リコーGR Ⅲが3月15日に発売になりました。早速さまざまな場面で実写して、その実力をレポートしましたのでご覧ください。
リコーGR Ⅲの人気は並ではないようです。知人のKさんは、発売日翌日にGR Ⅲを持った人を5人見かけたというのです。午後一番のカメラ愛好者の懇親の場で2人、夕方からのギャラリーバーで3人見かけたようです。ところが、カメラ愛好者懇親の場には本来集う人が、どうやら朝一番に、それも8:00に宅配便の集荷所までGR Ⅲを受け取りに行って、そのまま撮影に行ってしまったようですので、Kさんの周りでは6人いたということになります。これは、すごいです。Kさんは、過去にそのような例はないというのです。私が唯一経験したのでは、ミラーレスフルサイズ一眼のα7Rが発売されたのは、2013年11月15日の金曜日でしたが、その次の週の24日の日曜日には、鎌倉で同好の士と撮影会でしたが、何と5人の参加者の内3人がα7Rだったというのが、びっくりの思い出です。リコーGR Ⅲもソニーα7Rも、時代のユーザーニーズをしっかりとつかんだ結果であったと思うのですが、世間では、コンパクトカメラはいらない、スマートフォンで十分だという考えが一般的ではありますが、あえてそのようなときに、広角の単焦点コンパクトが、発売日にこれだけの立ち上がりを見せるということは、注目されることです。
そのGR Ⅲですが、APS-C大判センサーを搭載した単焦点式のコンパクトカメラですが、最初のGRは2013年、GRⅡが2015年に発売になっていますが、大幅なモデルチェンジが行われたのは、今回のGRⅢだというわけです。行きつけのカメラ店の若い女性店員さんにGRⅢは何がGRⅡと違うのですか? と聞いたところ、1)ストロボがなくなった、2)手ブレ補正が入った、3)小さくなった、というのです(知っていても、こうやって要点を聞くようにすると、わかりやすいし、自分だけの勝手な思い込みの判断も見直すことができるのです)。このGRⅢの改良点は、昨今のイメージセンサーの高感度性能の向上、自分の撮影の仕方などを考えると納得いく仕様で、さらに手ブレ補正機構が組み込まれたというわけですから、心強いです。
■GRⅢの背面液晶はタッチパネル式に
実は、GRⅢを使いだして少し経つと驚くのが、背面液晶がディスプレーだけでなく操作機能も加わってきたことです。特に、AFのポイントはピントを合わせたいところに指先を当てると、その部分にスポット的な四角い囲いがでて、シャッターボタン半押しで、その部分にピントが合うというわけですが、かなり便利です。私の経験では、最近発売されたニコンZ7、キヤノンEOS Rには同様な機能が入っていて、慣れるまでには時間を必要としました。本機では、撮影時のAFポイントのほかメニュー画面の設定がタップで行え、再生画面の拡大・縮小にピンチイン・アウトが使え、再生画像のコマ送り・戻しにはスワイプができるというわけで、少しばかりスマホに近ずいたかなという感じです。身近なスマートフォンやカメラの操作が液晶画面を通してある程度共通化されるのは、必然的な流れだろうと思うのです。
タッチAFで、ピント合わせ位置を指定したのが左の写真です。右は、モードダイヤルと露出補正のアジャストレバーをアップして示しました。GRの前モデルを知っている人にとっては驚きでしょう。大変すっきりしていて、各部の色など、すべてに対して控えめなのが好感もてます。特に動画ボタンは表には見えなく、左肩に小さく埋め込まれているのです。しかも、他機に見るように赤や緑に色づけは行われていなく、外観デザインとしてはきわめて控えめでシンプルなのです。
■いつもの英国大使館の正面玄関を撮影
≪英国大使館正面玄関≫F5.6・1/500秒、ISO100、AWB。画面全体に発色は控えめな感じですが、撮ったタイミングが、ちょうど千鳥ヶ淵のサクラの花が3部咲きのころ、つまり花曇りの時期だったのです。ピントは屋根中央下エンブレムにスポットAFしてます。画面全体からは直線性の良いことと、画素等倍まで拡大しても、左右の樹木には色収差の発生は確認できません。
