写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

4年ぶりに「CP+2023」が開かれました。

 コロナ禍ということもあり、パシフィコ横浜で毎年開催されてきた写真の祭典「CP+」が4年ぶりに2月23日~26日まで開催となりました。前回の会場でのリアル開催は2019年で、2020年は開催直前で中止、2021年はオンライン開催のみ、2022年は会場展示とオンライン展示を予定していたのが、会場での展示は中止となりオンライン展示のみとなりました。したがって、CP+の完全開催は4年ぶりということになりました。

≪CP+2023Webサイトより≫

 CP+の源流ともいえる日本カメラショーの開催は1960年からでしたが、その間完全な中止という状況に追い込まれたことは一度もなく、唯一2014年には大雪と東横線の追突事故などの影響により2月15日(土)の開催のみが中止ということはありましたが、全面的な中止に追い込まれたことはなかったのです。ということでひさしぶりに開かれたCP+を私なりの見方で紹介分析を試みてみました。

≪初日2月23日10時から行われた「わたしの自由区」でのオープニングセレモニー≫ 右から、Salon de la PHOTO代表Baudouin Prove、日本カメラ財団常務理事 田村昌彦、横浜市副市長 大久保智子、一般社団法人カメラ映像器工業会代表理事会長 石塚茂樹、経済産業省大臣官房審議官 恒藤 晃、一般社団法人カメラ映像機器工業会代表理事副会長 杉本繁実、ドイツ写真工業会専務理事 Christain Muller-Riekerの各氏。

■各社ブースより

≪CP+2023各社ブース配置図≫ CIPA資料より

 各社のブース配置を掲載しましたが、ソニーキヤノンが大きなスペースを占めているのがわかります。以下、各社のコマを紹介してみます。

キヤノン

≪開会前のキヤノンブース≫ 開場前の9:20頃に会場に入って驚いたのはキヤノンブース前にはこれだけの社員、スタッフが集合していたことです。ブース面積もそうですが、いかに力を入れていたかがわかります。

≪左:BMXライドステージ、右:VR/MR体験コーナー≫ EOSR8、R50など、出展各社の中で最も新製品の多かったキヤノンは、モトクロスバイクの曲技走行を連写で撮影できたり、メンテコーナー、モデル撮影が可能だったりと展示は多彩ですが、VR(Virtual Reality)やMR(Mixed Reality)など、映像の未来技術に向けた展示も積極的でした。

ソニー

左:GMレンズでしょうか、1段高いステージから白鏡胴レンズの放列。右:モデル撮影も可能で、天井から吊るした布にモデルさんが登りアクロバット的に踊るのもフランスのサロン・ド・ラ・フォト以来のソニーならではの見せ方ですっかり定着したようです。

≪網膜投影カメラキット『DSC-HX99 RNV kit』≫ ソニーのブースでは目立ちませんでしたが一番興味を持ったのがこのカメラキットです。広い会場にあってわずかなスペースでありましたが、5人位スタッフに聞いてもあっちだとか、PRESS証を首からさげていても撮影はだめだとか、取材の許可をインフォメーションでとれとかいわれ、ブチ切れる寸前で近くまで行きつくと、何と広報の女性がマスク姿の私を見て市川さんですよねと先方から声かけてくれたのはまさに女神の登場という感じでした。このRNVキットは、ソニーが主要賛同企業として参加しているベンチャー企業「QDレーザ社」が展開するロービジョン者の“見えづらい”を“見える”に変えるプロジェクト「With My Eyes」の技術と30倍ズームのコンパクトデジタルカメラ『DSC-HX99』を組み合わせたもので、緑内障白内障などで視覚に障害のある人でもカメラのファインダーを通して被写体とファインダー内情報をきれいに見れるというもので、その情報はUSB出力により多くの人で共有でき記録も可能。原理的には直線性の高いレーザー光の性質を利用して、網膜にμWクラスの微弱なレーザー光を直接照射して見やすくしているそうですが、私自身がファインダーをのぞいて見ると、視度を合わせなくてもしっかり見えるというのが注目点で、単なるカメラのファインダーとしての機能にとどまらず、さまざま発展への可能性を感じさせるシステムです。ソニーでは、このシステムの販売を社会貢献事業としてとらえ『DSC-HX99』本体プラス1万円の特別価格109,800円(税込)で、3月24日からソニーショップで1人1台限定で発売していくというのです。

ニコン

ニッコールZ85mmF1.2S、Z26mmF2.8、ニコンZ fcブラックなどがこの時期の新製品でしたが、ブース全体はおとなしい感じです。

ニコンのステージではベテランの阿部秀之さんが自撮りも簡単にできるVlog撮影に適したニコンV30を使って解説。さすが、お話し、撮影テクニックとも素晴らしいです。テーマは「バスに乗り遅れるな!」でした。もちろん異なるテーマでもほかの方がトークしていたのは言うまでもありません。

