1)最大口径比がF8と反射望遠レンズ以上にF11と暗いけどAF撮影が可能、2)鏡胴が樹脂で機構的に沈胴式であること、3)回折格子のDOレンズを使っていること、などですが、「EXTENDER RF2×」を使えば、焦点距離は2倍となり「1200mmF22」と「1600mmF22」となるのですがAFが機能するので、4)F22の光束でもAFが効くというわけです。

 かつて一眼レフの時代には、ミノルタが1989年に発売した「ミノルタAFレフレックス500mmF8」で絞りF8でのAFを可能としていました。この時はAFセンサー光束の瞳径を工夫していましたが、一眼レフシステムでF8の口径でAFを可能にしたのはこのレンズだけだったと記憶しています。つまりレンズ交換式のTTL-AFで、EOSのRF600mmとRF800mmは、口径F11、さらにはF22でAFを可能とするのは初のことであり、ミラーレス機ならであり、超高感度をむりなく使える最新のデジタルカメラならでもあるわけです。しかし、なぜミラーレスだと暗いレンズでもAFが可能なのでしょうか。これまでミラーレス機は、大口径レンズを投入し続けてきたなかで、このような真逆の発想でF11・AF、さらにエクステンダーと組み合わせF22・AFを可能にするなど驚かせます。

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RF600mm F11 IS STM、7 群10 枚構成、縮長:199.5mm、伸長269.5mm、望遠比:0.45、930g、IS効果:5段≫ 商品名にあるように、IS(手振れ補正)、ST(ステッピングモーター)を採用となりますが、DOレンズの採用でもレンズ名にDOが省略されました。このDOレンズには密着2層型回折光学素子に新規材料を採用し、DO レンズのコストを抑えることで普及価格の実現に寄与したそうです。フォーカシングエレメントはG4(前から4枚目)で固定絞りの前になります。図は伸長時。

 キヤノンDOレンズの採用は、1999年発売の「EF500mmF4L IS USM」と「EF600mmF4L IS USM」からで、屈折レンズと回折格子レンズを組み合わせることにより色収差の発生が少なく、レンズ全長を小型化できるという特徴があります。当初は、レンズにグリーンのラインが巻かれていてDOレンズであることを表していましたが、今回の商品名へのDO表記がなくなったように、最近のDOレンズではこのグリーンのラインは省略されています。

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RF800mm F11 IS STM、8群11枚構成、縮長:281.8mm、伸長351.8mm、望遠比:0.35、1,260g、IS効果:4段≫ RF800mmは一見してお分かりのように、RF600mmの前に1枚の凸レンズを配置して、フロントコンバーター的にさらなる超望遠焦点距離を得ているのです。どちらのレンズもインナーフォーカスで、800mmのフォーカシングエレメントは前から5枚目(G5)で、固定絞りの前となっています。どちらのレンズも伸長状態で、望遠比を0.45、0.35としていることはDOレンズの効果と考えます。図は伸長時。

■一眼レフAFとミラーレス一眼のAF

 キヤノンのミラーレス機のAFシステムを構成するキーテクノロジーは“デュアルピクセルCMOS AF”の採用です。この技術は2013年8月に発売されたAPS-Cサイズ・約2,020万画素の「キヤノンEOS 70D」からの採用で、ライブビュー撮影時の像面測距において 位相差検出することにより素早いピント合わせが可能というわけでした。このデュアルピクセルCMOSは、1画素が2個のセンサーで構成されていて、この応用で位相差検出を行うというキヤノンならではの独自技術です。

 個人的には「EOS 70D」が出たときに、CP+2014の上級技術者によるパネルディスカッションの席上で、位相差検出を画素1対の中で行うのか、それともどのようなピクセル配置で位相差を検出するかを聞きましたが、そこはノウハウで話せないということでしたので、いまもその見解は変わらないと思います。

 ただ当時は、各社とも高画素化へとまっしぐらでしたが、キヤノンだけはフルサイズ、APS-Cとも画素数的には控えめで、独自に最適な画素数があると考えているような印象のラインナップでしたので、そのような点も含め質問した記憶があります。さらにデュアル1対のそれぞれの各画素は独立してイメージセンサーとして働かせることもできるというところまでは聞き出せましたが、それから先は不明でした。以下にキヤノンのHPからデュアルピクセルCMOS AFのイラストを示します。

