写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

一眼レフでHD動画がフィバー

最近ショックだったことがあります。海外からのドキュメンタリー映画の取材を受けたのですが、撮影機材を見せてもらってびっくりしたのは、カメラが何と「キヤノンEOS7D」だったのです。デジタル一眼レフフルHDの動画が撮影できることは百も承知でしたが、“とうとうそこまできていたのか!”というのが偽らざる気持ちです。動画用の三脚、音録りのための装置、マニュアルフォーカスレンズ用の微動装置、背面液晶を明るいところで見るためのフード、などなど明らかに映画撮影の道具立てですが(照明機材はデジタルカメラの感度が高いため不要のようです)、カメラがわれわれに親しみのあるデジタル一眼レフだったのです。
スチル写真を撮って楽しむ僕らには、動画機能はほとんど無縁のものだったのですが、“動画を撮る人たちにとっては、デジタル一眼の動画機能はいまや必要不可欠な時代”になっていたのですね。早速、映画やビデオ関係の雑誌を見てみると、デジタルカメラでの動画撮影レポートが満載で、そのための特集号までいくつか出ていました。

そして思い出したのは、いまから3年ほど前だったでしょうか、ビデオ関係の人におもしろい機械を見せてもらったことです。35mm一眼レフ用のニコンのレンズを取り付けて、砂目のガラススクリーンに画像を映し出す装置で、その後ろにビデオカメラを装置して、記録するというのです。その装置でもっとも感心したのは、ガラススクリーンを細かに振動させているのでした。もちろんピントの問題があるから、前後でなく、上下もしくは左右だったのでしょうが、こうすることにより砂目スクリーンの模様が写らないというのです。なるほどなー、と感心したのですが、装置はなんという名前か聞きませんでしたが、価格は20〜30万円ぐらいしたような記憶があります。それから1年ぐらいたってから、今度は、立派なケースに入ったさらに本格的な同じような装置が、コシナ/カール・ツァイスの交換レンズ何本かでセットになっていたのです。価格は軽く100万円は超えていたと思います。では、どうしてそんな装置が開発されたのかということになりますが、簡単にいえば、ライカ判24×36mmという大きな画面での描写が欲しいからだそうです。一般的にはビデオカメラの撮像板サイズは業務用で1/3型(4.8×3.6mm)、 1/2型(6.4×4.8mm)、2/3型(8.8×6.6mm)程度、放送用でもほとんどは2/3型というあたりで、それに見合う画角のレンズの焦点距離は当然のこととして短く、それだけ焦点深度が深く、ボケ描写を活かした撮影は難しく、前記のような特殊装置がわざわざ開発されたというわけです。

それはそれで、記憶は彼方へというわけだったのですが、本格的なハイビジョン(HD)動画機能を搭載したカメラとして2008年にAPS-C判の「ニコンD90」が最初に、その後キヤノンが2008年のフルサイズ「EOS5D MarkII」でフルHD(1920×1080ピクセル)に対応させ、2009年にはAPS-C判の「EOS7D」、さらには普及機の「EOS KissDigital X3」、APS-H判「EOS-1D MarkIV」をフルHD対応としてしまいました。また、2009年4月発売のマイクロフォーサーズ規格のパナソニックルミックスGH-1」もフルHD対応としたことにより、一気にスチルカメラでの動画撮影が業務用途機材として注目を浴びることになったわけです。
上の写真は、PMAのパナソニックブースでGH-1のHD動画機能を104インチのプラズマディスプレーで見せていたときの機材紹介の一部ですが、頭でっかちの大きなレンズが付き、スチル関係の人にはさっぱりわからない機材構成ですが、PLマウント(アリフレックス16mm/35mm映画用カメラ向けのレンズマウント)レンズをアダプターを介してGH-1に取り付けるというわけで、すっかりプロの機材になってるところがすごいです。そしてCマウント→マイクロフォーサーズマウントアダプターなどで遊んでいるのは、どうやらスチル関係の人だけでなく、動画関係の人も多いようです。とはいっても、現状ではマニュアルフォーカスの単焦点レンズが多く使われているようです。AFや超音波モーターのフォーカシングでは、いまひとつピンとこないのがいかにも映画人らしくておもしろいです。ドキュメンタリーやコマーシャル系の人たちがかなりデジタル一眼レフで動画撮影に入っているのは現実のようです。
そしてこの時期パナソニックから「マイクロフォーサーズカメラレコーダー」というフォーサーズ規格CMOS使用の動画専用機も発表されていますが、去る5月11にソニーが発表し、6月に発売開始の『NEX-5』『NEX-3』は、APS-C一眼レフカメラと同等の高画質写真とフルHD動画を撮影できるレンズ交換式デジタルカメラというわけですが、こちらも明らかに動画含みのレンズ交換式ミラーレスというわけで、マウントアダプターは絞りに対応し三脚座が取り付けられるなど、かなり凝っているのです。それにしても、ソニーαのニューコンセプト機として2月のPMAと3月のCP+で見せていた、モックアップモデルと実際の製品とのギャップ、発売は秋から年末とされていたのが、6月のボーナス商戦に殴り込むというのは、ソニーさんもやりますね。
まず、ミラーレス静止画はAPS-Cマイクロフォーサーズか、動画はフルサイズかAPS-Cか、それともマイクロフォサーズか、さらに早々と“動画の世界では一眼レフかミラーレスか”との論争になるのだろうかと高見の見物です。