◐OMデジタルソリューションズ

OMデジタルソリューションズ株式会社として新しいスタートしたのは2021年1月1日でしたから、新会社としての実展示は初ということになります。

この時期の新製品は高倍率拡大マクロ撮影のできる「M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO」ということでしたが、2022年末に「OM SYSTEM OM-1」が唯一の“日本カメラ財団の日本の歴史的カメラ”に選定されたのが大きな励みとなったようです。

パナソニック

パナソニックのこの時期の新製品は、コントラスト検出AFからフルサイズ一眼で初めて位相差検出AFを採用した「ルミックスS5Ⅱx」と ハイエンド・ハイブリッド マイクロフォーサーズ一眼と称したル「ミックスGH6」。正面カウンターにはルミックスS5Ⅱxが並んでいました。

富士フイルム

富士フイルムブースでひときわ目立つのが銀塩感材のインスタックスでありチェキでした。スマホの画像をインスタントフィルムでプリントしようというわけです。そういえば1月の“お正月を~写そう♫”というコマーシャルもスマホで撮影してインスタックスプリントしようでした。キャッチフレーズは、dont' just take,give、撮るだけでなくあげたいから、でした。

デジタルカメラの交換レンズ群を見せるのとは別に、高画質プリントで見るフィルムシミュレーションの世界というのもどのようなプリント法によったのでしょうか、かなり微妙です。㊨モデルさんも左は動画用に踊り、右は静止画用にという感じでした。

タムロン

≪青森のねぶたをブース中央に配置したタムロン青森県に工場をもつタムロンは“ねぶた”を現地の作家に制作を依頼して展示。女性3人のアイディアだそうですが、タイトルは、またぎ「クマを討つ」。その周りを浴衣姿のモデルさんが優雅に歩くという夏祭り気分で、コロナ禍で過去のように中止になる可能性もあるのにリスクを恐れずに展示を準備したのはご立派です。天井に近い提灯は、ソニーEマウント、ニコンZマウント、富士Xマウントなどと書かれていて、ミラーレス用の交換レンズを主体に展示。

コシナ

コシナ単独で大きなブースに、マニュアルフォーカスに特化したユニークな製品群を展開しました。

コシナらしくいずれもマニュアルフォーカス仕様ですが、CPUを内蔵して、㊧キヤノンRFマウントノクトン50mmF1、㊥ニコンF Ai-Sマウントのノクトン55mmF1.2SLⅡs、㊨ノクトン55mmF1.2SLⅡsの電気接点部分。MFでも、サードパーティーキヤノンRFマウントをライセンスされたのはコシナが初。ニコンのFマウントでCPU内蔵の55mmF1.2は電子接点の関係から製造していませんでしたが、コシナが工夫で可能としたというもの。この他、ニコンZマウント用のノクトン50mmF1Asph.、マクロアポランター65mmF2、富士Xマウント用ノクトン35mmF0.9Asph.なども参考展示されました。

◐シグマ

いつものシグマらしくすっきりとしたブース構成ですが、ライカパナソニックとの間のLマウントの協業もしっかりと行っていて、まるで盟主のようです。

シグマは、この時期の新製品としては、50mmF1.4DG DN|Art、60~600mmF4.5-6.3DG DN OS|Sportsなどがありますが、㊧ブースにはシグマレンズをイメージするマルチ映像の部屋が特別に設けられて、㊨参考展示されたZマウント用16mmF1.4、30mmF1.4、56mmF1.4。いずれもコンテンポラリークラスで、DC DNであるのでAPS-C対応となります。フルサイズへの対応が気になるところです。

「シグマのブースでライカの新製品が見られる」というのが開会と同時に関係者の間で話題となりました。出向いてみると、この時期の新製品ライカSL用ズミクロン50mmF2 ASPH.と35mmF2 ASPH.が展示され、ライカ銀座のスタッフから説明を受けることができました。どちらのレンズもMADE IN PORTUGALとなっていましたが、プラスネジの仕上げ形状から察するところ、部品は日本から調達しているのではないかなと思いました。

ケンコー・トキナー

ケンコー・トキナーは扱い品目も多く、フィルターを始め、トキナー交換レンズ、サムヤン交換レンズ、レンズベビーや三脚、バックなどと多彩です。同じブース内には、子会社のケンコープロフェッショナルイメージングがGodoxストロボなどを展示。

ケンコー・トキナーの系列会社であるサイトロンジャパンに展示されている中国のレンズメーカーLAOWA(老蛙)はユニークなレンズを製造することに特化していますが、参考展示された「ラオワ・アーガス28mmF1.2」はフルフレームで、ソニーEF、キヤノンRF、ニコンZ、Lマウントに対応するという仕様です。

