写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

ベイヤーでなく「バイヤー」なのです

 CCDやCMOSなど固体撮像素子のRGBの3色分解フィルターであるベイヤーフィルター配列の発明者であるベイヤーさんのご子息“ダグラス・バイヤー”さんから、みごとな日本語で書かれた手紙が来ました。以前、2012_03_09の“ベイヤー配列の撮像素子”と僕のブログで紹介したベイヤーフィルターの記事への礼を 述べた後で、実はと前置きして「私はベイヤーフィルターで知られるブライス・バイヤー(Bryce E. Bayer)の息子ですが、わが家の苗字はベイヤーでは なくバイヤーと読みます」と記載してありました。以下、ダグラス・バイヤーさんからのメールを紹介しましょう。(文章は市川が日本語として少し手を加えました)

 父のBryce E. Bayerの死の知らせをシェアしていただきありがとうございます。またブログに、ノートブックからのページを高く評価していました。
 私は、その時の色と科学の話だけでなく、一緒に古典的な黒白の侍映画を見た幸せな思い出をもっています。
 しかし、Bayerの姓は、長い間、日本では「ベイヤー」と訳されていることを、ちょうど今気づきました。わが家の姓の正しい発音は「バイヤー」 (IPA: /ˈbaɪər/)です。コダック研究所の同僚だけではなく、英国王立写真協会(Royal Photographic Society)2009年進捗勲章とSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers、米国映画テレビ技術者協会)の2012カメラオリジ/イメージング賞のプレゼンター達は、公に、謹んで 「ミスター・バイヤー」や「バイヤーフィルター」となど述べました。また、11月28日の記事に、ニューヨークタイムズは記録のために "Mr. Bayer (pronounced BYE-er)" を紹介しました。
 私の下手な日本語を編集する場合は、この情報を共有してください。ご検討いただき、誠にありがとうございます。
次男のダグラス・バイヤー(Doug Bayer)より

 ところで“Bayer”は、少なくとも日本人の目から見ると ベイヤーとしか読めません。バイヤーとはどういうことだろうと思っていて、あることを思い出しました。数年前なくなったアメリカ大統領ロナルド・レーガンは皆さんご存知でしょう。若い方はお分かりにならないかも知れませんが、彼は若いとき「リーガン」と呼ばれたハリウッドの俳優だったことがあります。その時代、日本だけではなくアメリカでも「リーガン」と呼ばれていました。ところが政界に入って大統領になったとき、「実はレーガンというのが本名なんです」と報道記者に話し、以来レーガンと呼ばれるようになったのです。英名はRonald Wilson Reaganと綴り、いまアメリカのさまざまな資料を見ますとわざわざ[ronɒld wilsən reɪgən]と発音記号まで添えてあります。それによると“レーガン”ではなく“レイガン”と発音したほうが近いようです。
 英語の発音は1つの綴りに対して ただ1つと思われがちですが、実際には日本語の 「茂木」がモギ、モテギ、シゲキといくつにも読みが変わるように、英語も家系ごとに同じ綴りを異なる読み方をする場合が多いようです。アメリカでは特にこのような綴りと発音の乖離が多いのではないかと思われます。アメリカに移民してきた人たちの出身地は千差万別で、元の綴りがフランス、ドイツ、ポーランド、ロシアなど字の形までちがっていたものを、みな英語綴りに直してしまったのですから致し方ないところでしょう。何れにしましても、“Bryce E. Bayer” さんの名前は、これからブライス・バイヤーさんとお呼びすることに致しましょう。

バイヤーさんから改めてお礼のメールをいただきましたので、紹介しましょう

Doug Bayer

Mr. Ichikawa,
Spring rains are finally yielding to summer sunshine. I hope that you and your family are well.

Thank you for your thoughtful blog entry about my father's name. I had not known that story about Ronald Reagan.

According to our family story, some 250 years ago a minor Bavarian nobleman eloped with a French merchant's daughter. Because their union crossed class lines, they were forced to join a group of free-thinking Scots and emigrate to America. Hans Bayer baked bread for the British army until they evacuated Boston for Halifax in 1776. My grandfather moved from Nova Scotia to Boston as a young boy. As a young man he started the A&P grocery store in Portland, Maine, where my father grew up.

I don't know how or why they kept the German pronunciation. Because everyone knows the Americanized brand name for aspirin, few people call us "BYE-er" until they know us. But ironically, my grandfather became "Head Buyer" for A&P's northeast region. And my father grew up playing with his business equipment, such as typewriters and adding machines. Then at Eastman, he programmed some of the first commercial computers, invented the "ordered dither" and so forth. So you might even say there is a common thread between his name and his original thinking about digital imaging

Thank you once again for sharing my letter. I can't worry about what industry has long called the filter array, but I appreciate your correction of direct references to my father.

Sincerely,
Doug Bayer

※その後、ダグラス・バイヤーさんから、ベイヤーでも気にしませんと連絡いただきました。