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写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

シグマがマウント交換サービスを開始

 シグマがすでに発売した交換レンズのマウント交換サービスを9月2日から開始しました。考えてみると、そうなんですよね。かつては一眼レフ交換レンズのマウント部は、単なる機械的な連携でしかなかったわけですが、徐々に複雑になり、電気接点が設けられ、結果ほとんど完全電子マウントになった今は、単にマウントの口径、電気接点位置と数、電気信号の内容を合わせれば何とでもなるわけです(そんな簡単なものじゃないとシグマの担当者からは怒られそうですが)。歴史的に見てみると、交換レンズメーカーとしてのシグマは1960年代に交換マウントシステムのYS(ヤマキ・システム)システムの交換レンズを製品化しています。同じようにタムロンはTマウントを、コムラーはユニマウントを製品化しています。このうちTマウントは現在に引き続くもので、M42、P=0.75mm規格のネジでマウント部とレンズ部をつなぎます。かつてのPマウント(プラクカスクリュー、ペンタックススクリュー)は、M42、P=1mmですので別物です。さらに交換マウントとしてはその後のタムロンアダプトールマウントなどがよく知られているわけですが、いずれも機械的な連携の複雑さ、さらには電気接点が加わったことなどにより最終的にシグマもタムロンも専用固定マウントへと進化させていったわけです。

 写真左) スクリューネジだけのM42ラクカスクリューマウント交換レンズ(普通絞り、Granada 35mmF2.8、ペトリ製)、中) プリセット絞り式のM42ラクカスクリューマウント(Revuenon 24mmF4)、右) 自動絞りピンと絞り込みレバーが付加されたM42ラクカスクリューマウント(完全自動絞り、Super Takumar 55mmF1.8)
 M42ラクカスクリューマウントは、普通絞り、プリセット絞りまでは、どちらもネジマウント部以外には何もなかったのです。ところがそれ以後に、自分で絞りを開放にセットする半自動絞や、自動的に絞り開放に復帰する完全自動絞りが入ることにより、自動絞りピンやレバーが加わり、さらにAEのための開放絞り情報あたりの組み込みでユニバーサルマウントとしての各社互換がなくなり、それぞれ独自のバヨネットマウントへと移行していきます。そのバヨネットマウントもオートフォーカスが組み込まれたあたりで、電気接点がさらに加わり、ボディ側のモーターでレンズを進退させるためのAFカプラーが組み込まれるといった経緯をもつわけです。ちなみに一眼レフのマウントに電気接点が加わったのはプラクチカLLC(1968、東ドイツ)が最初で、このときは絞り値情報の伝達のためでした。AF用の電気接点は、ペンタックスME-F(1981)、ニコンF3AF(1983)、ボディ側のモーターでレンズを機械的にAF駆動するための“AFカプラー”の製品化はミノルタα7000(1985)からですが、1982年のフォトキナで発表された“コンタックスAF”でAFカプラー方式はすでに開示されていました。ところが、もっとも異なるのは、機構部分は操作部を含めて、大きく2分されているのです。たとえばレンズの取り外しは、ニコンが時計方向に、キヤノンペンタックスミノルタなどは反時計方向に、マニュアルフォーカスでヘリコイドを最短撮影距離に回転させようとするとカメラを構えた状態でニコンは反時計方向にキヤノンペンタックスミノルタなどは時計方向にというわけです。さらにこれに絞り込みレバーが加わるとニコンと他社では逆になり、ペンタックススクリュー時代の絞り込みは押し込み式というわけで、これに交換レンズメーカーとしてすべて対応するのにはたまったものではありません。

【写真】左)マウント交換が可能とアナウンスされたシグマ35mmF1.4 DG HSMのニコン用マウント部を見る。たぶん光沢のあるアルマイト加工された光沢部分が交換されるのでしょう。右)ニコンD800Eにシグマ35mmF1.4 DG HSMを装着
 ところが、これらに対し『完全電子マウント』という形で新しい方向を打ち出したのはキヤノンEOS650(1987)に始まったEFレンズシリーズです。EFレンズは、カメラとレンズの間の情報交換はすべて電気信号であり、絞り羽根の駆動やAFはレンズ内モーターであるだけでなく、超音波モーターの組み込みや交換レンズへの手ブレ補正機構採用の先駆でもあったわけです。さて、あれから26年も経ちました。カメラもデジタルになり、さまざまな制約がとれました。AFレンズも、駆動はボディ側からの機械的なカプラー結合方式でなく、レンズ内の超音波モーターやステッピングモーター方式によるのが主流となってきたのです。電気信号でのやり取りが主流になれば、機械的なマウント部分と電気接点の配置で済むわけです。つまり一部に残る機械的な絞りレバーの動作方向や運動量を絞り羽根のアクチュエーターに伝えれば問題なくなるわけです。なるほどなと思うし、まさにコロンブスの卵であり、レンズメーカーとして各社のレンズに対応するのが楽になり、さらにもう一歩踏み出して、ユーザーの希望に応じてマウント交換も可能となったわけです。右上の写真はニコンD800Eに装着された「シグマ35mmF1.4 DG HSM」ですが、今までならカメラの銘柄を変えるとレンズも変えなくてはならないのが、お気に入りのレンズは有料ながら改造が可能で使い続けることができるわけです。これは大いなる進歩であるわけです。そこでマウント交換可能なレンズですが、シグマの交換レンズすべてではなく、制約があります。詳しくはこちらをご覧ください。ちなみにこの“ニコンマウントの35mmF1.4 DG HSM”をキヤノンソニーペンタックス、シグマなどに変えてもらうことができるわけで、改造価格は15,000円。受け付けは直接シグマのカストマーサービスへということですが、価格的には僕は安いと思うのですが、いかがでしょう。

 参考までにとざっと「ニッコールレンズ」の進歩(移り変わり)を写真で示しました。左)Nikkor-S Auto 50mmF1.4(Nippon Kogaku名の白玉です)、中)AF Nikkor28-105mmF3.5-4.5D(レンズ駆動用のAFカプラーと電気接点が付いてます)、右)AF-S Nikkor24-70mmF2.8G ED(電気接点が増え、AFカプラーと絞りリングがなくなりました)。目で見ただけの違いはまだまだありますが、大きな違いだけをあげてみました。変わらないのは、機械的なマウント形状と取り外し用のロックピン孔が設けられていることと、絞りレバーがあることです。もし絞り羽根の駆動が電子化されれば、完全電子マウントになると思ったのですが、よく調べると、すでにニコンには電磁絞りによる自動絞りの交換レンズと呼ばれる完全電子マウントのレンズが2本発売されているのです。そのうちの1本は2008年に発売されたPC-Eマイクロニッコール85mmF2.8Dで、アオリ機構に連動して自動絞りとするために電磁式となっています。さらに2013年5月に発売されたAF-Sニッコール800mmF5.6E FL ED VRは、800mmという焦点距離であるため絞り位置がボディからかなり離れるために電磁絞りを採用しているのです。もちろんすべてのボディが電磁絞り対応ではなく、D4、D3シリーズ、D800 / D800E、D700D300シリーズ、D90、D7000、D5100、D5000D3200、D3100、D3000だけが使用可能なわけです。したがって、シグマのニコンマウント交換レンズもボディを限定すれば、完全電子マウントにすることができるわけです。

【ひまわり畑】シグマ35mmF1.4 DG HSM、ニコンD800E、AF(顔にAF)、絞り優先AE、F1.4・1/400秒、ISO100、AWB、手持ち撮影