写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

コシナ・フォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical VMを使ってみました

 フォクトレンダーコシナが、研削非球面レンズを採用した『ノクトン50mmF1 Aspherical VM』を1月に発売しました。このレンズの最大の特徴は、F1と大口径なことですが、非球面レンズの加工に研削方式を採用したことで高融点で高屈折な硝材が使えたことです。この研削非球面レンズを採用することにより、高度な収差補正が可能となり、レンズ構成も単純化でき大口径ながら小型化できるというのです。

 現在、非球面レンズの加工法は、①成型によるモールド法、②複合非球面、③研削法とあるわけで、モールド法の素材はガラスとプラスチックがあり、いずれも素材としては低融点であることが望まれます。複合非球面はガラスと樹脂の組み合わせで、樹脂を硬化させるのに熱と紫外線照射による方法がありますが、経時による問題があるとされています。研削非球面は1枚ずつの研磨によるために生産効率は低く、製品コストも高くなるとされています。他社の最新交換レンズでの研削非球面の採用を見ると、キヤノンでは「RF50mm F1.2 L USM」、「RF85mm F1.2 L USM」、ニコンでは「ニッコールZ 58mm F0.95 S Noct」などがあり、いずれも大口径で標準、準望遠域に採用されていて、高価でありますが、その中でも同じ標準域のキヤノンが約30万円、ニッコールの約110万円に対してノクトンの約22万円は安価だといえるのでしょう。

 さて、いろいろと講釈を述べるのはここまでにして、いわゆる大口径レンズの描写はどうなのだろうかと改めて考えてみようと、2010年に発売された「ノクトン50mmF1.1」と比較しながらいつもと同じように使っていたのですが、ノクトン50mmF1を使い始めたら、ライカカメラ社が新型の「M11」を発売したのです。そもそも『コシナフォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical VM』は、コシナの『VMマウント』とは、ライカMマウントと同等なため、新型ライカがでたら当然最新モデルでどうだろうかと考えるわけでして、さっそく試してみました。

■デジタル時代の大口径レンズ

 大口径レンズはフィルムカメラの時代は、感度でカバーできない部分をレンズの明るさでかせごうという、暗所用のハイスピードレンズだったのです。ところがデジタルといえば超高感度も自在でISO数万という機種も数多くあり、ここで使用する最新のライカM11ではISO50000の設定が可能ですから、いまさら大口径である必要はないのです。ところが、デジタルの時代になっても、ライカ用に、さらにはミラーレス一眼用に大口径レンズが各社から発売されています。これは、デジタルになって高速シャッターが切れるようになったことで、大口径ならではの深度の浅い画像が撮影できることがメリットだと思うのですが、大きさ・重さもそれぞれであり、価格もピンキリで100万円を超えるものから10万円を切るものまでとバリエーションも豊富です。

 コシナフォクトレンダーは、もともと大口径レンズの実績が多く、最近はM4/3規格に、やはり研削非球面レンズを使った「スーパーノクトン29mmF0.8アスフェリカル」を2020年11月に発売するなど大口径レンズに意欲的です。今回は、旧タイプの50mmF1.1(2009年)も横において、使ってみました。

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≪左:ライカM11にフォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical 、右:ライカM9フォクトレンダーノクトン50mmF1.1を装着≫ どちらも専用フードを付けてあります。F1は、バヨネット式で取り外して裏返して収納可能。F1.1はスクリュー式で裏返すことはできません。フィルター径は、F1が62mmφ、F1.1が58mmφです。

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≪左:オリジナルノクトン50mmF1.5、中:ノクトン50mmF1、右:ノクトン50mmF1.1≫ 参考までに置いたオリジナルノクトンは1950年に発売されたフォクトレンダープロミネント用です。

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コシナフォクトレンダー50mmF1と50mmF1.1底面比較≫ F0.1明るいと口径は当然のこととして大きくなります。F1.1のレンズ先端からマウント基準面まで57mm、F1は54mmで口径は大きくても全長は短くなっています。これは写真を見れば、後玉が飛び出していることから納得できます。左にはF1のレンズ構成図を載せました。最後玉と最前玉には非球面レンズが使われていて、前部の非球面は研削非球面レンズだというわけです。このような、レンズ構成図の配置は本来ならあってはならないのですが、実写真との比較でこのように置いてみました。

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≪それそれの絞りの形を見てみました≫ 左から、オリジナルノクトン、50mmF1.1、50mmF1です。いずれもF5.6に設定してますが、F1はかなりの円形絞りであることがわかります。

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≪ライカMマウントはユニバーサルマウント≫ イカMマウントはミラーレス機の登場で、一気にユニバーサルマウントとしての価値を高めました。これはマウントアダプターを介することにより単に古いライカレンズが使えるということでなく、各社のボディでさまざまなレンズを楽しめるのです。このミラーレス一眼用のマウントアダプターとしては2008年に発売されたパナソニックの「ルミックスG1」では、ライカMとライカRマウント用の変換アダプターが純正のアクセサリーとして発売されたのですから、ミラーレス機にライカレンズを使うというのは、正しい使い方であたりまえのことなのです。写真の左側は、ソニーα7RⅣにAFを可能とするTECHARTのマウントアダプターを付けてノクトン50mmF1を、右はTTArtisanのマウントアダプターを介してニコンZ7にノクトン50mmF1.1を取り付けました。このようなマウントアダプターは各種ミラーレス機用に販売されているわけですから、「ライカMマウントはユニバーサルマウント」というわけです。

 ところで、レンズ構成図を載せた部分の写真を見てお分かりのように新50mmF1の後部は旧50mmF1.1に比べてバックフォーカスが短いのです。これはライカMマウント用レンズだけど、明らかにミラーレス一眼を考慮した設計だと考えました。2020年にコシナソニーEマウントのアポ・ランター50mmF2を発売し、その後Mマウントのアポ・ランター50mmF2を発売しましたが、それぞれのレンズが各マウントに適切化された設計がなされたというのです。実際Mマウントのアポランター50mmF2をソニーα7RⅣに付けて比較すると周辺がかなり流れたのです。これはバックフォーカスとフランジバックの関係から、ミラーレス用に開発されたレンズをライカMマウント用に転用するにはそれなりの修正設計を必要としたということで、ソニー用の光学系とライカM用の光学系がそれぞれ設計されたと考えるのです。新50mmF1では、最初からミラーレス一眼用にも流用できるように設計して、バックフォーカスを短くして、ライカM用のレンズを設計したと私は考えるのです。

 すでにコシナニコンからZマウントのライセンスを受けて、APS-C、フルサイズの交換レンズの発売を予告していますが、ニコンZマウントの『ノクトン50mmF1 Aspherical 』がでてくるかも知れませんというわけです。特に『ニッコールZ58mm F0.95 S ノクト』は、マニュアルフォーカスなので大口径レンズとしてスペック的には近似しているので発売されれば注目を浴びるでしょう。

■さまざまな場所でさまざまなカメラで撮影してみました

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≪いつもの英国大使館:ライカM11≫ 晴天、午前10時、絞りF5.6、中央屋根下のエンブレムにピントを合わせるを決まりにして定点観測的に撮影してます。F5.6・1/527秒、ISO-AUTO 64、AWB、三脚使用。正確なピント合わせを行いたいことから当初は「フォクトレンダーVM-Eクローズフォーカスアダプター」を介して同じ6000万画素のソニーα7RⅣで撮影していましたが、途中からライカM11がきましたので、コントラストや色づくりの違いはあるものの、エンブレム部分を拡大すると解像、階調などに大きな違いはありません。したがって、エンブレムの画素等倍画像は省略しました。

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≪ガスミュージアムライカM9 ライカM9:F5.6・1/2000秒、ISO-AUTO 160、-0.7EV、AWB、三脚使用。ライカの色づくりは少なくともCCDのM9とCMOSのM11でも似ているのです。そこでソニーα7RⅣと同じ被写体を撮影して比べてみました。後で気づきましたが、マイナス補正がかかっていました。(小平にて)

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≪ガスミュージアムソニーα7RⅣ≫ ソニーα7RⅣ:F5.6・1/1250秒、ISO-AUTO 100、AWB、三脚使用。ソニーのα7Rは、1型ではかなりマゼンタ系が強い発色でしたが、2型からこのような発色になりました。どちらが良いかとか言うことではなく、露出レベルや好みによっても変わります。レンズ的に見ますと、これもまた難しく、露出レベル、画像を展開するソフトウェアやモニターによっても変わりますので、この画面からはα7RⅣの左右端の青空の部分に周辺減光をわずかに感じます。そこで、M9のトーンカーブをいじり空を同じような明るさにするとソニーα7RⅣの減光に似たようになり、M11で同じF5.6で撮影した英国大使館の空もま似たような描写ですからレンズに依存すると考えて問題ないでしょう。解像度的には1850万画素のM9と6000万画素のM11では当然違います。

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≪降雪の武甲山三菱マテリアル:ライカM11 F5.6・1/320秒、ISO-AUTO 80、AWB、手持ち撮影。無限遠の景色ですから、ヘリコイドを∞位置にセットして距離計の二重像合致もぴったりでした。最近は、距離計連動機の場合には自分でピント位置調整をする中国製のライカMマウント大口径レンズを見受けますが、このあたりはさすがコシナです。画質的には、左右640ピクセルではわかりにくいですが、石灰岩採掘のために削られていく作業用の横筋が良くわかり、手前の三菱マテリアルの工場も細かく描写されています。(秩父にて)

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≪水鏡: ニコンZ7≫ F1・1/8000秒、ISO-AUTO 80、AWB、手持ち撮影。池の端に生える冬枯れた葦の茎にピントを合わせました。水面に写る葦と背後の木々の枝も微妙ですが、撮影距離からすると背後の木々の枝が大きくボケているのがF1という大口径ならではの描写です。拡大すると葦の茎は細かく解像してます。このように天気の良い場所でも開放のF1で撮れるようになったのはフィルムカメラ時代のライカでは考えられないことでした。ニコンZ7でのEVFによるピント合わせは、拡大しないでも確認できるほど見やすいでした。(東村山北山公園にて)

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≪葦: ニコンZ7≫ F1・1/8000秒、ISO-AUTO 64、AWB、手持ち撮影。葦の枯れた穂の部分を1ポイントねらってみました。計算によると許容錯乱円を0.026mmとすると撮影距離1mで前後の合成被写界深度は19.8mmとなりますが、それだけピントの合う範囲が狭いということになります。(北山公園にて)

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≪木造3階建の鰻屋さん:ソニーα7RⅣ(AF)≫ F1・1/4000秒、ISO-AUTO 100。創業が1807年という老舗のお店の前にはいつもお客さんが待っているので、人物を避けて木造建築の2階と3階を撮影。TECHARTのマウントアダプターを付けてのAF撮影だからすこぶる快適でした。(川越にて)

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≪柳沢保正さん:ライカM11≫ F1・1/320秒、ISO-AUTO 250、AWB、手持ち撮影。写真家・種清豊さんのベルリンの写真展でお会いした、デジカメスナップショットの名手柳沢さんをパチリ。横640ピクセルではわかりませんが、この手の高度に収差補正された大口径レンズでは前後に位置する細かい線などでは色収差が発生することがたまにあるので要注意です。(銀座キヤノンギャラリーにて)

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≪アンティークな椅子:ライカM9 F1・1/360秒、ISO-AUTO 160、-0.7EV、AWB。ノクトン50mmF1は、絞り開放でも解像度が高いですが、おおむね大口径レンズは光沢感のある部分の方がシャープに見えます。時を経た木部の光沢に対し、赤いビロード地の立毛の部分が大口径ならではの柔らかなボケと相まってそのコントラストが良い感じです。(ガスミュージアムにて)

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≪アンティークなガスストーブ:ライカM9 F1・1/360秒、ISO-AUTO 160、-0.7EV、AWB。椅子の近くにあったガスストーブだが、なぜか露出は同じでした。鉄製の黒光りする上部は、反射もあり立体感ある描写となっています。(ガスミュージアムにて)

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≪ダイヤモンドホテルの紋章:ソニーα7RⅣ≫ F1・1/640秒、ISO-AUTO 100。あえて光沢感のある金属の紋章と柵を正面から狙い、絞り開放で背後のボケを見てみました。ボケ具合はムラなく均等な感じが好印象を持ちました。(千代田区にて)