≪英国大使館正面玄関・画素等倍拡大≫F5.6・1/500秒、ISO100、AWB。上の写真のエンブレム部分の拡大。APS-C判の2,400万画素としては十分な解像感です。他のカメラの画素等倍の画像は京都MJの「ライカに始まりライカに終わる」をご覧ください。
■さまざまな場面で撮影してみました(28mm画角で)
いつもならば、どこかに出向いて撮影ですが、いろいろとあり、まずはご近所の撮影でご勘弁を。撮影は、基本的にプログラムAEでシフトなしです。
≪時間が少しでもあれば≫ F5.6・1/1000秒、ISO100、AWB。GRシリーズはスナップ用のカメラだからと気を使いました結果の1枚です。
≪信心深い人々≫ F5・1/1000秒、ISO400、AWB。一度は通り過ごしたのですが、熱心にお祈りする4人の姿にひかれて、後戻りして、背後から撮影させていただきました。
≪カメラ懇話会記念写真≫ F2.8・1/60秒、ISO100、AWB。28mm画角では、少し広すぎました。もう少し近づけばよかったのですが。
≪走り回る子供≫ F5.6・1/200秒、ISO200、AWB。走り回る子供が、振り向いた瞬間にスナップ。千鳥ヶ淵の散策道ですが、マラソンする人を近づいてきたら28mm画角でエィッとシャッター切って良く写っていました。
≪夕闇迫る昭和館≫ F2.8・1/30秒、ISO125、AWB。道路の右上の自動車のテールランプを見ると点光源で流れがなくクセのない描写を示しています。
≪馬≫ F2.8・1/30秒、ISO320、AWB。子供向け遊具の馬の顔をアップしてみました。手持ち撮影ですが、ブレることなくシャープです。絞り開放ですが、画素等倍まで拡大すると、馬のタテガミが、1本ずつシャープに解像しています。
≪ハイチーズ!≫ F2.8・1/50秒、ISO100、AWB。カメラを構えた彼氏の側からは、女性の顔は見えるのですが、脇から顔の見えないところからスナップさせてもらいました。こういう場面というのは、とっさということもありますが、窓枠なのか、建物の青い基礎部分か、下水溝の線なのか、なかなか水平がわかりにくい写真です。
≪世界時計のあるお店≫ F2.8・1/50秒、ISO200、AWB。中央は日本、左右の時計はどこの都市を示しているのでしょうか。そんな国々の料理が食べられるのでしょうか。橋の上からスナップさせてもらいました。
■クロップ機能を生かす新しい使い方(35mm / 50mm画角で)
実は、リコーGRⅢが発売になる1週間前の3月7日の夜11:00にライカカメラ社が「ライカQ2」を発表しました。こちらは2015年に発売されたライカQの改良機で、4,730万画素フルサイズセンサーに、クロップ機能を持たせ、28・35・50・75mm相当の画角切り替えを行おうというのです。ライカQが発売された時にはあまり注目しなかったカメラですが、今回は直後に発売されたGRⅢにもクロップ機能が入っているのですが、時代的にそろそろ使えるのではないかなと思ったわけです。もともと、画像をトリミングしてはいけません的な発想で、写真のテクニックを教えていたのは、フィルムカメラの時代とデジタルの低画素の時代のことであり、昨今の高画素時代にあっては、かなりのクロップ(トリミング)でも問題なく耐えられるのも現実です。
GRⅢの撮像板は、APS-C判の2,424万画素ですが、クロップ機能は35・50mm画角であり、基本となる28mmを加えると3焦点カメラと同じようにして使えるのです。本来GRⅢのレンズは18.3mmF2.8ですが、35mm判換算だと28mm相当画角になるのです。クロップ撮影はメニュー画面から引き出してセットすることができますが、GRⅢでは、Fnボタンや、モードダイヤルのUポジションに割り振り、設定をすぐ呼び出すことができます。