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≪左:キヤノンのデュアルピクセルCMOS センサーの概念図、右:AFセンサーの測距エリアはほぼ視野の100%で1,053分割に分割されているのです≫

 このデュアルピクセルCMOS AFのおかげで、EOS R5とR6は、極端に開放値が暗くない場合には、フルサイズ画面サイズのほぼ全体が1,053分割の測距エリアとなり、より暗い開放F値(F22)でも横:約40%、縦:約60%に制限されるもの像面位相差検出AFで測距できるのです。この分割部分はEOSRとEOS RPでは143分割というからEOS R5とR6はずいぶん分解能が高くなったので驚きです。

 下図には一眼レフカメラTTL位相差AF検出方式の原型である、ハネウエル社のTCL-AFシステムの原理図を示しましたが、焦点面に等価の位置にくるようにセパレーターレンズとセンサーを置いて位相差の合致を検出してAFを行うのです。実際は焦点面の背後でなく、一眼レフミラーの中央部光束を部分透過ミラーで45°下部に導いて、焦点面と等価の位置にある測距センサーで検出するのです。

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 この測距のセンサーは当初はラインセンサーでしたが、最近はある程度の面積を持ったエリアセンサーが使われるようになりましたが、セパレーターレンズ部分の寸法により開口が決まり、初期のAF一眼レフでは公称F6.3、実効でF7~8止まりだとされていました。

 下にはこの2月に発売されたばかりの最新一眼レフの「キヤノンEOS-1DxMarkIII」のAFセンサーとAFユニットとAF測距エリアを示しますが、撮像面全体でAFを可能にするミラーレス一眼と一眼レフとでは最も異なる部分といえるでしょう。

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≪左から、AFセンサー、AF光学系ユニット、ファインダーにおけるAF測距点。最大191点(クロス測距点:最大155点、中央測距点はF2.8対応デュアルクロス測距点≫

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≪ミラーレス一眼では基本的には全画素を使って位相差検出AFを行うことができます。左:位相差検出であるために主要被写体が手前にあることがわかり、左の女性の顔認識も行われます、中:ピントが合っていない場合の信号、青・ピンク、前と後、右:合焦で信号が一致≫ キヤノンのHPのムービーからですが、僕が勝手に解釈しています。この画面からも、位相差検出がレンジファインダー(二重像合致式)と同じ考え方に基づいていることがわかります。像面検出AFにはこのほかコントラスト検出方式があり、ピントを前後させていく中で最もコントラストが高い所を合焦点とする方式で、山登り方式とか、TV-AF方式とか呼ばれています。一般的に位相差検出方式AFは前ボケ・後ボケを検出でき、合焦速度が速いのが特徴とされています。

 いろいろ考えましたが、測距点が撮像画面全体にあり、暗いと横:約40%、縦:約60%に制限されるということですが、F22光束でもAFが可能ということですから、上の3枚の位相差を表す画像の持つ意味はわかりますが、デュアルピクセルをどのように使っているかはわかりませんから、これから先の技術は不明です。

 では他社のボディの場合はどうなんだろうと、実絞りAEで試してみたらF16でもAFは作動しました。ちろん暗いところではすぐ決まらなくても、明るい所ではピッ、ピッとくるのです。つまりF22光束対応ということは、デュアルピクセル採用だからではなく、像面位相差検出ではセンサーの感度増幅が大きく影響するようで、EV-6(F1.2)まで作動するという高感度特性が大きく効いていると考えられます。

 他社機による実験は簡単で、TechArtのライカM⇒ソニーEマウント用のアダプターに、50mmF1.5レンズを付けて、さまざまな絞り値(最小F16)と照度下で行いました。ちなみにTechArtのLM-EA7は、ソニーの位相差検出AF機対応で、それ以前のコントラスト検出AFモデルには使えなく、製品に同梱のテクニカルデータによると焦点距離50mmの場合には最大F1.4、最小F25まで作動するとなっていて、焦点距離は15mmF4.5~90mmF2までAFで作動し、135mmF3.5の場合にはMFでとなっていましたが、ヘクトール135mmF4.5で使用してみるとまったく問題なく作動しました。TechArt LM-EA7は、レンズ全体を進退させる全群繰り出し方式なので、機械的な重量バランスから制約が出てくるのだろうと考えます。なお使用したソニーα7RIIは、位相差AFエリア表示がファインダーに表示できるので、その範囲内でのAF撮影となります。