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≪お参りの麻縄:ソニーα7RⅣ(AF)≫ F1・1/8000秒、ISO-AUTO 100。F1開放でどれだけのシャープさをもつか試してみましたが、あまり現実的なシーンではありません。これならば、望遠系のレンズを使い麻縄の房をしっかりと描写させ、背後のボケを得たほうが良いわけですが、50mmF1レンズの1本勝負としては、本来ならF2程度に絞る方が良いのでしょう。何でもかんでも絞り開放で撮ろうとした弊害ですね (^_-)-☆。(川越にて)

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≪布袋様:ソニーα7RⅣ(AF)≫ F1・1/500秒、ISO-AUTO 100。瞳AFが作動しましたのでシャッターを切りました。一般的に布袋様は玄関に置くのですが、お金を胸に貼付けて商店の入り口に置いてありますので、お金が、入ってくるようにとのことでしょうね。いつも撮ってしまいます。(川越にて)

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≪ほうずきの実:ライカM11≫ F1・1/1500秒、-1.7EV、ISO-AUTO 64、AWB、手持ち撮影。夕暮れの新宿を歩いていたら、ほうずきの実が風に飛ばされて階段の脇でころころと動き回っていましたので、拾い上げて西日の当たるツツジの植栽の上に置いて撮影してみました。-1.7の露出補正をかけていい感じに仕上がりました。拡大するとほうずきの質感が良い感じで描出されています。近接時の深度の浅さと前側後ろ側のボケ具合がわかります。(新宿高層ビル街にて)

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≪LEDイルミネーション:ソニーα7RⅣ≫ F1・1/30秒、ISO-AUTO 200。このカットをすばらしいと思うかどうかは好みの問題ですが、昨今の傾向としては、さまざまな形のボケ具合を楽しむ傾向が強いのです。この場面ではピントを外した部分ではコマ収差が満開といったところで、大きく伸ばすと中心から周辺に拡散していくその変化を楽しめます。これは標準大口径レンズならではの妙味であって、私の実写経験からしても100万円を超えるものでも発生するのです。(恵比寿ガーデンプレイスにて)

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≪口径食を見てみました:ソニーα7RⅣ≫ F1・1/200秒、ISO-AUTO 100。特に暴れているわけではなく、中央の真円から左右・対角方向にレモン形に移行していくのもこの種のレンズのつねです。(新宿にて)

■ノクトン50mmF1 Aspherical を3種のボディで比較検討した結果は

 大雑把に言ってしまうとこの種の大口径レンズは、絞り開放ではふわっとした描写で、絞ると普通のレンズになるというのと、絞り開放からピシッとした写真が撮れるレンズに2分されると思うのです。その点においては『コシナフォクトレンダーノクトン50mmF1 Aspherical VM』は後者のレンズに属するといえるでしょう。今回の撮影は一部を除き、ほとんどが絞り開放F1で撮影しました。本来の撮影では被写体によってはある程度絞り込んでもいいのですが、作例ではひたすら絞り開放で通しました。

 今回のレポートでは、写真仲間のTさんからタイミングよく「ライカM11」が持ち込まれたことにより、ライカMマウントはユニバーサルマウントとして考えてよいのかということをチェックポイントに加えたために、ボディをライカM11、ライカM9ソニーα7RⅣ、ニコンZ7の4機種を結果として使用しました。これは、同じ6000万画素の裏面照射型CMOSで、ノクトン50mmF1 を使ったときにソニーα7RⅣとは相違はあるのかということと、バックフォーカスが短くなったことからミラーレス機として画素数はわずかに少ないですがニコンZ7を加えてどちらが描写特性がいいのかということも調べました。このためには、被写体を同一にして複数のボディとレンズの組み合わせでチェックしましたが、各機種のコンディションなどがあり、明確には断定できませんがノクトン50mmF1はミラーレス機を視野に入れて設計されたのではとの結論に至りました。

 これは交換レンズメーカーとしては当然のことで、フルサイズのマウント径としては各社マウント径の中で最も寸法の小さいライカM(43.9mm)に合わせながらも、ミラーレス機の特性に近づけて光学系全体を撮像面側に約3mm寄せたと考えました。

 最近、ミラーレス機は各社ともフラッグシップ機は高価で機能も上がり、私が性能を検討するにはそろそろ限界かなと思っていた時に、写真仲間のMさんから「ノクトン50mmF1」が持ち込まれ、さらにそのテスト中にTさんから「ライカM11」が持ち込まれて、すべて実写はやり直したのです。それでもどちらも発売されたばかりの機材を長期にわたり貸し与えてくれたわけですから感謝の気持ちでいっぱいです。(^_-)-☆

 

以下の京都MJのページで、同じ記事の作例写真を画素等倍にして見られます。

http://www.mediajoy.com/mjc/ichikawa_test/ichikawa_part53_1.html

ライカM11を使ってみました ver.2 Final

「ライカM11」の記事は、京都MJのサーバーに移行して、作例写真を画素等倍にして見えるようにしています。

http://www.mediajoy.com/mjc/ichikawa/ichikawa_part52_1.html

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 2022年1月14日に発表されたライカM11は、6000万画素と高画素機で、価格は118万8千円。1月21日に発売されました。デジタルのレンジファインダーイカは、2006年発売の①ライカM8(CCD、APS-H、1030万画素)からで、②M9(CCD、フルサイズ、1850万画素)、③M(Typ240、CMOS、フルサイズ、2400万画素)、④M10(CMOS、フルサイズ、2400万画素)、④'M10-RCMOS、フルサイズ、4000万画素)、⑤M11(CMOS、フルサイズ、6000万画素)で5代目となり、フルサイズ化、CMOS化、高画素化などとスペックアップさせてきましたが、M11ではどのような変化を見せたのでしょう。M11の特徴は、64GBのメモリーを内蔵、ブラックボディはトップカバーをアルミニュームとしたことにより、M10より20%軽く、フィルムカメラのM6ぐらいの重量であるなどがあげられています。ライカカメラ社自身がミラーレス機を発売しているなかで、レンジファインダー式のカメラとして、最新のミラーレス機とどのように折り合いをつけたのかなど、大変興味がわく部分です。そんな視点をもって、ライカM11をレポートしてみました。

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≪外箱と内部梱包材≫ 外箱はかつてのような引き出しのついた箱から普通になりました。中の緩衝梱包材は黒いウレタンはスポンジが使われていますが、これは現在の日本のカメラが段ボールなどで構成しているのに対して最も異なる部分です。右上の白い紙にはiPhoneiPadの製品に関しての動作の注意書きです。

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≪取扱説明書≫ 中央:箱に同梱されていたのはクイックスタートガイドだけでした。左:ダウンロードして自分で出力したPDF版、右:請求したら航空便で送ってきた取扱説明書。発売までに間に合わなかったのでしょうか?。ドイツからきたのが見やすくわかりやすかったです。解説文は日本語ですが、挿絵の部分はすべて英語です。

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≪ライカM11と6ビットコード付きの35mm、50mm交換レンズ≫ 今回ここで使うレンズは、ライカM11の機能を十分に引き出すためにクラシックや他社製品でなく、あえて6ビットコード付きのズマリット50mmF2.4とズマリット35mmF2.5を用意しました。もちろんクラシックのお気に入りや、サードパーティー製のレンズも使ってみます。

■ライカM11の各部

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≪操作する感じでボディを斜め上から見ると≫ 左から、①ISO感度ダイヤル(ISO64・200・400・800・1600・3200・6400とマニュアルMでISO64~50000、オートAのポジションが刻まれています。写真はオート(A)にセット。設定はダイヤルを持ち上げて行えます、②ホットシュー右脇はシャッター速度ダイヤルで、絞り優先オートの(A)ポジションにセットしてあります。シンクロ同調は1/180秒。その右は③電源スイッチとシャッターボタン(写真はOFFの状態)。右上④はファンクションボタン(初期設定では押し込むことによりライブビューの時に拡大表示される)、右肩⑤サムホイール(再生画面の表示を操作できます)、ボケていますが、背面右⑥センターボタンとセレクターボタン

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≪バッテリーと記録メディアのセット≫ 底蓋は、フィルムカメラ時代からの取り外し式ではなくなり、左写真の白いレバーを回転させるとバッテリーがポンと飛び出しますが、このままでは取り出せないのです。もう1段軽く押すと取り外しできるセーフティー機構となっていますが、1度わかれば簡単ですが、知らないとからくり箱のようで苦戦します。右写真はバッテリーを取り外した状態ですが、バッテリーの頭部がボディ底面の構成パーツになっているのは新しい発想です。この部分にマークシールでも貼れば複数のバッテリーの使い分けも便利かもしれません。SDカードは、バッテリーを取り外した状態での押し込みで出し入れできます。なお、M11には64Gの内蔵メモリーが搭載されていて、SDカードと内蔵メモリーを設定により、DNGとJPEGを分けて保存したり、DNGとJPEGを内蔵メモリー優先保存に、SDカード優先保存、DNGとJPEGをSDと内蔵メモリーにバックアップなどと好みに応じて選択保存できるように設定できます。今回の撮影では、JPEGですべて保存をSDカードに行いました。

 

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≪バッテリーの充電≫ 左は、純正の電源変圧器。入力:AC100~240V、出力:5Vと各社のカメラ用充電器、スマホ用充電器と大きく変わることはない規格で、「USBタイプA⇒タイプCコード」で専用のバッテリー充電器(バッテリースタンド)にセットして充電を行います。この純正の充電器を介した状態で、タイプC側コネクターをボディに直接つないでも充電は行えます。右の写真は、試しにサードパーティー「GREEN HOUSE」の携帯バッテリーと100円ショップで買った“タイプA⇒タイプC”コードを介してボディ内バッテリーへ充電してみましたが問題なく行えました。したがって市販のスマホ用充電器や車からの電源からもチャージはできるわけです。必要以上に長く、太いコードより、短い“タイプA⇒タイプC”コードの方が取り回しはいいです。なお、右の写真でグリーンに点滅してる部分は「ボトムランプ」と呼ばれ、充電中やメモリーアクセス中に作動します。

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≪メニュー画面≫ ボディ背面左下の“MENU”ボタンを押してみました。見れば大体わかる感じですが、これにタッチパネル、セレクターボタン、センターボタン、サムホイールなどを操作して設定します。左の“LV”に打ち消し線が入っていますが、ライブビューを使わないモードにセットしています。その右“横長の□”は1コマ撮りですが、3コマ/秒の低速連写・4.5コマ/秒の高速連写を選べます。上半身マークはユーザープロファイル、“24/50”は50mmF2.4レンズが付いていることを表示してます。6ビットコード付きでないレンズを装着した場合には、“Uncoaded”とこの部分に表示されます。各機能は、マニュアルセットもできます。下列左はJPGをセット、その右はJPG+DGN、さらにその右はL・M・Sとファイルサイズを選択できます。その右はメモリーのフォーマット、一番右はメインメニューのリストです。この背面液晶は、指先のタッチによりスクロール、拡大・縮小などもできます。

 随分と前置きが長くなってしまいました。本当はまだまだ書かなくてはいけないのですが、以下さまざまな条件で撮影していくなかで各種技術を紹介していくことにします。

■クラシックから最新まで、各種交換レンズを使ってみました

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≪今回の撮影に使ったレンズ≫ 上 左から、ズミクロン35mmF2第世代(お気に入りだから)、ズマリット35mmF2.5(6ビットコード付きだから)、ズマリット50mmF2.4(6ビットコード付きだから)、フォクトレンダー・ノクトン50mmF1(最新2022年1月発売で大口径だから)、下左から、スーパーアンギュロン21mmF4(撮影可能かを見るために)、キヤノン25mmF3.5(周辺光量の減少具合を見るために)、ヘクトール135mmF4.5(距離計連動の限界焦点距離の感じをつかむため)。ここに用意したレンズは、ライカM11の特徴を見るために用意したものであり、これが所有のライカマウントレンズのすべてではありません。(^_-)-☆