上の写真は、実際にクロップして同じ場所から車のフロント部分を撮影してみました。左から、28mm(6000×4000=2,400万画素)、35mm(4800×3200=1,536万画素)、50mm(3360×2240=752.64万画素)となり、クロップした画像はF4・1/250秒、ISO200であり、画質は3枚とも同じですが、それぞれ画像データ量が異なります。そして一番ピクセル量の少ない50mm画角でも約750万画素あるので、A3~A3+への拡大プリントは可能だとなるのです。ちなみにぎりぎりまで大きく伸ばすと、A3で210ppi、A3ノビで180ppiのプリント解像度が得られるので、解像度的には十分だということはおわかりいただけるでしょう。なおクロップされた画像は、単なる切り取りですから被写界深度は基本レンズの「18.3mmF2.8」のそのままでして、35mm、50mm画角だからと深度が浅くなることはありません。これは、使えるカメラです。
35mm画角 ≪江戸東京たてもの園 ・子宝湯≫ F2.8・1/100秒、ISO200、AWB。足立区千住元町にあった、1929(昭和4)年建築の銭湯です。直線性の良い画像であることがわかります。
35mm画角 ≪江戸東京たてもの園 ・八王子市千人同心組頭の家≫ F3.5・1/200秒、ISO200、AWB。八王子市追分町にあった、江戸時代後期の家です。中央上部の電球にピントを合わせましたが、天気が良すぎてさすが手前の縁側はオーバーで飛んでます。落ち着いた描写で、こちらも直線性の良い画像であることがわかります。
35mm画角 ≪江戸東京たてもの園 ・都電750型の車内で≫ F4.5・1/320秒、ISO200、AWB。車内で、若い女性がポーズとって自撮りしていましたので、お願いして1枚撮らせてもらいました。Thank you、謝謝と連発しましたが通じたようです。こういう時は、デーライトシンクロしたいかな?です。
35mm画角 ≪江戸東京たてもの園 ・小寺醤油店にて≫ F2.8・1/125秒、ISO100、AWB。白金5丁目にあった1933(昭和8)年の酒屋さんの店先に並んでいたスルメ。640ピクセルの画像では質感はわかりにくいですが、かなり繊細な描写です。
35mm画角 ≪いただいた花束≫ F2.8・1/125秒、ISO200、写真用蛍光灯トップライト照明、AWB、手持ち撮影。GRⅢを使い込んできてわかったことの1つに35mm、50mm画角のマクロ撮影が大変うまくいくのですが、その時のホワイトバランスがオートのままでほとんど色かぶりないのです。いろんなカメラを使ってきても、ここまでうまくいく機種は少ないと思います。
50mm画角 ≪写真懇話会のディスカッション≫ F2.8・1/300秒、ISO200、AWB。机の対岸にいましたので、28mm画角では広すぎるので50mm画角で撮影しました。クロップしても問題ないことは640ピクセルの掲載画像ではわかりませんが、元データで見ると肌の感じ、髪の毛なども細かく描写されています。
50mm画角≪枯葉の色≫F5.6・1/1000秒、ISO100、AWB。 いろいろと50mm画角で試していたら、マクロ的に使えるのではないかと思いつき、竹で編んだざるに乗せて、自然の色だけで構成してみました。大きく伸ばすといい感じです。
50mm画角 ≪福岡県志賀島金印公園から能子島をのぞむ≫ F5.6・1/800秒、ISO100、AWB。早朝能子島の前を釣り船が疾走するのを、左脇の岩礁の上にちょこっと乗り、船の方を見ているのは2羽のウミウです。
50mm画角 ≪コダック35RF≫ F14・1/8秒、ISO200、AWB。そこまでマクロ的に使えるならと、金属感あふれるクラシックカメラを撮影してみました。640ピクセルではわかりにくいですが、カメラボディ、雲台を含め金属の切れ込み、質感描写は素晴らしいです。従来は、この手の写真は深度を稼ぐために1/2.3型CMOSのコンパクトカメラで撮影していましたが、やはりセンサーサイズの大きいAPS-Cならではの力強い描写です。ちなみに、この報告と同時進行のキヤノンEOS RP、ルミックスS1Rの製品写真はすべて、リコーGR Ⅲで撮影したのです。
■終わりに
