写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

CP+2020パネルディスカッションで俎上に上げたかった事

 2月27日から3月1日まで開催予定であったCP+2020は、新型コロナウイルスの懸念により中止となりましたが、そのマイナスの波及効果は計り知れないものがあります。とはいっても私自身で完結できるものは何とかした方が良いだろうということから、このブログを使って『CP+2020パネルディスカッションで僕が俎上にのせたかった事』というテーマで自分なりに2020年パネルディスカッションの想定問答を行うことにしました。なぜそんなことをやるのかということですが、毎年3月のパネルディスカッションを区切りとしてカメラ技術の進歩を個人的に見てきましたが、2020年を休むと技術進歩の激しいカメラやレンズにおいて、その進歩状況をしっかりと書き留めておかないと、前後関係がわからなくなってしまうということが考えられたからです。以下にCP+2020のWebサイトに掲載された告知ページをそのまま拝借しました。

f:id:ilovephoto:20200222160822j:plain

  ご覧のようなメーカーの方々とのディスカッションをモデレーターとして機能するのが私の役割です。パネルディスカッションは、今回で11回目ですが時期に応じて話題を変えていくことにしています。また、その時の話題をアップデートにとらえて最新の話題をテーマにすることが、聞き手の方々に満足いただけるのではないかと考え、前日までのプレス発表の製品、さらには当日午前中見つけた展示品までを含めて話題にあげるようにしています。少なくともこの会場に来られている方は、最新の製品技術に興味を持たれているはずで、過去の事、さらには一般論では満足しないでしょう、というのが私の考えでした。今回は、それぞれのパネリストの方々のご専門を事前に調べてみますと、9人の参加者のうち、レンズメーカーを含めると7人の方々がレンズ関係の技術者なのです。これはまったくの偶然でしょうが、私としては少しレンズ関係に重点をおいて進行するのもよいのかなということになりました。

  とはいっても、2020年はテーマを「ミラーレスがもたらしたもの」としましたので、カメラそのものをまず見てみることにしますと、今年度はミラーレス一眼も、一眼レフもかなりの数が発表・発売されているのです。そこで簡単にグループ分けしたときの今年のカメラやレンズをピックアップして質疑応答的進行します。さらにここ数年は、最初に各社エンジニアさんたちのお顔とご自身で撮られた作品を前面スクリーンに映し出し、ご自身のご専門と撮影意図などをお話しいただいた後に本題に入るのです。

■フルサイズミラーレス一眼に関して

f:id:ilovephoto:20200226001146j:plain

≪CP+2020の時期までに発表・発売されたフルサイズミラーレス一眼は5機種≫

 今回初のフルサイズ、しかもベイヤーセンサーのミラーレス一眼「シグマfp」を市場投入したシグマに聞きたかったこと。1)かなり好評にfpは市場に受け入れられていると思いますが、スチルとシネ用カメラとしてはfpはどのくらいの割合で受け入れられていますか? 私は自分の周りを見ると圧倒的にスチルユースが多いとみていますが、いかがでしょうか。2)2月8日の「fpフェス2020春」において、フォビオンセンサーのフルサイズ判はゼロから仕切り直しだと山木社長は発表されましたが、これはセンサーの製造にかかわるとのことですが、私はレンズ、画像処理エンジン等全体にも難しさがあるのではと考えてます。もしセンサーだけだとするならば、現在までに発売されているフォビオンのAPS-CAPS-Hセンサーを使って、ライカCLのようなライカLマウントを使ったAPS判のミラーレスボディがあってもよいと思いますし、APSのフォビオンセンサーはそれでもある部分ではベイヤー方式のフルサイズ以上の潜在的パワーを秘めているとも思うのです。

 すでに第4世代にまでミラーレスフルサイズ一眼を進歩させてきた、ソニーに聞きたかったことソニーα7RⅣでは、6100万画素という高画素ながらISO32000までノイズを最小限に抑えたとしていますが、α7のラインナップを見ると、α7sⅢ・α7Ⅱ・α7RⅣ、α9Ⅱとあるわけですが、電気的な処理能力が上がってくると、画素数が少ないと高感度が得られやすいというような、バランス関係が崩れてくるのではないかと思うけど、いかがでしょうか。

