写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

明日のデジカメの姿が見えてきた

年末にニコンキヤノンからフラッグシップ一眼レフとして『ニコンD3s』『キヤノンEOS-1D MarkIV』が発売されました。どちらも、この時期発売されるということは、明らかに2010.02.12〜02.28までカナダのバンクーバーで開かれる冬季オリンピックを意識してのことであることは間違いありません。そもそもカメラというのはオリンピックの時期に進歩するというのが過去からの通説だったのです。そしてD3sとEOS-1D MarkIVのの仕様を見て最も印象深かったのは、常用で最高感度が12800、さらに拡張感度が最高で102400となっており、どちらも同じなのです。感度が高く撮れるというのはありがたいもので、前の世代で6400であったのが、一気に12800と1段アップしたわけです。この常用感度の解釈は難しいですが、少なくとも通常使う範囲ではノイズやざらつきをさほど感じさせなく撮影できる感度範囲をメーカーが示していると解釈していいでしょう。そしてこの12800という感度ではどんな写真が撮影できるのでしょうか、興味津々です。
さらに最新のカメラ技術を整理分析していたら、面白いことが見えてきました。なんと『明日のデジカメの姿が見えてきた』のです。ここはぜひ僕も12800の高感度を体感してみたいところです。しかし、そうはいっても機材と時間と場所を都合つけるのはむずかしいのです。ところが、ありがたいことに写真家の小山伸也さんから発売されたばかりのD3sを持って、スイスまで列車を撮影しにいってきた、という連絡をいただいた。そこはぜひということで、12800感度で撮影の写真を拝借することができました。以下、まずはそれをご覧ください。
チューリッヒ市内の市電1】ISO12800、D3s、70mm、F8・1/40秒 撮影:小山伸也



チューリッヒ市内の市電2】ISO12800、D3s、195mm、F8・1/80秒 撮影:小山伸也



鉄道写真ファンならずとも良く撮れているのには驚きます。撮影レンズは70〜300mmズームだそうですが、F8に絞っているのは、電車がカーブを描いたりしたようなときでもピントが全体にくるようにとのことらしいですが、どちらも手持ち撮影とか。とくに下の写真では乗客(車掌?)の顔の表情もよくわかるし、リサイズかけないオリジナルでは中の文字もしっかり読みとれます。いずれにしても、数年前までだと撮影不可能なシーンです。

さて、このニコンキヤノンの2機種は、スペックを比べてみると面白いものが見えてきました。ニコンはフルサイズライカ判で、キヤノンAPS-Hなのですが、画素単位で見ると右表のようになります。この表から何となく読めることは、画素競争は一段落して、現在は高感度競争であることだです。また、とくにキヤノンのEOS-1D MarkIVの画素ピッチは5.7μmですが、これでISO12800を達成していることはすごいことです。画素ピッチが大きいほど高感度を得やすいのは簡単に理解できますが、画素ピッチが細かいのに高感度を達成しているのには何か技術的なブレークスルーがあったのではないだろうかということになるわけです。ということは、キヤノンの他機種も、ニコンの他機種も高感度化にはまだまだ充分余地があり、今後少なくとも5.7μm以上の画素ピッチを持っているカメラ(撮像素子)はその方向に向かうだろうということです。
ちなみに、ポピュラーなフルサイズ機EOS5DMarkIIは6.4μm、APS-CのEOS7Dは4.3μm、EOS KissDigital X3は4.7μm、ニコンD300sは5.5μmとなります。表に示したEOS-1DsMarkIIIは6.4μmでISO1600ですが、これは単に開発時期の問題と見ることができます。この内、EOS5DMarkIIとEOS-1DsMarkIIIは6.4μmなので、少なくとも画素数をそのままにしておけば、常用高感度12800は充分達成範囲内と考えられ、さらに高感度化も可能となるのかも知れません。

この高感度化はキヤノンの資料によると、

新開発CMOSセンサーは、画素サイズ5.7×5.7μmでありながら、高S/N比を達成。解像力と高ISO感度を高い次元で両立。それを可能にしたのが、キヤノンが誇る先進の微細化プロセスです。フォトダイオード構造の最適化、ギャップレスマイクロレンズの採用、マイクロレンズとフォトダイオード間の距離の短縮により、光を効率よく受光。さらに、新素材によってカラーフィルターの透過率を向上させるほか、フォトダイオードの新構造により高S/N比、広ダイナミックレンジを実現。幅広いISO感度、ノイズの少ない高品位な画像、シャドウからハイライトまでの豊かな階調表現で、多彩なシーンを鮮やかに描き出します。

となっています。

もう1つ、同じように撮像素子の高感度化では「裏面照射型CMOS」があります。こちらはソニーが2009年9月に発売したコンパクトデジタルカメラサイバーショットDSX-WX1」に採用されていますが、ソニーによる原理図と解説を示すと以下のようになります。

ソニー独自開発の有効1020万画素、1/2.4型CMOSセンサー“Exmor R(エクスモア アール)”を搭載。CMOSセンサーへの入射光を効率よく利用できる「裏面照射技術」を採用することで、感度が約2倍アップし、ノイズを約1/2に低減します。これにより、夜景や室内などの暗いシーンでも、ノイズが少なく、なめらかで美しい写真を撮影できます。

というわけで、キヤノンはマイクロレンズの工夫で配線部分のギャップによるロスを低減、ソニーは配線部分をフォトダイオードの裏面に配置してエネルギー効率を高めたというわけです。
■写真は、左から『ニコンD3s』『キヤノンEOS-1D MarkIV』『ソニーサイバーショットDSX-WX1』
撮像素子にCCDを使ったコンパクトカメラでは、すでにリコーがGX200で1.7型1200万画素であったのをGXRでは同じ光学系、1.7型で1000万画素に画素数を落とし、キヤノンではG10で1.7型1500万画素をG11では1.7型で1000万画素にして高感度化に対応させています。画素数を落とすことは1つずつの画素を大きくすることができるわけで、高感度化に対応できるわけです。
さて、ここまではあくまでも理論上のお話し。それぞれの機種の実力はどの程度でしょうか。キヤノンEOS-1D MarkIVとニコンD3sの面白いレポートがあります。こちらでは、やはり画素が大きいと感度が稼げるという法則は崩れていないようです。
http://www.neutralday.com/canon-eos-1d-mark-iv-vs-nikon-d3s-iso-comparison/
デジタルカメラが写真画質として通用するようになったのは100万画素を超えてからですが、1000万画素を超えてやっと画素競争にブレーキがかかったようです。そして次に向かったのは高感度対応ですが、どこまで上り詰めるか見逃せません。そしてそれぞれの画質評価は、必要に応じたサイズにプリントしてみることが大切で、写真は1枚の紙にプリントされて初めて成立するものだと考えている次第です。