■いつもの英国大使館の正面玄関を撮影

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≪ズマリットM35mmF2.5≫ F5.6・1/400秒、ISO-AUTO 64、AWB。ピント合わせはライブビューと拡大で行いました。画素等倍まで拡大した画像は載せませんが、わずかにほかのレンズより解像度が低い感じがしますが、これはピント合わせが甘かったのかもしれません。ただズマリットM35mmF2.5の描写は柔らかな描写とボケ味が特長なので、そのあたりとの兼ね合いであり、ふだん使っている限りはまったく不足は感じませんし、むしろ好みの描写特性です。現行品にはこのほかに、ズミクロンM35mmF2 ASPH.、APOズミクロン35mmF2 ASPH.もあるので、価格に合わせて描写の異なるのも納得いきます。

 いままでライカのレンズの設定絞り値はメモしておかなくてはなりませんでしたが、6ビットコード付きのレンズの場合には「算出された大まかな絞り値をExifファイルに記録する」ということでしたので、Exifデータを読むとF5.6とでてきました。この設定絞りのF値は、撮影データを何で展開するかによって異なり、Exifデータを読めてもF値を表示できないソフトもあるので注意が必要です。ちなみにズマリット50mmF2.4で同じ場面を同じ絞り設定で撮影してみましたがF5.6とExifデータは記録されました。手元にあったM9では設定より半段ほど違う値がでましたが、撮影条件の違いか、ボディの違いによるのかは判りませんが、「算出された大まかな絞り値をExifファイルに記録する」ということなので理解しました。この設定絞り数値の表示はないよりはあった方が絶対いいわけで、私のように絞り値変化の描写を楽しむ者にとっては便利です。“ライカというと使用レンズはオールドレンズ”という思い入れが強く、6ビットコード付きレンズは焦点距離Exifへの書き込み、広角では周辺光量の補正というレベルの認識でありましたが、反省です。

■M11のCMOSセンサー

 ライカM11の特徴に撮像素子であるCMOSが基準感度ISO64であることがあげられています。ライカの場合には大口径レンズを開放絞りで使うことも多く、ISO感度が低く設定できることは、最高シャッター速度にもよりますが高輝度撮影環境下でも絞り開放での撮影が可能となります。また、RAWデータであるDNGの解像度が、60Mピクセル、36Mピクセル、18Mピクセルと選択できるのにどの解像度でもすべてのピクセルを使うトリプルレゾリューションテクノロジーという技術を使い、高いディテールの再現と幅広い感度を実現したというのです。

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≪トリプルレゾリューションテクノロジーとは≫ 左はライカカメラ社のカタログからの転載ですが、60Mピクセル(9504x6320)、36Mピクセル(7392x4896)、18Mピクセル(5248x3472)それぞれが、単純に画素が間引かれるのでなく、複数画素を組み合わせを変えて低解像度としているので、1ピクセル当たりの面積が広くなるので階調再現が良くなり高感度が可能になるというのです。右の写真は、ライカMマウントの高解像度レンズをF2.8にして60Mピクセルと18Mピクセルで撮影した画面中央付近の描写を画素等倍近くに拡大したときの描写ですが、この撮影ではその差を見出すことはできませんでした。その差が著しくでるようだと逆に問題なのかもしれません。なお、撮像素子の前面には極薄のガラスを2層に重ねたUV/IRカットフィルターが配置されていて、薄いことにより急な角度で入射する光線も効果的に取り込むことができるとされています。

■M11は撮像面測光

 ライカがデジタルになって歴史的な一部広角レンズではTTL測光ができなく、私の場合にはスーパーアンギュロン21mmF4が使えなく、すっかりその存在を忘れていましたが、M11ではどうだろうかということが一部で盛り上がっていましたが、レンズ後部やガードがシャッター幕に物理的に接触するようなことがなければ、原理的に考えるとM11は撮像面測光なので問題なく撮影できるだろうと考え試してみました。

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≪M11とSUPER-ANGULON 21mmF4≫ F5.6・1/320秒、ISO-AUTO 80。巻頭の英国大使館の撮影を行ったときにスーパー・アンギュロン21mmF4でも撮影してみました。ご覧のとおり写ります。周辺光量の低下は裏面照射型CMOSセンサーなのでまずまずですが、これが一時代前の同じフルサイズのM9では測光センサーをレンズ本体が邪魔するのでまったく使えませんでした。この撮影データのExifを読んでみると、焦点距離は0mm、開放絞りはF4、設定絞りはF5.6とでました。6bitコードのないレンズですが、偶然でしょうか?実写でもう少し追いかけてみる必要がありそうです。f:id:ilovephoto:20220220124131j:plain

≪M11とM9の測光機構≫ 左:撮像面測光のM11には暗箱内部にはセンサーはないのです。右:M9のシャッター幕面は上下中央は白色に近い薄いグレーで、上下は18%グレーに塗装されています。この部分を暗箱下部から測光するので中央部重点測光となると考えられます。測光センサーはメインの中央以外に小さいのが2つ配置されていますが、それぞれの役割は不明です。右下のインサート画面は、別の場所でM9にスーパー・アンギュロン21mmF4で撮影した画像ですが、まったく使えないのがわかります。

■さまざまな場面で撮影してみました

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≪ズマリットM35mmF2.5:「目」≫ F4・1/160秒、ISO-AUTO250、AWB。なかなか都心には出にくいですが、用事のついでに撮影しました。銀座和光のウインドウディスプレイ。2022年はトラ年ですが、トラの目が時々動くのが愛嬌です。6000万画素と高画素ですから拡大するとトラの毛のふさふさなところ、磁器のティーカップなどの絵柄もしっかりと描写されています。(銀座にて)

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≪ズマリットM35mmF2.5:表具店の店先≫ F5.6・1/350秒、ISO-AUTO64、AWB。看板の白い文字に影響を受けてでしょうが、コントラストの高い画像として仕上がっています。プリント時の拡大倍率にもよりますが、濃度域の広いしっかりとした画像に仕上がっています。(川越にて)

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≪ズマリットM35mmF2.5:トルコ人地鎮祭 F5.6・1/180秒、ISO-AUTO64、AWB。昭和レトロな洋館長屋のような川越の建物ですが、ここ数年で街全体がさらなる観光地化に向けてリニューアルされています。しかしトルコの旗で囲われた地鎮祭も、東京近郊の観光地川越ならではの光景でしょう。(川越にて)

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≪ズマリットM35mmF2.5:モグラの巣穴≫ F8・1/225秒、ISO-AUTO64、AWB。冬枯れした草木を見ながら川べりを歩き、増水で枯れ草の絡んだ木など数カット撮りましたが、何となく寂しい感じが多く、どうにか納得できたのがモグラの巣穴でした。“春よ来い”といった気分です。(東村山にて)

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≪ズマリットM50mmF2.4:ミツマタの花のつぼみ≫ F4・1/640秒、ISO-AUTO64、AWB。VGA画像ではわかりにくいですが、中心の花のつぼみにはしっかりピントがきていて細かい産毛まで分解しています。ミツマタは和紙の原料となりますが、花は黄色く可憐です。

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≪ズマリットM50mmF2.4:ひな人形≫ F5.6・1/3秒、ISO400、AWB。ご近所を歩いても冬枯ればかりです。少し歩いた先にキャベツ畑がありましたので、パチリしました。ここで不思議なことを気づきました。撮影後、PCでデータを整理していると、泥の粒子のような部分を徐々に拡大していくと、他社とは異なり早く溶けたようなヌメットした描写になるのです。当初は、撮影レンズの解像力が低いからなどとも考えましたが、どうしても不思議なので、同じレンズを使って、同じ6000万画素数ソニーα7RⅣで同じ場所にピントを合わせて撮影して確認するとライカM11はα7RⅣより早く溶けたようなクリーミーな描写になるのです。冬枯れの腐ったキャベツの葉っぱではどうも画になりにくいので、改めて別な場面でとひな人形をチャートに撮影してみました。

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左:ライカM11(F5.6・1/3秒、ISO400、AWB)、右:ソニーα7RⅣ(F5.6・1/3秒、ISO400、AWB)です。条件を同じにするために絞り値、ISO感度を400にそろえました。どちらもJPEGのLサイズですから、画素数的には、M11が9504×6320ピクセル、α7RⅣは9504×6336ピクセルで、ほとんど同等なわけです。色再現の特性はライカが見た目より鮮やかに、ソニーはオリジナルに近く渋めです。同じ拡大率でM11がメルティング状態になるのか拡大率を徐々に変えてみたのが上の比較です。拡大率はPhotoshopで66.7%です。いろいろ素人なりにその違いを考えましたが、画像処理に対するそれぞれの社の違いかと思われますが、英国大使館のエンブレムの拡大描写が何となくあまくみえたのも関係ありそうです。いずれにしても通常の作品制作プリントでは発色具合は別にして、同じ6000万画素のライカソニーも差はでないと考えます。

■ビゾフレックス2

 別売アクセサリーとして用意されたライカの外付けEVFは、ライカならではの歴史的な名称ビゾフレックスとつけられています。ライカM(Typ240)の時から「VISOFLEX」の1型が用意されていましたが、M11用には「ビゾフレックス 2」と新しくなりました。写真に示しましたが、大型になりアクセサリシューへの専用接点もシンクロ用の3点のほか16点もあるものです。「ライカM」のときは、ライブビューがないので理解できましたが、一見するとM11では不要ではとも思いましたが、しっかりとファインダーで覗いてピントを合わせたり、細かく構図を決めたりするのには必要なのでしょう。価格は約10万円です。

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 上の写真左は、ビゾフレックス2をアクセサリーシューに差し込み、少し上に向けましたが、このようにするとローアングルでの撮影も可能となるのですが、上に向けないままではしっかりとのぞけてライブビュー撮影するときはアイレベルのEVFとして機能します。手前を下に押し込むと手前左右にある強力なマグネットにより固定され不用意に上がるようなことはありません。右の丸いのは視度補正用ダイヤルです。写真右は、アクセサリーシューの電気接点を示しましたがストロボシンクロ用の奥には16もの接点があります。

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≪ビゾフレックス2のアングル≫ ズマリットM50mmF2.4、F2.4・1/1000秒、ISO-AUTO64、AWB。ビゾフレックスは、本来は距離計連動範囲外の望遠レンズを使うためのアクセサリーとして用意されましたが、デジタルライカになってはライカM(Typ-240)の時にビゾフレックス1が用意されました。その時は単なる外付けEVFとして機能させて使いましたが、2型では視野範囲も広くなったので植木の中にM11を入れて目を離して50mmの最短撮影距離7cm近くで撮影したのが上の作例です。被写体はツツジですが、妙に黄色く見えますが、誇張はされた発色ですが、季節柄実際にこんな感じです。

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≪ズミクロン35mmF2、第2世代≫ 新宿西口の空:F5.6・1/350秒、ISO-AUTO 64、AWB。1969年製、私のお気に入りのライカMレンズ、古いのにさすがの描写です。

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キヤノン25mmF3.5(Screw)≫ 横浜市民ギャラリーあざみ野:F8・1/296秒、ISO-AUTO 100、AWB。1956年に発売されたトポゴンタイプの当時としては明るい超広角レンズで、薄くて、かさ張らないので時々持ち出します。フィルム時代は特に問題なく使えましたが、デジタルになり、当初は周辺減光が強かったですが、M11は裏面照射タイプになり周辺の減光も目立たなくなりました。(横浜市にて)

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ヘクトール135mmF4.5≫ F4.5・1/400秒、ISO-AUTO 64、AWB。白蛇のミニチュア。ライカ距離計連動機の焦点距離限界の135mmでの撮影は特に問題ありませんが距離計で行いましたが、もっと遠景をねらったほうが良かったのでしょうが、この日の撮影で気に入ったのはこのカットでした。さすが135mmF4.5での最短撮影距離1m近くでは深度も浅くなりました。(川越にて)

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フォクトレンダー・ノクトン50mmF1≫ F1・1/320秒、ISO-AUTO 250、写真展会場でお会いした写真大先輩の柳沢保正さんをパチリと撮影させてもらいました。大口径ながら大変シャープなレンズですが、合焦ポイントを外れた前後に細かい線状のものがあると、拡大率を上げると色収差が発生するのは致し方ない部分ですが、これも極端にトリミング拡大でもしない限り実用上はまったく問題ないでしょう。