■デュアルピクセルの効果は

 では、デュアルピクセルの効果は何なのかということですが、本レポート冒頭の写真展の所に戻りますと、写真を見に来た方々で画質にうるさい方の多くはEOS RとEOS RPがいいといったのです。それは何を指して言っているかと聞くと、調子再現の階調が滑らかだというのです。それぞれのカメラとレンズで標準的に撮影した結果のデータに、同じプリンター、同じ用紙を使って、同じA3ノビに拡大し、同じ額装法で同じ場所に展示したときの実プリントの印象ですからかなり信ぴょう性は高いと思います。

 この時から僕は考えていましたが、どうやらこれがデュアルピクセルの本当の効果ではないかと思ったのです。キヤノンではデュアルピクセルの効果を位相差検出に対してアピールしていますが、ここからは私の勝手な推測になりますが、キヤノンではデュアルピクセルの片方のセンサー部分を高感度寄りに、もう一方のセンサーを低感度寄りに使い、両方の信号を合わせて幅広い輝度域に対応させているのではないかと思うようになったのです。このようなことはフィルム時代にも行われていて、高感度乳剤層と低感度乳剤層と重層塗布され2段構えで光を受けていたのです。乳剤の場合には縦方向に配置していましたが、デジタルのデュアルピクセルの場合には1画素の中で分割して配置していると考えたわけです。EOS R5とR6では、人間の視覚に近い光と色をリアルに再現、HDR PQガンマによるHEIF(10bit)で記録可能などと書かれていますが、前モデルのEOS RとEOS RPでも、すでにユーザーレベルで階調再現のよさを認識できていたわけですから、新モデルEOS R5とR6での実写での効果のほどを知りたいものです。

■単なる画素数競争から、高感度特性、階調再現重視への技術指向

 新モデルEOS R5とR6のもう1つの大きな特徴は高感度特性です。EOS R5では4,500万画素で常用感度ISO100~51200、EOS R6では2,010万画素で常用感度でISO100~102400もあることです。F11・F22レンズへの適合も含めて感度へと重点が移ったわけです。とはいっても、階調再現の良さはすでにEOS RやEOS RPでも実現されていたわけですから、ユーザーはどのように受け止めるのか楽しみです。

 いつもなら実機を使ってのレポートですが、今回は使わないでのレポートとなりましたことは、ご賢察のほどを。 (^_-)-☆

 

ニコンZシリーズはこれで最強となった

 ミラーレス一眼の発表が各社一巡し、それぞれの社の交換レンズシステム化が構築されつつあります。2019年のCP+で発表されていた、ニコンZマウントボディにソニーFEマウントを変換装着するマウントアダプターは早い時期に発売されましたが、ニコンZマウントボディにキヤノンEFマウントを取り付けられるアダプターは、約1年遅れで複数のブランドがこの時期までに発売されるようになりました。今回はこのうち焦点工房から発売された『fringer FR-NZ1』を使って、身近にあるキヤノンEFレンズをニコンZ7に取り付けてさまざまな場面で撮影した結果をレポートしましょう。

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≪今回ニコンZ7に取り付けたキヤノンEFレンズ5本≫ 左から、EF28-135mmF3.5-5.6 IS、EF70-200mmF2.8 L IS USM、EF28mmF2.8、EF16-35mmF2.8L、EF24-70mmF2.8L USM。いずれも最新レンズではありませんが、このうちEF28mmF2.8はEOSシステムが発売された当時の1987年の発売ですから33年も前のレンズです。この5本のうちEF28mmF2.8だけはモーター式で超音波モーターUSMではありません。いずれも5本の交換レンズはすべてAFがごくごく当たり前のように作動しますので、つまらないぐらいです。

