写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

KAKデザイン・秋岡芳夫展とカメラ

 著名なデザイナーの手がけた日本のカメラというと、最近ではポルシェが手がけたコンタックスRTS(1974年)、ジウジアーロの手がけたニコンF3(1980年)などが良く知られています。それ以前の1950年代の日本において、日本のデザイン会社(集団)が手がけたカメラとというと、GKインダストリアルデザイン研究所による35mm一眼レフの「ズノー」(1958年)がよく知られていますが、もうひとつ1953年に立ち上げられた『KAK』(カック)というデザイナー集団がありました。セコニックの露出計、千代田光学精工(ミノルタカメラ)のカメラデザインをはじめ“minolta”のロゴを手がけたほか、ゼンザブロニカD型、浅沼商会「キング現像タンク」など、幅広く写真業界のデザインに関係しているのです。KAK(カック)とは、金子至、秋岡芳夫、河潤之介ら、デザイナー3人のメンバーの頭文字をとって付けられてました。その主要メンバーであった、秋岡芳夫氏の作品、デザイン、イラスト、コレクションなどを取りまとめた『DOMA 秋岡芳夫展 モノへの思想と関係のデザイン』とした展示会が、10月29日(土)から12月25日(日)まで、東京の“目黒区美術館”で開かれています。
 まずはどんな展示だろうと、開館初日に訪れてみました。展示そのものは秋岡芳夫氏のデザイン全般ですが、写真関係ではどのようなものが展示されているか紹介してみましょう。成光電機工業ことセコニックのカラーメーターCT-2、8ミリ映写機セコニック80P、セコニック露出計モデル21、千代田光学精工ことミノルタカメラのオートワイド、ミノルタV2、8ミリ撮影機ミノルタオートズーム、ミノルタズーム8、ゼンザブロニカ工業のゼンザブロニカD型試作機、ゼンザブロニカ市販機、キング現像タンクなどなどがきれいに整理され展示されていました。実はこの展示会が開かれるにあたって、僕は、当時のミノルタカメラでデザインを担当されていた白松正さん、ブロニカでゼンザブロニカを設計された進藤忠男さん目黒区美術館の担当学芸員の方に紹介できたことです。お二人は、当時目黒区にあった秋岡氏の自宅兼KAKデザイン事務所へ出向いて、いまでも道順と仕事場をおぼえていらっしゃるという正に時代の生き証人であります。ま、そんなこともあって展示初日に東京在住の進藤さんとともに出向いたわけです。

 上の写真は、左から、セコニックの露出計、ミノルタのカメラと8ミリ、さらにブロニカD型です。会場にはキング現像タンクを含めてもっとたくさんの各社実物が展示されています。
 会場で販売されている図録を読んでいて興味ある文章を発見しました。装幀家・臼井新太郎さんの“秋岡芳夫とKAKデザイングループ”という一文のなかに、秋岡はKAKの金子と河に工業デザインをやろうと声をかけ『その胸の内にあった思いは海外製品のイミテーションが蔓延する状況を変えるべく、世のため人のために工業デザインをするんだ、というボランティア精神だったと後に秋岡は語っていた』と記しています。またKAKがセコニックとデザイン契約を結んだのは『セコニックのイミテーションデザインがアメリカで問題になり、担当者が産業工芸試験所へ相談に行き、当時の指導部長だった明石一男がメカに強いKAKを紹介したことに始まる…』というのです。
 右上の写真(図録より)は、秋岡芳夫氏とKAKのメンバーが、ミノルタV2を写真で検討しているところです。KAKデザイングループは、セコニックとの成功で、光学機器に強いデザイン事務所という評価を得て、以後、写真関係では、ミノルタカメラ、ゼンザブロニカ、浅沼商会へとデザインした商品を広げていったわけです。
 当時、日本のカメラ技術におけるデザインの位置づけは微妙なところがあり、1958年にはヤシカ44がベビーローライの意匠権を侵害しているとしてローライの米国代理店がヤシカへ訴訟を起こし、1960年にはゼンザブロニカD型に対しスエーデン大使館よりハッセルブラッドへの意匠権侵害のクレームが入り製造を中止とするなど波瀾万丈の時代であったわけです。1962年、日本はカメラ生産の数量、金額とも西ドイツを抜いた時代でもありました。そのような時期の日本のインダストリアルデザインがいかにあったかなど、今日のカメラ王国への飛躍の前に改めて考えてみたいものです。そしてカメラデザインの関係者は、必見の展示会であると訴えたいわけです。なお秋岡芳夫氏は、1956年8月号の月刊「写真工業」にて“カメラデザインの問題”をKAKデザインのメンバーとともに執筆し、1959年8月号の「アサヒカメラ」にて“写真商売うらおもて カメラ・デザイナー座談会”に出席しています。いずれもJCIIライブラリーで閲覧することができます。