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≪ISO6400をチェック、新宿ゴジラ通り≫ ノクトン50mmF1、F5.6・1/640秒、ISO 6400、AWB。ライカM11の最高ISO感度はISO50000ですが、トップカバーの感度ダイアルにはマニュアルの数値でISO6400が刻まれています。今回の撮影では、他のカットはすべてISO-AUTOで撮影していますが、ここではあえてISO6400の描写を見るためにマニュアルで設定していつもの場所で撮影しました。ピントはゴジラの顔に合わせましたが、ほとんど無限遠状態でした。

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上の写真をゴジラの顔を画素等倍でクロップしてみました。ISO6400ですからどうだろうかと思いましたが、わりとノイズがのりやすい印象を持ったので、同じ照度下で、被写体、撮影レンズ・絞り値など条件をそろえて同じ画素数の機種と比較撮影してみますと、ノイズがわずかにでやすいのを確認しましたが、やはりその差はきわめてわずかで、プリント仕上げということでは実用的には大きく変わらないでしょう。

■距離計連動カメラとしてのM型ライカ

 今回のライカM11は、手強いカメラでした。何がと問われると、あげれば切りがないのですが、かつて一眼レフが全盛の時代にはライカの良さは何かと聞かれると、80年も前のレンズが距離計に連動して使えるからなどと答えていましたが、M型ライカよりフランジバックの短いミラーレス一眼がでてきてからは、古いレンズが使えるというのはマウントアダプターが用意されたことにより日常となりました。この結果、ライブビューで撮像面で正確なピントを合わせができるようになり、多くの人々に新しい写真の楽しみ方を提供することができるようになったのは誰もが認めることでしょう。

 そこで、改めてM型ライカの魅力は?と問われると、やはり連動距離計が組み込まれているから、ということになるのです。2006年発売のライカM8、M9、M(Typ-240)と使ってきましたが、改めてこの時期M11を使ってみると、M(Typ-240)から大きな変化がありました。その1つが、ブライトフレーム枠を電気的な照明にしたことです。M11ではカメラをONにしてスイッチを入れて、ファインダーフレームがでてピントを合わせるのですが、速写性ということからはワンタイミングずれるのです。また電源をつねにONにしておけば、シャッターボタン半押しで撮影が可能となるのですが、長らく押していないとスリープするので、シャッターボタン半押しか、電源を改めて入れなおすという作業が必要となります。このあたりM(Typ-240)を使っていた時にはあまり気にならなかったのですが、M11ではなぜか気になるのです。これは測光方式が撮像面測光になったことなどと関係あるのかもしれませんが、起動がわずかに遅くなったような感じがするのです。さらに、せっかくここまで電子化したなら、少なくとも6ビットコード搭載のレンズを装着の場合には焦点距離情報を取り込んでいるわけですから、ファインダーフレームの表示は採光窓時代からの35+135mm、50+75mm、28+90mmのダブルフレーム表示ではなく、装着レンズそのもののフレーム表示だけでも良いような気がしますが、M型を求めるユーザーはそれで納得するかどうかは難しいです。

 とはいってもデジタルのミラーレスライカですから、背面液晶かビゾフレックスでのピント合わせですと見えるのは撮像範囲だけですから、より目的にかなった撮影ができるというということになります。このピント合わせは、①距離計による方法、②背面液晶による方法、③ビゾフレックス2による方法、さらに①と②では移動可能な拡大表示、ピントが合った部分を色表示するフォーカスピーキング機能があるので、どのピント合わせ方式を使うかはもちろんユーザーが決めるのですが、せっかくレンジファインダーのライカを求めたら距離計部分の合致で素早くピントを合わせをするのがM型本来の魅力だと思うのです。他のピント合わせ方式を使うと、最新ミラーレス一眼機と同じような機能を持たせていることで、ミラーレスのフォーカス機能を使い込むほど神経を使う部分が増え、距離計連動ライカの良さが遠のいて行ってしまう気がするのですが、いかがでしょう。レンジファインダー機の良さはピント合わせに対するその潔さが信条だと思う次第です。

追記)今回手間取ったのは、使い勝手がというか、GUIというか取扱説明書が難解なことでした。どこかに書いてあるかはわからずじまいでしたが、メインメニューのボタンを2回押し込むとサブメニューに飛ぶとか、初期設定がフォーカスピーキングがONのためビゾフレックスでは撮影場面によっては画面の大部分が赤く色づくとか(ピーキングの色とレベルは変えられるそうですが)、それをOFFにするために奥深い階層でやっと設定しても、いわゆる、決定ボタンが見つからなく、また元に戻るという繰り返しでした。結局、ライカ銀座に出向いて聞いてみるとシャッターボタンの半押しが、日本のカメラのセットとか決定にあたることがわかったのです。M9やM(Typ-240)はかなり直感的に使えましたが、2006年にデジタルRF機に参入以来16年も経つと開発者も若くなったからでしょうか?

 なお、本レポートを行うにあたり、購入したての機材一式を1月もの長期にわたり貸し出してくれた、写真仲間に感謝です。

(^_-)-☆ 2022/03/06

ライカM11を使ってみました ver.1

 
 2022年1月14日に発表されたライカM11は、6000万画素と高画素機で、価格は118万8千円。1月21日に発売されました。デジタルのレンジファインダーイカは、2006年発売の①ライカM8(CCD、APS-H)からで、②M9(CCD、フルサイズ)、③M(Typ240、CMOS、フルサイズ)、④M10(CMOS、フルサイズ)、⑤M11(CMOS、フルサイズ)で5代目となり、フルサイズ化、CMOS化、高画素化などとスペックアップさせてきましたが、M11ではどのような変化を見せたのでしょう。M11の特徴は、64GBのメモリーを内蔵、ブラックボディはトップカバーをアルミニュームとしたことにより、M10より20%軽く、フィルムカメラのM6ぐらいの重量であるなどがあげられています。ライカカメラ社自身がミラーレス機を発売しているなかで、レンジファインダー式のカメラとして、最新のミラーレス機とどのように折り合いをつけたのかなど、大変興味がわく部分です。そんな視点をもって、ライカM11をレポートしてみましょう。

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≪外箱と内部梱包材≫ 外箱はかつてのような引き出しのついた箱から普通になりました。中の緩衝梱包材は黒いウレタンはスポンジが使われていますが、これは現在の日本のカメラが段ボールなどで構成しているのに対して最も異なる部分です。右上の白い紙にはiPhoneiPadの製品に関しての動作の注意書きです。

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≪取扱説明書≫ 中央:箱に同梱されていたのはクイックスタートガイドだけでした。左:ダウンロードして自分で出力したPDF版、右:請求したら航空便で送ってきた取扱説明書。発売までに間に合わなかったのでしょうか?。ドイツからきたのが見やすくわかりやすかったです。

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≪ライカM11と35mm、50mm交換レンズ≫

 今回ここで使うレンズは、ライカM11の機能を十分に引き出すためにクラシックや他社製品でなく、6ビットコード付きのズマリット50mmF2.4とズマリット35mmF2.5を用意しました。

■ライカM11の各部

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≪操作する感じでボディを斜め上から見ると≫ 左から、①ISO感度ダイヤル(ISO64・200・400・800・1600・3200・6400とマニュアルMでISO64~50000、オートAのポジションが刻まれています。写真はオート(A)にセット。設定はダイヤルを持ち上げて行えます、②ホットシュー右脇はシャッター速度ダイヤルで、絞り優先オートの(A)ポジションにセットしてあります。シンクロ同調は1/180秒。その右は③電源スイッチとシャッターボタン(写真はOFFの状態)。右上④はファンクションボタン(初期設定では押し込むことによりライブビューの時に拡大表示される)、右肩⑤サムホイール(再生画面の表示を操作できます)、ボケていますが、背面右⑥センターボタンとセレクターボタン

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≪バッテリーと記録メディアのセット≫ 底蓋は、フィルムカメラ時代からの取り外し式ではなくなり、左写真の白いレバーを回転させるとバッテリーがポンと飛び出しますが、このままでは取り出せないのです。もう1段軽く押すと取り外しできるセーフティー機構となっていますが、1度わかれば簡単ですが、知らないとからくり箱のようで苦戦します。右写真はバッテリーを取り外した状態ですが、バッテリーの頭部がボディ底面の構成パーツになっているのは新しい発想です。この部分にマークシールでも貼れば複数のバッテリーの使い分けも便利かもしれません。SDカードは、バッテリーを取り外した状態での押し込みで出し入れできます。

 

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≪バッテリーの充電≫ 左は、純正の電源変圧器。入力:AC100~240V、出力:5Vと各社のカメラ用充電器、スマホ用充電器と大きく変わることはない規格で、「USBタイプA⇒タイプCコード」で専用のバッテリー充電器(バッテリースタンド)にセットして充電を行います。この純正の充電器を介した状態で、タイプC側コネクターをボディに直接つないでも充電は行えます。右の写真は、試しにサードパーティーの「GREEN HOUSE」の携帯バッテリーと100円ショップで買った“タイプA⇒タイプC”コードを介してボディ内バッテリーへ充電してみましたが問題なく行えました。したがって、市販のスマホ用充電器や車からの電源からもチャージはできるわけです。必要以上に長く、太いコードより、短い“タイプA⇒タイプC”コードの方が取り回しはいいです。なお、右の写真でグリーンに点滅してる部分は「ボトムランプ」と呼ばれ、充電中やメモリーアクセス中に作動します。

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≪メニュー画面≫ ボディ背面左下の“MENU”ボタンを押してみました。見れば大体わかる感じですが、これにタッチパネル、セレクターボタン、センターボタン、サムホイールなどを操作して設定します。左の“LV”に打ち消し線が入っていますが、ライブビューを使わないモードにセットされています。その右“横長の□”は1コマ撮りですが、3コマ/秒の低速連写・4.5コマ/秒の高速連写を選べます。上半身マークはユーザープロファイル、“24/50”は50mmF2.4レンズが付いていることを表示してます。無効化、マニュアルセットもできます。下列左はJPGをセット、その右はJPG+DGN、さらにその右はL・M・Sとファイルサイズを選択できます。その右はメモリーのフォーマット、一番右はメインメニューのリストです。

■ビゾフレックス2

 別売アクセサリーとして用意されたライカの外付けEVFは、ライカならではの歴史的な名称ビゾフレックスとつけられています。「ライカM(Typ240)」の時からVISOFLEXの1型が用意されていましたが、M11用には「ビゾフレックス 2」と新しくなりました。写真に示しましたが、大型になりアクセサリシューへの専用接点もシンクロ用の3点のほか16点もあるものです。「ライカM」のときは、ライブビューがないので理解できましたが、一見するとM11では不要ではとも思いましたが、しっかりとファインダーで覗いてピントを合わせたり、細かく構図を決めたりするのには必要なのでしょう。価格は約10万円です。

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 上の写真左は、ビゾフレックス2をアクセサリーシューに差し込み、少し上に向けましたが、このようにするとローアングルでの撮影も可能となるのですが、上に向けないままではしっかりとのぞくけてライブビュー撮影するときはEVFとして大変便利です。手前を下に押し込むと手前左右にある強力なマグネットにより固定され不用意に上がるようなことはありません。右の丸いのは視度補正用ダイヤルです。写真右は、アクセサリーシューの電気接点を示しましたがストロボシンクロ用の奥には16もの接点があります。

 随分と前置きが長くなってしまいました。本当はまだまだ書かなくてはいけないのですが、以下さまざまな条件で撮影していくなかで各種技術を紹介していくことにします。

■いつもの英国大使館の正面玄関を撮影

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≪ズマリットM35mmF2.5≫ F5.6・1/400秒、ISO-AUTO 64、AWB。ピント合わせはライブビューと拡大で行いました。画素等倍で拡大した画像は載せませんが、わずかにほかのレンズより解像度が低い感じがしますが、これはピント合わせが甘かったのかもしれません。ただズマリットM35mmF2.5の描写は柔らかな描写とボケ味が特長なので、そのあたりとの兼ね合いであり、ふだん使っている限りはまったく不足は感じませんし、むしろ好みの描写特性です。現行品にはこのほかに、ズミクロンM35mmF2 ASPH.、APOズミクロン35mmF2 ASPH.もあるので、価格に合わせて描写の異なるのも納得いきます。