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ニコンZ7にfringer FR-NZ1を介してキヤノンEF28mmF2.8を装着、ニコンZ7にTECHARTTZE-01を介してZeissバリオテッサーFE16-35mmF4 ZA OSSを装着。見た目はどちらもフィットしている感じです。ニコンZ7にソニーFEレンズを取り付けたレポートはこちらを参照ください。≫

■レンズを変えてランダムな撮影

 単にキヤノンのレンズがニコンZボディで動いた、というだけではおもしろくないので、あちらこちらでのランダムな撮影結果を紹介しましょう。撮影は、すべてプログラムAE、ISO-AUTO、露出補正なし、JPEG撮影で行っています。これは、私のカメラチェック法ですが、カメラがどれだけそれぞれに対応しているかを見るためですが、AFだけはどこにピントを合わせるかということでかなり自分の意思を盛り込んでます。ただ、今回作例には示しませんでしたが、瞳AFにも連動したことを最初に記しておきます。

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≪EF28-135mmF3.5-5.6 IS:焦点距離135mm≫F8・1/1000秒、ISO100。羽田→関空間の機上から狙いました。晴天で明るいということもありますが、まったく問題ない写りです。このレンズも発売は1996年ということで、フィルムカメラ時代のEOS-1Nボディで使うために購入したものですが、24年前のレンズとなります。

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≪EF28-135mmF3.5-5.6 IS:焦点距離135mm≫F5.6・1/125秒、ISO 25600。洞窟内で波が押し寄せ、飛沫が上がる瞬間をとらえました。ISO 25600という数字がオートで出てくるのも最新デジタルカメラならではです。拡大してみると、画素等倍辺りでは、絞り開放で、超高感度であるためにノイズ感があり、さすがシャープさには欠けますが、波の飛沫の感じも写真のクオリティーとしては十分成立しています。

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≪EF28-135mmF3.5-5.6 IS:焦点距離75mm≫F5・1/400秒、ISO100。海岸淵に置かれた石像の手の上に松かさがありました。松かさにピントを合わせぎりぎりにズーミングしましたら、明るかったのでISO100の感度で、焦点距離75mmで絞り開放のF5となりました。拡大してみると松かさの前後ぎりぎりまでピントの合う焦点深度でしたが、石像の前後が適度にぼけて柔らかさをもって描出されました。

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≪EF28-135mmF3.5-5.6 IS:焦点距離135mm≫F5.6・1/160秒、ISO 8000。古いカナダ製の蓄音機。画面右端のレコード針にピントを合わせてあります。やはり絞り開放で撮影されていますが、ピントの合ったところ以外のボケ具合も自然であり、画質的に不満はありません。このような暗い室内で撮影してみるとわかるのですが、最低シャッター速度が、「1/焦点距離」よりわずかに速めにシャッターが切れているのです。つまり、焦点距離135mmだから、1/135秒以上の高速1/160秒で切れています。プログラムAE、さらに昨今のデジタルカメラならではのISO8000の露出成果です。

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≪EF28-135mmF3.5-5.6 IS:焦点距離65mm≫F5・1/125秒、ISO100。赤ちゃんのこぶし大のイチゴが売られてましたので何も考えずにパチリと1枚。もちろん撮影後に購入しましたが甘くておいしかったです。拡大してみるとイチゴ表面の黒いタネの1粒ずつ、緑のヘタの繊毛も描出され十分な解像です。

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≪EF70-200mmF2.8 L IS USM、200mm(300mm相当)≫F3.5・1/800秒、ISO100。こちらも1995年発売のものです。撮影はDX(APS-C)モードですから、焦点距離200mmですが300mm相当の画角となります。この写真水中のカモをよく見ると、小さな魚をくわえているのがわかります。暗い所でプログラムAEでだと、フルサイズとAPS-C判を切り替えると、やはり焦点距離が長くなるとみなせるAPS-C判では、シャッター速度はそれなりに速くなるのがわかります。

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≪EF70-200mmF2.8 L IS USM、135mm≫F5.6・1/500秒、ISO100。同じレンズですがこちらはフルのFXモードで撮影しています。ニコンZ7は、フルサイズのFXに加え、APS-CのDX、5:4、1:1、16:9の撮像範囲の画面変更が可能で、これらはメニュー画面で設定することになります。

