写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

気になるお話、シグマとライカ

 恒例の「CP+」が大雪のため、3日目土曜日の開催は中止になるという前例のないことになりました。ぼくが知る限り、カメラショーの時代から雪は降っても、中止にまで追い込まれたことはなかったと記憶しています。もっとも大雪だけでなく、東急東横線の追突脱線による運休が、追い打ちをかけたのではないかなどとも推測したわけですが、その余波で、当日、横浜中華街でのカメラ愛好家との懇親会も中止となり、多少時間ができましたので、この数日の間に見聞きした知識を、僕なりに理解した範囲で、忘れないうちにここに書き記しておくことにしました。
■シグマdp Quattroの新Foveon X3 Sensor Quattroの実力
 シグマからdp2クワトロが発表されたのは2月の10日、CP+2014の開幕直前でした。ご覧のようになかなかのデザインで、ちょっとした激震が業界内に走りました。それはまずユニークなデザインにビックリというわけですが、印象としては、正直「やったね!」という感じでした。もちろんカメラにとって、どのような外観をしているかということは大切です。しかし、それ以上にFoveon X3 Sensorが進化してQuattroとなったというのですが、どのように写るのか大いに興味あります。このフォビオンのセンサーに関しては、いままでも原理さらには実力を何回か紹介していますが、高画素で質感あふれる緻密な描写をするので、個人的には注目の技術です。そして、シグマのホームページの新製品情報を見て見ますと、原理が解説されていて、なぜクワトロかというイラストが掲載されています。
 その図は右に示すものですが、4:1:1構造というのがどうしても画素数の概念で考えるとなかなか理解できないのです。たとえば、4構造は、4ピクセルなのか?、1構造部分は1ピクセルなのか、それとも4ピクセルを1ピクセルに合わせてパワーをもたせているのか?などなどとイラストからはわかりません。フェイスブックなどを見ていると、それだけの解像度を持たないのではないかという声を上げるブロガーの人もでていました。ただ、画質というか解像感は、最初のSD-9を使った時にもそうですが、実画素数は少ないけど、確かにそれ以上の画質があることは事実で不思議な感じだと当時語り合ったのを思い出しました。それで、解像度的に×3ぶんのパワーがあるかというと少し違うわけで、そのあたりについて考えたこともあります。ちなみにクワトロ(Quattro)とは、イタリア語で4を意味するそうです。
 シグマの「CP+2014」情報を見ると、14日から連日、山木和人CEOが「Quattroセンサーについて」という題目で講演するとなっているのです。これは見逃すわけにはいきません。早速、講演初日の14日14時55分から15時35分までのお話を聞くことにしました。僕自身、Foveon X3 Sensor Quattroの内容が理解できないままに、その部分の考えを述べることはできないと考えていましたので、とりあえずお勉強のために聞こうというわけです。そして3回もやるからいつでもいいかなと思い、山木さんのお話というのは、わりとオープンで隠すところなく話してくれるという印象を持っていましたが、一般のお客さんを前に同じことを話されるとだんだんにうまくなってきて、内容も当たり障りないくなるのではなどという邪推もあり、まずは一番乗りと決めたのです。

 ということで、山木和人CEOのフォビオンの名の由来が、人間の眼球網膜の中心窩であることから解説され、徐々に核心に触れてくるわけですが、あるスライドにいき、なるほどそういうことだったのかと、疑問は氷解しました。

 上の写真は、パワーポイント画像の複写ですが、左は従来からのカラーフィルターアレイ(バイヤーフィルターなど)の付加されたセンサーとフォビオンとの比較で、大変わかりやすいのですが、右は、フォビオンセンサーの分光感度特性なのです。この図をご覧になっておわかりのように、それぞれの色光部分は完全に分離しているわけでなく、各色光が混じって構成されているのです。したがって、カラーフィルムのようにマルチレイヤーでシビアに分光しているのではないのです。つまり、フォビオンの3層構造というのは、あくまでも原理を解説するための便宜上の解説文であって、単層のシリコンから、その特性からR.G.B.の各色情報の多い輝度信号を取り出して、信号処理である画素を作り出すというわけです(僕の勝手な理解)。

 その結果、4:1:1構造というような配分を作り出すことによって、Quattroセンサーの約2,900万画素で、カラーフィルターアレイセンサーの3,900万画素相当の画質を作り出せるということです。将来的にはデータサイズのわりには高画質な画像を作り出せる、処理時間が速くなる、消費電力が少なくなる、信号(感度)特性が良くなるなどがあげられるようです。もちろんこの向上部分は、対フォビオンセンサー比であることはいうまでもありません。いずれにしても、高画質はセンサーだけで決まるわけでなく、レンズ性能もありますが、最後は撮影して、プリントしてみてどうかということで決まるわけでして、実際は発売されるまでその実力は不明です。
■Inovation Vs. Tradition
 さて、同じようにお話を聞くチャンスは重なるもので、同じ2月14日の夕方から銀座の「ライカカメラプロフェッショナルストア東京」にて、ライカカメラAGのレンズ開発責任者ピーター・カルベ氏(右写真)による講演会が開かれました。講演内容は、ライカにおける革新(Inovation)と伝統(Tradition)というテーマで、ライカ誕生100年、M型ライカ誕生60周年を記念した内容でした。
 オスカーバルナックがUr.ライカを開発し、A型ライカを発売した1920年代の写真は、大判写真であり、深度を得るために絞り込み、露出時間が長くなるということでしたが、小型カメラライカの開発発売により、写される内容も大きく変わり、レンズが小さくなり、深度が深くなり、明るい絞りが使えるようになり、屋外でしかも動きのある写真が撮れるようになったというわけです。

 写真左はオスカー・バルナック、右は、1921年にエルマックス50mmF3.5など、初期のライカ用レンズを開発したマックス・ベレーク。

 大判カメラの時代から小型カメラ「ライカ」に変わり、撮影できる範囲が広がり、引伸ばしを前提とした精密カメラの時代となった。

 バルナック型スクリューマウント時代のレンズの焦点距離と明るさ。

 バヨネットマウントを採用した、1954年ライカM3型以降のレンズ分布。

 1966年に非球面採用のノクチルックス50mmF1.2。フィルム時代までのライカM6、ライカM7。

 2012年ライカM時代の交換レンズ。大口径50mmF0.95などの大口径もライブビューで正確にピント合わせができ、かつての一眼レフ用交換レンズさらには他社の交換レンズもマウントアダプターで使えるようになった。
 大急ぎで、当日の流れを紹介しましたが、内容的には光学的な問題を含め、ライカの光学の歴史を振り返り、現在につなげたアカデミックな講演でした。