◐カメ映像機器工業会(CIPA)企画から

会場のステージでは、CIPA 統計作業部会の太田学部会長により、1979年のフィルムからデジタルまでの長い間のカメラ、交換レンズ、出荷数量、金額、地域別、国別などの細かい分析がなされた。スマホによるコンパクトカメラの数量の減少、レンズ交換式カメラは2022年~23年への出荷見通しは減少傾向にあるが、金額・数量とも相対的には伸びていて、アジアとりわけ中国市場でのミラーレス機の伸びが大きいというのです。また、スマホで写真の楽しみを知った新しい層が、レンズ交換式カメラの購入につながってきているという見方です。

㊧フランスの写真見本市サロン・ド・ラ・フォトのズームスの入賞展示も行われていましたが、内容的には2020年で止まっていました。㊨サークル出展団体コーナーには大学写真部を中心にした15団体が出展していましたが、会期中私が通った3日間の間にいつも説明の学生がいたのは愛知県の中部大学写真部のコーナーでした。ここの展示はスマホ写真、小さいカメラと分けられていて、中にはキヤノンG12で沼津の「リコー通り」を撮影してリコーさん賞をくださいとは微笑ましいです。また、私のカメラに着いていたフォクトレンダーのミニファインダーを見ると、これは何ですか?と聞いてくるほど、マニアックな部分も持ち合わせていました。

■これからに向けて

 無事すべての会期を終えてみると、さまざまな問題点が浮き上がってきました。それは、会場に出向いた人が最盛期2019年の半数近くになったことです。これは、過去コロナ禍ということで中止になったことも事実でしょうが、参加企業、ユーザーとも会場展示への意欲をなくしてしまったのか、それだけの企業体力がなくなったのでしょうか。近年の写真業界の流れを見ると、歴史あるアメリカの写真業界団体のPMAショーがCESに吸収され、1950年から続いた世界的な写真トレードショーであるドイツのフォトキナが終了し、写真関係のメディアとして長く続いてきたカメラ雑誌、アサヒカメラ、日本カメラ、月刊カメラマンの休刊、さらには多くの写真の業界紙が休刊に追い込まれるなど、世界的にも写真業界の変化は確実に起きているのです。

 唯一救われるのは、コロナ禍ということで苦慮の策だったのでしょうが、オンラインによるWeb配信でCP+のセミナーや講演が日本中だけでなく、世界中でも見れることを視野に入れた新しいイベント展示の形が見えてきたことです。さらには期間限定であっても、後日YouTubeによるアーカイブ配信も行われるようになりました。つまり、会場内で行われていたセミナーやイベントを後日時間をずらして見ることができるようになったのです。時代的には当然のイベント開催形態かもしれませんが、コロナ禍以降に新製品発表会を毎回Webで世界同時に行うようになった企業もあるのです。

 なお、会場では日本写真映像用品工業会恒例の写真用品カタログが無料配布されていましたが、用品工業会自体が協賛団体から協力団体へとなり、用品カタログも往時のような厚みはありません。このようなことは写真と同じで、一部に電子データ、Webデータさえあればそれでよいという考えもありますが、電子情報の検索・転送能力には目を見張るものがありますが、長い時間で見るとやはりプリントや印刷物に残してこそ、未来につながるということになると私は考えるのです。参考までに、以下に写真用品年鑑配布の写真と、CIPA発表の入場者数を表にまとめてみました。

 私が関係する日本カメラ博物館は、今回は古いカメラの展示コーナーはできませんでした。また過去にはCP+の会場で有料セミナーや展示を行っていた写真と名が付いた学会が、オープニングの日にまったく別な場所で写真イベントを行うというようなこともありました。個人的にはどちらも行きたかったですが、過去の流れからして私はCP+のオープニングは外せませんでした。やはり写真という名のもとに、大きく何かが変化しているのでしょうか、残念なことです。

 例年は職務ということを別にして、全期間を通して会場にいました。しかし今回は展示場所がなくなったためでしょうか、過去に写真業界で知り合った方々やカメラ愛好の仲間との語り合いの場であったり、学生時代の仲間や後輩と再会する場であったり、一時期大学の非常勤講師を勤めたときの教え子が訪ねてきたりという場であったのが、極端にその出会いが少なくなった気がします。いつもなら閉会の蛍の光が流れるころにはいつの間にか写真同好の士が集まってきて、そのまま横浜の町に散っていくというのも自然発生的に生まれたパターンでした。そのような日がいつかはまた戻ってきて欲しいと願いつつCP+2023のまとめとします。 (^_-)-☆