 詳細と発売日は明確にはされませんでしたが、キヤノンはフルサイズ一眼ではEOS R(3,030万画素)、EOS RP(2,620万画素)と発売してきたのに加えEOS R5を発表しました。そこでキヤノンに聞きたかったことはEOS R5では撮像方式と画素数が公開されていませんが、従来の画素数に対する考え方に加え、高画素化を求めるのだけではなく、裏面照射方式のような新しいセンサーをも搭載してくるのではとも考えられますが、いかがでしょう。

 パナソニックに聞きたかったのはルミックスS1Hには放熱ファンを搭載していますが、これはシネ専用機ならではの機構でしょうか。また、先行のルミックスS1Rを使い思ったことは、USB端子より充電でき、特にUSBタイプA→タイプCでよいのは助かりました。S1Hでは、USBタイプC→タイプCとなりましたが、これはどういう考えなのでしょうか。記録メディアはS1RではSDとXQDカードのダブルスロットでしたが、S1HではSDカードのダブルスロットとなりました。シネ用を考えXQDカードだと思いましたが、このあたりのお考えをお聞かせください。

 実際は、ここにあげた話題を起点に各社に話を振りアドリブ的に展開しますが、あえて答えづらいことを聞くのがこのパネルディスカッションの妙味でありまして、お客さんに喜ばれることになりますが、ここではこれまでになります。

APS-C判ミラーレス一眼に関して

f:id:ilovephoto:20200304150148j:plain

≪CP+2020の時期までに発表・発売されたAPS-C判のミラーレス機は8機種≫

 8機種も登場したAPS-C判ミラーレス機はフルサイズより激戦区となりました。2010年にNEX3とNEX5を発売して以来10年の実績のあるソニー、2019年に参入のニコンまでと多彩です。そこには、フルサイズと併売するソニーキヤノンニコンAPS-C判に加え中判用大型センサーを使ったシステムを展開する富士フイルムとあるわけです。それぞれの最新機種を把握するために仕様を表に整理してみました。

f:id:ilovephoto:20200304164640j:plain

 APS-Cミラーレス機を比較して見えてきたのは、手振れ補正に対する対処の仕方で、フルサイズとAPS-C機を併売しているメーカーでは、交換レンズがフルサイズ用レンズとの併用、マウントアダプター使用でフルサイズとの併用ができるなどさまざまですが、各社で一番異なるのは手振れ補正に対する解決法の違いです。フィルムカメラの時代には交換レンズ側、デジタルになるとボディ内補正、さらに最近では、レンズとカメラ側の補正の併用、ボディ側で検知して交換レンズに反映させるなどとさまざまです。実際は、実用的な撮像感度のアップなどもあるわけで、そのあたりを各社聞いてみたかったです。そしてデジタルならではの最大の特徴は、フィルム時代と異なり一般的なユーザーが使用する範囲では画素数がある程度満たされていれば、大きく画質には影響ないということです。そのあたりで、各社に聞いてみたかったのです。

■マイクロ4/3と中判に関して

f:id:ilovephoto:20200304165535j:plainマイクロ4/3 ミラーレス機の最初は2008年のDMC-G1でした。以来各社がミラーレス分野に参入しましたが、小型コンパクトなオリンパスペンEPL10スタイルと、OM-DE-M5 Mak III、ルミックスDC-G99に見るように、従来からのハードな印象を受ける一眼レフスタイルに分かれますが、これらのカメラデザインというのはパナソニックオリンパスにとって、いまやハウスデザインとして到達したと見えますが、そのあたりについて聞いてみたかったです。

中判 もともとフィルム由来の呼び方で、かつてハッセルブラッドペンタックスやマミヤがブローニーフィルムを使った中判カメラを出ていた流れで、そのボディに43.8X32.8mmのセンサーを載せたのがリコーペンタックス645Zで、さらに43.8X32.9mmのセンサーを採用しミラーレス化したのが富士フイルムのGFXシリーズです。さらにこの時期発売のGFX100は1億200万画素という最多画素数を誇りますが、クロップなどのメリットを別にすれば、どのような写真の画作りが特徴か富士フイルムに聞いてみたかったです。個人的には先日フルサイズで2,400万画素から6,100万画素までのミラーレス一眼で、同じ場所を近似の条件で撮影し、同じプリンターで画素数をそのまま乗せてA3ノビにプリントして写真展を開いたところ、大多数の人は画素数差を見わけがつかなかったのです。同じことはA2レベルで中判1億画素とAPS-C 2,400万画素の関係でもいえるのではとも考えるのです。なお、富士フイルムは2018年フォトキナ時は、43.8X32.9mmのイメージャーをスーパーフルフレームと呼んでいましたが、最近はラージフォーマットと呼んでます。

