写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ニコンZマウントAF対応「TTArtisan 32mmF2.8 Z」

 中国製の交換レンズやマウントアダプターを販売する焦点工房は、銘匠光学(めいしょうこうがく)の単焦点レンズ「TTArtisan AF32mmF2.8Zマウント」の先行販売モデルを、2022年7月6日(水)に発売すると発表しました。この先行販売モデルは、今後発売される通常モデルと比べてわずかにデザインに違いがあるため、数量限定の直販価格:24,999円 (税込)で販売するというのです。ニコンZ用のTTArtisan レンズは焦点工房から、ニコンZマウントAPS-C判のMFレンズとしてTTArtisan17mmF1.4、35mmF1.4、50mmF1.2の3本セットがわずか3.3万円で2021年の夏に発売されたのは記憶に新しいことですが、今度はフルサイズでAF対応だというのです。ミラーレス一眼機対応のサードパーティ交換レンズとしては、ソニー富士フイルムのボディに対して国内交換レンズメーカーが一部AF対応レンズを販売していましたが、キヤノンニコンに対しては非対応でした。そのなかで、わずかに日本のコシナが電子接点対応のニコンZマウントレンズをマニュアルフォーカスで発売するというので注目していましたが、そこに一気に中国の銘匠光学がニコンZマウントでAF対応レンズとして、発売するというのは驚きのニュースであり、どんなものだろうかと、さっそく取り寄せて使用してみました。

ニコンZ7に取り付けられたTTArtisan AF32mmF2.8Zマウントレンズ≫ フードは伸縮式でまっすぐに引っ張ると7mmでてきますが、非回転式で組付けられていて取り外すことはできません。ちょっとしたからくりですが、取説には書いてないので、購入しても引き出さないでそのまま使う人もいると考えられます。内側には「2.8/32  Φ27 TTArtisan NO.8011002153 DJ-OPTICAL」と刻印されています。フードは外周58.5mmで、レンズ鏡胴前面刻印面より6.5mmの位置に45.5×31.5mmの長方形で窓がケラレがでないような画面ぎりぎりまで開けられいています。レンズ本体のマウント基部面外周が62.5mmなので、もしフィルターを付けるとなると内側のΦ27mmネジにインナーキャップのような感じで装着できます。写真ではフードを引き出していません。

≪レンズとフード外面の関係とレンズキャップ≫ レンズ上面基部には「0.5m-∞ 2.8/32 Z」と刻印されている。レンズ外装、フード、かぶせ式のレンズキャップなど、すべてつや消し黒アルマイトの金属製ですが、それぞれ加工精度は高いと感じました。左:フード収納状態、右:フードを引き出した状態。フードは引き出していなくても効果ありそうです。

≪ボディ側とレンズ側のマウント基部≫ 電気接点は11カ所、ボディ側と同じ数です。そんなのあたりまえだろうと笑われそうですが、過去に使った韓国サムヤンのソニー用35mmF2.8AFはソニーのボディ側10カ所の電気接点に対して、レンズ側に12接点あったのです。これはレンズ側のファームアップに使うようなのでしょうが、その後ファームアップがなされているのかは不明です。TTArtisan32mmF2.8の場合には、マウント面基部の電子接点の対向側にUSB端子が設けられているのでPCとWeb接続してファームウエアアップを行うタイプです。このような端子は中国製のAFマウントアダプターなどに見ることができますが、単独のAFレンズとしては初めて見ました。

■さまざまな場面で撮影してみました。

 本レポートの着眼点はAFの動作ですが、実際の場面でどのように作動するのかがチェックポイントですが、やはり実際に撮ってみなくてはわからないのは現実で、いつものコースをさらっと撮影して、その実力を見てみました。

≪いつもの英国大使館≫  F5.6・1/640秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。いつものように晴天の朝10時15分ごろ、絞りF5.6、通常は基本的に焦点距離35mmで撮影するようにしてますが、この場面では32mmという画角はちょうど良い画角となりました。ピント位置は、スポットAFで画面中央屋根直下のエンブレムに合わせています。

≪画素等倍に拡大してみました≫  4500万画素センサーの画素等倍ですが、通常はこんなに大きくすることはないと考えますが、若干解像が甘いようですが、それはAPOレンズなどと比べたときで、光学性能として実用上は問題なく普通に写る感じです。

≪TTArtisan32mmF2.8のレンズ構成とMTF曲線≫ 6群9枚構成、橙色:異常分散レンズ、桃色:非球面レンズ、青色:高屈折低分散レンズ。ニコンZ fcなどAPS-Cで使うと×1.5で、48mm相当の画角になります。今後、もしキヤノンRF対応としてでれば51.2mm相当画角となるわけです。

≪工事中の英国大使館裏側≫  F9・1/250秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。スナップ的に歩きながら撮りましたが、もともと右上がりの坂道なのでカメラとしてはこれでだいたい水平がでてます。

≪いつものYS-11  F7.1・1/400秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。露出レベルの問題かもしれませんが、何となくシャドーがつぶれる感じがするのは撮影日が雲が多い日だったからでしょうか。

≪いつもの飛行機、C-46輸送機≫  F10・1/400秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。同じ場所でいつも同じ被写体をねらっていると、リベットの質感やペイント盛り具合などで解像感がわかるのです。やはりシャドーはわずかにつぶれ気味に感じます。

≪いつもの航空少年兵の像≫  F2.8・1/1000秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。こちらの像もいつも撮影する被写体ですが、あえて絞り開放で中央の少年の目のあたりにピントを合わせてみました。この像には特別な意図を持って撮影しませんでした。カメラ側の機能の問題でしょうが、実際の人物の場合には撮影距離によって顔認識、瞳認識AFも確実に機能しました。たぶん動物認識もするのでしょう。