 いままでライカのレンズの設定絞り値はメモしておかなくてはなりませんでしたが、6ビットコード付きのレンズの場合には「算出された大まかな絞り値をExifファイルに記録する」ということでしたので、Exifデータを読むとF5.6とでてきました。この設定絞りのF値は、撮影データを何で展開するかによって異なり、Exifデータを読めてもF値を表示できないソフトもあるので注意が必要です。ちなみにズマリット50mmF2.4で同じ場面を同じ絞り設定で撮影してみましたがF5.6とExifデータは記録されました。手元にあったM9では設定より半段ほど違う値がでましたが、撮影条件の違いか、ボディの違いによるのかは判りませんが、「算出された大まかな絞り値をExifファイルに記録する」ということなので理解しました。この設定絞り数値の表示はないよりはあった方が絶対いいわけで、私のように絞り値変化の描写を楽しむ者にとっては便利です。“ライカというと使用レンズはオールドレンズ”という思い入れが強く、6ビットコード付きレンズはレンズ名と焦点距離Exifへの書き込み、広角では周辺光量の補正というレベルの認識でありましたが、反省です。

■M11のCMOSセンサー

 ライカM11の特徴に撮像素子であるCMOSが基準感度ISO64であることがあげられています。ライカの場合には大口径レンズを開放絞りで使うことも多く、ISO感度が低く設定できることは、最高シャッター速度にもよりますが高輝度撮影環境下でも絞り開放での撮影が可能となります。また、RAWデータであるDNGの解像度が、60Mピクセル、36Mピクセル、18Mピクセルと選択できるのにどの解像度でもすべてのピクセルを使うトリプルレゾリューションテクノロジーという技術を使い、高いディテールの再現と幅広い感度を実現したというのです。

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≪トリプルレゾリューションテクノロジーとは≫ 左はライカカメラ社のカタログからの転載ですが、60Mピクセル(9504x6320)、36Mピクセル(7392x4896)、18Mピクセル(5248x3472)それぞれが、単純に画素が間引かれるのでなく、複数画素を組み合わせを変えて低解像度としているので、1ピクセル当たりの面積が広くなるので階調再現が良くなり高感度が可能になるというのです。右の写真は、ライカMマウントの高解像度レンズをF2.8にして60Mピクセルと18Mピクセルで撮影した画面中央付近の描写を画素等倍近くに拡大したときの描写ですが、この撮影ではその差を見出すことはできませんでした。その差が著しくでるようだと逆に問題なのかもしれません。なお、撮像素子の前面には極薄のガラスを2層に重ねたUV/IRカットフィルターが配置されていて、薄いことにより急な角度で入射する光線も効果的に取り込むことができるととされています。

■M11は撮像面測光

 ライカがデジタルになって歴史的な一部広角レンズではTTL測光ができなく、私の場合にはスーパーアンギュロン21mmF4が使えなく、すっかりその存在を忘れていましたが、M11ではどうだろうかということが一部で盛り上がっていましたが、レンズ後部やガードがシャッター幕に物理的に接触するようなことがなければ、原理的に考えるとM11は撮像面測光なので問題なく撮影できるだろうと考え試してみました。

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≪M11とSUPER-ANGULON 21mmF4≫ F5.6・1/320秒、ISO-AUTO 80。巻頭の英国大使館の撮影を行ったときにスーパー・アンギュロン21mmF4でも撮影してみました。ご覧のとおり写ります。周辺光量の低下は裏面照射型CMOSセンサーなのでまずまずですが、これが一時代前の同じフルサイズのM9では測光センサーをレンズ本体が邪魔するのでまったく使えませんでした。この撮影データのExifを読んでみると、焦点距離は0mm、開放絞りはF4、設定絞りはF5.6とでました。6bitコードのないレンズですが、偶然でしょうか?実写でもう少し追いかけてみる必要がありそうです。

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≪M11とM9の測光機構≫ 左:撮像面測光のM11には暗箱内部にはセンサーはないのです。右:M9のシャッター幕面は上下中央は白色に近い薄いグレーで、上下は18%グレーに塗装されています。この部分を暗箱下部から測光するので中央部重点測光となると考えられます。測光センサーはメインの中央以外に小さいのが2つ配置されていますが、それぞれの役割は不明です。右下のインサート画面は、別の場所でM9にスーパー・アンギュロンで撮影した画像、まったく使えないのがわかります。

≪お知らせ≫

「ライカM11」の全記事と多数の作例を画素等倍にして見られるように京都MJのサーバーにアップされました。引き続きそちらをご覧ください。

 

オリジナル・ノクトン50mmF1.5を使ってみました

本記事は京都MJのサイトで再掲され、作例を画素等倍まで拡大して見ることができます。

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 ノクトン(Nokton)といえば最近はコシナフォクトレンダー・ノクトンがよく知られていますが、元は1950年に西独・フォクトレンダー社(Voigotalnder)から発売されたレンズ交換式のレンジファインダーカメラ『プロミネント』の交換レンズのうちの1本が「ノクトン50mmF1.5」でした。
 ミラーレス一眼の普及によりクラシックレンズに光があたるようになって久しいですが、クラシックレンズは何が魅力なのか人それぞれです。そこで大きく分けると、1)クラシックゆえの収差の取り切れていない描写をあえて強調させて作品づくりをするのと、2)古いレンズの中にデジタルの現在にも通用する結像の良いレンズを探し出し、作品づくりをするのが楽しみ、という方々ということになります。ここでは、クラシックレンズとしてのノクトン50mmF1.5の描写を紹介してみましょう。

■ライカスクリューマウントのオリジナル・ノクトン50mmF1.5
 1950年に西独・フォクトレンダー社から発売された「プロミネント(Prominent)」≪写真1≫の交換レンズのなかで最も明るいレンズとしてノクトンがありました。

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≪写真1≫ ノクトンを装着したフォクトレンダー・プロミネント(1950~60)とノクトン50mmF1.5のレンズ構成(5群7枚)。プロミネントは距離計連動でレンズ交換が可能ですが、シャッターはビハインド式のレンズシャッターです

 NOKTONとは、ドイツ語で夜を意味するNachtであり、英語のnocturnal=夜行性のということで、つまり夜の撮影に向いた大口径レンズであり、ライカノクチルックス50mmF1.2(1966)、ニコンのノクトニッコール58mm F1.2(1977)など大口径として同じような意味で使われています。プロミネントのレンズマウントはプロミネント専用のマウントで、このプロミネント用ノクトンの中にきわめて少数のものがライカスクリューマウントとコンタックスマウント用として初期の段階からで発売されていました。今回の使用レポートは、2本のライカスクリューマウントの「オリジナル・ノクトン50mmF1.5」レンズを、シグマfpとソニーα7RⅡにマウントアダプターを介して取り付けて≪写真2≫撮影してみました。

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≪写真2≫ ソニーα7RⅡとシグマfpにマウントアダプターを介して装着

 外観からするとレンズ形状は一見したところ同じように見えますが、左側のノクトンは絞りリングの後ろ側とマウント側のリングが黒く仕上げられていて、右側のノクトンはクロームメッキのシルバーだけです。シリアルナンバーを見ると左は№3161601で製造年は1950年、右は№3339596で1952年製のようです。どちらもフォクトレンダー社の出荷番号リストの中にライカスクリューマウントとして記載されています≪写真3≫

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 ≪写真3≫ 同じライカスクリューマウントのノクトン50mmF1.5でも鏡胴の仕上げが異なります。

 またこのノクトンは、途中から2層の多層コーティングがなされたとも一部に伝えられていますが、少なくともこの2本のノクトン≪写真4≫は右がシアン系の単層コート、左がシアンとアンバー系の単層コートというわけで、同じ単層コートであっても、異なるコーティング素材を組み合わせて使用しているということから、コーティング種からも左側のノクトン3161601のほうが古いことがわかります。このほかの身近にあるプロミネントマウントのノクトン50mmF1.5を調べてみますと、№3259883はシアンとアンバー系のコーティングが施され、№3712804はシアンとアンバー、パープルの組み合わせであり、時代とともに徐々に同じ単層コーティングでも変化していったのがわかります。

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 ≪写真4≫ 同じライカスクリューマウントのノクトン50mmF1.5でも製造年でレンズコーティングが変化しています  左は開放絞りのF1.5、右は絞り形状を見るためにF16に絞ってあります。もう1つ注目したいのが、レンズの最大口径比の書き方が、左はF1.5、右はF1,5となってる点です。“,”カンマ表記はツァイスレンズの最大口径比の表記に今でも使われています(すべてではありません)が、フォクトレンダー社がツァイス・イコングループに加わったのは1969年であったので、それ以前にどうであったかは不明です

 このノクトンはドイツのレンズ設計者であるトロニエ(アルブレヒト・ウィルヘルム・トロニエ:Albrecht Wilhelm Tronnier、1902~1982)が設計しました。トロニエ自身は、シュナイダー(Schnider)、イスコ(ISCO)、フォクトレンダー、ツァイス(Zeiss)などと光学メーカーを転々としていますが、その過程でクセノン(Xenon)、アンギュロン(Angulon)、ウルトロン(Ultron)、ノクトン、カラースコパー(Color Skopar)、アポランター(Apo Lanthar)等々多くの名玉を設計しています。

 なお純正のライカ用の50mmF1.5レンズには、ライツ・クセノン(Leitz Xenon、1936)とズマリット(Summarit、1949)があります。この2本のレンズはクセノンであり登場が同時代であることから、一部にトロニエが設計したという考えがありますが、最新の研究によればノクトンはトロニエの設計ですが、同じ50mmF1.5のレンズであるライツ・クセノンとズマリットはライツの設計だとされています。

■いろいろと撮影してみました

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 ≪作例1、英国大使館≫ α7RⅡ、F5.6・1/320秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。カメラボディとレンズをチェックするときにいつも英国大使館の正面玄関を同じ場所から、同じ時間帯、同じ絞り値で撮影していますが、残念なことに天候が晴天でなかったことです。撮影時期が雨季でズバリ青空とはいきませんでしたが、描写はF5.6まで絞ってあるので、ピントを合わせたエンブレムや壁面など、昨今のレンズと大きく変わる部分はありません。

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 ≪作例2、ハスの花・Ⅰ≫ シグマfp、F1.5・1/5000秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。お寺のわきにある小さな池に咲く1輪のハスの花を中央に配してねらってみました。太陽光がちょうど花の部分を取り巻くようにスポット的にあたっていましたので、背後の影の部分はつぶれてしまいました。絞り開放F1.5ですが距離があるためにピントはうまくハスの花芯を含む前後に合っています。この画面からすると感覚的に絞り開放でもシャープな描写をすると思われますが、周辺まで仔細に見ていくとかなり崩れていることがわかります。しかし1950年に登場したという時代を考えると立派な描写だといえます。

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 ≪作例3、ハスの花・Ⅱ≫ シグマfp、F1.5・1/5000秒、-0.7EV補正、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。同じお寺の裏庭に大きなハス池がありました。背景の庫裡をぼかしてボケ具合を見てみました。ハスの花までは最短撮影距離の1mですが、画面中央ということもあり、A3ノビにプリントしても花びらの葉脈も描出されしっかりとした描写でした。背景の左右のボケは口径食の影響でレモン型をしていますが、それぞれの輪郭が濃くなっているので、2線ボケの影響が出ているようですが、絞り込めばこのようなボケは減少します。

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 ≪作例4、葉陰から≫ シグマfp、F2.8・1/320秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。口径食によるボケを出すのには、木漏れ日を背景にすればいいのです。ということでF2.8に絞り込んでの撮影ですが、撮影距離にもよりますが、リング状のボケは小さくなりますが、レモン形になり輪郭が濃くなるなどの傾向は変わりません。本来なら手前に人物を配したポートレイトなどの背景効果として利用すると面白く使えるでしょう。

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 ≪作例5、つつじの芽≫ α7RⅡ、F1.5・1/500秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。近接時の前ボケと後ボケを見るために撮影してみました。ピントは飛び跳ねて育ったツツジの芽とカズラの葉に合わせました。合焦部の描写の良さは言うまでもありませんが、前ボケには癖を感じさせませんが、後ボケには、グルグルと回る残存収差を感じさせます。このあたりの描写特性はオールドレンズならではのものでして、絵作り生かすこともできます。

