写真にこだわる

写真の楽しみ方それぞれ。デジタルからフィルムまで、さまざまな話題を提供します。市川泰憲

2012年 4冊の写真集

 いま僕の手元に4冊の写真集があります。いずれも、僕の知り合いの方々の本ですが、この1年が終わるにあたり改めて見直してみました。
■ASPHALT X(アスファルト、第10号)、210×262mm、48ページ、¥1,429、ISBN 978-4-904262-10-8、アスファルト社  アスファルトは2008年の5月に新宿ゴールデン街に集う藤原敦さんら4人の写真家たちの作品で埋められた同人誌的写真集として創刊されました。そして、この9月に当初の予定通り10号をもって完結ということで、終了しましたが、僕は一部の作家さんと知り合いであったことから、第1号から第10号まで5年の間、そのつど発刊の折にゆっくり時間をかけて見ることができました。改めてこの時期、創刊号を引き出して見てみますと、それぞれ作家の顔が思いだされます。第2号からは写真家の長谷川明さんを編集に迎え、毎号招待作家を加えていくという作り方に変えましたが、いつも見ごたえのある写真集でした。創刊第1号には、数多くの個展をこなし2013年1月にはニコンサロンで個展を開くという安掛正仁さんもいます。皆さん、写真に対する情熱は並々ならぬものを感じます。表紙写真には最終号(左)に加え、創刊号(右)も入れました。
■MINAMATA NOTE 1971〜2012 私とユージンスミスと水俣、190×245mm、174ページ、¥4,500+税、ISBN 978-4-8051-1004-1、千倉書房  作者の石川武志さん、編集者の神谷竜介さんともども、新宿ゴールデン街「こどじ」の常連さんです。こどじは、いわゆるギャラリーバーですが、写真を飾るだけでなく、ここで写真を語り、写真集の話が進み、出版されたわけですから素晴らしいことです。でも、写真集の内容を紹介しなくては失礼ですね。石川さんは1971〜74年まで、写真家ユージン・スミスのアシスタントとして水俣を取材。ある日、石川さんの枕元に20本入りフィルムが置かれてあり、ユージン・スミスは「おまえも水俣の写真を撮れ」といわれたそうです。写真集には、石川さんが今年まで撮った水俣ユージン・スミスの姿、エッセーが添えられています。あとがきでは“この写真集が「小さな声」を発し、水俣を知らしむ「語り部」となって世に現れてくれれば、心から嬉しく思う。”とつづられています。写真展「水俣ノート1971〜2012」が銀座ニコンサロン(10月)と大阪ニコンサロン(12月)で開かれました。
■北京胡同(べいじん・ふうとん)−百年の印象−、255×245mm、128ページ、¥2,800+税、ISBN 978-4-905013-05 1、日中言語文化出版社  作者の井岡今日子さんは、北京胡同生まれの北京育ちです。1990年に日本に留学して、日本の国籍を得て生活するようになって今日に至ってます。井岡さんのご両親は中国の写真界で重要な立場にあったそうで、お母さんはいまでも中国シニア写真家協会の副会長を務めていて、小さなころから写真やカメラに囲まれて育ったようです。その井岡さんが子供のころ育った胡同に懐かしさを感じながら、歴史と現代の変化を12年前から撮影し始めた集大成の写真集です。そこには、生まれ育った土地であることから、一歩も二歩も踏み込んだ胡同の生活が、興味本位でなくやさしい目で記録されています。すでに9月11日から新宿ニコンサロン、11月29日から大阪ニコンサロンで“『安居楽業』北京胡同の生活”というタイトルで写真展も開かれました。

■記憶の再生-Archives of Mine-、235×205mm、72ページ、¥2,500+税、ISBN 978-4-88773-131-8、冬青社  作者の中島恵美子さんは、毎年『遥かなる旅』と題して必ず個展を開いています。知り合ったのは、いつのころが初めてか忘れましたが、その写真展会場で会場で知り合いました。あるとき沖縄で撮ったという写真が素晴らしいので、僕の企画した“INDEPENDENTGR”というグループ展に参加してもらいましたが、そのときの写真が今回の本の表紙になっています。僕がいいと思うのも、作者がいいと思うのはいっしょなのですね。11月の下旬に四谷三丁目のルーニィで「遥かなる旅 12−解放の調べ-」と題した個展が開かれましたが、久しぶりに本来の黒白プリントに出会った気がしました。
 ついでといっては失礼ですが、今年後半に出会った黒白写真のプリントでは、中野・トキノン50/1.4で10月に開かれた萩谷剛さんの“スーパーシックスと歩く夏の金沢”とこのルーニィでの中島恵美子さんの作品が素晴らしかったです。なお、これらの本は、いずれもISBNコードを記しておきましたので、購入も可能ですが、JCIIライブラリーにて閲覧することも可能です。