写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ペンタックスQのボケコントロール

 最近どうも気になってしょうがないのが、レンズの「ボケ味」です。レンズ交換式のミラーレスカメラに「ペンタックスQ」や「ニコン1」の登場もあり、小さな撮像素子でどれだけぼけ味を活かした、写真ならではの描写を表現できるのだろうかというのが大いに気になるところです。すでに「ニコン1」では近接撮影すれば、背後は適度にぼけるという報告をしましたが、「ペンタックスQ」には、BC(ボケコントロール)なるモードが設けられたのです。このBCモードは、ピントが合ったところ以外のボケた部分の描写を電気的な画像処理で調整できるというものなのです。ペンタックスQの発売は8月31日でしたが、どうしてもこの“BC”モードが気になるので、この時期改めて、01 STANDARD PRIMEレンズのSMC PENTAX 8.5mmF1.9 AL[IF]を付けてボケコントロールの具合を重点的に見てみました。
 外観写真とは別に、モードダイアルをBCポジションにセットした状態を示しました。この状態で、ボディ右肩のダイアルを回転させることにより、ボケ量を3段階に変化させることができるというのです。ところで僕のブログでは、画面全体が軟調描写になるソフトフォーカスに関してはいままでも何回かレポートしています。しかし、しっかりとピントが合ったところ以外のアウトフォーカスの描写に関してはブログという性格上全体を見てもらう事がなかなか難しく、あまり触れてきませんでした。しかし最近は、ライカM9のようにフルサイズでしかも距離計精度が高い機種が出てきたり、ライブビューでリアルなピント合わせができるリコーGXRのライカマウントユニットの登場により、開放絞りでの描写が以前よりも気軽に楽しめるようになったのです。その開放絞りでの描写は、開放でもシャープであることと、アウトフォーカス部、すなわちボケの部分がどんな描写(ボケ味)を示すかが注目なわけです。そのボケ具合を、レンズのフォーカス位置と絞り値とは別にコントロールできる要素を持ったというのですから驚きです。
 そこでさっそく、ペンタックスQにプライムレンズSMC PENTAX 8.5mmF1.9を装着した場合のボケ量を3段階変化させた描写をお見せしましょう。

【ボケ量0、絞りF2.8】絞り優先AE撮影、最初は絞り開放F1.9で撮影しましたが、BCモードでの撮影が絞りF2.8となったので、F値をそろえるためにF2.8に絞って撮影しました。撮影レンズの先端から被写体であるアサヒペンタックス・スポットマチックまでの距離は約70cm。プライムレンズ8.5mmF1.9は焦点距離は短いですが、単焦点のためでしょうか、F2.8に絞ってもけっこう背景はぼけています。アスペクト比3:2(以下同様)

【ボケ量1、絞りF2.8】背景のボケがわずかに大きくなりました。光学的同一平面にあるワインボトルの文字のシャープさは変わりません。

【ボケ量2、絞りF2.8】背景のボケがさらに大きくなりました。光学的同一平面にあるワインボトルの文字のシャープさは変わりません。

【ボケ量3、絞りF2.8】背景のボケがさらにもっと大きくなりました。光学的同一平面にあるワインボトルの文字のシャープさは変わりません。ボケ量3は、ボケの具合が大きくなるだけで、絞り値変化の効果のようにピントが合っている部分の深度が浅くなるわけではありません。

ニッコール50mmF1.8、絞りF4】撮像素子の大きさが変わるとどうなるのだろうかと、ペンタックスQの画角と開放F値が近似したということで、フルサイズのニコンD3にニッコール50mmF1.8を用意して、同じ撮影距離約70cmから撮影。撮影時の絞りはペンタックスQの「ボケ量3」に近い感じを背面液晶モニターで見てF4に絞ってみました。背後地面のレンガからするとほぼ同じ感じですが、左の椅子からするとまだまだ絞り足らなかったようにも見えます。もともとレンズが違うわけですから決めつけはできません。
 いかがでしたでしょうか。参考までに載せたフルサイズニコンD3の光学的なボケ具合と、ペンタックスQの電気的なボケ具合を見比べて欲しいのです。どこが違うのかというか、純粋な光学的なボケ味(すべて画像処理されているわけですから、そういうのはないのかもしれませんが)とボケコントロールされたボケ味は、ボケ具合は別にして、描写としての違いはわかるでしょうか?。僕個人としては、この画面からはわかりません。これは大変だ!というのが正直な印象です。すでに色収差や歪曲収差など一部コンパクトカメラや一眼レフではそれら撮影レンズの光学特性を補正したものを標準画像としているのもあるわけですが、ボケ量をコントロールしてそれを標準の画像としたカメラが登場してきてもまったく不思議はないというのが、正直な印象です。なお、取扱説明書によるとBCモードで撮影中はカメラを動かさないようにと書いてあるので、複数回の露光が行われているのかと思いましたが、露光は1回だけで、AF動作中に被写体の距離情報をスキャンして、ぼかしてはいけない部分にマスキングをかけるような感じで画像処理しているとのことです。そのため、距離情報データが狂わないようにすることを目的として、撮影時には動かさないようにと、記載されているそうです。なお撮像素子にはUV/IRカットフィルターは付いていて、光学ローパスフィルターは付いていないそうです。
 さて、ペンタックスQのボケコントロールだけをあれこれと紹介するだけでは、ちょっと失礼かもしれません。そこでボディと写り具合の簡単な印象を述べさせていただきます。まず手にした感じは金属の冷ややかな感じが伝わり、適度な重量感があり、レンズの脱着もスムーズに行なえ、操作の基本となるモードダイヤルは回転にしっかりとしたクリック感もあり、わかりやすいのも好感が持てます。撮影はさまざまな場面で行いましたが、写った結果は、さすがSMC PENTAX 8.5mmF1.9はプライムレンズ(最高のレンズとでも訳すのでしょうか)というだけにプリントしても大変しっかりとしており、約1200万画素なら全紙にむりなくプリントできます。以下に、別カットの写真を載せます。描写の感じをつかんでもらえたらと思います。シーンモード:絞りF3.2・1/1000秒、ISO-AUTO 125、アスペクト比3:2。

 ところで、ペンタックスはボケ・コントロールをBCと表記しています。過去にカメラでのBC表記は、バックライト・コントロールやバッテリー・チェックであったりしたわけですが、BCをボケ・コントロールとしたことは画期的です。というのは、2000年頃から“レンズのボケ味”は欧米でも英語で“Bokeh”と表記されるようになったというのです。それによると写真において、古くからボケによる表現をもっとも好むのは日本人であって、他の民族はそのような描写テクニックをほとんど用いないといわれてきた、というのですが、どうなのでしょう。英語版のwikipediaでも“Bokeh”として解説されています。それではロバート・キャパの『ちょっとピンぼけ』はどうなるのかとなるわけですが、“Slightly out of Focus”となるようです。このほか、最近話題となった津波、こちらも日本語の“Tunami”で通じるわけですから、津波に加えて「ボケ味」も近年国際語となったわけです。その国際語を先取したのですからなかなかですね。(^。^)