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 ≪作例6、しぼんだアサガオの花≫ シグマfp、F2・1/1000秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。背景のボケ具合を見るのにちょうど良い被写体を見つけました。ピント位置は画面下1/3ぐらいの左右中央にあるしぼんだアサガオの花の部分です。背景のボケ具合を見ると、氷のノボリの文字とイラストのボケ方になんとなく癖があるのが気になるところです。左画面周辺を見るとレモン形の丸ボケが見えます。またその左下には縦方向に線が流れていますが、これは拡大して見るとわかりますが、縦の棒が横に等間隔を持って配置されているからであり2線ボケではありません。

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 ≪作例7、トクサと板壁≫ シグマfp、F2.8・1/640秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。まっすぐに伸びるトクサと、横に目の通った板壁の色を含めた対比が面白かったので狙いました。画面中心部は解像度的には立派なものですが、周辺に行くと甘くなるのはF1.5と大口径でF2.8に絞ったぐらいでは、致し方ないことでしょう。後ろの板塀のボケ方も癖はなく自然です。

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 ≪作例8a、絞り開放:ゴルドニア・ラシアンサスの花≫ α7RⅡ、F1.5・1/640秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。同じ場面で、絞り開放と絞りF2.8を比較してみました。こちら絞り開放F1.5では花のメシベの描写があまく見え、背景の石にはわずかに回転を感じますし、背景の植え込みが楕円の方向性を持ったボケであり、うるさく感じます。

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 ≪作例8b、絞りF2.8:ゴルドニア・ラシアンサスの花≫ α7RⅡ、F2.8・1/125秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。わずか2段F2.8に絞ることにより、花がシャープになるのは言うまでもなく、背景植栽の癖あるボケが消えました。

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 ≪作例9、カシワバアジサイ α7RⅡ、F2.8・1/125秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。このレンズは絞り込み効果の大きいレンズで、少し絞り込むことにより、画質はぐんと向上し、葉の表面の微細な部分も質感を伴い良く描出されています。

f:id:ilovephoto:20211203141141j:plain ≪作例10、大香炉≫ シグマfp、F2.8・1/80秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。ピント位置は画面中央の紋所であるので、まったく問題ない描写を示しています。

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 ≪作例11、消火栓≫ α7RⅡ、F4・1/125秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。最初は絞り開放で撮りましたが、いまひとつでした。改めて絞りF4で撮影しますと、消火栓上部金属の光沢感、さらに前後のボケ具合も素直で、ほどよい感じで写りました。

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 ≪作例12a、居酒屋≫ α7RⅡ、F1.5・1/200秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。手前の提灯にピントを合わせて、左右の背後に流れていく裸電球がどのような描写をするかと考えてシャッターを切りましたが、意外と素直に写りました。裸電球とはいってもどうやらLEDランプのようです。ただし拡大していくと、画面左のアウトフォーカスした女性の足がクロスしていて消え入るような感じが面白く、さらに背後の赤い信号灯、さらに手前のランプなどコマ収差がさまざまな形で出現しています。大きく拡大してプリントするとその形状をいろいろと楽しむことができそうです。

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 ≪作例12b、居酒屋≫ 上の左側を拡大して見ました。小さければわからない程度の収差です。

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 ≪作例13、スタンドカフェ≫ α7RⅡ、F2.8・1/125秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。あらかじめカフェの店内にピントを合わせておき、人物が通りかかったときにシャッターを切ったのですが、手前の人物は深度が浅くボケているのではないかと思いましたが、右足はジーンズの布目が見えるほどシャープで、地面の敷石もピントはきているようなので、歩行による単なる被写体ブレでした。写真的には完全に止まっているよりは、ブレていたほうが結果として効果的でした。

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 ≪作例14、Ra Sikiさん≫ α7RⅡ、F2.8・1/125秒、ISO-AUTO100、LED補助光使用、AWB、手持ち撮影。写真家でありアーティストであるRa Sikiさんの写真展会場で撮影させてもらいました。画面中央の被写体となったRaさん、上部左右の写真クロスとも申し分ない描写ですが、背後のアウトフォーカスした部分の額縁の縁を拡大して見るとわずかな色収差の影響からか色付きが見えます。このレンズが登場したのは1950年のこと、まだまだ黒白フィルムが主流であり、ここまで大きくして見ることはなかった時代でした。

■70年前のレンズをデジタルで写して見るということ
 今回のオリジナル・ノクトン50mmF1.5の撮影は2000年に行いました。実はその後、関係する写真クラブでの2022年9月の写真展テーマが“トロニエが設計したレンズを使う”と決まったのです。しかしその展示をこの時の写真だけでは埋めるのには少し物足りなく、その写真展までは時間もたっぷりあるので、新たに撮影テーマを決めて、トロニエ設計によるプロミネントマウントのノクトン50mmF1.5、ウルトロン50mmF2、ビテッサTのカラースコパー50mmF2.8の3本を使って撮影しようとなったのです。2002年9月に向けたその3本での撮影も終わりかけた時に、2000年に撮影した希少なライカスクリューマウントのオリジナル・ノクトンの撮影結果をそのままお蔵入りさせてしまうのも惜しいので、改めてこの時期にまとめてみたのがこのレポートです。
 2002年写真展に向けたトロニエの設計した3本のレンズの撮影には、ライカスクリューマウントのオリジナル・ノクトンで撮影したときの結果が大いに役立ちました。今回のオリジナル・ノクトン50mmF1.5の撮影は基本的に、1950年代のレンズがどれだけ写るかということを趣旨にして行い、2022年写真展に向けた撮影は良く写るということを二の次にして、アウトフォーカス部のボケ具合を比較してみせるという形で落ち着きました。どのようなレンズでも絞り込めば諸収差は減少してよく写るわけですが、オリジナル・ノクトン50mmF1.5では絞り込みを必要最低限にして撮影してあります。良く写るとは、現代レンズに比較してですが、このあたりを見ていくと、昨今の最新レンズとはどのようなものか見えてくるのです。先人たちのレンズ設計技術レベルの高さには驚きます。 (^_-)-☆

注)ここに掲載した2本のライカスクリューマウント「オリジナル・ノクトン50mmF1.5」は、いずれも北海道「IMAIcollection」収蔵のものです。

超廉価なTTArtisanレンズ3本セットを使ってみました

 中国のTTArtisanレンズ3本を使って評価して欲しいとわがスポンサー氏から言われ、興味大で早速購入してみたのですが、まず最初に困ったのがこの「写真にこだわる」に掲載時のタイトルでした。そのレンズはいずれも単焦点で、銘匠光学(DJ-OPTICAL)のTTArtisan APS-C 17mmF1.4、TTArtisan APS-C 35mmF1.4、TTArtisan APS-C 50mmF1.2の3本なのです。注目点は、①7月23日のニコンZfc発売わずか1週間後にZfcのボディカラーに合わせて白梨地仕上げでだしてきた、②販売代理店の焦点工房は3本セットで33,000円という恐ろしく安い価格を設定、③最新の中国レンズの実力は、ということで何を表題に盛り込むかを悩んでしまったのです。結果として上掲のようにしましたが、どのようなタイトルにするかは、なるべく多くの方々に読んでもらうためには重要なことなのです。

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≪3本のTTArtisanレンズとニコンZfc≫ 左から、TTArtisan APS-C 17mmF1.4、TTArtisan APS-C 35mmF1.4、ニコンZfc(ニッコールZ DX16-50mmF3.5-6付)、TTArtisan APS-C 50mmF1.2。ニコンZfc発売わずか1週間後に発表されたといっても、TTArtisan APS-CレンズはすでにフジフイルムXマウント用に黒色で発売されていましたので、表面を梨地シルバーにしてニコンZfc用にしたのでしょう。17mmと35mmの鏡部分にはそれぞれのレンズ構成図がプリントされています。マウント部分の口径が大きいのはフルサイズと兼用のニコンZマウント用ならではのもので、光学系は同じと考えられるフジXマウントを始めとした他社APS-C判用はもう少し細くなるでしょうから、鏡胴部のくびれはここまで目立たないかもしれません。

■外観並びに操作感

 Zfcの発売に合わせて追いかけ発売したというだけあって、表面シルバーの感じはボディにうまくマッチしています。細かく言うと、TTArtisanレンズのほうがボディ、レンズとも梨地の色がわずかに明るく感じますが、ボディ、Zニッコールレンズの表面処理仕上げと仔細に比較してみてもその差は元素材の差異からくるものではないかと考えられるレベルです。装着しようとして、マウント側を見るとまったく電気接点がありません。マニュアルフォーカスレンズだから当然ですが、何もないからexif情報が撮影したファイルに書き込まれないのは当然のこととなります。

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≪マウント後部とレンズ鏡胴部≫ レンズマウント基部には電気接点はない完全なマニュアルレンズです。絞り環と距離リングの回転方向は注目していただきたい。

 レンズの距離リングの回転方向はカメラを構えたほうから見ると、右側が∞、左が至近寄りとなり、絞りリングは、左が絞り開放、右が最小絞りとなっていて、いわゆるライカ以来の基準です。一方、ニッコールレンズはレンズ交換、距離リング、絞りリングともRFコンタックス以来の方向ですが、AFになった現在それが気になる人はあまりいないようです。TTArtisanレンズは、ライカM、富士フイルムX、マイクロ4/3、キヤノンEF-M用もあるので、それぞれマウント部分だけを除いて部品を共用させるには当然のことでしょう。さて、このレンズカメラに装着して最初に感心するのが、ヘリコイド回転のトルク感がヌメッとしてムラなく重くも軽すぎる感じもないのです。さらにこのヌメッとした摺動感は絞りリングにも共通していて他に例を見ないのですが、操作感は半絞りクリックを含めてヌメッとしてなかなか感じ良いです。

 実際ファインダーをのぞいてフォーカシングしてみると、妙にピントの山がつかみやすいのです。いままでミラーレス機でマニュアルでピントを合わせるときには、それぞれの機種によって拡大倍率は違いますが、とりあえずはターゲット部分を拡大して細かくピント合わせしていましたが、ZfcとこのTTArtisanレンズでは拡大しないでもピントが合わせやすい(合う)のです。この要因としては、ZfcのEVFが良い、レンズが大口径だから、レンズの収差が良く補正されていて解像度が高いなどが考えられます。そこで、Zfcに他の大口径レンズを着けてマニュアルでフォーカシングするとここまでは分離が良くなく、TTArtisan50mmF1.2をニコンZ7に付けてピントを合わせるとほぼ近似した感じでピントの合わせができる、他の最大口径F2レンズをマウントアダプターを介してZfcに装着してマニュアルでフォーカシングすると拡大しないでピントを合わせることができるが素早くとはいかない、となりました。つまりレンズ性能に依存する部分は大なわけです。各レンズのヘリコイドと絞りリングの摺動感、マニュアルでのピント合わせは多くの人に試してもらいましたが、異口同音にすばらしいということでした。

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≪TTArtisanレンズのレンズ構成とMTF 左から、50mmF1.2、35mmF1.4、17mmF1.4、青色部分:高屈折低分散ガラス、赤色部分:非球面レンズ、絞りはいずれも絞り羽根は10枚、最短撮影距離は各0.5m、0.28m、0.2m。

■いつもの英国大使館正面玄関を写す

 いつもならフルサイズの焦点距離35mmを基準にして撮影していますが、ZfcはAPS-C判なので、標準画角に近いということで35mmF1.4を使うことにしました。35mmだとフルサイズ換算で画角的には52.5mm相当となりますので、いつもよりは狭角になります。撮影距離、時間、天候とも同じ条件で絞りF5.6で撮影してます。

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≪英国大使館正面玄関、TTArtisan APS-C 35mmF1.4≫ 52.5mm画角:F5.6・1/1000秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。ピントは建物屋根中央直下のエンブレムに合わせました。撮影時に空をたくさん入れるか、下の地面を入れるか悩みましたが、結局間をとって屋根は切れても左下の車止めのポールの発色具合が各社で微妙に異なる注視点なので、このようになりました。

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≪エンブレム部分を画素等倍に拡大≫ このところニコンZfc(ニッコールZ DX16-50mmF3.5-6付)、リコーGRⅢxとAPS-C判が続きましたが、比較して見ていただければお分かりのようにそれぞれがきれいに問題なく写っています。わずかにTTArtisan  35mmF1.4の場面がコントラストが高く立体感があるように感じますが、撮影倍率、晴天の度合い、日影などによっても 変わりますので、はっきりとレンズの性能からくるとは決めつけられない部分でもあります。

