写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

キヤノンDiffractive Opticsレンズ

 ソフトフォーカスレンズは球面収差や色収差を利用して軟調描写を得るものですが、続けざまにソフトフォーカスの描写に関しての記事をアップしてきて、少々飽きてこられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。じゃあその逆はないだろうかということで、思い出したのが左の写真に示す回折格子技術を用いた交換レンズ「キヤノンEF70-300mmF4-5.6 DO IS USM」(2004年発売)です。DOはキヤノンでいうDO(Diffractive Optics)の略で、回折光学系を採用したDOレンズとしてはこのほかに「キヤノンEF400mm F4 DO IS USM」(2001年発売)があります。
 右下のイラストはキヤノンHPからの拝借ですが、その原理は、回折格子を通った光線は裏側に回り込むといった性質を応用し、ガラスの表面に数μm精度で刻まれた回折格子を積層させ、回折光学系の色収差発生が長波長側が手前に結像し、通常の屈折光学系の色収差発生が長波長側は奥に結像するという、まったく色収差発生が逆であることを利用して、両方の光学系を組み合わせることにより両レンズの色収差を打ち消すことができるというものです。
 キヤノンでは、1枚で各種収差を補正し、蛍石非球面レンズの性質を持ち合わせたスーパーレンズであるとしています。製品化されている2本のDOレンズは、小型で手ブレ補正機構が組み込んであるために手持ち撮影が可能で、きわめて小型に仕上がっているのが特徴です。
 そしてこのレンズに組み込まれた回折格子は、簡単な拡大ルーペやカメラの焦点板などに集光のため刻まれた「フレネルレンズ」とにたような感じはありますが、原理はまったく異なるようで、回折光学系はCD、DVDなどの光ピックアップ用レンズなどであった技術を、キヤノンは写真レンズ用に応用したようです。
 それでは実際に写してみた結果を紹介しましょう。



◇撮影データは、EOS-1DsMarkII、焦点距離70mm、プログラムAE(F11・1/500秒)、AWB。ピントは画面右上クレーン玉掛けの上部に合わせましたが、絞られているためにビルの壁面を含め深度内に入っており、拡大しても各部はしっかりと描写されています。ただ、少し意地悪にクレーンの白い部分を100%までに拡大して見ますと、わずかに色収差の影響らしき現象が見えますが、この種のズームレンズとしてはかなり発生は低い感じです。いずれにしても、この程度の発生は極端な大伸ばしで初めて目視できるのですが、撮影後のレタッチソフトによる処理でも消えてしまう範囲です。部分写真はトリミングの関係で左右入れ替わっていますが、ごめんなさいということでご勘弁ください。いずれにしても望遠ズームとしては良い描写を示していることは間違いないでしょう。
◆こんなことを書いていたら、2007年頃にニコン回折格子光学系の技術を発表していたことを思い出しました。ニコンではDOE(Diffractive Optical Element:回折光学素子)と呼んでいますが、ニコンからは写真用レンズとしては販売されていないと記憶しています。いずれにしてもDOレンズは、キヤノンから2001年と2004年に各1本ずつの製品化ですが、その後の製品化はないわけですから、価格を含めて商品としての難しさがあるのかもしれません。
しかし、すでにキヤノンでは、1999年発売の「EF500mmF4L IS USM」と「EF600mmF4L IS USM」の後継機種として「EF500mmF4L IS II USM」と「EF600mmF4L IS II USM」を9月22日から始まるフォトキナ2010に向けて開発発表していますので、DOレンズもその後の後継機種に今後どのような発展・展開が見られるか注目されます。