≪像の左側の少年の肩と背後左部分を画素等倍に拡大して見ました≫  木の葉の間からこぼれる光が丸く玉のようなボケとして描出されていますが、これは球面収差の過剰な補正によるものと考えられます。木陰でのポートレイト撮影、背景に点光源を配しての人物撮影など、絞り開放で撮ると面白いボケ味の写真が撮れそうです。

≪木のこぶ≫  F4.5・1/80秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。若干暗い背景の影響を受けていますが、私としては0.7EVぐらいマイナス補正したいのですが、露出のバランスを含め問題なく撮れています。

≪竹の皮≫  F5・1/100秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。竹の皮のヒゲの微細な部分がどの程度写るか撮影しましたが、まずまず細かい部分も再現できました。露出に関しては、上のカットと同様に、私としては0.3EVぐらいマイナス補正したいのですが、露出補正しなくてもバランスよく撮れています。

≪落ち葉のテストチャート≫ F2.8・1/500秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。秋に拾い集めた落ち葉をざるの上に置いて、ナチュラルな色とシャープネスを測るテストチャートとしています。絞り開放F2.8の画像ですが、F8ぐらいまで絞り込めばさらに解像感が増すことは言うまでもありません。ただ、このレンズの最短撮影距離は0.5mなのですが、焦点距離相当の0.35mぐらいまで近づいて撮りたいものです。

≪画素等倍に拡大≫ 上の写真のうちエノコログサの部分を画素等倍に拡大してみました。すでに英国大使館エンブレムの部分で述べていますが4500万画素CMOSセンサーという高画素機だとこういうレベルの解像感で普通かなというわけです。写真的に見るとこのような場面で絞り開放F2.8で撮影し、画素等倍にまで拡大は通常ではありえないほどです。

■ミラーレス一眼の交換レンズのこれからは

 ニコンZマウントで税込み価格で24,999円 というのは少なくとも現在のZ交換レンズの中で破格の値段ということになります。なぜこのような価格で作れるのかは別にして、少なくとも現状でのミラーレス一眼では、ニコンキヤノンはAF対応の交換レンズ製造に関するライセンスは他社に供与してきていないと私は解釈しています。国内交換レンズメーカー大手のシグマ、タムロンが製造できないのに対し、一部マスコミでは大人の事情という一言で済ませていますが、このあたりは時間が経過すれば各社が作れるようになる方向で解決するのかどうかは、過去の例から見ると現在は5分5分だと思うのです。やはり権利関係は明確に言及すべきだと思うのです。

 これは一眼レフに限ってみれば、歴史的経緯から一部には海外企業のマウントと共通化させて発展してきた部分などもあり、権利を主張するのにはそれなりの付加価値を高めることが必要なわけで、過去の例としては東京光学機械の開放測光機構、ハネウエル社のAFに関する特許訴訟などが良く知られた部分ですが、今日の成熟したカメラ産業では、技術や規格を事前にどのように押さえ、特許としてどれだけ自社の知的財産として保護できるかにかかってきているかと考えるわけです。特にミラーレス一眼に関しては、レンズ交換のマウント部分を特許として押さえるか、意匠として押さえるかによっても大きく変わってくると思うわけです。他社による製造を認めるか、認めないかはそれぞれの企業の戦略によっても変わるわけですが、キヤノンニコンの認めないに対し、ソニー富士フイルム、OMデジタルソリューションズの認めている辺りは、それぞれの社の考えるところであり、ユーザーは推測することはできてもその範囲を超えることはできません。そんなことを考えつつ、今後のカメラ需要を考えると、かつてのように幅広く交換レンズ製造を他社に任せるのではなく、なるべく自社のシステムでカバーして開発費を含めて収益を確保するという考えは当然成立するわけですが、ユーザーにとっては、さまざまな焦点域、ブランド、価格へのチョイスができるのは楽しみが広がってベストだと思うのですが、もしそうだとするとこれからは国内外を問わずレンズメーカーに対価を求めてライセンス供与する時代がくるかがポイントになります。

 なぜこのようなことをあえて書くのかというと、最近ニコンコシナのMFレンズだけに電子接点付き交換レンズのライセンスを与えたようで、どんな具合かなと考えていた時に、ある業界通の方から最近キヤノンは、韓国のsamyangと中国のvitrox 、yongnuoを訴えたのを知ってるかという話があったことと、ある時期からサムヤンの製品からキヤノンAFマウントが静かに消えたというようなことも聞いていたので、TTArtisan AF32mmF2.8Zはどんなものと、早速取り寄せて使ってみた次第です。結果は、ご覧のとおりですが、フォーカスリングを回せば距離インジケーターがでるし、Exifも撮影データに加えられ、レンズ名も記録されているわけで、特に問題ないようにも思うのですが、ミラーレス一眼のAF は単に合焦のためにレンズが前後に駆動され、Exifが書き込まれるだけではなく、収差補正も含めて信号のやり取りが行われ画像処理されて最終的な画像が生成されるとされていて、今回の結果からはどのように撮影画像に作用したのかわかりませんが、たぶん銘匠光学はニコンからライセンスを受けているとは考えにくいのです。これに関して現地に詳しい人に聞いてみると、中国の深圳地区では光学的にも、機械加工も、電子部品も何でもできるというのです。しかし単に物としてできるということではなく、あるルールの下に製品が作られていくのが、これからのカメラの幅広い健全な普及を考えると大切であり、国内外のサードパーティー交換レンズメーカーはライセンスを受けられるように働きかけるべきであり、カメラメーカーはライセンスを自社に見合う形で与えていくことも必要だと考えるわけです。 (^^♪