本格的に撮れる小型・軽量のカメラをカバンかポケットに忍ばせておきたい。フィルムカメラ時代からの個人的な願望でした。しかしなかなかこれといったカメラがなく、撮影目的に応じてカメラを変えていたのです。特に時々ある、カメラ関連のショーの取材には、ブース全体をカバーできる28ぐらいの広角が付き、ときにはカメラボディやレンズをマクロレンズ的にクローズアップできるカメラがあれば最高なのです。本文中にも書きましたが、従来は1/2.3型撮像素子の28〜300mm相当画角の高倍率コンパクトズーム機を使用していた(下のファインダー付GRⅢはそのシステムで撮影)のですが、やはり時代と共に高感度時のノイズ、手ブレの発生率が高いなど、気になることがありましたが、GRⅢのクロップ機能を生かして見たら、みごと自分の求めていたカメラにズバリ一致したのです。これは、直前に発表されたレンズ非交換式の28mm広角機ライカQ2のクロップ機能の考えをGRⅢに当てはめて、さまざまな場面で撮影したら28・35・50mm画角への切り替えが大変有効だったのです。さらに、マクロレンズ的な接写も可能で、しかもAPS-Cならではの大型撮像素子ならではの緻密感をもたせた撮影ができるのです。さらに近ずけるだけ近ずいても、同じレンズのクロップなので深度が変わるということもないわけで、これはちょっとした発見で、使い込んでみないとわからないことでした。
もうひとつ、GRⅢにはピクセルマッピング機能がついているのです。昨今の一部一眼レフには組み込まれているようですが、コンパクトの本機についているのは驚きでした。つい最近も使ったフルサイズミラーレス機では、最初のショットで画素欠陥をみつけてしまいました。この機種にはピクセルマッピング機能はついていなく、メーカ持込みで対応かと思うのです。保証期間内ですので持ち込めばいいのですがクレーム入れるのも疲れますね。その点において、レンズ非交換のコンパクトカメラで最初からこのような機能が組み込まれているのは、親切というか、立派です。また、カメラ購入のパッケージの中にも、無料の一般動作点検、保証期間内のセンサー・ファインダー光学系清掃を勧めるチラシが入っていましたが、無料で点検・清掃してくれるというのも魅力です。いずれにしても、画素欠陥もゴミも発生しないのがベストですが、そうとは言い切れないのが現実のカメラ技術だと思うのです。そこを、目をつぶらずにしっかりと対処したのは企業の姿勢を感じさせるわけです。
≪電力の消費を気にするなら、外付け光学ファインダーを装着して背面液晶表示をOFFにするのも少しは効果あるかもしれませんが、この組み合わせはかっこいいですね。ファインダーはコシナ・フォクトレンダーの28・35mm用ミニファインダー≫
冒頭にも書きましたが、GRⅢの発売後の立ち上がりはいいそうですが、すでに使っているユーザーがいうのは、バッテリーのもちが短いというのです。これは、個人の撮影スタイルにもよりますが、カメラ本体の側でストロボをなくして、電池容量を大きいのにしても、カメラそのものの多機能化により消費電力が大きくなったためということらしいですが、多数コマを切る人は、1日が終えたら必ず充電という癖を付ければ、かなり救われると思うのです。また、充電はUSBのCタイプコネクターで行われますので、工夫次第ではさまざまな場所で手軽に行えるのも楽でいいです。
ところで手ブレ補正が入ったなら、そのShake Reductionの応用としてある「自動水平出し」モードがあればなと思うのです。今回、掲載の写真も最終的には水平・垂直のわずかな微調整を行っていますが、このあたりが自動的に行われるのはペンタックスK-1以来の独自機能ですが、ぜひこの次はGRⅢにも加えてもらいたい機能です。水平・垂直がきれいに出た写真は、気持ちいい写真なのです。(その後、2019年4月23日のファームウエアアップでGRⅢに自動水平だし機能が入りました。いってみるものですね。感謝です!)
そして、昨今スマートフォンの高機能化により、コンパクトカメラは不必要だと公言する人も多々見うけますし、さらに世の中全般がミラーレス機に向かっていくような気を起こさせる情勢ではありますが、やはりカメラにはさまざまな方式があっていいのではないかと思うのです。 (20190325)