写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

使い込まれたライカM8

 3月に入り、そろそろ昨年のフォトキナで発表された「ライカM」が発売になるという、お約束の時期ですが、首を長くして待っている方も多いでしょう。そこでライカにまつわるお話を1件書きました。昨年の9月フォトキナで会った老齢のカメラマン氏のライカM8、そして帰りのケルンボン空港で会った若いジャーナリスト風の人のライカM8を見せてもらって“うん?”と思ったのです。というのは、お二人のM8は使い込んだ形跡がアリアリで、軍艦部エッジの真鍮地肌が金色に露出しているのです。その時感じたのは、日本人は、自分を含めカメラは持っていても、そこまで使いこなしている人はいなく、カメラを使う頻度(写真を撮ること)が極端に少ないのではないだろうかと、気持ちの上でなんとなく恥じていたのです。さらに昨年末、撮影のために、写真仲間の神原武昌さんと、東急多摩川線沼部駅から多摩川の河原を経てぶらぶらと歩きながら、東横線多摩川駅手前の道路に面したカフェにさしかかった時に、寒い中、幼児を含む親子3人で店頭の椅子に座りお茶していた外国人のお父さんが、こちらを見たとたんに駆け寄って話しかけてきたのです。
 われわれは、もともとかなりディープな2人ですので、神原さんはシグマSD15の赤外線写真仕様とリコーGXR+A12マウントにシネ用のパンタッカーレンズを付けて、僕はシグマDP1メリルとライカM9という具合に、明らかに目を引く一行だったのでしょう。われわれのカメラを手に取って見て、素晴らしいカメラだとほめたたえてくれたのです。何でも、ノルウェーからきているというのですが、手に持ってるカメラを見せてもらうと、ズミルックス35mm付のライカM8なのです。さらに驚くことに、やはり軍艦部エッジの真鍮がさりげなく金色に露出していたのです。ああ!まただ。外人は本当に擦り切れるまでライカを使うのだ。日本人だったらここまでは使わないよ!と、またまた素直に納得してしまったのです。その地肌が露出したM8を写真に撮っておかなかったのは残念です。

<多摩川土手>シグマDP1メリル、30mmF2.8、プログラムAE(F10・1/640秒)、ISO200、AWB
 ところが、1月にあったPMA@CES2013のペンタックスイメージングの現地発表資料を見て驚いたのです。「ペンタックスMX-1」という名のペンタックスとしては初の高級コンパクトカメラなのですが、その第一の特徴が上下カバーが真鍮製であることだというのです。何でも、ノンカドミ真鍮を採用だそうで、しかも、その名称からわかるように往年のマニュアル一眼レフの「アサヒペンタックスMX」にあやかって、名称のみならず細かいボディラインも踏襲しているのです。そして、この一連の広報写真の中の1枚を見て一瞬目を疑ったのです。あの外国の人たちが所有していたライカM8と同じように、トップカバーのコーナーの地肌がむき出しになっている(なってるように見える)のです。うーんこれはなんだ?というわけです。聞くところによると、エイジングとかいい、経年変化でわざと真鍮の地肌が見えるように、ジーパンを使い古したように見せるためのストーンウォッシュに似たようなことが行われているというのです。なるほどなるほどですが、変わったものがはやるものです。

 これには感心して、ペンタックスリコーイメージングの開発統括部部長の北沢利之さんに、すごいマーケティング力ですねと聞いたところ、1人の担当デザイナーのこだわりでこうなったというのです。ペンタックスMX-1の上下カバーはプレス加工で作られるそうですが、このような加工をできるところは国内でも少なくなったようです。

 そういえば、最近のライカMシリーズの軍艦部は、真鍮無垢からの削り出しでした。ただ、M8はブラッククロームメッキ仕上げですが、M9はブラックペイント塗装なのです。こんなことから、M8のほうが地肌を出しやすいのかもしれません。以前、僕の会った報道カメラマン氏のライカM4ブラック(塗り)は全体がまるでトロフィーのように金色に光っていました。あれもエイジングなのでしょうか。いずれにしても嗜好品であるカメラは、単なる性能だけでは満足しなく、別な部分が求められる時代だと、痛感した次第です。  (#^.^#)