 

f:id:ilovephoto:20200305220554j:plain

一眼レフ この時期注目されるのは6機種もの一眼レフが登場したことです。APS-Cでは、普及機のキヤノンEOS90D、とEOS Kiss X10i、片やAPS-Cのフラッグシップ機として開発され、ペンタックス100周年の記念イベントで発表されたのがペンタックスKマウント機で、CP+の中止で表にはでてきませんでした。このうちキヤノンEOS90DはAPS-C判で3,250万画素で、先行した同じAPS-C判のミラーレスのEOS M6 Mark Ⅱの3,250万画素と同じであり、これを同じ基盤でフルサイズに換算すると8,300万画素強となります。つまりこの時期のキヤノンAPS-C判3,250万画素イメージャーは、フルサイズにすると8,000万画素を超え、詳細未発表のEOS R5はソニーの6,100万画素を超えるのでしょうか?

 またニコンは一眼レフのAF機能とライブビューのAF機能を高めたD780を発売しました。本機のみならず残された一眼レフの“ライブビュー”は、技術的な発展過程でそのように呼んできましたが、この時期にはミラーレス機能と呼んでもいいのではないかと思うのです。そして、オリンピックの年には必ずフラッグシップ機が登場するわけですが「キヤノンEOS-1DX MarkⅢ」と「ニコンD6」はいずれも一眼レフであったわけです。両社ともわずかずつの従来機の機能アップを果たしていますが、ニコンキヤノンもこの分野はまだまだ一眼レフなのか、それともミラーレス機のオリンピック競技用のカメラ開発は間に合わなかったのでしょうか。興味は尽きません。

■交換レンズ

f:id:ilovephoto:20200307000936j:plain

 ミラーレスの交換レンズは大きく・重いということに挑戦したのでしょうか、タムロン28-75mm F2.8 Di III RXDは、高い解像力と柔らかなボケ味を両立したということで開放より2段絞るとシャープな画像が得られるといい、シグマ45㎜F2.8 DG DN|Contemporaryは、撮影距離70~90cmを超えたあたりからシャープになり近接ではソフトな描写ができる、キヤノンRF24-105mm F4-7.1 IS STMはレンズ面先端より2.3cmのマクロ撮影ができるわけですが、センターフォーカスマクロと称して中心部のみシャープな描写を特徴としてます。いずれも絞り込むことにより画質の向上はあるわけですが、ミラーレスになって設計の自由度が増したとは聞いてきましたが、逆に設計の制約ができたのではないかという印象を持つのです。どうでしょう? タムロン、シグマ、キヤノンに聞いてみたかったです。

蛍石と新光学材料

f:id:ilovephoto:20200307124812j:plain

キヤノン蛍石とBR光学素子≫

f:id:ilovephoto:20200307140909j:plain

ニコン蛍石とSRレンズ≫

 昨年2019年9月にニコンニコンFマウント60周年記念ということでニコンD6とAF-Sニッコール120-300mmF2.8E FL ED SR VRを開発発表しました。またキヤノンは、11月に蛍石を「キヤノンFL-F300mmF5.6」に採用して50周年だということでニュースレリーズをだしました。この時点で、私はCP+までに蛍石を使用した新レンズがキヤノンから発表されるのではと考えました。ところが、みごと外れ1月に発表されたニコンの「AF-Sニッコール120-300mmF2.8E FL ED SR VR」と「ニッコールZ 70-200㎜ F2.8 VR S」に蛍石が使われ、さらにSRレンズという短い波長の光を大きく屈折させる特性を持つ特殊高分散ガラスを採用しているというのです。このうちSRレンズは、キヤノンが2015年に発売した「キヤノンEF35mmF1.4L II USM」に採用されていたBR光学素子と同じような考えに基づくものと考えます。違いはキヤノン有機材料で、ニコンはガラスだということです。