■近距離で絞り開放の解像とボケ味を見てみました

 3本のレンズを絞り開放で画面中央の葉にピントを合わせ、前後のツツジ葉のボケ具合でそれぞれレンズの性質を知ることができます。撮影は50mmをスタートに徐々に接近しています。

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≪50mmF1.2≫ 75mm画角:撮影距離約60cm、絞り開放F1.2・1/4000秒、ISO-AUTO125、AWB。ボケ具合を見ると撮影距離にもよりますが、前側に焦点深度が深く、後側は浅く感じますが、計算によると許容錯乱円を0.03mmにとると、前側は4.7mm、後側は4.8mmとなり、合計で9.5mmとなります。背後と前側をよく見るとゆるやかな円弧を描いていますが、一般撮影ではまったく目立たない程度です。画面全体で見ると柔らかなボケを期待できます。

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≪35mmF1.4≫ 52.5mm画角:撮影距離約50cm、絞り開放F1.4・1/4000秒、ISO-AUTO110、AWB。枯葉を同じような寸法で写るようにと10cmぐらい近づいて撮影しました。50mmF1.2同様に前側の被写界深度が深いのですが、後ろ側のボケはあまり方向性を感じさせません。画角的には52.5mmですから、主要被写体を手前に置き背後を大きくぼかすような撮影に向くような感じです。

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≪17mmF1.4≫ 25.5mm画角:撮影距離約40cm、絞り開放F1.2・1/4000秒、ISO-AUTO125、AWB。撮影距離40cmですが、主要被写体の枯葉にはもっともっと接近してよかった感じです。フルサイズの画角にすると25.5mmですから、かなりワイドです。背景のボケ具合を見ると、枯葉を中心に大きく円弧を描いているのがわかります。撮影対象によってはうまく利用すると面白い写真が撮れるでしょう。枯葉の表面を写した部分の解像感は高く画素等倍まで拡大すると葉脈が見えるほどです。

■ランダムな場面で使ってみました

 何を何ミリのレンズを使って何を撮るかということですが、せっかくの大口径レンズですから、なるべく開放に近い状態で撮影することにしました。すでにこちらのZシリーの交換レンズとしては、Zfc用にニッコールZ DX16-50mmF3.5-6があるので、絞り込んで使うならばTTArtisan レンズの価値がなくなってしまうのです。

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≪50mmF1.2、Ra Sikiさん≫ 75mm画角:絞り開放F1.2・1/80秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。写真家であり、アーティストであるRa Sikiさんの個展にお伺いしての1枚。ピントは彼女の右目に合わせていますが、撮影後画素等倍にまで拡大して見ても十分な画質です。Zfcボディには手振れ補正機能はなく、ニコンの場合レンズ側に手振れ補正のVR機能がついています。ということで、このレンズには手振れ補正機構など何もついていません。F1.2絞り優先AEの結果ですが、ISOオートで125となり、シャッター速度1/80秒で画素等倍まで拡大できるほど手振れの影響はなかったのです。ピントを合わせた部分のシャープさはかなりのものですが、画面右上の文字の部分を画素等倍にして見ると、ごくわずかに色にじみがありますが、これはきわめて少ない部類に入ります。

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≪50mmF1.2、とよけん先生・Ⅰ75mm画角:絞り開放F1.2・1/125秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。写真業界ではユーザー向けの技術解説を一手に引き受ける豊田堅二さんです。さすが日芸の写真学科で教鞭をとっていただけに、撮影をお願いするとさっと半身になりにっこり笑うというのはその成果でしょう。ピントは左目に合わせていますが、画素等倍まで拡大すると眉毛が1本1本崩れないで解像してます。Raさんの時のカットでは左背後のボケはどのような写真であったかまったくイメージできませんが、こちらのカットでは背後のボケも見たかったのであえて人物を配しましたが、癖のない柔らかなボケ味を確認できました。

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≪35mmF1.4、とよけん先生・Ⅱ≫ 画角52.5mm相当:絞り開放F1.4・1/125秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。せっかくですから、レンズ交換して52.5mm相当画角でも撮影させてもらいました。身の構え方、微笑み方などまったく50mmの時と同じなのはまるでプロのモデルを感じさせます。レンズの解像感は50mmF1.2と大きく変わる部分はありませんが、背景のボケ具合を見ると、それぞれが誰だかわかるのですが、人間の画像解析能力もすごいということですが、撮影シーンにもよるかもしれませんが、個人的には扱いやすさを含めて50mmF1.2が私の好みとなります。

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≪17mmF1.4、YS-11・Ⅰ≫ 画角25.5mm相当:絞りF5.6・1/800秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。いつもの場所からの撮影です。この位置からですと、28mmとか35mm画角が良いのですが、さすが25.5mm画角では広すぎます。空には青空が見えますが、天候としてはほぼ曇天です。それだけに光は柔らかく、ハイライトが飛ぶようなことはありません。(航空公園駅前にて)

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≪35mmF1.4、YS-11・Ⅱ≫ 画角52.5mm相当:絞りF5.6・1/500秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。画角52.5mm相当だとはみ出てしまいます。ピントは17mmも35mmも同じというか、他機種を含めいつもと同じようにプロペラ右にあるエンジンケースの表面に合わせていますが、画素等倍にしてみると、フルサイズの場合には文字がどうにか読めるのに、読めません。背後の建物の避雷針もそうですが、微細な部分がわかりません。これはレンズの解像力以前にAPS-Cで2,151万画素の画素数に依存する部分が大きく関係していると思われます。(航空公園駅前にて)

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≪35mmF1.4、路傍のオブジェ≫ 画角52.5mm相当:絞りF2・1/800秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。金属の光沢感と背後のボケ具合を見るための撮影です。アルミの鋳造品だと思いますが、アルミとしての質感は十分に再現されています。背後道路のグリーンベルトはムラなく軟らかくきれいにでていますが、左背後の焦点の紫色看板の文字が連続した固まりに見えるのがまずかに気になります。(航空公園駅近くにて)

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≪35mmF1.4、コスモス・Ⅰ≫ 画角52.5mm相当:絞りF1.4・1/2000秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。秋の風物詩といえば漢字で書くとわかるように“秋桜”でありコスモスなのです。35mmF1.4レンズでわりと周辺を入れ込んで、花を中央に配してめしべにピントを合わせてありますが、めしべの部分を画素等倍に拡大して見るとかなりシャープであることがわかります。中央の花を囲むように背景のボケは緩やかに円弧を描いているように感じますが、この種のボケ具合は方向性を感じさせないほうがベストなのでしょうが、ボケの具合いは撮影距離の違いや個人の受け止め方によっても評価は大きく変わります。(所沢航空公園・Ⅰ)

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≪35mmF1.4、コスモス・Ⅱ≫ 画角52.5mm相当:絞りF1.4・1/800秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。同じ35mm1.4レンズで、やはり絞り開放で花の中心のメシベに合わせましたが大変シャープです。背景も少しはすっきりした感じになりましたが、もともとコスモスの花の撮影はごちゃごちゃした葉や花を背景のボケに置くのでなく、青空の中に背景にして花を撮るとと、秋らしく撮影することができます。(所沢航空公園・Ⅰ)

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≪17mmF1.4、コスモス・Ⅲ≫ 画角25.5mm相当:絞りF2.8・1/1600秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。やはりコスモスは青空がいいということで、青空を確認し再度出向きました。ところが青空の下でF1.4のレンズは絞り開放だとZfcのシャッター最高速度1/4000秒では露出オーバーとなってしまうのです。やむなく安全を見込んでF2.8に絞っての撮影となりましたが、ピントを合わせたコスモスのメシベの描写は深度も深くなり、数段上った感じでシャープになりました。(所沢航空公園・Ⅱ)

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≪50mmF1.2、少年航空兵の像≫ 画角75mm相当:絞りF2・1/400秒、ISO-AUTO125、-1EV露出補正、AWB、手持ち撮影。背後の緑に引っ張られて像の表面のハイライト部分が飛び、露出オーバー気味になることを避けるために-1EVの露出補正をかけました。ピントは中央の少年の鼻のあたりに合わせましたが、左右640ピクセルにリサイズしてあるために、このカットからは像のシャープさはわかりません。背景の樹木の葉の間に見えるボケは特筆することもない普通の感じです。(所沢航空公園・Ⅰ)

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≪50mmF1.2、フリスビーを投げる≫ 画角75mm相当:絞りF2・1/400秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。少年航空兵の像を撮影後背後の広場でフリスビーをやっている2人を見つけ素早く近づきシャッターを切りました。投げるときは上半身を振るだけぐらいで大きく動きませんが、受け取るときにはフリスビーの投げられた方に走って行くので、体が大きく動かない投げるときに素早くピントを合わせシャッターを切りました。レンジファインダー機やAF以前の一眼レフでは当たり前のこととしてやっていた、マニュアルフォーカスでのスナップ撮影です。私はあまりやりませんが、17mmレンズでしたら少し絞り込んでパンフォーカス撮影も可能でしょう。(所沢航空公園・Ⅰ)

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≪17mmF1.4、大樹≫ 画角25.5mm相当:絞りF5.6・1/30秒、ISO-AUTO1600、-1EV露出補正、AWB、手持ち撮影。樹木の表皮部分と表面の苔がオーバーになり重厚感がなくなるのを避けるためにマイナスの露出補正を加えましたが、このVGAの左右640ピクセルでは重厚さを感じるのも難しいですね。(所沢航空公園・Ⅰ)

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≪17mmF1.4、戦闘機のエンジン≫ 画角25.5mm相当:絞りF2.8・1/30秒、ISO-AUTO720、+0.3EV露出補正、AWB、手持ち撮影。背景の色ライティングの関係で+0.3EVの露出補正を加えましたが、無視しても後でレタッチソフトでカーブを少し持ち上げる程度で済みます。金属の質感は十分にでています。(所沢航空発祥記念館

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≪35mmF1.4、大型ヘリコプター前部≫ 画角52.5mm相当:絞りF2.8・1/40秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。機種名は記録してこなかったので不明ですが、ヘリコプター操縦席の全部がパカリと観音開きになるのです。薄汚れた赤い開閉扉レバー、リベットの打ち込まれた黒色のヘッド部、それぞれの質感もいい感じで再現されました。(所沢航空発祥記念館

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≪17mmF1.4、ヘリコプターと小型機≫ 画角25.5mm相当:絞りF2.8・1/30秒、ISO-AUTO280、+0.7EV露出補正、AWB、手持ち撮影。ピントは黄色い小型機のプロペラに合わせてあります。撮影場所の関係で背景光が強いのとオレンジ色をきれいに出したかったので露出補正は+0.7EVとしました。拡大するとわかりますがプロペラはシャープにしっかりと描写され、機体の光沢感もよく出ています。(所沢航空発祥記念館

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≪17mmF1.4、ヘリコプターとHONDA小型機≫ 画角25.5mm相当:絞りF2.8・1/30秒、ISO-AUTO280、+0.3EV露出補正、AWB、手持ち撮影。背後からの自然光の影響を受けないように+0.3EV露出補正。ピントはヘリコプター機体わき腹の“JG-0002”に合わせました。(所沢航空発祥記念館

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≪35mmF1.4、シンボルタワー≫ 画角52.5mm相当:絞りF2.8・1/1600秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。やはり写真は青空の下で撮るべきですね。ということで晴天を確認して出向いてきて撮影した1枚です。絞りはF2.8と絞り込んでいますが、周辺光量の落ちも感じさせません。(所沢航空公園・Ⅱ)

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≪50mmF1.2、いつもの飛行機≫ 画角75mm相当:絞りF5.6・1/640秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。この飛行機は今までに複数のカメラで撮影してきましたが、かなり高画質に撮れています。(所沢航空公園・Ⅱ)

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≪50mmF1.2、英国大使館外灯≫ 画角75mm相当:絞りF2・1/3200秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。英国大使館から返還された皇居外苑工事の行われている門柱の上にある外灯の頭部の冠にピントを合わせ、背後の大ケヤキの葉のボケ具合を見てみました。(千鳥ヶ淵

