写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

8月19日は「世界写真の日」

 いまから3年ほど前に、「今日はカメラの日ですね」と写真仲間のKさんが言うのです。えっ、何それと聞き返すと、朝車に乗ってエンジンをかけると、カーナビのオープニングメッセージでいったというのです。その、今日とは「3月19日」なのです。詳しく聞くと、車はトヨタのミニバンで、カーナビは純正で型番はNSCP-W64と記されているからメーカーはパイオニアではないだろうかというのです。なぜ3月19日がカメラの日かということをパイオニアに聞くのもいいかなとも思いましたが、その前にWebで調べてみますと、続々と関連項目がでてくるのでびっくりしました。

 私がおかしいと感じたのは、ダゲレオタイプ公開記念日の8月19日ならわかるけれど、3月19日とはどうしてだろうと考え、調べてみるとでてきました。そこにあったのはWeb検索時代のまさに弊害が見えてきました。まず、Web情報には必ず根っこがあるだろうと調べてみましたら、簡単に間違いの根源らしきサイトを見つけることができました。今日は何の日~毎日が記念日~というサイトですが、そこで3月19日の所に『カメラ発明記念日、1839年のこの日、フランスのルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが写真機を発明した。この写真機は「ダゲレオタイプ」と呼ばれ、長時間露光させるため写真機の前で長い間じっとしていなければならなかったが、大変な人気を集めた』とあるのです。このダゲールが……という件から簡単に間違いと判断できたのは、本来は1839年の8月19日であったのを、1839年の“3月19日”と読み違えたか、ミスタイプしたかなのです。このサイトには使用上の注意というのがあり『当サイトで……情報の正確性は保証しません。……生じたいかなる損害又は利益逸失に対しても、私は責任は負いません。……ご自分で確認をするようにしてください。』と書かれています。このサイトを運営しているのは女性で、間違いを見つけたら連絡くださいとも書いてあります。

 それはおかしいでしょうと、SNS上の写真仲間と話していましたら、それに呼応したようにエレベーター内の液晶パネルに今日はカメラ発明の日とか表示されたり、あげくの果ては、写真業界の中心に存在するカメラやフィルムメーカーまでが3月19日はカメラ発明の日とやりだしたのです。これにはさすがSNSでつながった写真業界に関係する人たちが黙っているわけにいかなくなり、その方面に訂正を入れるよう働きかけると同時に、「今日は何の日~毎日が記念日~というサイト」へ訂正を申し入れてくれたのです。その後、このサイトから3月19日説は削除されましたが、ばらまいた種はまだあちらこちらに残っているのです。その時のやり取りからすると、かなり古い本を引き出し、そこが3月19日としていたというのです。結局このサイトからはカメラの日も消えて、8月19日に変更されてはいないのです。

■写真の日とカメラの日

 さて本題に戻りますが、1839年の8月19日はフランス科学アカデミーでルイ・ジャック・マンデ・ダゲール(Luis Jacques Mande Dauerre)の発明した「ダゲレオタイプ」の公開記念講演が、アラゴー(F.D.Argo)によって行われた日なのです。このダゲレオタイプは、現在は銀板写真とも呼ばれ、当時は“記憶を持った鏡”とも称され注目を集めました。この時印刷されたダゲレオタイプの小冊子は5か月間に29もの異なった版と訳本が欧米が流布されたとされ、如何に写真がこの時代に興味を持って迎えられたかわかります。このダゲレオタイプが公に発表されたのがこの日であり、現在では多くの国で『世界写真の日』と定められ、さまざまなイベントが行われています。

≪左:Louis Jacques Mande Daguerre(1787~1851年)、右:1839年に発売されたジルー商会のダゲレオタイプカメラ。ダゲレオタイプが公開された年にフランスのアルフォンス・ジルー商会からダゲレオタイプカメラが商業的に発売されたので、この年をもって世界で最初のカメラが発売されたとしています≫

≪左:1839年の8月19日にフランス科学アカデミーでLuis Jacques Mande Dauerreの発明した「ダゲレオタイプ」の公開記念講演がF.D.Argoによって行われたときのイラスト。もちろん写真術発明の公開日なので、その時代には写真はないのです。右:2018年に訪れて撮影したフランス科学アカデミー公開記念講演の会議場≫

 1666年に創設されたフランス科学アカデミーはセーヌ川の脇にあるルイXIV世の名の刻まれた建物のなかにあります。イラストと見比べて欲しいが、180年以上たった今日でも、まったく当時のままで今も会議場として使われているところが、ヨーロッパというかフランスらしいところです。

■日本における写真の日

 日本における写真の日は、公益社団法人日本写真協会が日本において上野彦馬が「天保12年にオランダ人から長崎にもたらされ、島津斉彬を写した…」、1907(明治40)年の松木弘安筆の『寺島宗則自伝』に「天保12年上野俊之丞と鹿児島に同行し、6月1日に島津斉彬を撮影…」などから写真の日を6月1日に定め、その後別の史実が明らかになりましたが、6月1日を持って写真の日としているのは日本という範囲でのことであり、そこの部分が明記されているので、特に問題になるとは私は思いません。

8月19日が「World Photography Day」ですが

 私は、あえてこの日を世界写真の日というのを日本でも行いましょうと提起しているわけでなく、やはり怖いのは最初に8を3と誤記、タイプミスしたことから始まり、それがWebに掲載されたとたんに、ネズミ算式に増えていったこと、それを疑わずにコピペした人がどれだけ多かったかということであり、さらには写真企業までがそのような情報を発信しているのは実に嘆かわしいことだと思うわけす。😢