 両社とも蛍石を一般撮影レンズに使うのは望遠レンズの小型・軽量化と色収差の軽減などに効果があるからだと考えますが、さまざまな硝材が開発されている現在においてCaF2単結晶を使う目的はどのようなところにあるのか、キヤノンニコンに聞いてみたかったことです。また2018年に発売された富士フイルムの「フジノンレンズ XF200mmF2 R LM OIS WR」には、“蛍石の性能に匹敵するスーパーEDレンズ”が使われているとされていますが、どんな硝材なのでしょうか気になります。さらにCP+2020のパネルディスカッションにコシナは登壇していませんが、昨年末に発売したソニーEマウント用の「フォクトレンダーAPOランター50mmF2」は、異常部分分散ガラスと非球面レンズを使い軸上色収差が少ないAPO仕様で画面周辺まで高解像を示すのは、多くのユーザーが知るところです。これからの交換レンズは、ソフトフォーカス的描写を兼備したものと高解像レンズへと2極化していくのでしょうか、個人的にはソフトフォーカス的な描写のレンズはかつてのズームマクロのように一過性の仕様であると考えるのです。

 このほか交換レンズでは、「タムロン20㎜ F2.8 Di III OSD M1:2」は、同時期の24mmF2.8、35mmF2.8と鏡胴を共通化したり、いずれも撮影倍率1:2のマクロ撮影を可能として廉価で販売して好感持たれてますが、カメラ側の歪曲補正をOFFにすると歪曲のある変わった写真が撮れるとされてます。同じように「ニッコールZ 58㎜ F0.95 S Noct」もRAWで撮影すると、Jpeg.で撮影したときと描写が異なると買って使った人が言ってますが、いかがでしょうか。このようなことは、一眼レフの時代からもあり、歪曲に関してはミラーレスが開始した当時から見受けましたが、現在の写真レンズは基本的にカメラ側の電子的な収差補正があるものとして設計するのでしょうか。タムロンニコンに聞いてみたかったです

■コンパクトカメラに関して

 表題は「ミラーレスがもたらしたもの」としてありますが、これは誘目性を高めるため電車のなかの中吊り広告のようなもので、実際は各社まんべんなくということで、カメラ、写真全体に話題を広げて進行します。

f:id:ilovephoto:20200308175500j:plain

≪主だったコンパクトカメラを5機種ピックアップしました≫

 コンパクトカメラは、APS-Cか1型の大型イメージャー搭載機が多く、APS-C単焦点レンズ、1型はズームレンズ搭載機に分かれます。このうち単焦点では、リコーはキャンディッド、富士はスナップフォトを指向しているのがカメラの性格を表しています。またリコーGRIIIでは、ライカQ2と同じようにクロップ機能で28mmに加え、35mm・50mm画角で撮影できる切り替えモードがあり、フジフイルムX100Vには光学ファインダーと電子ビューファインダー(EVF)を切り替えられる特徴あるファインダー方式が採用されています。富士フイルム光学ファインダー組み込みの意義を改めてこの時期に聞いてみたかったです。

■各社のカメラ/レンズづくり

f:id:ilovephoto:20200308154556j:plain

  ここ数年、登壇者にそれぞれの社のカメラ/レンズについて一言ずつ語ってもらっています。本来開催されていても、90分で9人の方にお話しいただくわけですから、1社10分もないわけです。最初にご自身のご専門と、ご自身で撮られた作品を見せていただき、締めでこれからの抱負を語っていただくというわけです。

 とはいっても90分の中でさまざまな討議がなされますが、上に紹介した画像は本来用意したスクリーン画面の1/3にも満ちませんが、お話を皆さんでキャッチボールする中でこれからのカメラについて見えてくることもあるわけです。私自身を含めて、来年もこのような機会があるかはわかりませんが、カメラ・レンズ技術の進歩をこの時期を一区切りとしてまとめてみたわけです。 (^^)/

※ここに記述した内容は、来る2020年6月3日(水)~5日(金)に京都工芸繊維大学で行われる画像関連学会連合会(日本写真学会・日本画像学会・日本印刷学会)の画像関連学会連合会第7回春季大会研究発表分野の特別講演で「仮:最新カメラ技術の動向 2020初夏」と題して、CP+2020タイミングの発表・発売にフォトキナ2020での発表内容までを加えてお話しする予定です。