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≪EF28mmF2.8≫F10・1/400秒、ISO100。カモのいる池の脇に生えている枯れたカヤを狙いましたが、F10と絞られたこともありますが、拡大してみても十分な画質です。今回撮影した中では好きなカットです。

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≪EF28mmF2.8≫F8・1/250秒、ISO100。カヤが中距離なのに対し、こちらは近距離の切り株に芽吹いた光沢ある葉です。こちらのカットも申し分ない描写です。

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≪EF28mmF2.8≫F8・1/250秒、ISO100。こちらは遠距離の風景ですが、まだ芽吹きの前ですから、元画像を拡大してみると木々の枝先から実用上は問題ないまずまずの解像特性であることがわかります。

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≪EF16-35mmF2.8L:焦点距離16mm≫F8・1/250秒、ISO100。今回使用した中では最も広角な焦点距離16mmで撮影しました。このシーンでわかることは、解像・発色などは十分なのですが、Z7側の“自動ゆがみ補正”はONにしてありますが、広角ズーム特有なワイド端ではたる型の歪曲がでてしまうことです。これは当たり前のことで、ニコンのカメラが他社のレンズの補正具合を組み込むわけないし組み込めるわけもないのです。この歪曲、気になるシーンもならない場面もあるし、気になる人も、ならない人もいるわけで、どうしても気になるならばレタッチソフトで簡単に手直しできるわけです。このシーンの青空は個人的にはニコン的な発色、つまりボディ由来の発色傾向だと思うのです。

■使ってみたら

 ニコンZマウントボディにソニーFEマウントを変換できる「TECHARTTZE-01」の時も、今回のニコンZマウントボディにキヤノンEFマウントを取り付けられる「fringer FR-NZ1」の時も感じたのは、どちらも存在を感じさせないほどに普通に使えたことです。もちろんレンズのAF作動も今回使ったレンズの範囲でしかないのですが、レンズメーカーのキヤノンマウントレンズではどうだろうかなどの問題はありますが、これはボディが新しくなれば、それなりの変化が伴うのは当然のことです。

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 このような変化に対してfringer社はファームアップで応じるというのです。実際、今回の使用中にファームアップが発表されたので早速やってみました。fringer FR-NZ1の下部には取り外し可能な三脚座とUSBマイクロBタイプの端子があるのですが、このUSB端子を使って簡単にファームアップすることができました。その操作は、FR-NZ1をボディに装着し(レンズは取り付けなくてもOK)、USB端子を使ってパソコンに接続し、カメラの電源をONにするとfringerのホルダーができるので、あらかじめfringerのサイトからダウンロードしておいた.binファイルをホルダー内に入れるだけで完了するのです。ファームアップは、1.00から1.10となりましたが、シリアルナンバー、バージョンとも含めて管理されているようですが、今回はキヤノン、シグマ、タムロン、ツァイスの非対応であったものが対応するようになったということですから、私のレベルでは支障はなかった範囲だとなります。

 今回は、33年も前のEF28mmF2.8レンズがまったく問題なく、ニコンのZ7で動作したのですから、キヤノンのEOSシステムがすごいのか、fringer FR-NZ1がすごいのか、それともニコンZ7がすごいのかとなりますが、いずれにしても、こういうことが可能になるのがミラーレス一眼のもう1つの隠れた特徴となるのでしょう。もちろんマウント口径55mm、フランジバック16mmという、ある意味フルサイズミラーレス機の極限を目指したZマウントならではのものであることは言うまでもありません。TECHARTTZE-01のレポートの時には、ツァイスのレンズがニコンZシリーズで使えるとしましたが、今回のfringer FE-NZ1では、キヤノンのEFレンズがニコンZで使えるのです。それぞれレンズの描写特性は各社各様ですが、高性能化した中においてどれだけ特徴ある描写ができるか微妙なところです。知人の舞踏写真家氏は、キヤノンEFレンズでマウントアダプターを介してニコンZ6で使っているのです。理由はレンズが軽いからだそうです。さらにうがった見方をするならば、マウントアダプターをボディ側に残してソニーキヤノンのレンズ使えば、レンズ交換が生理的に楽になるとか、いろいろなことが考えられます。いずれにしてもミラーレス最強のニコンZマウントならではのことであることは間違いありまりません。 (^^)/