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≪50mmF1.2、九段方面遠望≫ 画角75mm相当:絞りF2.8・1/4000秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。久しぶりの青空、75mm相当といえば準望遠クラスであるが、あまり絞り込まずに遠くのビル群を狙ってみました。画素等倍に拡大すると窓枠がひとつひとつきれいに分離して見えます。前ボケも気になることはありません。(千鳥ヶ淵

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≪35mmF1.4、黄葉≫ 画角52.5mm相当:絞りF2.8・1/400秒、ISO-AUTO125、+0.3EV露出補正、AWB、手持ち撮影。左手前に色づいた葉を配しピントを合わせ、右背後の常緑樹の葉をアウトフォーカスして丸ボケを作り出してみました。ピントを合わせた葉はセンターより外れていますが産毛のような感じと葉脈まで写り、絞りF2.8での解像感はなかなかです。(東村山北山公園)

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≪17mmF1.4、モミジ≫ 画角25.5mm相当:絞りF1.4・1/4000秒、ISO-AUTO100、AWB、手持ち撮影。レンズを前に写真仲間のHTさんと話していたら、逆光時はどうだろうというのです。何でもポートレイトでは逆光での撮影は多用されるというのです。そこで、紅葉前でしたがモミジの葉の下にもぐり撮影したカットです。絞りも開放ですから中央の少し色づいたモミジの葉の間から太陽を中央に配置してシャッターを切りましたが、フレア、ゴーストの類は見れなかったです。極端に太陽を左端においてファインダーをのぞいた時に薄くフレアが発生しましたが、もともと私は逆光で写真を撮るのは日の出と日没だけなので、あまり他のレンズを含めて気にならないのです。(東村山北山公園)

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≪35mmF1.4、ゴジラが戻ってきた≫ 画角52.5mm相当:絞りF1.4・1/200秒、ISO-AUTO125、-1EV、AWB、手持ち撮影、小雨。久しぶりに新宿に写真展を見に行った帰りにゴジラ通りをのぞくと歌舞伎町のゴジラに照明があたっていました。コロナ禍において、長い間消灯されていたのが再び点灯されたのです。小雨でしたが、カメラを取り出し撮影。ピントはゴジラの顔に合わせましたが、35mmという焦点距離は十分に深度内に入るのでしょうか、手前の看板まで含めてシャープでした。(新宿歌舞伎町)

f:id:ilovephoto:20211024002639j:plain≪画素等倍に拡大してみました≫ 左:マツモトキヨシの看板の左の看板、右:ゴジラの顔と歯。左の看板から、ゴジラまでは数十メートルあると思いますが、EVFでのピント合わせはしっかりとゴジラの顔をつかんでピントのずれを確認できました。それにしても、手持ちで絞り開放F1.4の描写、これだけの拡大に耐えるというのもすごいです。

■アウトフォーカス部の口径食を見てみました

 それぞれのレンズの口径食をいつもの場所で撮影してみました。手前の丸いポールの頭にピントを合わせていますが、焦点距離によって段階的に撮影距離を変えてあります。ふだんこのシーンの撮影ではマイナスの露出補正を加えるのですが、テスト撮影段階で露出補正なしでも問題ないと判断しました。

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50mmF1.2≫ 75mm画角:絞り開放F1.2・1/100秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影、撮影距離:約70cm。最近は“ボケフォト写真”と称して点光源のアウトフォーカス部分を玉ボケ、丸ボケ、シャボン玉ボケ、バブルボケ、レモンボケとか言って、うまく作画の中にこれらのボケを取り入れて画面を構成するのが流行っています。それぞれのレンズの焦点距離や絞りの設定値、フォーカス位置、点光源の位置などにより、その形状は変わりますが、その形状などによりそれぞれのレンズのもつ残存収差などがわかるとされています。このカットからは、左端にレモン(ラグビーボール)型をしたのがありますが、これはレンズが球面であるために中心部と周辺部から入る光が異なるために楕円になり、このような現象を口径食と呼んでいます。なおそれぞれの円の色は、元の光源の色に依存するわけでレンズ性能から導かれた色ではありません。この場面では、ビルから掲げられたネオンサイン、街灯、信号、車のテールランプなどが複雑に関係して描出されています。この円形はそれぞれをよく見るとエッジが強調されて見えますが、このような場合には2線ボケがあり、球面収差過剰補正型のレンズに現れるとされています。(新宿)

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35mmF1.4≫ 52.5mm画角:絞り開放F1.4・1/125秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影、撮影距離:約50cm。丸いポールはいつも人物の頭とか顔だと思って撮影しています。このような雑踏の中でのボケを生かしたポートレイト撮影もいいですが、一番簡単にきれいなボケが得られるのはクリスマスのイルミネーションを背景にするのが良いでしょう。(新宿)

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17mmF1.4≫ 25.5mm画角:絞り開放F1.4・1/80秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。撮影距離:約30cm。この丸いボケを小さくするには絞り込めば良く、焦点距離が短くなれば良いこともこれらの撮影結果からわかることです。このカットからは面白い像を見ることができます。右端のビルに紫色に矢印が重なったように見えますが、これはコマ収差が発生していると考えられます。この収差は絞り込むことにより解消されますが、APS-C非球面レンズを使い17mmF1.4とかなりスペック的に頑張ったためだと考えられますが、10万円以上さらには100万円以上のレンズでも発生を確認したことはありますのであまり気にすることではなく、日常にこのようなシーンの撮影はあまりないでしょうし、むしろ昨今のボケフォトブームにのって積極的に画作りに取り込んでいくのも面白いですね。(新宿)

■中国製レンズに何を期待するか

 発売からすっかり時間が経ってのレポートとなってしまいました。この間コロナ禍ということもあり、3本のレンズを持って遠くに撮影にでるようなことはできませんでしたが、仕事に出かけるときにはカバンの中にZfcと3本のTTArtisanを入れて機会あればと持ち歩きました。しかしなかなかシャッターを切るようなチャンスは巡ってきませんでしたが、興味ありそうな人にはカメラとレンズを渡して操作してシャッターを切ってもらいました。皆さんが口をそろえたように言うことは、ヘリコイドの摺動が滑らかで、ピントが合わせやすいということでした。機械加工の技術レベルの高さを知るわけですが、本質的なところでの画質はどういうレベルにあるかということになりますが、その点に関しても問題ないことは実写結果から十分にお判りいただけると思うのです。

 今回のTTArtisanレンズ3本の実写は、最初に撮影した英国大使館の撮影の時は晴天でしたが、以後天気の良い日と私の撮影できるタイミングがなかなかうまく合わないのです。それでも薄曇りで撮影を強行していたら、やはりしっくりこないのです。そこで所沢航空公園では改めて青空の日に撮影したのを加えましたが、やはり天候1つで写った写真の印象は大きく変わるのです。操作上のマニュアルフォーカスは致し方ないとして、画質はこれといって不満はないのです。

 中国製のカメラとレンズというと、私の手元にはクラシックカメラの位置づけで1960年代に製造された距離計連動機の「上海Ⅱd」があります。レンズは上海50mmF3.5ですが、純粋に中国企業が設計・製造したカメラとしてコレクションしています。以後フィルムカメラ時代には二眼レフや一眼レフのシーガルなど多くの機種があり、デジタルカメラの初期にはコンパクトカメラ分野に進出もありましたが、スマホの台頭によりコンパクトデジタルカメラの衰退とともにすっかり中国製カメラは影を潜めてしまいました。そのような中で徐々に顔を出してきたのがミラーレス機の登場に伴った中国製交換レンズです。今をさかのぼる2016年の2月に行われたCP+2016には、従来からのKIPONに加え、中一光学が出展していて、その時ちょっと使わせてと拝借して撮影したのが以下の2枚です。

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≪KIPON IBELUX 40mmF0.85≫ ルミックスG1:絞り開放F0.85・1/125秒、ISO-AUTO125、AWB、手持ち撮影。当時マウントアダプター製造メーカーであったキポンがレンズ分野に進出したばかりでした。ちょっと拝借してこれだけ撮れるのに驚きました。APS-CとM4/3用で販売価格は当時8万円ぐらい。(2016CP+にて)

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≪ミタコンSeed Master 135mmF1.4≫ ソニーα7R:絞り開放F1.4・1/320秒、ISO-AUTO1000、AWB、手持ち撮影。中一光学の試作品で、発売するなら受注で13万円ぐらいと伝えられ、やはり試作という50mmF0.95も借りて使いましたが、この時期改めて見直すとどちらもよく写っていて、いずれもその後発売されています。(2016CP+にて)

 この大きさではわかりにくいですが、どちらもピントは左目に合わせていて、拡大するとまつ毛がしっかりと解像しています。いずれにしても10万円前後はするものの、当時はよく写ると感心したものです。しかし、今回は少し事情が異なります。操作感が良好で、良く写るのは当然のこととして、とにかく価格が安いのです。それも光学ガラスには高屈折率低分散ガラス、非球面レンズまで使い、さらに白梨地仕上げの金属製となれば、昨今の各社最新レンズのうたい文句と変わる部分はありません。もちろんAFに非連動という問題は残りますが、最近はマニュアルでのピント合わせも気にならないという若者世代もいるので、話は難しいです。ただ写真を撮ることが趣味であり嗜好性の高いものですから、所有することによる満足感、もちろん高額だから、有名ブランドだから、逆に安いからと、価値観は人それぞれなわけですから一概には判断は下せません。

 そんな話をあるレンズ専業メーカーの役員を務めた方と話していたら、写真レンズだからまだ大丈夫な感じがしますが、工業用のセキュリティー分野のレンズは、かつては日本が圧倒的なシェアを持っていたのに、わずか4年ほどの間に中国企業に席巻されてしまったのが今だというのです。セキュリティー用レンズに対して、写真用は規模が小さいからビジネスとしてはうま味が少ないから参入はほどほどではないだろうか、それだけに写真用のレンズ分野に参入するためにはそれなりの志が必要だというのです。

 志といえば、日本のレンズメーカーもそれなりの歴史的経緯と企業理念をもって写真レンズを製造していると理解していますが、中国企業もいくつかそのようなことをアピールしているのです。最近ではズミクロン35mm8枚玉を現代に復刻させた“光影鏡頭實驗室 LIGHT LENS LAB”の周さん、また今回取り上げたTTArtisanレンズも、元はライカレンズ好きが7人集まって7 Artisan(7工匠)というレンズ会社を興し、さらにそこから分かれて独立したのがTTArtisanつまり銘匠光学(DJ-OPTICAL)と聞いていますが、設立からわずか数年の会社がこのようなレンズを作り上げる下地が中国にでき上っているのも驚きです。

 現在、ミラーレス機のAF対応の交換レンズは、ニコンキヤノンサードパーティーからのはなく自社ブランドだけですが、ソニー富士フイルムの交換レンズには国内外の複数のレンズメーカーが参画しています。もちろんこれはAF対応のレンズであって、その背景には何らかのライセンス供与の問題があるだろうということは素人でもわかることですが、その間隙を埋めているのがここで取り上げたTTArtisanレンズなど単焦点のマニュアルフォーカス式の交換レンズではないかと思うわけです。これからのレンズ交換式カメラが、どのように展開されていくかは未知数ですが、単に光学性能や製造技術だけでは語れなくなっているのがミラーレス機の交換レンズだと思うわけです。 (-.-)

おまけ:ほぼ1月以上マニュアルでのピント合わせで撮影を行ってきましたが、それなりに確実なピント合わせの撮影テクニックを会得することができました。まずファインダーをのぞき、ピントを合わせたい所にAFフレームを持っていきます。次にファインダーから目を離して拡大(+)ボタンを2回ほど押してから、再度ファインダーをのぞき目的のところでピントを細かく合わせてシャッターを切ります。シャッターを切るときの注意点は水平にカメラを構えることが大切です。本来ならば、もう一度フレーミングの確認を行いたいのですが、手持ち撮影では縮小(-)を押すと微妙にピントがずれるのでそのままシャッターを切ったほうが、しっかりとピントが合うのです。もちろん、絞り込んだり、三脚を使っての撮影ではこの限りではありませんが、マニュアルフォーカスで大口径を生かすには大変有効な撮影法だと思います。この方法に慣れるとかなり便利で、ニコンZfcだけでなく他のニコンZ機、キヤノンのEOS Rシリーズなどでも使えるテクニックです。